ビデオレンタル時代から考えていた「非上場で持株会」の構想

野村高文(以下、野村):ちょっとテクニカルなところをうかがっちゃうんですけど、インサイダー取引は、買うタイミングと売るタイミングを制限すれば該当しないんでしたっけ?

亀山敦司(以下、亀山):上場会社の場合だったら、決算発表のいつだったかな。「この時期なら売り買いできますよ」ってあるんじゃないかな。今回の場合は、そういうのは......。

野村:非上場はないんでしたっけ?

亀山:うん。ただ今回うちらも注意したのは。少ない人数だったら持株会ってそんなに難しくないの。中小企業もやるんでね。だけどうちらの場合グループ全体で4,000人ぐらいいるじゃない? そんだけになると、法律がいろいろあるわけ。

野村:そうなんですね。

亀山:だからいろんなルール作りをちゃんとしとかないと、それに抵触しちゃうから、うちのホールディングスの人間が一生懸命調べて、ちゃんと法律違反ならないように組んでるみたい。

野村:そうなんですね。

亀山:一定のルールを決めて、このルールをちゃんと運用すれば大丈夫みたいな感じ。

野村:例えば工夫された点とか、逆にやろうと思った時には気をつけろっていう点って、あったりするんですか?

亀山:そのへんはね、俺もあんま細かいことは......(笑)。

野村:(笑)。

亀山:いや、でも「こんなんやれないの?」って、実は俺もビデオレンタル時代から構想を考えてたの。

野村:あ、そうなんですか? ちょうど始めようと思った経緯をうかがいたかったので、聞いてもいいですか?

社員は「1万円分の株より1万円給料上げてください」

亀山:これはビデオレンタルの頃から考えていて。うちらはその頃、当然非上場っていうか単なる街のビデオ屋さんだったんだけど。だけどそういった中で、みんなのモチベーションとかも含めたら、株持たせてもおもしろいかなと思ったんだよね。

その時に店員を集めて、「こんなん考えたよ、どう思う?」って言ったら、「いや、現金のほうがいいです」って(笑)。

野村:(笑)。その時は、あまり良さわかってくれなかったんですね。

亀山:そうね。俺もあんま説明できなかったけど(笑)。お互い素人だったんだけど、みんなからすると「いや、1万円分の株より1万円給料上げてください」みたいな話だからね。今になって思えば、その頃1万円の株持ってたら、たぶん1,000倍以上になってたと思うんだけど(笑)。

野村:そうですよね(笑)。一財産になってますよね。

亀山:と思うけどね。ただその頃は誰も欲してなかったのもあるし、どういうふうに組み立てればいいのかがわかんなかった。その頃は人数が少なかったからね。

またそこから何十年か経ってまた一回提案したんだけど、けっこう「立て付け難しいです」みたいな感じで。あと運営も大変だと。いろんな社員から「やりたくないです」みたいになったから、「じゃあ、またやめようか」と。10年に1回ぐらい議案にあがるのよ(笑)。

野村:そうなんですね(笑)。亀山さんの中ではずっとそういう思いがあって、ただもちろん本業もお忙しいでしょうし、「優先度が今は低いよね」っていう感じで続いてきたわけですね。

亀山:そうね。社員たちもあんまり乗り気じゃないし、「別にいらねえわ」みたいな感じだったの(笑)。「いや、もう現金のほうがいいっす」みたいな(笑)。

野村:そうなんですね(笑)。

亀山:「まあ、そうか」みたいな。需要もないから俺ががんばって「将来いいんじゃね?」とか言っても、みんな乗ってこなかった。作る側も買う側もね。

10年くらい前から、利益と投資フェーズが逆転

亀山:正直うちらも、投資フェーズの時ってのはあまり利益も出さないできたわけよ。例えばビデオレンタルの場合は、「出た利益は全部ビデオテープに使え」とか、「どんどんビデオに投資しろ」とかってやってたわけよ。

