「マーケター・オブ・ザ・イヤー2022」の大賞受賞者が登壇
永井伸雄氏(以下、永井):ここからはパネルディスカッションを始めさせていただきたいと思います。まず最初に、パネリストのご紹介から始めさせていただきます。最初に奥谷さん、よろしくお願いします。
奥谷孝司氏(以下、奥谷):オイシックス・ラ・大地で専門役員 Chief Omni-Channel Officerを務めながら、株式会社顧客時間という会社を設立しまして、多くの会社のデジタルトランスフォーメーションの支援をやっています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
永井:よろしくお願いします。それでは、金安さまお願いします。
金安輝起氏(以下、金安):ヤクルト本社の金安と申します。自己紹介と、本日はせっかくの機会なので、当社の状況と商品についてご紹介させていただきたいと思います。
さっそくですが、自己紹介としましては、ヤクルト本社業務部企画調査課に所属しております。2002年にヤクルト本社に入社しまして、入社から9年間、関東・関西地区の量販店の営業をさせていただきました。
2011年から、現在の業務部企画調査課という部署に配属となりました。一般的な企業さんで言いますと、マーケティング部みたいな業務をさせていただいております。手前味噌ですが、2022年に「マーケター・オブ・ザ・イヤー」の大賞を受賞させていただきました。
せっかくなので、当社についてご紹介をさせていただきたいと思います。今、創始者の代田稔の写真が載っているんですが、当社の始まりということで、医学博士の代田稔が創立しました。
当時、衛生状況の悪さが原因の感染症がありまして、代田稔は「病気にかからないように予防する」という医学から志しまして、1人でも多くのために乳酸菌 シロタ株を摂っていただこうということで、1935年に「ヤクルト」が誕生しました。
今後のパネルディスカッションの中でも関わるんですが、「健康に関する社会課題の解決」というところで、ヤクルトの原点である「代田イズム」をベースに、これまで事業を展開しています。
ヤクルトの事業としましては、コーポレートスローガンとして「人も地球も健康に」「私たちは生命科学の追究を基盤として世界の人々の健康で楽しい生活づくりに貢献する」という企業理念をもとに、国内だけではなく海外事業・化粧品事業・医薬品事業も展開しています。
「Yakult1000」「Y1000」の大ヒット
金安:国内では、乳酸菌飲料や発酵乳と、清涼飲料・食品といった商品も展開しております。ポイントとなるのが、私が所属しているのがヤクルト本社はメーカーですが、全国101社に販売会社・ディーラーがあり、そこで地域に密着した経営をしています。
加えて、販売チャネルについてはみなさんご存じかと思うんですが、ヤクルトレディを中心とする宅配事業。また、自動販売機やスーパーマーケット・コンビニなど、量販店さまに商品を届けている直販チャネルを展開しています。
ここからは商品のラインアップですが、ヤクルトと言っても、実は宅配と直販主体で8品あります。(スライド)真ん中のほうにある、赤い「Yakult1000」が宅配主体で、「Y1000」が直販主体で展開しています。
また、ご存じの方もいらっしゃればうれしいんですが、清涼飲料についても「タフマン」といったものから、黒酢、蕃爽麗茶、コーヒーとか、実は健康食品やめん類も展開しています。
ここまでが当社のポイントなんですが、社会課題の解決をきっかけに取り組んできたことと、「代田イズム」が原点になっており、地域に密着した経営で全国に販売会社があります。
最後に「Yakult1000」「Y1000」の商品についても、ご紹介したいなと思っております。先ほど「宅配と直販のチャネルで分けている」という話をしたんですが、「Yakult1000」が宅配のヤクルトレディが販売しているもので、店頭の直販で売られているのが「Y1000」という商品です。
容量・希望小売価格も各チャネルに応じて少し変わっています。実はここもいろいろ(な施策を)やったんですが、パック販売についても税込み1,000円でも買える価格体系にしているところも、ポイントかなと思っております。
