2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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安藤俊介氏(以下、安藤)アンガーマネジメントの原則で、「できることはやりなさい、できないことは手を離しなさい」というものがあるんです。
それを突き詰めていくと、「いろんなことに関心がないですよね」とよく言われるんですが、それは逆で。関心があることにはめっちゃ関心があるし、だから「どうでもいいことがいっぱいある」という感覚ですよね。
今はあまりにも情報が多いので、そこの区別ができないといろんなものに振り回されてしまって、自分で選べていない。それこそ、自己決定ができていない状態に陥ってしまう。
中山芳一氏(以下、中山):そうです。幸福度の話でいくと、我々が育ってきた20代ぐらいの時までの時代よりも、気をつけないと不幸になるリスクが高くなってしまうんですよ。
安藤:これもすごく矛盾しているというか、決められた人生を歩くのはすごく窮屈そうだし、退屈そうです。
でも、逆に今はあまりにも自由になったからこそ、みんなが「どうしていいかわからない」という状態に陥ってしまっていて、むしろ「決められたほうが楽」と思う人もいるのかなと。あまりにも自由だと、実は人ってけっこう大変ですか?
中山:まさにそうだと思います。そもそも我々は制限の中で生きてきているわけですし、制限を乗り越える中で文明が生まれてきています。
制限がまったくないストレスフリーが必ずしも良いとは限らなくて。制限やストレスがある程度かかっているけど、それを乗り越えていった時に生まれる心地よさの中で、我々はどんどん進化成長を遂げているわけですから。すべてが自由なのは、逆にちょっと怖いですよね。
安藤:特に僕ら日本人の場合は、例えば定食でも松竹梅とあった場合、「わからないからとりあえず竹を選んでおく」みたいに、ある程度の枠があったほうが選びやすいんですよね。
これは僕の持論ですが、日本人はサンドイッチをめちゃくちゃ食べるのにSUBWAYがいまいち流行らないのは、具を自分で選ばないといけないから。あれが面倒くさいですよね。でも、アメリカだとめっちゃ細かく選ぶんですよね。
「むしろあれだけ選んだら面倒くさいだろう」というぐらい細かく選んだりするんですが、やはり「はい、これです」と出してもらったほうが楽ですかね。
中山:確かにそれはすごく楽だし、さっきの“店長おすすめ”もそうですよね。考えるのも面倒くさいし、結局「もうおすすめでいいです」みたいな。
僕はよく親御さんにこのお話をするんですが、それを親御さんがやってしまっているんですよね。我が子が、お菓子やおもちゃで「どっちにしようかな」と悩んでいる時、実は子どもは決めようとする意欲をすごく持ってるんです。
「自分で決めたい」という意欲を持っているから、どっちにしようかなと悩んでいるのに、「あなた、こっちにしなさい」と親御さんが選んでしまう。
中山:「何かスポーツをやりたいな」「あなたなら○○にしなさい」と親御さんが決めてしまうことが、1回や2回だったらまだ良いのですが、それこそ将来設計まで決めてしまうケースが実際にあって。すると、もはや子どもの頃から悩んで決める習慣がないんです。
親御さんから子どもには、「あなたは決めなくていいから」「あなたはこっちにしなさい」「決めようとする意欲を持たなくていいからこっちにしなさい」というメッセージが届いているわけです。
それが常態化してくると、それこそさっきのSUBWAYの話みたいになってしまいますよね。だから、親としては本当に気をつけないといけないです。
安藤:僕がアンガーマネジメントを始めた理由は、父親との折り合いの悪さがあったんです。今の先生の話を聞いてすごく納得ができたのが、僕が反発をしていたのは、とにかく自己決定権を奪われることだったんですよね。
要するに、父親は「このレールを歩きなさい」「お前はこうしていればいい」と言う。それが僕はたまらなく嫌だったんですよね。
今振り返れば、ああだこうだ命令されることよりも、とにかく自分で決めさせてくれないことへの反発だったというのがすごく気づきでしたね。
最近は(父親と)仲が良いんですけどね。おとといの朝も、父親と一緒にご飯を食べていたりしました。今はすごく仲良くなってしまったんです。
中山:(笑)。
安藤:時間もそろそろですが、みなさんは「これから具体的にメタ認知に取り組んでみたいな」と思っていらっしゃるから参加されていると思うんですが、今日から自分も何かやりたいと思った時、何から始めたらいいですか?
