“ふだんとは違う仕事”を体験してみる

小田木朝子氏(以下、小田木):ということで、(両利き組織を実現するための)着眼点が6つ出ました。どこを切り取っても、おもしろい深掘りしかできそうのない6つですけれども、ニュアンスや方向性としてはイメージができたと思います。

具体的にそれがどういう活動だったり、何に火をつけることなのか、このへんを深掘りしてみたいなと思います。

よかったらみなさんもチャットで、「このテーマ、深掘りしたいわー」とか、「沢渡さんの1番」「かなぶんさんの2番」みたいな感じで、深堀りたい観点をチャットに書き込みいただければと思います。

6個全部を取り上げるのは難しいかもしれないんですが、ここから具体化して、もうちょっと解像度を上げて考えていければなと思います。

沢渡あまね氏(以下、沢渡):そうですね。「『沢3』と『かな2』」とかでもいいですし、バスの系統番号みたいな(笑)。

小田木:確かに(笑)。(視聴者コメントで)「沢渡さんの2と、かなぶんさんの3」。ありがとうございます。

沢渡:「沢渡さん3」。ありがとうございます。

小田木:ちょっと見ていきましょうか。沢渡さん、最初に書き込みをいただいた2番の「マインドや適正の壁を突破する」。具体的にどんなふうにっていうイメージや、共有していただける具体的な取り組みがあればお願いします。

沢渡:ありがとうございます。具体的に言うと、私の顧問先や企業を見ていても、まずはふだんの仕事とは違う場を体験する。これを創出している会社は、やはり変化が生まれていったりしますね。

例えば、目先の仕事ではなく、テーマを決めて社内横断プロジェクトみたいなものを立ち上げて回してみる。テーマは新しい売り方を考えるでもいいですし。中途で入った人が定着しやすいようにするとか、新しい仕組みを考えるでも何でもいいとは思うんですが。

ふだんとは違う仲間と、違う時間軸のテーマを話し合う場を体験する。社内越境、社外越境、プロジェクト型の仕事のやり方を体感する。

自ら課題を見つけ・克服する体験が重要

沢渡:「プロジェクト型」と言いましたが、いわゆる「ライン型」の仕事って、目先の仕事で、上下関係があって、どちらかというと役割が決まった登場人物が決められたことをやる・やらせる仕事ですよね。

プロジェクト型はテーマを決めて、チーム横同士、なんなら外の人と越境してチームを組んで、自分たちで問いを立てて、自分たちでハンドル握って、自分たちで答えを出す。まずはこの経験をしていく・させていく。

その中で、足りない能力は自分たちで名前をつけて、あるいは人事が「こういう能力があったら」とか、「プロジェクトマネジメント能力があったら」「ファシリテーション能力があったら」「クリティカルシンキングがあれば、もっと解像度高く問題提起して、自分たちで解決できていけるよね」とか支援して欲しい。

まずは自分たちで新しいことをやってみて、その中で自分ごととして必要な能力や経験に名前をつけると、学びや克服に対する内発的動機付けがぜんぜん違うんですよ。

人から「やれ」って言われてやらされるのではなく、自分たちで「これ、できないな。悔しいな。限界だな」と思って、足りないものに気づいて、そこに人事が「こういう研修があるよ」「こういうスキルを身につけてごらんなさい」と手を差しのべる。そうして自分たちで克服していく経験が大事だと思います。

小田木:なるほど。

越境体験でメンバーの能力が開花することも

沢渡:今までのライン型の仕事の中では花咲かなかった人の能力・特性が花開くことはよくありますし、私も信じられないくらいたくさん見てきた。人事の人もびっくり、部門長もびっくりするぐらい。

そういう意味で、今までとは違ったプロジェクト型の動きの経験をしてみる。越境体験をしてみる。そこから足りないスキルを補っていく。それでも向かない人は、元の仕事に戻してあげる。これが大事かなと思います。

