文章は4つの型に分類される

染谷昌利氏:さっそく本題に入っていきたいと思います。文章って、だいたい型が決まっているんですよね。いろいろな考え方がありますが、僕のほうで4つに分類しています。エンターテイメント的な「面白い文章」、エッセイ・詩的な「美しい文章」、あるいは「学術的・専門的な文章」、そして「伝える文章」です。

だいたいこの4つに分かれていると思うんですが、今回お話しするのは、ほぼこの4つ目、伝えるための文章術だと思ってください。「物語が書きたい」とか「美しい文章が書きたい」というのとは少しずれると思いますので、状況に置き換えて(もらえればと思います)。

物語の話も美しい文章の話も多少はしますので、メインは伝えるための文章術だというところだけ、頭の中に入れておいていただければと思います。なぜ、みなさんが文章を書かなければならないのかという目的の部分をしっかり決めておかなければ、ボヤっとした内容になってしまいます。なので、そこを決めておく必要があります。

それを踏まえた上で、文章の構成はどんなかたちになっているかと言うと、まずは「何を伝えたいか」という主張です。「このメッセージを伝えたい」というものがなければ、そもそも伝える文章を書く意味がありません。

だから、「何を伝えたいのか」をしっかりさせた上で、それを含めた自分の思いだったり、経験や知識を付け加えていくことが必要になってきます。ただただ自分語りをしたいのか、自分の思いを誰か1人にでもいいので伝えていきたいのかを、はっきり自覚して書く必要があります。

自分語りだったら、日記でもブログでもいいんです。でも「何を食べた」とかって、誰かに何かを伝えたいわけではないですよね。例えば僕は、銀座のランチのブログをやっていました。「僕の文章を読んで、ここのお店に1人でも行ってくれるとうれしいな」という思いを込めて、「ここのカレーはおいしいよ」と主張していました。そういうふうに、目的をどこに持っていくのかを、自分の中でしっかり持っておく必要があります。

目的によって伝え方は変わってくる

その目的もいくつかあります。ただマニュアルみたいに、「こう使ってください」と理解を促すものにしたいのか、あるいは「おいしかったよね。わかるわかる」という、共感や同意を促したいのか。もしくは、今回のテーマになっている行動にまでつなげていきたいのかによって、伝え方は変わってきます。

理解に関しては、使い方がわかったということだけなので、いいんですよ。一方で、共感は気持ちが動く(精神的変化)ということです。また、行動を促すというのは、体が動くことです。今回は、可能であれば体を動かすところまで持っていきたいと思います。

ここに来ていただいている、あるいはオンラインで聞いてもらっている時点で、みなさんの心と体が動いているので、僕の1つの目的は達成しています。この後の2回も来てくれたら、なおうれしいです。この場に来なくてもいいですが、オンラインでも聞いてくれたら、さらに変化が起きると思っています。

では、どうすれば気づきを与えられ、また自分の心が動くのか。行動を変えたいところに関しては、気づきを与えなければ人は動かないんです。何かを気づかせるのに大切なことは、問題を見せてあげることです。その裏側に、自分の伝えたいものを含ませていきます。この話は、また後ほどお話しします。

一番わかりやすいやり方には、「譲歩構文(確かに〇〇だが、でも△△だ)」という言葉があります。詳しく知りたい人は、検索してもらえれば出てきます。「確かにこう思うんだけど、実際はこうだよね」というのは、日常生活でのありふれた会話や文章だと思いませんか?

今はいろいろな本があります。やり抜く力(GRIT)が大切だという本もあれば、幅(RANGE)が大事だという本もあります。先日、僕はRANGEのセミナーをやったので、これを使いました。「確かに、やり抜く力は重要だけど、幅も重要だよね」と。これで僕が伝えたいのは、幅が重要だということです。前よりも後に言うほうが、本音の部分・メッセージになっているかたちです。

「1点集中だけだと大変なんじゃないの?」という問題提起をしていて、結果として、「人間、幅を身につけていこうね」と伝えたかったがゆえに、こういう文章を使っています。このように、今日はいろいろなかたちをお伝えしていければと思います。

理解しただけでは人は動かない

「伝わる」というのは、ざっくりとした抽象的な言葉です。それをより具体的に分解していくと、だいたいこの2つ(説明・共感)に分かれています。

先ほども少し触れましたが、(説明は)ただわかってもらえればいい、理解を促すということです。パソコンや電子レンジの使い方がわかるというのは、「わかった」で終わりますよね。中には、マニュアルを読んでもうまくいかない人もいるかもしれませんが、これは誰がやっても基本的には多くの人に伝わります。

