ティール組織を国内に広める吉原史郎氏が登壇

山田聖子氏(以下、山田):ここから吉原史郎さんのご紹介に入っていきたいと思います。私と史郎さんの出会いですが、オットー・ラスキー先生の、成人発達理論の講習があって、そこで史郎さんが講師をされていて、私が生徒として学ばせていただいたことがきっかけのがご縁でしたよね。

吉原史郎氏(以下、吉原):はい、そうですね。ありがとうございます。

山田:当日は、ありがとうございました。私がなかなか理解が追いつかないところも史郎さんが丁寧にサポートしてくださったから、すごく安心して学べたところがあって、今日は私が言葉足らずなことがあったら、またサポートをお願いします(笑)。

吉原:よろしくお願いします。

山田:では史郎さん、ぜひ自己紹介いただけるとうれしいです。

吉原:みなさん、こんばんは。簡単に自己紹介させていただきます。吉原史郎と言います。今Natural Organizations Lab株式会社を始めて7年ぐらいになります。

循環畑という「いのちが循環する」畑をしていまして、「野菜?」みたいな感じもあると思うんですけど、例えばトマトであったり大根であったり、自然と雨水で育っていくお野菜です。日本とイギリスに住む僕たちの仲間の循環畑のフィールドに加えて、(スライドの)写真に出ているのはある企業の方で、企業さんの敷地の中で循環畑をしています。

シンプルに言うと、野菜を育てるというよりは自然と育っていく。それをオーナーも含めた経営陣が、みんなでやっていっています。

その上で、経営会議の中でビジョンを考えたりとか、時々のテーマをやっていくんですけど、そういった役員会自体が変わっていく必要があるという考えが僕の根っこにあります。もともとが大学を卒業して、事業再生下の120人ぐらいのリゾートホテルの経営をご縁をいただき、行っていました。

リゾートホテルの再生の現場で、経営業務を行っていました。そこで経営をしていく中で、当時、自分がリゾートホテルの経営者ですから、今日のトピックに上がるようなビジョンが自分を通じて現れて。それが共感を呼ぶ場合、あるいは時間の遅れがあっても、共感につながっていく場合とさまざまな状況があるのですが、そういった経験を積み重ねさせていただいたと感じています。

一人ひとりが力を発揮できる状態に導く「ティール組織」

吉原:その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティングという会社で、ホテルだけではなくて業種が広がりました。例えば、製造業のみなさまの現場で、リゾートホテルで培った経験を活かさせていただきました。ある種、泥臭くやっていくのが自分の特徴であると思っています。

今日コメントをいただいていた方もいらっしゃるかと思うんですけど、ティール組織という考え方には、2015年に英書『Reinventing Organizations(フレデリック・ラルー)』を通じて出合いました。そういった中で、自然の組織と言われると、どういうものかな、全部自由なのかなと思われるかもしれませんけれど、自然は自分で自己修復していく特性がありますよね。

自然の摂理がそうであるように、ティール組織においても、しっかりと自己修正性の高いプロセスであったりとか、別に全部が自由だというわけではないんですね。ただ、1人ないしは特定の経営陣が力を持っている状態から、「誰もが、持ち場持ち場で力を発揮できる」状態の可能性を探究しているのが、フレデリックが世界に届けてくれた考えです。

また、フレデリック自身も探究をしている考え方に「ソース・プリンシプル」というものがあります。今回のトピックにつなげると、まさにビジョンとつながります。「自分が愛してやまないビジョンを創作していく」ことに焦点を当てているのが、この「ソース・プリンシプル」という考えになります。

現在は、循環畑を土台として、この「ソース・プリンシプル」の探究実践をしています。今日は、山田さんと一緒にみなさんと探究できるのを楽しみにしています。よろしくお願いします。