小田木:なるほど、ありがとうございます。今の沢渡さんの話で、越境というキーワードも出ましたが、同じ環境にいて同じ仕事にだけ向き合わせながら、「マインドを変えてね」「やり方を変えてね」って、これはかなり難しいと思うんですよね。

沢渡:無理ゲーです。

小田木:誰がやっても難しい。なので、ちょっと外に出て、違う視点や違う発想、違うつながりの中で、まずは問題意識を持つきっかけがある。

情報が必要かもしれないし、沢渡さんが言うように、新しいスキルを手にする機会があって、「これを使ってやってみたら?」という支援や機会がある。

それが研修だったり、外でいろいろ交わることだったり、違う仕事のやり方のチームに片足だけ突っ込むことかもしれないですが、情報や視点、新しいスキルや経験という武器を少しずつ提供しながら、突破の支援をするという発想なのかなと思いました。

沢渡:ただ、越境で気をつけてほしいのが、必ずしも外の人と交わるとか、社内横断型だけが越境ではないんですね。詳しくは、この『新時代を生き抜く越境思考』にバリエーションを示したので、ぜひ紐解いてほしいです。

「越境」には、さまざまなやり方がある

沢渡:例えば、日々同じメンバー・同じ組織の中で、2割だけ中長期のテーマを任せて、中長期のこと考えてもらう。これも1つの時間軸の越境になるわけですね。目先だけではなく未来。

そういう意味で越境は、今までの仕事の景色を変えたり、今までの関係性の景色を変えることも含みます。今までと違う仕事を一部業務として任せてみるとか、今までと同じチームの中で、違うメンバーの組み合わせで仕事をしてみるとか、こういったことも越境になると考えています。

小田木:ありがとうございます。景色も同じ、武器も変わらない。お題だけ出て、「はい、変わって」というのが、いかに難しいかということも合わせて感じます。

沢渡:そうですね。もう、“無理な大喜利”みたいな感じになっていますね。

小田木:無理な大喜利(笑)。じゃあ、かなぶんさんの「2」と「3」も多くあげていただいていますが、かなぶんさんの3はどうですかね?

沢渡:そうですね。3、いいですね。

横山佳菜子氏(以下、横山):具体的にですよね。私がいつもこのシナリオをつくる時にやっているのが、アンフリーズ、チェンジ、リフリーズの3ステップで描くことです。これはクルト・レヴィンさんの「変革の3ステップ」とよく言われてます。

アンフリーズ、まずは「溶かす」ですね。チェンジは「変える」、変化の方向性をつける。リフリーズで、戻らないように「定着させる」。

一番大事なのは、おそらくみなさんが感じておられるようにアンフリーズすること。「こっちが大事だ」と、一度強固に思い込んだものをちょっと溶かすとか、「あれもおもしろそうだな」って思わせる。

自社のみなさんだったら、今のチーム、あるいは組織全体がどんな状態なのかを見立てて、アンフリーズ・チェンジ・リフリーズで描いてみることが大事かなと思います。

とにかく気持ちを聞きまくることがポイント

横山:アンフリーズするのが大事っていうのはわかるんだけど、じゃあ、どうやったらいいの? というのがすごく難しいと、私もいつもすごく思っています。それに対して大事なポイントは、すごく幼いようなんですけど、「気持ちを聞きまくる」ということです。

沢渡:気持ち。

横山:「今、どんな気持ち?」「今、どんな感じがしてるの?」と、頭じゃなくて心で感じたことをみんなにしゃべってもらうようにする。

頭で考えたことは、正解をとにかく早くリーチするところに行きます。だけど感じたことって、楽しさとか、「やってみたい」と思っている動機に近い部分がよく出てきます。アンフリーズしたい時は、とにかく気持ちを聞きまくるのが実践論としてはおすすめかなと思います。

