応援されるようなブランドになるための取り組み

三浦崇宏氏(以下、三浦):あと10分くらいで、「クリエイティブとはどのように機能するのか」という話をしていきましょう。

いくつかケースをお見せします。我々はファミリーマートというコンビニエンスストアのマーケティングをやっています。ファミリーマートの新しいプライベートブランド「ファミマル」というものがありまして、みなさんも知らないうちに使っているかもしれません。もしかしたら知っている方もいるかもしれませんね。

これを我々が提案した時、「ファミリーマートは『単なる業界3位のコンビニ』ではなくて、『チャレンジするほうのコンビニ』に変わりましょう」と言いました。

「2つの対になるもの」ってありますよね。コカコーラとペプシ、電通と博報堂、早稲田と慶応。人間ってライバルに見立てることが好きなんですよ。コンビニ業界って、セブンイレブンという一強があって、ファミマとローソンは「どっちでもいいかな」みたいな(笑)イメージだったと思います。

それに対して「セブンイレブンが絶対やらないこと、チャレンジをたくさんして、応援されるようなブランドになろう」と。「チャレンジャーとして多くのユーザーに応援されるブランドになろう」と。我々はこういう提案をしました。具体的にどんなことをやったか、ムービーでまとめています。

【映像再生】

ナレーション:コンビニの顔とも言えるプライベートブランド。おいしいものを手軽に食べられる反面、「安いだけ」というイメージを持つ人も数多くいました。ブランドイメージを優先したパッケージデザインにより見分けにくい商品など、お客さま視点の商品となっているか疑問に思われることも。品質では差がつかない中で、いかに選んでもらうか、その理由を丁寧に伝えるコミュニケーションが必要でした。

そこでファミリーマートの新しいプライベートブランド「ファミマル」は、お客さまの体験から徹底的に逆算した初めてのプライベートブランドを目指しました。商品のこだわりや安全・安心など、一番知りたいことが一目でわかるアイコン。直感的に商品が見分けやすいパッケージの色分け。

特徴が端的に伝わる商品名やキャッチコピーのルールなど、「お客さまの選びやすさ・買いやすさ」を何よりも大切にしたユニバーサルデザインを目指しました。多国籍化する店員の方々でも陳列しやすく、それがまたお客さまの選びやすさにつながっています。

さらに広告では業界のチャレンジャーとして、イメージ先行のブランドへの評価を問い直すコミュニケーションを展開。調査でのファクトをもとに、実際においしさを比較してもらう戦略をとりました。

新プライベートブランド「ファミマル」は、たちまちさまざまなメディアで話題に。SNSでもファミマの姿勢に共感する人、実際に周囲のブランドの商品と食べ比べる人など、ポジティブな反応が続出しました。結果、PR効果は7億円超。多くの商品がリニューアル前より飛躍的に売上を伸ばし、ファミマ全体の売上に貢献。業界1位のコンビニを脅かす存在に。「ファミマル」はファミリーマートの大きな柱となったのです。

【映像終了】

今のコンビニで「おいしい」よりも大事なこと

三浦:このプロジェクトで、具体的にどんなことをやったかというと、我々はまずクオリティを変えました。

ファミリーマートというブランドは、ローソンとセブンイレブンにない1つの強い武器として「名前の中に『ファミリー』が入っているんですよね」と。ということは、社員一人ひとりが大切な家族のことを想像して「家族に対して安心して提供できるクオリティを目指しましょう」と定義をしました。

もちろん僕らは食品の専門家ではないので、細かいところまで見ることはできません。ただ、一人ひとりの専門家のみなさんに「みなさんの大切な家族のことを想像して、彼ら彼女らに安心して提供できるクオリティを、我々の第一基準としましょう」という提案をしています。それによって、全商品の基準を1つ上げることに成功しました。

その後、プロダクトのパッケージを変えています。これはUX、ユーザーエクスペリエンス発想ですね。顧客の体験から逆算してすべてを考える。一番わかりやすく言うと、コンビニのパッケージは「おいしそうな写真を大きく写すこと」がすごく大事なんです。おいしそうに見えることが大事だから、当たり前ですよね。

でも、僕らと彼らで、時には戦うほどのすごい議論になって。そしてファミマルのパッケージには、写真を邪魔するくらいのサイズのアイコンが入ることになりました。これは「小麦アレルギーの方は食べてはいけません」とか「これは加熱して食べる商品です」とか「これは冷えたまま食べる商品です」といった、食べ方や食べるにあたっての注意です。これを、めちゃくちゃ大きいアイコンにして貼っています。

もちろんおいしいことは大事です。でも、おいしいこと以上に大事なことがある。コンビニは、日本中のあらゆる方が使うんです。例えば、忙しくてなかなかちゃんと商品を吟味することができないお母さん。お子さんがいらっしゃって、そのお子さんはアレルギーを持っているかもしれない。

あるいは、日本語が不自由な方が働かれていることも多々あります。あるいは、お年を召した方で、目が遠くなって小さい文字が見えにくい方もいらっしゃる。そういった方々にとっては「商品を間違えない」ことのほうが遥かに大事だと思ったんですね。「おいしい」ということよりも、遥かに。