状況に応じて経営形態を柔軟に選択していくことが大切

山田:史郎さん、ありがとうございます。ぜひご本の紹介もいただけるとうれしいなと思っているんですけれども。

吉原:ありがとうございます。(スライドの)左から、2018年に執筆し、大和出版さんから出させていただいた『実務でつかむ!ティール組織』という本があります。ティール組織は、数ある経営形態の一つの選択肢であり、唯一の正解ではありません。

経営をされていればもうご存知の方も多いと思いますが、経営環境の文脈や状況に応じて、経営形態を柔軟に選択して進めていくのが望ましいということを書いている本になります。

ティール組織という経営形態を、実務的に活用する道具として捉えていただけたらと。また「誰もが、持ち場持ち場で力を発揮できるプロセスやシステムが生まれていく」にはどうすると良いのだろうか、みたいなところに立ち返っていただけたらという思いで、この本を出しています。

真ん中の本(『自主経営組織のはじめ方 現場で決めるチームをつくる』)は、オランダにあるビュートゾルフという訪問医療の組織で使われていた運営方法についての本です。右側(『[新訳]ホラクラシー』)が、ホラクラシーという、ティール組織の中でも1つの事例として語られている方法論を扱ったものです。簡単ですが、以上になります。

現場の管理職がビジョンを語れない問題

山田:史郎さん、ありがとうございます。いろんな現場での組織の作り方を、事例から学んでいける本になっていると思うので、みなさんぜひ読んでみていただけたらうれしいなと思います。

ではさっそく今日、ここから本題に入っていこうと思います。まず、現場で起きている、リーダーがビジョンを語れない問題ですね。弊社のサービス、管理職の社外メンターサービス「Good Team」で集まっているお悩みをまとめてみたので、ぜひみなさんと一緒に見ていけたらなと思います。

まずよく挙がる声として、目の前の目標値の達成はイメージすることができるけれども、何のためにやるのかと言われると、売上や数字でしかイメージができなかったり。受身かもしれないけど、「期待されたことに答える」ではビジョンにならないのかなという、素直なお声もあります。

あと「私がやりたいことと会社の方針が違うような気がするんだよな」と、自分のビジョンを言葉にすることがなかなかできない。「正直現場にはビジョンを語っている時間がないんだよな」「どうやればいいんだろう」という声だったり。

今はビジョンや夢を語るより、目の前の売上やお金を稼ぐことが大事だという声。それから「自分のキャリアもよくわからないのに、会社や組織のビジョンと言われても」みたいなことが正直な声として上がっています。「部下にビジョンを語られても、逆に対応に困ってしまうんです」みたいな声もありました。

あとは部下に楽しんで働いてほしいけれども、ビジョンを語ることで過度な期待を持たせることになりそうで不安だという声。これらがよく挙がるなという印象を持っています。

これはビジョンの重要性の理解不足、それからビジョンを考える視点の不足が挙げられるかなと感じています。Good Teamを受講された方々は、最後に「この2つが足りなかったな」とお話しいただくこともあります。

組織ビジョンを語るために大切な視点の切り替え

山田:今回史郎さんとこのセミナーをしようとご相談させていただいた時に、史郎さんから見る「ビジョンを語れない問題」で、おもしろい視点をいただきました。ぜひ史郎さん、これをみなさんにお伝えいただいてもいいですか? 私は「なるほど!」と思いました(笑)。

吉原:わかりました。今、山田さんが挙げてくださったような、例えば、売上に焦点が当たっている場合は、理想の未来像(ビジョン)を語ることが難しいなど、さまざまな事象があるかと思います。その事象を、後でお伝えする四象限、(スライドに示した)4つの箱があるのですが、その四象限の真ん中に入れてみる感じです。

これ(四象限)には縦軸と横軸がありますが、縦軸は「個人」と「集合・組織」という両極になっています。横軸は「(心の)内面」の話と「外面」、例えば行動とか振る舞いというもので、ある程度ざっくり分かれていると思ってください。

例えば「会社として売上に焦点が当たっているのでビジョンを語れない」というケースを四象限で見てみます。「個人×内面」で見てみると、「なかなか自分はビジョンを持てないな」と落ち込んだり、がっかりしたりしていることもあるかと思います。(この場合、心の内面で、湧き上がってくるようなビジョンは生成されていないことが多いかと思います)。