「Yakult1000」という商品については、史上最高密度の乳酸菌 シロタ株が入っていることを売りにしました。提供できるベネフィットとしましては一時的な精神的ストレスがかかる状況での「ストレスの緩和」「睡眠の質向上」と、加えて「腸内環境の改善」が提供できる商品です。
またターゲットとしましては、ストレスや睡眠の質の悩みを抱えている、30代~50代の方をメインターゲットとして展開してきました。
2022年度のトピックスとしまして、おかげさまで『日経トレンディ』さんでも「2022年ヒット商品 ベスト30」の1位にしていただいたり、「新語・流行語大賞」でも「村神様」には負けたんですが、トップテン入りしました。
「ヒット商品番付」でも西の大関をいただいたり、大賞をいただきました。本日はいろいろと楽しみにしておりますので、よろしくお願いいたします。
3つの業態で、同じ商品を扱うワークマン
永井:林さま、お願いします。
林知幸氏(以下、林):株式会社ワークマンで営業企画部と広報部を兼務しております、林と申します。よろしくお願いいたします。私は1996年にワークマンに入社しました。
フランチャイズ展開しているので「SV部」というものがあるんですが、SV部やロジスティクス部、あとは店舗開発や採用を経験して、2017年から営業企画部とマーケティング、広報を担当しております。けっこう話題になったんですが、2018年には「WORKMAN Plus」というものを立ち上げまして、その時の立ち上げメンバーでした。
ワークマン名物と言っていいと思うんですが、2019年には「過酷ファッションショー」という企画を立ち上げました。これはメディア向けのイベントなんですが、テレビを見ている人がワークマンの機能性を視覚的に見て取れて、楽しめるイベントですね。ランウェイに暴風と大雨を降りかけて、モデルに容赦なく過酷な環境が再現されるイベントです。
そういった企画を立ち上げたり、最近ですと2020年10月に「ワークマン女子」というお店を作りまして、その時も立ち上げに携わりました。
(スライドに)「WORKMANの3つの業態」とあるんですが、1つは「WORKMAN」という作業服をやっている店舗、それから「WORKMAN Plus」「#ワークマン女子」というふうに、3つの業態をメインでやっております。
「WORKMAN」は本当に職人向けのお店ですよね。「WORKMAN Plus」では作業服も扱っているんですが、「一般の方にも来てもらいたいんだ」という一般客強化の業態ですね。それから「#ワークマン女子」というのは、女性目線のお店です。当然、男性物も多く扱っているんですが、女性の目線から買い物を考えるというコンセプトのお店です。
この3つの業態ですが、実は全部同じ商品を扱っているんですね。
「#ワークマン女子」で売っているものは、「WORKMAN Plus」でも「WORKMAN」でも買える。ただ、見せ方や演出を変えて、女性目線であったりアウトドアであったり、同じ商品でも見せ方や空間演出を変えて販売しています。
目標はただ1つ「客層拡大」ですが、これを持って「データ経営」だとか「しない経営」を推進していきました。Excelを活用したデータ経営ですね。
POSデータや販売データを分析して、誰もがいろんな意見をフラットな感じで言える組織化。それから品揃えを最適化して、新業態を基に「WORKMAN Plus」とか「#ワークマン女子」を立ち上げました。
一般の方々の声を聞いたり、あるいはワークマンの販売や製品を紹介してもらえるアンバサダー・マーケティング、そしてそれを基にしたビジネスモデル変革に今は携わっております。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
どんな情報がカスタマージャーニーを前に進めるのか
永井:私はモデレーターの永井と申します。『日経MJ』の編集長です。1993年に日経新聞に入社して、『日経トレンディ』の編集部にも出向したりしました。直近は『日経MJ』の副編集長を経て、札幌支社の編集部長を経て、2022年4月1日から『日経MJ』の編集長をしています。
