レンタルビデオ時代は、アルバイトにプログラムの勉強をさせていた

野村高文氏(以下、野村):亀山さんの場合は先ほどの事業投資っていうところでいうと、昔はもうレンタルビデオを利益出た分そのまま買ってたっていう時期があったんですよね。

あとIT企業、ITを強くするようになってからは、会員を増やすとかトラフィックを増やすとか、そういうところに広告費とかを投資をしていって増やしていったってことなんですか?

亀山敬司氏(以下、亀山):エンジニアの養成とかね。もうヤンキーにエンジニアの勉強させるのに時間かかるんだよ(笑)。

野村:そうですよね(笑)。でも昔はそうだったわけですよね。

亀山:そうそう、昔はビデオレンタルのアルバイトのやつらにプログラムの勉強させて(笑)。

野村:はい(笑)。私、前どっかでその話聞いてすごいなと思ったんですけど。

亀山:そいつら、初めはできないから「とにかくやれ」みたいな感じで。だからインターネット部門はめちゃくちゃ赤字だったのよ。

野村:あぁ、そうなんですね。

亀山:当時まだビデオレンタルとか、DVDの販売とかで利益出た分があったから、そっちで、要はそこの赤字が吸収できたんだけど、結局そこで出た黒字の分しか投資できなかったんだよね。でもそういう感じの中で、合算すれば結局はこっちの黒字とこっちの赤字で相殺できるから。

野村:そうですね。

亀山:税計上も助かるし、それが目に見えないけど長期的に5年……DMMなんて8年赤字だったからね。DMM自体が、8年間赤字だった。

野村:あぁ、そうなんですね。

亀山:DMMがスタートしてから8年間はずっと赤字だったんだよね。それは広告費もあれば、会員を集めるためにいろんな投資もあるし、開発もあるし、新しいサービスとか、どんどんお金かかるだけなのよ。売上も上がっていったけど、経費が多かったからね。それをビデオレンタルとかそういうののお金でなんとか賄ってたという感じなわけよ。

野村:そうなんですね。

「人がたくさん集まっている」ことが会社の資産になる

亀山:でもまあそうやったから、今ビデオレンタルがなくなった頃に、インターネットで次のいわゆるビジネスモデルができて、結果雇用も守れたということになるんじゃない?

野村:確かに。けっこう亀山さんとしては、なんとなくなんですけど、レンタルビデオって「在庫を増やしたというか、品数を増やした分売上が上がりそうだな」みたいな想像は、当時はついてたんですか?

亀山:テープを買うと店舗が増えていくじゃない。当時はほら、ビデオレンタル自体は買っても途中で売れるなと、含み資産みたいに思ってたのもあったの。中古で売れるからっていうのもあったけど、途中でDVDに変わったらゼロになっちゃった(笑)。

野村:(笑)。そっか、もともとは別にバランスシートには載らないんですけど、その気になったらこのビデオテープ群は別に売れると思っていたわけですね。

亀山:うん、思った。でもDVDになっちゃったから。そこはちょっと見込み違い(笑)。

野村:(笑)。で、ITのほうが、よりビデオテープを買うよりも回収が難しいというか、どっちに転ぶかわからないビジネスなのかなって感じもしたんですけど、そこはでも、やると決められて。

亀山:その頃は結局サイトへの集客力、会員数が、ビデオに代わる新しい部分の資産かなと思ったわけよ。

野村:そうなんですね。

亀山:それはもうYahoo!だろうが楽天だろうがそうじゃない。基本的にはなにがあるかっていったら、会員をいっぱい持ってる。人が見にきてるっていう、ここが資産になってるじゃない。それはGAFAも全部そうだよね。

野村:うん、確かに。

亀山:だからそういったものに変わってくっていうのが、一番効率的な投資というか。もちろん終わっちゃうとゼロっていうか、誰かに売ろうと思っても売れるもんじゃないんだけど、そこは会社としての資産にはなるよね。

野村:確かに。そうか、だからそうですね、確かに人がたくさん集まってる、会員がたくさんいるってそうですもんね。それって帳簿には載ってこないですもんね。

亀山:でもまあ多くの、普通の一般の投資家の人たちも、それを理解してきたから、逆に赤字でも「ここは会員数いっぱいいるから」って言って株価つくようにはなったじゃない?

