クリエイティブは人間だけに与えられた役割なのか

尾原和啓氏(以下、尾原):後半は私がモデレーターをさせていただきます。教育の中でも、特に「クリエイティブ」は本当に人間だけに与えられたものなのか、これがどういうふうに変わってくるかという話です。

大也さん、今のライトニングトークを聞いていて、デジタルハリウッドの教員の方が一番クリエイティブじゃないですか(笑)?

橋本大也氏(以下、橋本):そうですね。先日も教員会議で「AIをどう使っているか」のシェア大会をやったんですが、みんなすごく使っていて(笑)。

特にクリエイティブは、10年ぐらい前までは「人間じゃないとできない」と言われていたわりには、かなりできるようになっていて。今日の先生方もほんの一部で、もっとたくさんやられている方がいます。

尾原:さっきのラップアップで言えば、GPTを教育の中の振り返りに組み込んでみたら、もともとの学力を含めてどう変化があったか、チャレンジングに(研究を)やっていたりもするし。

一方で、メタバースやアバターを実際に自分で装着しながら学んだり、ディスカッションしてみればどうなるんだとか。まずは今あるものに取り組んでみるという、チャレンジ精神みたいなクリエイティビティ(が重要になる)。

あとは実際に、フロンティアとしてのAI領域の説明可能なAIの話だったり、学習する教科書を使うことを通して、自分が変容すること自体をミラーリングするという話まで行きました。

“AIで生成した絵”に飽き出している

尾原:結論的には、デジタルハリウッド大学の教員の方がどうやってクリエイティブを加速しているかが答えに近いんじゃないかみたいなことを思ったんです。秘訣とか、デジタルハリウッド大学の中の教員会議に何かヒントがありそうなんですが、どうですか?

橋本:そうですね。先生たちは、作ろうと思えば自分でも(生成系AIを)作れるわけですよね。

尾原:手を動かせる方は多いでしょうね。

橋本:だから、面倒なところで楽をするために使っているところがいいんだろうなと思いますね。逆に、うちの学生の1年生や2年生に聞くと、AIに対してけっこうネガティブな子も1~2割はいて。

尾原:そうなんですね。

橋本:そうなんです。自分たちは(イラストを)描くことを学びにここに来ているのに、(AIに)描かれちゃうのはどうよ? みたいな。どっちかと言うと、先生のほうがAIに対して活き活きしている気がしますね。

尾原:なるほどね。でも、それはおもしろい視点ですよね。学生が何を求めて(学校に)来ているのかという時に、既存のツールの上でのクリエイティビティを求めているのか、それとも新しいツールで加速するクリエイティビティを求めているのか。

マンガだと、「Gペンで描いてこそのマンガだ」という熱さが伝わる人と、タブレットで描く(ほうがいいとか)、いろんな論点があるとは思うんです。マンガもそうだし、アニメもそうだし、こういうのって何回か歴史を繰り返しているじゃないですか。そういうところと比べて、AIの違いはあるんですかね?

橋本:MidjourneyやStable Diffusionが出てきた頃は斬新だったんだけど、なんか最近はAIの絵にちょっと飽きてきたところがないですか? 見ると(AIで生成されたものであることが)なんかわかる、というのがあって。やはり、今までにまったくないものをAIが作るのはなかなか難しいのかなと思って。

人間の(作り出す)新しいものは、「あ、これはなかった」みたいなものが出てくるとか。そういうところが人間なのかなと思ったりするんですけどね。

尾原:そうですね。

価値とは「差異×理解」で生まれるもの

尾原:アクティブラーニングの領域の中に、クリエイティビティをものすごくシンプルな公式で表すものがあって。それは何かと言うと、「価値とは『差異×理解』だ」という言い方をしています。

つまり青いリンゴが並んでいて、「どれを買いますか?」と言っても迷うじゃないですか。でも1個だけ赤かったら、そのリンゴに手を伸ばしたくなるから、その赤いリンゴが高くても売れますよね。

一方で、リンゴがグニョグニョしてたり臭いを発してたら、中身はものすごくおいしいかもしれないけど、手を出しにくくなるじゃないですか。つまり価値っていうのは、理解の範囲に収まる中で違いがあるからできるんです。

クリエイティブの難しいところは、実は違いを作ることよりも、お客の理解のぎりぎりを攻めることだったり、お客の理解の幅を広げることだったり、もっと言うと「理解できないんだけど、なんか心が動いちゃうこと」だったり。

橋本:そうですね。

尾原:「理解」というレバーをぎりぎりまで攻めることが、AIによって簡単になったことによって、わからなくなってきたところはあるんじゃないかなと思うんですよね。

橋本:商業デザインというか、わかりやすいものは得意な気がしますね。一方で、まったくプログレッシブ(革新的)なアート(をAIが作り出すこと)はまだ難しいのかなと思ったりします。