中山:1つは「振り返り」があります。冒頭の自己紹介で、コミュニケーションの授業をやっているという話をさせていただいたと思うんですが、授業科目として年間2回やっているんです。
何がすごく困ったかというと、他者とバンバンコミュニケーションをやる授業なので、2020年、2021年、そして2022年と、要はコロナの期間中はできないじゃないですか。だけど授業は開講したいし、学生たちにはちゃんと単位もあげたい。なので、独自の振り返りのシートを毎日やっていたんです。
おすすめなのが、ふだん何気なくやっていることをやらないようにしようとか、逆に「今日はあえてこれをやるようにしよう」と自分自身で決めていただいて、それを1日やる。できれば回数でカウントできるやつが良いです。
回数でカウントしていただくと、寝る前に「今日はあれを何回やった」とカウントができるので、すごくおすすめです。安藤さんもさっきお好きだと言われましたけど、日記を書いたりするのがちょっと億劫だなという人は、まずはこれからやってみられたらどうでしょうか。
中山:コロナ絡みでおすすめなのが、ふだん人って1日に顔の周りを200回ぐらい触っているらしいんです。これはコロナに限らず、インフルエンザなどでもずっと言われていることですが、手にウイルスがついている時に顔の周りを触ってしまうと、そこからウイルスが入ってくる。
例えば、その200回を減らすように意識する。朝起きて「よし、今日1日できるだけ顔の周りを触らないようにするぞ」とテーマ設定をして、1日「じゃあ何回触ったかな」とやるだけで、その時その時のメタ認知ができる。ふだん自覚していないものを自覚化することで、メタ認知を誘発する感じですね。
安藤:なるほど。アンガーマネジメント的に言うと、僕らも「書く」というのはあまりにも当たり前なので、書かないとなると、ブレイクパターンと言って「1日1つ、いつもと違うことをやってみる」ということですね。
別に通勤の経路を変えるでも良いし、いつも行くカフェの座る席を変えるでも良いし、電車の乗る場所を変えるでも良いです。放っておくと、僕たちはけっこうずっと同じことをやり続けてしまうんですよね。
通勤経路は定期があるので、同じ経路に行くのは良しとしましょう。でも、別に乗る必要ないのに(毎日)同じ車両に乗るんですよね。
同じ車両に乗ってパッと周りを見渡すと、だいたい同じ顔があるんです。いつもいる人がいなかったりすると、「今日は風邪をひいたのかな」みたいに、ぜんぜん知らない人の心配ができてしまう。それぐらい、無意識のうちにワンパターンに行動してしまっているんです。
なので、「自分は本当はいったいどんな行動をしているんだろうな?」と気づいて、「今日は1つくらい変えてみよう」と、やってみる。これは今日からできることですね。
中山:やっぱり安藤さんはおもしろいですね。言わんとしていることが一致しています。今の安藤さんのお話だと、「いつもと違うことをやる前に、まずはいつもやっていることを俯瞰しよう」ということですもんね。
安藤:はい、そうですね。
中山:そうするといつもと違うことを見つけられるから、それをやってみる。いや、おもしろい。僕もやってみます。
安藤:みんなほとんど同じことをやっているので、パターンにはまっていることにさえ気づいていないんですよね。だから、ルーチンを作ることは良いことでもあり悪いことでもあるなと思っていて、それを崩すのは大切かなと思います。
あまりにも行動が固まってしまうと、心が固まってしまうんですよね。僕のイメージだと、体と一緒でストレッチしないと心も硬くなる感覚があるので、常に柔軟にいろんなことに挑戦してほしいなと思っているんですよね。
中山:なるほど、良いですね。ちなみに安藤さん、ほかにもあるんですか?