もちろん、パソコンも食洗機も使います。だけど理解したからといって、具体的に人生が何か変わるような行動にまで行き着くかというと、人って理解の段階では動かないんですよね。だから「使い方1、2、3、4、5」といった箇条書きでも、マニュアルでもいいというかたちになります。

ただ、今回の話はそこではありません。「わかるわかる、自分もやってみたい」と共感して、行動につなげてもらいたいです。そうなると「自分の思い・考え」といった、主観が重要になってきます。

全員が全員、僕の考え、あるいはみなさんの考えと一致することはあり得ません。これも後でお話ししますが、「エチオピア」というカレー屋があって、僕が「そこ、すごくおいしいよね」と言った時に、100人がおいしいとは言いません。5人、10人が共感してくれればいいんです。

だから、感性が合う人が納得して共感して、「明日食いに行くわ」と言ってくれる人が一定数いればいいんです。全員が全員、共感することは、まずあり得ません。ただ、誰でも分かるようなマニュアル的な情報と、自分の主張・主観の配分によって、動く人は多くも少なくもなります。

「少なくとも1人が動いてくれればいい」と思っているんだったら、その細いところに刺さるような話をしていけばいいし、「もっとたくさんの人にこの電子レンジを使ってもらいたい」と思うのなら、客観的に寄せればいいんです。でも心は動かなくて、作業として動く人が出てくるのが、説明と共感の差です。

購入や申し込みをする時、人は「関心の壁」を乗り越えている

みなさんも、ここに来る、あるいはこのセミナーを申し込むまで気づかなかったかもしれませんが、人にはいろいろな心の壁があります。

例えばみなさんが、どこかの通販で物を買うと、メールマガジンが勝手に送られてきますよね。勝手にというか、「送ってもいいですか」という(ところに)チェックを入れていると思いますが、興味がなかったらそもそもメールを開きません。それが無関心ということです。

その壁を乗り越えて、「ちょっといいかも」という関心を持って、さらに「じゃあその説明を読んでみようかな。行ってみようかな。申し込んでみようかな」と関係性を作りたくなり、申し込みます。

自分がどこで壁を乗り越えているのかを認識しておくことは、いろいろな意味で練習になります。自分が洋服を買う時、パソコンを買う時、旅行に申し込む時、何でもいいんです。「なぜ自分はそこに行くんだろう。どうやってその壁を越えているんだろう」という一番いい実験台が、自分だったりします。

みなさんも、何か行動しますよね。少なくともこのセミナーに来る時に、どうやって「無関心」から「関心がある」になって、「関心」から「関係性を紡いでいこう」と思って実際に申し込んだのか、自分の中でいろいろな経験をメモっておきます。

メモらなくても、覚えておくだけでもいいんですけど、やっておくことによって、「人はこうやって壁を乗り越えていくんだ」と認識する必要があります。

ちなみに、この壁はいくつかあります。無関心や関心の壁を乗り越えさせるためには、恐怖心を煽ることが有効です。そして一定の関係性ができた後には、希望を語ったほうが人は動くということです。これは後で話しますので、なんとなく「ふーん」と思っておいてもらえればいいです(笑)。

実は僕、最初に言おうと思っていたことを、完全に忘れていました(笑)。今ここで言うんですけど、文章力を上げる一番の秘訣は2行で終わるんです。「質のいい文章にたくさん触れて、練習するだけ」です。 でもそれだと、あまりにも抽象的で不親切ですよね。だから僕は今日、この50数枚のスライドを、90分かけて具体的に説明していきます。

染谷氏がイベントのセールスレターに込めた、ある仕掛け

希望と恐怖という話をしたんですけど、無関心から関心に変えていくためには、「危機感を煽る」に言い方を変えます。まだ関係性が築けていない、要は無関心から関心があるところに持っていくために、「あなた、こんなこともできていなくて今後大丈夫ですか?」と言うと、人はビクッとするんですよ。

今回、僕が2,000字のセールスレターの中に入れた文章をここに載せています。

読んだ人は気づくと思うんですが、「100のことを10しか伝えられない人は、何かを成すことが大変な時代になっています」という文章を入れています。これは、恐怖を多少煽っています。ふだん、こんな煽り方はしないんですけど、わかりやすくしています。

そして希望型は、例えば今ここに来て聞いている人たち、あるいはちょっと興味を持った人たち(に向けて)で、「これができると、こんなにいいことがあるよ」と、将来の希望を見せる書き方をします。これも文章に入れていて、「文章が書けることは立派なスキルで、あなたの生活を大きく変化させることができます」としています。