ビデオはだいたい経費扱いになる。全部経費になるから、利益は上がらないんだよ。

野村:それは大きいですね。

亀山:つまり資産にならない。だから結局、投資って言ってもうちらの投資は本当の経費になる投資みたいな話になるから、「会長のところにいるともうかりませんね」って。売上は伸びていくんだけど「利益でませんね」って言われてるわけ。

どちらかというと、やりたい投資フェーズが多かった。本当はお金を借りてでももっと投資をしたいなと思ってた時期で、でも融資も少なかったから、そういった面で結局出た利益を目いっぱい投資していて。その投資で人を雇ったりエンジニアを育てたり、サイトを作ったり会員を集めるとか広告費使ったりとかしていくとね、あまり利益は出ないんだよ。

だから極論でいうと、ここ最近でてきた利益と投資フェーズが逆転したのが10年ぐらい前かな。その頃、俺も「これやばいな」と。逆に利益がでることがやばいというかね。

その中で10年ぐらい前、「亀チョク」とか作って、ちょっともうネタ不足だから新しい投資の人間を外部から雇うみたいなことも始めた。

野村:確かにその時期ですね。

亀山:ただ、その「亀チョク」のおかげで新しい投資もできてきたんだよね。一方で、逆に利益のほうが多かったりして純資産が増えていった。

商売人になりたいことと、資産家になりたいことは違う

亀山:ここ最近から見ると、俺には「会社としてしばらくはつぶれないな」というイメージがある。社員たちもビデオレンタルの時はいつつぶれるかわかんないと思ってたけど......。

野村:(笑)。

亀山:最近はみんなも会社がけっこう続きそうだなと思ってくれてるし、現実問題、今みたいに「ある程度一定の利益でてくるな」っていうのがあるから、タイミング的に社員もたぶん半分以上(株を)買うだろうし。

うちらとしても、今のフェーズならそれはそれでありかなっていう。ちゃんと法律違反にならないように仕組みを組んでくれるやつもでてきたから、じゃあ始めようっていうことかな。

野村:もともと思いとしてはあって、でもいろいろな条件が整ってなかった。再投資も再投資しきれずに純資産もたまるようになってきて、一方で会社の規模も大きくなってきて、「そろそろ機が熟したな」みたいなとこも大きかったですかね?

亀山:そうだね。ちょうどタイミング的には、「今ならみんな欲しがるんじゃないの?」っていうのと。

野村:(笑)。

亀山:ある程度黒字というか、利益が増えていかないと(株も)価値がないから。そういった中でタイミングかなっていうのもあって。あとは俺もいい歳じゃない? そろそろ終活の時期というか(笑)。

野村:そうですか? 事業承継ということですか?

亀山:事業承継というよりも、もともと俺の目的は、利益を出したらまた新しい仕事ができるとか、商売人になりたいというか。商売は好きなんだよね。でも商売人になりたいことと、資産家になりたいことはちょっと違うんだよね。

資産がないと商売もできないから、結果的に新しいことができるということで利益を出しながら次のことってやってきた。結果的に資産がたまってるのは間違いないわけよ。で、すごく極端なことをいうと、俺がその今までためてきた資産を独占してるわけよ。でも独占してもちょっと、多いっちゃ多いので。

野村:(笑)。

資産が還元される仕組みを作る、オーナーとしての“終活”

亀山:はっきり言って、過大な資産を子どもに残したいってのもあんまないわけよね。そういった面で、じゃあどうしよう。還元するとしたら、社員とか社会とかって話になると思うんだけど、どっちが優先かといったらまず社員かなって。なので一応「まずここからスタートしようかな」っていうことかな。

そうなった時に会社自体が.......俺がぽっくりいったとしようか。そんな時に資産自体がそういうふうに還元される(仕組み)があってもいいんじゃないって。

野村:相続税とかもすごいことになりそうですよね(笑)。

亀山:うん。仮にね、ちょっとそこまでまだ決めてないんだけど、仮にオーナーチェンジするとなったとしようか。どこかわからないけど大きい会社に買ってもらいますって話になったとしようか。