安藤:ほかにもみなさんができることと言えば、誰かの真似をすることでも良いです。「なんだかこの人いいな」と思う人を真似てみる。それを延々とやることによって、どんな行動が望ましいかがわかってきます。
喋り方でも振る舞いでも良いですし、自分が「こういう振る舞い良いな」「こういう話し方良いな」「こういう視線が良いな」「考え方が良いな」というものを見つけていくのも、アンガーマネジメント的なトレーニングにはなりますかね。
中山:なるほど。
中山:僕も授業や研修講演でこうやってお話しさせていただく機会が多いので、「この方の話し方は良いな」とかありますもんね。
安藤:そうですよね。「話し方に関してトレーニングをしたことありますか?」とよく聞かれるんですが、僕自身トレーニングした経験はなくて。
ただ、「この人みたいな話し方がいいな」と思った人は過去に何人かいて、その人の真似をするわけではないけれど、「こんな感じでやったら良いのかな」というのはあるんですよね。
中山:そうか、それもアンガーマネジメントに関わってくるんですね。
安藤:そうそう。あと先生、北欧でアンガーマネジメントをするという話がありましたよね。メタ認知に取り組む方法として、北欧では子どもの頃からアンガーマネジメントをやっているんです。
中山:なんか激アツらしいですよ。春先に出す予定の非認知能力に関係する本があるんですが、今回はスウェーデンの力を借りているんですよ。
いわゆる北欧、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークでは、今の日本みたいにあえて「非認知能力」とか「認知能力」と言わなくても、通常の教育と一緒にして捉えて教育をしていることが、僕の中ではすごくインスパイアされました。
幸いなことに、スウェーデンに行った時に知り合った日本人が、学校や幼稚園の校長先生や園長先生を経験されている方で。その方といろいろ話をしていた時に、「(北欧では)アンガーマネジメントは、今は学校で当たり前のようにやっているんだ」と聞きました。
授業の中でもすごく取り入れられているし、授業以外でも先生方が児童・生徒と関わる時に、アンガーマネジメントをすごく意識して関わるようになっている。なんなら、ある意味「教師として必要なトレーニング」ぐらいの位置づけでやっていると聞いた時に、マジで日本でもやってほしいなと思いましたね。
安藤:なんでスウェーデンとかはそれに取り組んでいるんですかね?
中山:映画の世界のイメージで、ついつい「スウェーデンの人たちはそんなに感情的にならない」というイメージを持ってしまったりするわけですが、ぜんぜんそんなことはないみたいですね(笑)。
スウェーデンはすごく子どもの権利を大事にしている国ですが、実は日本よりも遥かに前、50年ぐらい前に児童虐待がすごく社会問題になりました。
そこから「子どもの権利をちゃんと見直していこう」「法制化していこう」という流れが、実際にスウェーデンでも起きているんですよね。だから(スウェーデンの人でも)感情的になることはすごくある。
隣のフィンランドに行った時のお話でもそうですが、子どもが学校ですごく感情的になる。そうしたら別室の居場所が用意されていて、でっかい切り株が置いてあるんですが、釘が打ち放題になっているんですよ。
腹が立っている子どもが釘を持って、トンカチで打っている。だんだん怒りの感情が治まってきて、また元の教室に戻る。そうしたら怒りの感情も収まるし、釘の打ち方もうまくなるし、一石二鳥なんだと言っていました。
だから、感情的になるのはどこの国も同じで、その感情をどうコントロールしていくかが、すごく関心や注目を集めているのかなと思いますよね。
安藤:ありがとうございます。この間の対談もそうだったんですけど、先生と話をしているとぜんぜん話題が尽きなくて。時間になりますので、このあたりでいったん閉めさせていただきます。先生、どうもありがとうございました。
中山:ありがとうございました。
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