この恐怖型と希望型の文章の違いって、わかりますか? まったく関係性が築けていない人に対して、いきなり希望を語っても、大概「ふーん」って言うんですよ(笑)。

でも関係性がまだ気づけていない時って、「将来(のために)貯蓄してなくても大丈夫?」と言うと、人って「しないといけないのかな」って思うんですよね。一方で、関係性が築けたにもかかわらず、「お前そんなに文章書けなくて大丈夫なの?」ってずっと言われていると、鬱陶しくなるんです。

だから関係性が築けたら、どちらかというと希望型で導いていったほうが、人は動きやすいです。「恐怖型」というのはネガティブな言葉なので便宜上使っているだけですが、先ほどお話しした「壁」の状態を見て、人の不安を突く言葉がいいのか、モチベーションを上げる言葉のほうがいいのかを決めます。その選び方によって、人の気持ちは上下します。

こういうことを2,000字のセールスレターの中に入れているので、読んでない人は、ぜひ読んでいただけるとうれしいです。

MacとWindowsの大きな違いは「見せ方」にある

今回ここにいる人たちは、関係性ができているという大前提でいくと、「行動したほうがいいよ。やったほうがいいよ」という希望的な理由を提供することによって、どんどん気持ちは盛り上がっていきます。

電化製品もそうですよね。例えば、「洗濯機が壊れたから買わなきゃ」というのは、どちらかといえば恐怖型です。「ないと困る」みたいな(ことです)。

でも、「新しい大型テレビを買いたいな」「部屋干しが嫌だから洗濯乾燥機にしたいな」といった感じで、多少興味がある前向きな人に対して、営業さんとかが使うべきは「この商品・サービスを利用すれば、あなたの生活はこれだけ豊かになりますよ」という言葉です。人って、こうやって紹介されると「いいな」と思いますよね。

これを無理矢理、恐怖型でやるとすれば、「このサービスを使わないとあなたは将来的にこんなに損しますよ」と。ちょっと不自然ですが、あえて恐怖型を使うとすれば、こういう言い方になります。

あとは、どんな時に使えるのかを明確化していく必要があります。iPhoneとAndroid、MacとWindowsの大きな違いは何かと言うと、特に広告、見せ方なんです。Macはスペックを出していません。このカメラすごいとか、「すごい感」しか出ていないですよね。

あれって、生活のイメージなんですよね。「面倒くさいことをしなくてもすぐに使えますよ。これだけ美しいことができますよ」というのが、ある程度のMacのやり方です。

一方でWindowsは、「これだけ性能(スペック)がいいですよ」というやり方です。別にそれが良い悪いではなくて、人がワクワクするのはどっちかということです。僕はスペック至上主義なので、スペックのほうがワクワクします(笑)。

なので、そういう細かなところを好む人もいます。細かなところを好む人だとわかれば、そこを突けばいいし、自分のクライアント、あるいは伝えたい人が、もっと全体像が欲しい、ワクワクしたいというのであれば、使っているイメージ・生活感を出さなければ心に刺さりません。未来と希望を見せてあげるということです。

日本人が好きな「物語性」を出す

これは最後に話しますが、特に日本人って、物語が大好きなんです。スライドに書いてあるとおり、立ちはだかる壁・敵を指摘してあげて、「それを回避するにはこういうやり方がありますよ。ひっそり教えますね」みたいな。

僕がよく使う事例が、ドラム式洗濯乾燥機の話です。このシーズンには使いづらいんですけど、みなさんは今、梅雨の時期にいると思ってください。

梅雨の時期は、洗濯物が乾きませんよね。でも、そうは言っても子どもは服を汚してきます。「どうしよう。部屋干ししたら生乾きで臭いし」という時に、僕が電化製品の担当だったら、「いやいや、そんなことをおっしゃいますけど、このドラム式洗濯乾燥機がうちに1台あれば、洗濯物を突っ込んでポチっと押すだけで、5時間後にはふわふわに仕上がっていますよ。なぜだかわかります?」と言います。

このように言われると、生乾きに困っている人の気持ちは多少動くんです。「つきましては、おいくらなんですけど」とかは、その後の問題です。なので、壁を一つひとつ崩していってあげるために、「この人はどんなことに希望を持つのか。困っているのか」(を考えます)。

あるいは「なんで生乾きなんだろう」と、そもそも壁に気づいていないので、「いやいや、それは部屋の中で自然乾燥させるからですよ」と気づかせてあげるということです。

生乾きという敵を指摘してあげて、回避方法を教えます。「いやいや洗濯機のドラムの中で乾燥させればいいじゃないですか。その秘密兵器はこちらです」と言うと、ちょっと心が動く人もいるということです。

文章術なのか会話術なのかは置いておいて、こういうことが文章の作り方、話し方、あるいは表現の方法によって、いろいろなところで使えるようになると、自分がビジネスや商談をする時に、使いやすいかたちになっていきます。