上場会社にオーナーチェンジすると、たぶんその時の評価で、今純資産評価1倍じゃない? たぶんPER評価が入ってくるんだよね。わからないけど、5倍、10倍になる可能性はあるわけ。

野村:仮に売却した場合ってことですね。

亀山:売却した場合ね。そうなるかちょっと俺もわかんないけど、少なくともPBR1倍ってのはあまりない。

野村:そうですね。日本企業だとたまに聞いたりはしますけど、でもほぼテック系はないですかね。

亀山:最近たまに割ってるやつもあるけど(笑)。でもオーナーチェンジした段階で、みんないきなり「やった、5倍だ、10倍だ」って。

野村:なりますよね。

亀山:だからみんな葬式で「ありがとうございます」って言ってくれるかな(笑)。

野村:(笑)。確かに。「おかげさまで」っていって。

亀山:「これで辞めます」みたいなやつもいる。

運転資金が増えたら、また新しい事業を始められる

野村:いいですね。なるほど。そういうのも踏まえて亀山さんは「終活」って言葉を使われましたけど。その次も多少意識されてるんですか?

亀山:一方で、さっき言ったように「子どもに少しでも多く残したい」ってあんまり思ってないので、そういった面では利害が一致するっていうか。例として、全社員の給料が仮に300億ぐらいあるとしようか。その(株が買える上限の)10パーセントだと、30億じゃない?

野村:そうですね。

亀山:全員が目いっぱい買ってもそれぐらいなんだけど。社員に買ってもらうんだから、会社がお金をもらうわけ。

野村:確かにそうですね。

亀山:そうすると、また新しいビジネスできるという話になるじゃない?

野村:そういうことですね。

亀山:社員たちは30億出すけど、後々の資産が増える。そういう点でいうと、まず経営的にいうと運転資金が増えたら、また新しい事業始めちゃおうかみたいな。

新しい投資ができるということなんで、商売人の俺からするとありがたい話で、また別のことできる。社員から見たらそれが何倍かになるっていうのが、いくらかの資産形成的にいいじゃない?

野村:確かに。ちなみになんですけど、今放出する株を持ってるのはもう100パーセント亀山さんなんですか?

亀山:そうだね。多少親族はあるけど、ほぼほぼそうだね。

野村:ほぼほぼそうってことは、売るタイミングで亀山さんご自身に売却のキャッシュが入ってくるわけですよね?

亀山:違う違う。俺にとっては増資だよ。純資産が増えるって感じ。

野村:そういうことですね。じゃあ、亀山さんの分を放出するわけではなくて、株数を増やす。

亀山:そうそう。株数を増やす。俺ももらっても使うことないから(笑)。売って税金かかるぐらいなら、増資してもらってそれでビジネスやったほうがいいかな。

野村:発行した分を社員の人がもし買ったら、それは会社のお金になるってことなんですね。

亀山:うん。正直言って俺自身の生活費は本当にだいたい給料で足りてるし、そういう意味でも無配当でやってきたわけなんだけど、むしろ俺の個人的な資産も貸してるぐらいだからね、会社に。

野村:そうなんですね。

亀山:給料の税金を払ったあとのお金で、使った分の残りはもうどうせ使わないんだから会社に貸してって。そのへんでいうと俺自身としたら、別に売る必要はないかなっていう感じだね。

持株会の注意点は「目先の利益に走る」こと

野村:ありがとうございます。仕組みとしてめちゃめちゃ興味深いなと思ったんですけど、いい面もあれば悪い面もあると思うんです。デメリットだったり注意点もあったりするんですか?