野村:確かに。

亀山:Amazonとかも赤字だけど株価上がってったじゃない。

野村:そうですね。

亀山:将来どんどん伸びていくなぁっていうのは、どんどん売上が上がってて、将来黒字になるよねってみんな思ったじゃない。みんな、そういうのは資産だって思うようになって、株価がついていったわけ。

上場企業が悩む「伸び率」と「期待」のギャップ

亀山:ただね、これがね、実際問題、じゃあ昔は赤字だけど株価が上がってました。でも最近もうさらに黒字なんだけど、株価が下がりましたってことが起きてるじゃない? ITとかも。

っていうのは何かというと、みんなが「いや、これもっと売上、10パーセントずつ伸びると思ってたのに、今年5パーセントしか伸びないのかよ」と。利益も前より増えたのに、「ちょっと期待外れだな」と思うと、業績は伸びてるのに株価が落ちることがあるわけよ。

みんなの期待よりも低かったらね。そこで苦労したのはNewsPicksもそうだろうけど。

野村:そうなんですよ。伸び率っていうのが、傾きがどんどんきつくなってくると期待になってくるじゃないですか。それをミートさせ続けるのは本当にきついなあと思いますもんね。

亀山:そうなった時に、非上場と上場の違いでいうとさ、結局上場会社って、ストックオプション(株式会社の経営者や従業員が自社株を一定の行使価格で購入できる権利)とかいろんなものを出せるじゃない?

そういうところである意味、社員のモチベーション上げやすいとかっていうのがあるわけよ。非上場はそれができないっていう感じじゃない? でも、上場後にストックオプションもらったとしても、その時の株価が上がらないと意味がないわけ。

もらった人も株価下がった、投資できないまま終わっちゃうっていう状態は、なんとなく気持ちわかる?

野村:はい、もうめちゃめちゃわかります(笑)。これまた載せていいのかわかんないですけど(笑)。

亀山:(笑)。でもその中で、結局じゃあNewsPicksも非上場化してから、もう一回、たぶん長期的にビジネスやれるように考えてたんじゃないかと俺は思うんだけどね。

野村:そうですね。

非上場企業の純資産で株式を見る仕組みは、社員にとっても価値がある

亀山:それでいうとさ、上場会社のストックオプションっていうのは、上がってこその価値だからあんまり価値ないんだよ。上場会社のストックオプションよりも、DMMの株のほうが価値あるよみたいな(笑)。

野村:現物ですもんね(笑)。

亀山:現物だから。現物って赤字にならなきゃ上がるじゃない。

野村:そうですね。

亀山:NewsPicksだろうがAmazonだろうが、Amazonは別かもしれないけど、みんなどこでも黒字になっても株価下がることあるっていう。利益増えてるのに株価が下がることがあるわけです。

野村:そうですよね。市況もありますよね。

亀山:そうそう。市場の期待とかね。

野村:「自分たちがんばってるんだけどなんで下がるの」みたいなことがありますもんね。

亀山:だから会社の業績と連動してないでしょ。

野村:はい、そう思います。本当にそう思います。

亀山:その中で結局、そういったもののストックオプションもらっても、とても不安定なもんなんだよね。そうすると、例えば非上場が今回みたいな純資産で見る仕組みを取り入れるのは、ある意味自分の増えた資産を減らすことにはなるかもしれないけど、社員にとっても価値があることじゃないかなって気がするわけよ。

野村:確かにそうですね。上場を目指す企業のストックオプションっていうと、けっこう若い時、まだ企業が小さい時にわりと高年収の人に来てもらうと、だいたい年収が下がるじゃないですか。

それを補ったり、なんならがんばったらちょっと夢があるよ、みたいな意味でストックオプション付与しますよ、みたいなことを戦略を採る企業も多いかなとは思うんですけど。

亀山:それはスタートアップが多いよね。スタートアップはある意味上場ゴールじゃないんだけど、上場した段階で「やった!」って感じになるわけよね。ちょっと始めの、創業当初もらってるのがね。上場しなかったら紙くずになるわけ。

野村:そうですよね。

亀山:上場した時にもらったのっていうのは、それが10倍、100倍になって、「やった!」みたいな。これは夢があるんですよ。上場後にもらうのは、もうけっこう株価がついてるから。

野村:そうですよね。そうなんですよね。

亀山:そっからはね、上がるか下がるかけっこう難しい問題で。だからそのへんはちょっと種類が違うよね。同じストックオプションでも、宝くじをもらうのか、馬券をもらうのかじゃないけど(笑)。