生成AIで作成したご当地キャラクター案

橋本:先週姫路市に行って、姫路市の政策局長と対談するイベントがあったんですね。

尾原:やっぱり大也さんは、こういう堅いのには呼ばれますよね。

橋本:その時にこんな例を見せたんです。「姫路市のマスコットキャラクターを作ろうとしています。まず、そのアイデアに使えそうな姫路市のキーワードを10個調べてください」と(ChatGPTに)言うと、姫路市の「白鷺城」とかが出るんですよ。

尾原:なるほどね。これはいい話だ。

橋本:「マスコットキャラクターをデザインして企画書を書いてください」と言うと、白鷺城をイメージした鷺のキャラクターの「ヒメリン」という企画書が出てくるんですね。

それで「(ヒメリンをイラスト化する際の)プロンプトを作ってください」と言うと、生成AI用のものが出てきます。そして「これを絵にしてください」と言うと、こういうコンセプトの絵が出てくるわけですよ。

尾原:おお。

橋本:(スライドを指しながら)これが最初のもので、「もっとポケモンっぽくして」と言うとポケモンっぽくなるし、「ガンダムみたいなロボット系にして」と言うと、ガンダムみたいなロボットになったり、「ヘタウマなご当地キャラ風にして」とか。

尾原:いいですね。僕はこれが一番好きだな。

生成AIは、ニーズがわかりやすい商業デザインが得意

橋本:あと、私がまちづくりを支援している丹波市という同じ兵庫県の市があって。そこのキャラクターだと、丹波は黒豆とか栗が有名なところなんですよね。

またここでも、マスコットキャラクターデザインで「たんたんくん」を企画してくれて、企画書を書いてくれて。その企画書をまたプロンプトに直して放り込むと、黒豆と栗とかが合体しているキャラクターが出てくるんです(笑)。

尾原:これはなかなか。

橋本:「マスコットキャラクター」と「ご当地キャラ」は似てるから、こんなものでもいいわけなんですね。

尾原:そうですね。

橋本:これをベースに、またイラストレーターに描き直してもらうこともあるし、政策局長も「いや、これでいいじゃないか」と言っていて(笑)。

尾原:でも今の話って、さっき言われた「クリエイティビティって2種類あるよね」という話の象徴だと思っていて。

クリエイティビティと言っているけど、要望する人が何を求めているのか、きちんと要件を抽出して、要件の幅の中で最大公約数をいっぺん出してみて、「じゃあ、この部分はもうちょっと幅を広げてほしい」と。

GPTにしろ生成AIにしろ、可能性空間の中でどういうバリエーションを出すんですか? というものじゃないですか。そうするとクリエイティビティって、「姫路市の市民が喜ぶ」を要件として抽象化して、その抽象化を絵にすることが、実はクリエイティビティという話なのかなと思います。

GPTは「みんなの要望を抽象化する」ことが強いから、みんなが望んでいるものをうまく現実化させてあげる商業デザインという意味では(活用方法がある)。

橋本:そうですね。過去にありがちなものを生成しているから、わかりやすいものが出やすいですね。

尾原:そうですね。最大公約数をうまく作るクリエイティビティと、異端児を作っていくクリエイティビティは、実は違う方向だという話かなと思いましたね。

橋本:そうですね。お金になる商業デザインの多くは、わかりやすいものを求めているのかなと思っていて。だから、けっこう使えるかなと思ってます。

AIに対してネガティブな学生も

細野康男氏(以下、細野):いくつかSlidoでご質問をいただいておりますので、ここで読み上げさせていただいて、お二方から(回答を)お願いできたらなと思います。

尾原:はい、もちろん。

細野:1つ目が「『AIがあれば基本のスキルを勉強しなくてもいいじゃん』とネガティブになっている学生に対して、どのようなメッセージを発信していくべきでしょうか?」です。

尾原:どうですか?

橋本:学ぶところが変わっていくんだと思うんですよね。デジタルハリウッドも1993年にできた頃には、たぶん人の切り取り方を教えていましたよね。マウスでひたすらクリックして、輪郭を1,000ポイントぐらいクリックして……。

尾原:ははは(笑)。

橋本:それがCGのクリエイティブだったわけですよ。だけど今はそんなことをしないわけです。AIが、もっときれいに人の髪の毛も切り抜いてくれるわけだから。だから、勉強するところが変わっていくのは当然だと思うんですよね。

「より人を感動させる」というところにもっと本質があると思うので、学ぶところがシフトするだけかなとは思うんですが。

尾原:そうですね。スキルって、プロダクティビティに携わるスキルと、クリエイティビティに携わるスキルの2種類があると思うんですよ。プロダクティビティの基礎がないと、クリエイティビティを発見できないところがあって。

「楽しむ」ことにもスキルが必要

尾原:『Bバージン』というマンガを描かれた山田玲司先生が言っていた言葉がすごくおもしろくて、「AIによって、ようやく美術は音楽に追いつける」と言ったんですよ。それはなぜかと言うと、音楽って「音を楽しむ」と書くじゃないですか。でも、美術は「美の術」と書くんですね。