亀山:そうだね。それでいえばさっき懸念であがったように、みんなが純資産を求め過ぎて目先の利益に走るっていうことが一番危険なことだね。

野村:(笑)。そうですね。私もちょっと、ちょっとだけ思いました。

亀山:そこに関してはみんなにも説明をしてるとこで、今「純資産」って言ってるけど、俺が思う会社の本当の資産っていうのは、現預金とか帳簿にでてくるものだけじゃなくて、ブランド力、信用力、人材みたいな。そういった組織全体の持つ力が結局資産だと思ってるわけよ。

はっきり言って経費になっちゃうから、税金もかかるわけよ。だから土地とか現預金とかでため込もうとすると、法人税も払うわけじゃない? だからうちらはとにかく「帳簿にでないもの」を増やしてきたつもりなんでね。ブランド、信用、人材。

あともっとわかりやすく言えば、会員とかトラフィックとか、そういったネットワークみたいなつながりみたいなものかな。その利益をだし続けられる組織っていうものが、ある意味本当の資産なんだよね。

そこに関しては社員に酸っぱく言ってるんで。今目先で今期の利益いくらとかってあんまり目指さないでほしい。

それでいうと、同じように多くの会社が決算とかにとらわれてる。やっぱ5年後、10年後にいかに成長させれるかでいうと、むしろ純資産の目に見えるものじゃなく、本当の資産を増やしていくっていう方向を、ここは教育でやるしかないかなって感じなんでね。

ただ正直言って、そうは言ってもいつの間にやらみんな目先に走り、そうなる可能性はあるんだね。これは今回俺もやってみながら、社員たちと約束として、「いったんやってみるけどうまくいかなかったらやめるかもしれないよ」と。

「やめたとしても、その時までに買った株はちゃんと買い戻しはするから、その分の利益をつける。そこは安心して」と。

会社の資産に関心を持ってもらうだけでもいい

亀山:制度的に言うと、今みたいに社員が10パーセント持つ仕組みも「もっと20パーセントまで持たせてあげようか」っていうのもあるかもしれないし、逆に「この制度自体ちょっとうまくいかないわ」っていって、やめることもあり得るんだよね。うちも実験的なかたちでスタートしているので、みなさんには3年後ぐらいに、また結果報告するからさ。

野村:そうですね、気になりますね。

亀山:「みんな会社の志気上がってよくなりました」ってなるのか、もうやばいことなるのか......(笑)。「株主総会で僕、つるし上げです」みたいな。赤字事業で今投資フェーズの場所があったら、そこに対する非難がいくこともあるわけよ。

野村:そうですよね。

亀山:「いや、せっかくここで黒字だしたのに、なんでおまえら赤字なんだよ」みたいなね。そういったことも理解させないといけない。当社も株主総会を開かないといけない。

野村:(笑)。

亀山:毎年「純資産が今年はこうなりました」みたいに、ちゃんと発表しながらやっていこうと。そのへんの懸念が一番役員からも出たからね。

とはいっても、今うちの社員たちはうちの株価とかその利益とか資産とかにまったく無関心なわけよ。そもそも「自分の給料、今年いくらかな?」ぐらいじゃない? その点でいえば、関心を持ってもらうだけでもいいんじゃないと。株価が仕事のモチベーションにつながるかは疑問なんでね。

ましてや自分の部署だけじゃなくてホールディングス全体だから。自分の部署が赤字でもさ、他ががんばったら上がったりするのよ。それによってグループの連帯感がでるかもしれないし、一方でディスり合いがでるかもしれないし。

野村:そうですね。戦犯探しになっちゃうかもしれないですね?

亀山:そうそう。ここはやりながら考えるけど、やんなきゃ始まんないんでということですかね。

野村:うーん。非常に勉強になりました。ちなみに一個補足でうかがっておきたいんですけど、退職された時は加入資格を失うと思うんですけど、基本はその時の退職時の金額で買い取り、払い戻しになるんですか?。

亀山:そういうことね。退職の時に売ってください。それが条件です。

野村:じゃあ、その所属してる間はコミットして、成長をともに分け合おうってことなんですかね?

亀山:うん。ある意味「還元」なのでね、辞めたあとは還元しないっていう(笑)。そういうことにはなっちゃうけど(笑)。

野村:(笑)。なるほど。よくわかりました。ありがとうございます。