これまでは主に外食や映画・音楽産業、家電量販店や百貨店など、ずっと消費関連のビジネスを取材してきました。実は『日経MJ』も2021年に50周年を迎えて、2023年で52年目に入るんですが、「おもしろくて役に立つ」を編集のモットーにして取り組んでいます。どうぞよろしくお願いいたします。
ここからご覧になられる方もいらっしゃるかと思いますので、まずはおさらいとして、森竹さんよろしくお願いいたします。
森竹アル氏(以下、森竹):あらためまして、スパイスボックスの森竹でございます。すごいマーケターの方々とご一緒できて、すごく楽しみです。よろしくお願いします。
私は1つ前の講演で、「バタフライ・サーキット」という、商品との出会いのモデルのお話をさせていただきました。
「消費者が商品と出会って、購買の意思決定をしていく上で、有益な情報がSNSを中心に見つけられる状態が望ましい」という「ソーシャル・ナッジ」というお話をかなりシンプルにさせていただきましたが、ここからより具体的なお話に発展していけるんじゃないかなと思って、すごく楽しみにしております。
よろしくお願いします。
永井:ここからはパネルディスカッションの本題に入りたいと思います。まず最初のテーマ1として、どんな情報がカスタマージャーニーを前に進めたかについて、3人の方にお話をうかがいたいと思います。
2022年のヒット商品として、「Yakult1000」を大ヒットさせた金安さんに、このあたりの取り組みのことからお話をうかがわせていただきたいと思います。
金安:そうですね。どんな情報がカスタマージャーニーを前に進めたかということで、「Yakult1000」「Y1000」につきましても、まずはお客さまに認知・理解をしてもらわなきゃいけないなというところがありました。
先ほど商品のご紹介をさせていただきましたが、その時はストレス改善や睡眠の質の向上という商品は市場的にもマーケットが非常に小さく、飲料ではほぼないような市場環境でした。
なので、お客さまに知ってもらうためには、テストマーケティングを踏まえて本格導入をしていこうということで、2019年の10月から首都圏1都6県でテストマーケティングを展開していきました。
“空中戦”、“地上戦”、“デジタル戦”の3つのプロモーション
金安:今お話ししたお客さまへの認知・理解というところで、大きく3つのプロモーションを展開しました。一般的によく言われる、マスメディアを使った“空中戦”と、現場のスタッフによる“地上戦”、そして新しく取り組んだ“デジタル戦”の3つの切り口で展開しました。
「商品の価値の理解促進をさせていこう」というのがプロモーションの目的の1つですが、もう1つ「売れる環境を作っていこう」ということにも、地上戦、空中戦、デジタル戦の3つを使って取り組みました。
商品の価値の理解促進については、地上戦で現場からお客さま1人ずつに紹介することで、商品の認知や理解を深めていきました。売れる環境作りについては、やはりマス広告が大きな認知になりますので、テレビ広告や交通広告など、基本的な媒体で展開していきました。
今回は30代~50代のビジネスパーソンをメインターゲットとしましたので、デジタルマーケティングとして、ダイレクトメールやタイアップ記事など、そういう方が見られるタッチポイントにプロモーションをかけていった。そうやってお客さまの理解を得ながら、支持を得られるような展開に取り組んできたところが大きいです。
あと、もう1つ。当社の状況でご説明したように、宅配と直販で販売する商品の仕分けをさせていただいたんですが、今回「Yakult1000」のテストマーケティングをした時はチャネルの垣根を取っ払って、宅配であろうが店頭さんであろうが買えるような取り組みを一気に展開しました。
また、ちょっと高級な百貨店さんや、睡眠やストレスに関わるような企業さんとタイアップをしたりとか。そういう取り組みをしていったところが、大きなポイントだったかなと思います。
永井:ブレークするポイントがあったんですかね?