別の視点、「個人×外面」で見てみると心の内面の結果として、ビジョンを探究するアクションをあまり取ることができていないということもあるかと思います。

さらに、「全体×内面」の視点で見てみます。例えば、上司との関係性がビジョンを描く際の障壁になっていることもあるかもしれません。もちろん、直属の上司以外にも、担当の役員さんであったり、経営者であったり。もしくは会長であるとか、そういった方々は、この事象にどういう影響を及ぼしているのだろうかと考えてみることも有益です。

4つの視点でチームの構造を俯瞰的に見る

吉原:他には、会社の文化の視点で見てみることも可能です。例えば、自分が属している会社組織の文化で(「ビジョンというものを語ることがどの程度、受け入れられてきたのか」が興味深い視点になります)。こういうことが左下の「3.関係性や文化」のボックスに該当します。

最後に、「全体×外面」の視点でも見てみます。例えば、具体的なのは目標管理のシステムとか、KPIやOKR等、さまざまな方法があると思うのですが。そういうものが評価のプロセスとしてある場合、ビジョンを語ることなどがプロセスの中に工夫されて入っていないと、当然、ビジョンを語ってもなかなか報われないため、ビジョンを語りづらいということは起こると思います。

このように、ある特定の事象を見る際に、例えばどういうシステムとかプロセス、どういう構造がこの会社やチームにあるんだろうか、みたいな視点が右下(「構造、プロセス システム)になります。このようにして、1つの事象を4つの視点に分けて、起きていることを見るという方法になります。

「それぞれの事象がどうして起きているのか?」ということを考える上で、俯瞰的な理解を高めることができる方法になっていると感じています。これはティール組織のベースになっている、「インテグラル理論の四象限モデル」と言われているもので、ケン・ウィルバーさんがご提唱されているものを、実務的に、コンパクトに記載させていただいたものです。

周りの人からヒントをもらうことも有効

山田:史郎さん、ありがとうございます。ビジョンを語れない時に、この4つの視点を使って「こういう使い方をするといいよ」みたいな事例があったらおうかがいしてもいいですか?

吉原:そうですね、自分の内面に焦点を当てるのが得意であったり、好きな方は、まずはそうしてみることがあるかと思います。他には例えば、ビジョンを語れる方が社内にいるのか、社外にいるのか、みたいな感じで、周りの方たちからヒントをもらう方法があるかと思います。

社内で、そういう振る舞いをされているのであれば、先輩や上司、後輩に該当する方がいるかもしれません。そういった時に、該当する方と自分の関係性がある程度良好であれば、学べる関係性になれると思うんですよね。そういう方を見つけてみることが有効だと思います。

「その方がどういう関係性を土台にして、その方の関係者にビジョンを伝えているんだろうか」とか。あるいは、「構造やプロセスやシステム」に耳を向けてみて、その方がビジョンを語ることができている背景には、どんなプロセスやシステムとか構造があるのかなと考えてみることが大切だと思います。

すると、実はビジョンを語ることを奨励するプロセスがあるかもしれませんし、逆にプロセスはないけど、自然とやっている可能性もあると思います。自然とやっている時には、おそらく、上司や先輩たちとの恵まれている関係性がある場合が多いと思っています。

そういうところも、見えてくると思います。だから山田さんがされていたロールモデルを参考にすることは、とても取り組みやすいことかと思いました。

山田:ありがとうございます。今まで自分の上司がビジョンを語ってくれるわけではなかったのに、いきなり会社からビジョンを語ってほしいと求められ始めたみたいなお悩みも、けっこういただいたりするんですけど。

社内にいなければ、他社の管理職の方から学ぶのもいいと思います。その時にこの四象限で考えると、どういうことで自分がこの課題をクリアしていけそうかなと、よくイメージできて、考える材料になりますよね。