沢渡:気持ちを聞くって、相手の背景を理解することだなと思いました。以前、小田木さんとも、「対話とは何か」「お互いの背景を理解し合うことだよ」という話をしたと思うんですけれども。

例えば、「大変だな」という一言があっても、その人の気持ちが「これはやりがいがある。火がついたぜ」の人と、「めんどくさい。やりたくない」の人がいるわけじゃないですか。

気持ちを理解、すなわち背景を理解しないと、お互いに傷つけあったり、あるいは正しい動機付けができないと思うんですよね。そういう意味で、「気持ちを聞く」ってすごく腹落ちしました。ありがとうございます。

メンバーの“意外な思い”が垣間見えることも

横山:ある企業のプロジェクトで、「気持ちを聞く」ということを私が勝手にやらせてもらっていたんです。

ずっと寡黙にモソモソ作ってたある若手メンバーに、「今、どんな気持ちでいるんですか?」って聞いたら、「僕、実は今めちゃくちゃメラメラしてるんです」って言ったんですよ。

沢渡:おお! いいなぁ!

横山:「え、メラメラしたの!?」みたいな。でも、この瞬間に何が起こったかというと、彼がメラメラしているということを出してくれたから、そこにいた10人ぐらいにギューッと一体感が出たんですよね。

「確かに、俺らものづくり好きだったよね」「私たち、評価判断のない新しい価値を創りたくてこの会社に入ったんだよね」というように、まさにアンフリーズされていった瞬間だったんですね。

なので、乱暴に気持ち聞きまくることはしちゃいけないんですけど、そんなイメージをしていますということをちょっとお伝えしておきます。

小田木:「対話」というキーワード、またここでも出ました。

沢渡:そうですね。

小田木:今、かなぶんさんに3番の話をしていただきました。2番の「そもそも何が問題か」の探求のプロセスも、やはり対話だなと思うんですよね。

1人で気づけることには限界があるから、いかに視点を増やすかが、本質的な問題に目を向けるきっかけになるなと思っています。

その中で、「なぜ(WHY)」の明確化から、「何(WHAT)」を発見するプロセスもそうだし、最後の「どうやって(HOW)」という合意。その人が、何が満たされると動きたくなるのかを知っていくプロセスも、対話が組織の中に定着していることなのだと、実践のイメージともすごく重なりました。

沢渡:そうですね。

経験の幅を増やし、仕事の“景色”を変えていく

沢渡:そして、自分にどんな可能性があるのか、相手にどんな可能性があるのか、相手のどこに着火点があるのかって、既存の枠組みの中では見えないことがたくさんあると思っていて。

小田木:あります。

沢渡:そういう意味では、お互いに気づいていないジョハリの窓を開けるためにも、経験の幅を増やしていったり、私の1番の「経験の壁を突破する」にもつながるんですが、いろんな体験を増やしていくことはすごく大事だなと思いました。

小田木:(視聴者からの)チャットで、「熱量がわかるメガネが欲しい」って書いてあるんですが、これはたぶんスカウターのことですよね。あればいいけれども。

沢渡:カラカラカラカラ……。

小田木:そうそう(笑)。既存の事業や、やり方・勝ちパターンが固まっていて、遂行すれば成果が出てくるものって、たぶん対話の回数は少なくても業務は前に進んでいくと思うんですよね。

沢渡:そうですね。あるいは、進捗確認をしていけば大丈夫、進捗だけしか気にしない、みたいな。

小田木:そうそう。不確実で、勝ちパターンがまだ決まってないし、そもそも「なぜ」から考えなきゃいけないことに取り組むとなると、対話の頻度や質をぐっと上げていかないと、そっちに取り組めない。

コミュニケーションや仕事の景色を変えていくことからスタートするところが、沢渡さんのメッセージにも、かなぶんさんのメッセージにも、かなり具体的な解像度の高い活動としてあるんだなと感じました。……(視聴者コメントで)「スカウター」。

沢渡:世代です。