金安:お客さまにサンプリングをお届けして、感想として一番多かったのが「商品の価値を体感した」というものです。お客さまから他の方にお伝えいただいたり、口コミで広がったところが大きかったかなと思います。
ワークマンの公式アンバサダーの定義
永井:「顧客がファンになっていった」ということで言うと、「WORKMAN Plus」や#ワークマン女子」など、ワークマンさんでもそういったところがあったんじゃないかなと思うんですが、林さんいかがですか?
林:そうですね。先ほど金安さんもおっしゃったんですが、消費者の意識や態度、行動が変わっていかないと、カスタマージャーニーも前に進んでいかないと思うんですよね。
その中でワークマンが取り組んでいることして、熱烈なファンを公式のアンバサダーに任命して、消費者目線のデジタルコミュニケーションを取ってもらっています。一般の方ですので、ワークマンの製品のレビューと言うよりかは、キャンプだとかスポーツだとか、自身の体験の情報を発信してもらう。
ですので、「ワークマンが気になっていたんだけど、職人さんのイメージがまだ強いな」「行きたいんだけどまだ抵抗があるな」という人に向けて、「ワークマンでは、こういうキャンプウェアやスポーツウェアも安く売っているんだ」と、来てもらう一歩になる情報をアンバサダーから発信してもらっています。
アンバサダーという言葉はいろんなところで使われていて、いろんな定義があると思うんですが、ワークマンで言う公式のアンバサダーは、要は「製品の熱烈なファン」なんですね。
我々が本来作業服としてローンチした製品を、「作業服だけだともったいない。キャンプやスポーツでも使えるんですよ」「実際に使ってみてこうなんですよ」という発信をしてもらう。
製品のダメな部分も「言ってもらいたい」
林:さらに言うと、キャンプやスポーツを楽しみ尽くしている方々に1つ言えるのは、インフルエンサーじゃなくてもいい。
永井:なるほど。
林:インフルエンサーマーケティングというと、それなりの金銭を払って、どうしても宣伝っぽい内容になっちゃうと言うんですかね。ワークマンの公式アンバサダーは、熱烈なファンであれば、フォロワーさんの数や多さにはそんなにこだわらない。
ただ、ワークマンのことが大好きなので、そういった方々は月に何回も投稿してくれるんですよ。毎週キャンプに行っている方が「こんなことをしたら楽しかった。でも、実は着ていたのはワークマンなんです」といった、正直な部分の情報発信。
こういったことが、我々のファンを作るという意味でも成功していますし、あるいは「これから行きたいな」と思っている人に対して、一歩になっているのかなと思っています。
なぜこんな正直な投稿ができるかと言うと、インフルエンサーマーケティングって、お金を払って製品を渡して「これを紹介してください」という、ちょっと押し付けがましいと言うか、そういう内容ですよね。ワークマンは、アンバサダーには一切そういう条件を求めてないんです。
永井:なるほど。
林:発信しようがしまいがかまいません。ただ、もしワークマンの製品を使ってみて、良いなら「良い」って言ってもらいたいし、ダメなら「ダメ」でいい。ダメな部分も言ってもらいたいと。
永井:でも「ダメ」なんて言っちゃうとか、ネガティブな投稿は嫌じゃないですか?
林:我々にとっては今後の製品開発に役立てていけるし、アンバサダーと顧客との接点で、製品やサービスも進化していかないといけないと思っているので、ぜんぜんかまいません。中には「ワークマンで買ってはいけないものリストワースト5」というのをYouTubeで発信している方もいらっしゃるんです。
永井:なるほど(笑)。購入検討者にとっては有益ですね。
林:そうそう。これは、我々とアンバサダーの間で金銭関係がまったくないからできるんですよね。だからインフルエンサーさんじゃなくて、アンバサダー自身のフォロワーさんは少なくてもいいから、コアなファンを身内に巻き込むと言うんですかね。
そういう取り組みが、ファンを作ったり、カスタマージャーニーを前に進めている手法なのかなと思っています。