それで僕たちは、通常のコンビニエンスストアでは絶対にやらないことをしました。おいしそうな写真を貼ることももちろん大事だけど、それを邪魔してでもわかりやすいパッケージにすること。ここにこだわって作り直しました。それは結果的に、お店で働いている日本語が不自由な店員の方々にも並べやすいものになったんですね。

「チャレンジャー宣言」をする意味

その上でイメージを変える。単なるおとなしいブランド、セブンイレブンの「じゃないほう」のブランドだと思われていたのに対して、「そろそろ、No.1を入れ替えよう」とか「負けていたのはイメージだけでした」という大胆な広告を出しました。

みなさん、セブンとファミマでハンバーガーを食べ比べたら、イメージ的にセブンのほうがおいしいと思いますよね。でも、ブラインド調査として目隠しして両方食べたら、結局おいしさはあまり変わらなかったんですよ。こういう実際の調査結果を広告にして表現したんですね。

あるいは、セブンイレブンに対するチャレンジャーとしての宣言をする。このようなチャレンジをたくさんすることによって、先ほどのムービーにもありましたが、発売初週にマスコミに大きく取り上げられて、SNSでも話題になって、結果として当初の目標を大きく上回る売上を達成しています。

その後も売上はめちゃめちゃ伸びて、2021年は年間を通じて、競合2社セブンさん・ローソンさんが売上を落とす中、ファミリーマートは唯一業績を伸ばして、実際に業界2位になることができました。

そして単なる販促プロモーションにとどまらず、こういったキャンペーンをやることによって、ファミリーマートで働く一人ひとりのモチベーションを高めたんですね。「俺たちはどうせ3位だよね」みたいなところから、「チャレンジするんだ」「セブンイレブンに対して、我々は戦っていくんだ」という気持ちを作っていく。

そして、実際に店舗サービスが向上したり、ユーザーの好感度を高めるところまでできたのは非常に良い成果でした。我々はこんなプロジェクトをやっています。

新しい可能性を「創造」するプロジェクト

他にはJINSのカラーコンタクトレンズの商品開発をしたり、三井不動産さんと一緒に、ワークスタイリングというシェアオフィスの事業開発もしています。これら全部が、みなさんが思っているようなクリエイティブ、つまり「デザインをする」「コピーを作る」「映像を作る」とはまったく違います。

顧客の、ユーザーの、あるいはどこか遠くにいる大切な人のことを考えて、彼らの感情を想像する。その上で不動産ビジネス、メガネビジネス、コンビニエンスストアのビジネスに対して、新しい可能性を創るために行ったプロジェクトです。

僕たちがやることは「顧客・ユーザー・生活者・大切な誰かのことを想像して、ブランド・企業・社会の新しい可能性を創造すること」です。イマジネーションがないところに、クリエーションはない。

そのことを、今日はみなさん理解してください。その上で、みなさんのビジネスの顧客のことを、あるいは大切な誰かのことを想像する。それが結果的に自分たちのビジネスを伸ばすことになるんです。それを、みなさんの仕事・ビジネスに持ち帰ってください。今日はそのためにお話しさせていただきました。

知名度・戦略・コンセプトで優れていても、勝てるとは限らない

すごく大事なことがもう1個あります。どれだけ戦略を練って、どれだけ優れたコンセプトを立てても、最後にユーザーの心を動かさなければ手に取ってはもらえない。今日ずっと「クリエイティブとはデザインではない、映像ではない、コピーではない」と話をしてきました。

多くのビジネスパーソンにとって、戦略やコンセプトを立てることが大事ですが、それと同じぐらい「実際にかっこいいこと・実際に素敵なこと・実際にかわいらしいこと」もめちゃくちゃ大事です。

なので、今日お話ししたことは「クリエイティビティの半分」だと思ってください。ビジネスパーソンや経営者が知らなければならないクリエイティビティ、みなさんがクリエイターと一緒にコントロールしていかなきゃいけないクリエイティビティ。これがもう1つあります。それが、デザインや映像や音楽の、クラフトマンシップの部分です。

どれだけ優れた戦略やコンセプトであっても、ユーザーの心を動かさなければ手には取ってはもらえない。コンセプトと同じくらいに、クラフトマンシップが大事。創る人間のこだわり、創る人間が仕上げるクオリティが大事ということも、最後に付け加えさせてください。

逆に、我々は資本で負けていたり、イメージで負けていたりしても、最後に1個「これめっちゃかわいいじゃん」「これめっちゃかっこいいじゃん」というクリエイティブの力があれば一発逆転のチャンスはあります。

どれだけ有名な会社の商品でも、どれだけCMを打たれても、どれだけお金をかけて作られても、「なんかこっちのほうが好きだな」と思って、有名じゃないブランドの商品を買うこと、みなさんにもありますよね。

クリエイティブというのは、ビジネスにおいて資金面や人材面で負けていたとしても、一発逆転のチャンスがある唯一の領域なんです。だからこそ、この仕事はおもしろい。今日はこのことをみなさんに伝えることができたらいいと思っています。ここでいったん僕の講義を終わりにします。聞いていただいてありがとうございました。