音楽は楽器を演奏できなくても、鼻歌だろうがハミングだろうが誰でも楽しめるじゃないですか。だから、術がなくても楽しめるんですよ。でも美術だけは、「美の術」を学んでおかないと、「美を楽しむ」という領域に行けないわけですよね。

術としてのプロダクティビティとしてのスキルは、その時代によって変わっていくという話なんだけど、実は「楽しむ」にもスキルが必要なんですよね。

「楽しむ」というスキルを(習得)するには、宮崎駿のプロットを自分で全部書いて「この人はここで世界観の仕掛けを入れているんだ」とか、マンガの全部のコマをトレースして「ここに人間の視線を集中させるために集めているんだ」という(ことを学ぶ必要がある)。

クリエイターの意図と意志をトレースしないと楽しむことができない。そっちのスキルは、普遍的に大事なのかなと思ったりしますけどね。

細野:ありがとうございます。

クリエイターはAIをどのように活用していけばいいのか

細野:どしどしと質問をいただいておりますので、コメントしていきたいと思います。次は「クリエイターがAIを否定せずに活用する方向に向けるため(単に絵を描くとかのレベルではなく)の指導は、どのように進めたらよいでしょうか?」。

尾原:これはどうですか?

橋本:じゃあ、ちょっとスライドを。

尾原:スライドがあるの? さすが。すぐ出ますね。

橋本:これは私が描いた名画なんですけど……(笑)。

(一同笑)

細野:これは何だろう?

尾原:ビルを襲っているってことですかね。

橋本:私はデザインスキルはないんですね(笑)。まったく関係ない、クリエイティブじゃない側の人間なので。これを描いて、「これは恐竜がビルを襲っていて、火を吐いてますよ」という説明とともにStable Diffusionに入れると、こうなるんです。

尾原:おお。

橋本:バリエーションもいくらでも作れるんです。あと最近は「Gen-2」という動画化するものがあって。

尾原:動画を作れる生成AIですね。

橋本:これに(自分で描いた絵を)入れると動くんですね。

尾原:ははは(笑)。この時点でちゃんとレイヤー分解してくれているわけですね。

橋本:動画化することもできて、これも動くわけですよ。

尾原:おお。

人の心を動かすコンテンツ作りに必要なこと

橋本:あとこれは、ChatGPTで「心霊写真を生成して」ってお願いしたんですね。

尾原:(笑)。

橋本:そうするといい心霊写真が出たから、これをまた動画化するGen-2に持ち込むんですね。「これを動かして」と言って、できたのがこれ。けっこう怖いシーンです。

(動画が再生される)

尾原:レンダリングの動かし方がちゃんと怖いな。

橋本:これは有料なので数十秒ぐらいしかやってないんですが、何分も続けることもできます。これ、けっこう怖いですよね。

尾原:はい。

橋本:だからコンセプトを考えるというか、「何で・どうやって感動させるのか」という、より本質的なところをイメージできることが重要になっていくのかなと思ったりするんですけどね。

尾原:そうですね。クリエイティブとかアートの大事なところって、作家の方が何の入力を受けて、何を出力するかというのもあるんです。でも、マンガだろうが、映画だろうが、さっきの心霊写真だろうが、見たものを人がどう感じるのかという「感じ方」もちゃんと考えて作らないと、最終的に人の心を動かせないわけですよね。

そうなった時に、やはりある程度はプロトタイピングで物を出していかないと(いけない)。最終的に「作家が思っている出力をユーザーの方がどう受け止めるんだろう」「想像力の中でどう膨らますんだろうか」ということは、わからないところが多いので。

そのラストワンマイルを「人の心が動く」というところに委ねている以上、今みたいな試行錯誤や多産多死みたいなものはすごく大事です。

クリエイティブの価値は、最後は人間の主観が決めるもの

尾原:例えば映画の手法で言うと「プレビズ」というものがあって。今の映画ってストーリーも大事だけど、画角一発で、その角度からの画像だけで心が震えるところがすごくて。

さっき事例で出てましたが、『タイタニック』の時は画角1個のきれいさを作るために、5分の1ぐらいのタイタニック号の模型を作って、ちっちゃいカメラを入れて、「この角度からこう撮ったらむちゃくちゃかっこいい映画を撮れる」という試行錯誤を(ジェームズ・)キャメロンがして、それをリアルで再現しているんです。

『エヴァンゲリオン』ではそれがメタバース空間になって、実際にプロの格闘家が闘った画と後ろの画を、VRで試行錯誤で合わせた上で「じゃあこれでアニメを実際に作ろう」みたいなことをやるわけですよね。

さっき言ったように、どうしてもクリエイティブやアートって、ラストワンマイルが「人の心がどう受け止めるか」という主観で決まるから、プロトタイピングが必要。むしろそれを先に楽しんで身につけてから、「じゃあ自分はどういう出力で相手の心を動かすのか」というところを学べるのは、おもしろいことだと思うんですけどね。

細野:ありがとうございます。