野村:馬券(笑)。

亀山:ちょっと例えが悪かったかね(笑)。

野村:馬券も相当ボラティリティがありそうな感じもする(笑)。確かにそうですね。

非上場であることの経営的なメリット

野村:だから、比較するとしたら上場後に付与されるストックオプションなのか、非上場企業の、今回亀山さんが言われてるような持株会に入って、純資産が増えたっていうのをみんなで分けあおうかみたいな、その比較になってくるってことなんですかね。

亀山:だから前回も言ったように、この株自体は極端にいえばある程度利益の分しか上がらないから、元金割れはあんまりないんだけど、逆にいうとそんなに跳ねるわけでもないわけ。

野村:そうですね。

亀山:利益のぶんだけ乗っかってくる。リスクも少ないけどリターンも少ないって感じかな。リターンがあるとしたら、前も言ったように俺がポクッと死んだ時よ(笑)。

野村:はい(笑)。もうどっかに売却された時の。

亀山:そうなった時は「やったー!」みたいな(笑)。

野村:それ大丈夫ですか(笑)。そっちにインセンティブがいっちゃうじゃないですか(笑)。

亀山:そっちにいったら……、確かに、俺が危篤になったらみんなワクワクしてるかな?

野村:そうそう(笑)。インセンティブ設定大丈夫ですか(笑)。

亀山:つらいよね(笑)。

野村:いやいや(笑)。そうですね、本当に。仮に高値というか市場相応でDMMさんが買われた場合に、既存株主にとってはそうなるんですもんね。

亀山:そうだね。株に関してはそういうことになると思うけど、実際、経営的な運営も、ある意味非上場のほうが健全にやれるって言い方は変だけど、長い目でやれるっていうのは1つあるのは、けっこう意味があるんだよね。だからまあ、正直よく、たまに上場会社が粉飾決算で、思ったより売上高く見せてましたってあるけど。八百屋の親父が粉飾やるわけないじゃないですか。

野村:そうですね。だって税金が高くなるから(笑)。

亀山:意味ないからみたいな(笑)。

野村:ですよね。

上場企業では、投資したい時でも配当せざるを得ないことも

亀山:そういうのはあれだとしても、株価のために株主を意識しなきゃいけないのは上場会社、当然みんなからお金を預かっている以上は、もうこれしょうがないんだよね。だから仮に会社として今少しでも資金が欲しい、投資したいという時でも、配当する会社がけっこう多いわけ。

これは配当を減らすと株価が下がっちゃうとかっていうのがあるからなんで、まだまだお金たくさん集めて投資するフェーズだけど、一方で配当してますっていうのは矛盾するじゃない。

野村:そうですね。

亀山:配当しないで投資に回したほうが良いんだけど。でもそれも株価というか、株主を意識してそうするのは、見かけといったらなんだけどね、俺からすれば配当する会社と配当しない会社があったら、どちらも一緒だと思ってんだよね。つまり配当しない分は会社に貯まるから、株価に反映される。

野村:確かに。

亀山:配当すれば利益減るから、純資産増えないじゃない。でもなぜか、株主は配当もらうほうが喜ぶのよ。俺からすると「同じじゃない?」と思うんだけど。

野村:そうですよね。だって理論上は、その分株価に反映されるわけですもんね。

亀山:うん。でもどっちかというと配当しても株価が上がる。だから投資家たちも目先の、配当がもらえるほうがうれしかったりするわけ。これも変な構造だと思うんだけどね。しようがしまいが価値はどっちも一緒じゃない。でも「する」って言われると上がるっていう構造もあるんだよね。

野村:そうですね。でも特にGAFAの株は、配当しないってことで評価されている面もありますもんね。Amazonとかもそうなんですけどね。

亀山:そういうのもあるんだろうけどね、でも多くは株主総会行ったら「配当しろ」とかって(笑)。まあそれはあんまり使ってないとこが多いんだけどね。「そんなに金貯めこむな!」みたいな。

野村:確かにそうですね(笑)。

亀山:「おまえら投資してるのか?」みたいな。

野村:事業投資すらしてないってことですね。

亀山:「お金貯めるぐらいなら配当しろ」みたいな。で、実際は投資する気ないけど、自分たちの社員を守るためにって、過大な資産を貯めてる会社も多いことは多いんだよね。

野村:確かに。

亀山:だから株主の気持ちもわかる。

野村:確かに。