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社会現象のつくり方~ビジネスブレイクスルーをもたらすクリエイティブの力とは~(全5記事)

今やアメリカでの採用面接の質問の9割は「パーパス」 日本の採用で優秀な人と残念な人が気にするポイント

三浦崇宏氏が反省したプロジェクト

田久保善彦氏(以下、田久保):いくつか質問に行きたいと思います。「差し支えなければ、三浦さんのご経験の中で、失敗してしまったなという事例を教えていただけますでしょうか。そしてそれは何が理由だったとお考えになりますか?」。

三浦崇宏氏(以下、三浦):いっぱいありますよ。採用の失敗もあるし。

田久保:「成功事例のお話がありましたが」とあるので、たぶんプロジェクトという意味ではないかと思うんですね。

三浦:プロジェクトの失敗で言うと、GOを作ってからは、失敗したことは実はあまりないんですよね。僕ら、電通、博報堂にめちゃめちゃマークされているので、僕が失敗したらみんなめっちゃうれしいと思うんですよ。だから、失敗ほぼないと思いますね。

失敗する手前で止まったことは何回かあります。例えば、『SPUR』という雑誌の何十周年記念の広告を作らせていただいた時です。その時けっこう女性の活躍を応援していこうという気運、気持ちがあったのと同時に、ある意味ですごく女性蔑視というか。ネット上でフェミニズムとかジェンダーを対象にした争いが起きていたタイミングでした。

それで僕はそういったものを全部乗り越えて、笑顔で生きていく女性を応援したいというテーマで、「ごきげんよろしく生きていきましょう」というコピーを書いたんですよ。

そうしたら、『SPUR』の女性編集長に「三浦さん、何にもわかってないですね」と言われて、「え!?」と思いました。「あのね。女性はごきげんよろしく生きていけない時もあるの。つらい時もあるし、苦しい時もあるし、体の調子が男性に比べて良くない可能性も高い。そういう時に『ごきげんよろしく生きていきましょう』なんていうのは、勝っている人間の戯言です」と言われて。

それこそ他者の感情を想像することがぜんぜん足りていなかったんだなと思って、めちゃくちゃ反省して。イチから広告企画を作り直したことはありましたね。

田久保:ありがとうございます。想像力を豊かにするためにも、きっとGOの中でクリエイティブディレクターのお仕事をされている方々のダイバーシティみたいなものがすごく大事になるんですよね。

三浦:大事だと思います。

BtoBの決裁者が意思決定時に気にすること

田久保:次の質問も本当に気持ちがわかるなと思うんですけども。「一般消費者の目に触れないようなBtoBビジネス。インフラとか素材とか一部の物流とか、もしくは部品メーカーとかもそうかもしれませんね。こういう分野でもクリエイティブの力で課題解決は支援できるんでしょうか」。

三浦:うちの会社はBtoBのクライアントがめっちゃ多いんですけど、BtoBのほうがブランディングは重要です。例えばみなさんが博報堂の管理部長だとします。僕が営業しに行くわけです。

僕がBtoBのSaaSのITサービスの営業をしに行って、「こちらのサービスを使うとみなさんの労働効率がすごく改善するので、社員1,000人だったら月額300万円くらいでどうでしょう」と言った時に、管理部長の判断基準がないんですよね。

要は、BtoBは、得てしてそのサービスのユーザーと意思決定者が違うことが多いんですよ。平社員が使うのに意思決定は部長とか、営業が使うのに意思決定は管理部長とか、めちゃくちゃ多いんですよ。

そうすると、どう意思決定をするかと言ったらすごくシンプルで、価格かそのサービスを知っているかです。管理部長とか部長は失敗すると怒られるので、でも知っているサービスならしょうがないじゃないですか。「業界1位なの?」とか「CMで見たから大丈夫だろう」みたいな感じで。

意思決定者は細かい使いやすさとか細かい機能とかを見ていないことが多くて、要は価格と信頼で選ぶんですよ。だから実はBtoBのほうが、ブランディングによって利益が上がるまでのスピードが早い。

田久保:そうか。意思決定者の方は、細かい機能を使っていない可能性がだいぶ高いですよね。

三浦:そうです。残念ながら、機能とかは見ていないんですよ。

田久保:BtoBのそこのポイントをちゃんと突こうという話ですね。ありがとうございます。

BtoBでは顧客の中にヒーローがいない仕事は成功しない

田久保:これもおもしろい質問ですね。「大企業に対して大きな変革を提案する時、企業幹部の方に反対されたり、謎の抵抗勢力みたいなものが発生する場合もあるのではないかと思いますが、三浦さんはどう向き合っていらっしゃるんでしょうか」。

三浦:僕らの場合はこれもすごくシンプルで、顧客の中にヒーローがいない仕事は成功しないですね。

田久保:これはいい言葉ですね。顧客の中にヒーローがいない仕事はダメと。

三浦:そういう意味ではさっきの失敗の話に近いんですけど、僕は、博報堂時代にも失敗したことがけっこうありました。それってやはり途中で顧客が諦めたり、途中で顧客が「そこまでやらなくていいよ」となったりするんですよね。

僕らは売れないと成功ではないので必死にやるんですけど、クライアントさんの中ではプロジェクトがローンチしたらどうにかなるとか、あるいは他人のせいにできたりする状況がままあるので。クライアントさんの中に、必死でそれを実現するために、存在を懸けてがんばれる方がいらっしゃるかどうかがすごく重要で、それがいない仕事はうちは受けないですね。

逆に言うと、GOの場合はすごくありがたいのが、普通に考えたら電通さん、博報堂さんに発注すればいいじゃないですか。有名だし、なんなら僕らは電通さんよりぜんぜん価格が高いので。でも、僕らに発注してくれる時点で、ほぼほぼその人は覚悟があるんですよ。GOに頼んで失敗したら、その人はめっちゃ怒られると思うんですよね。

「お前、何で電通にしなかったの? しとけよ。普通に」となるじゃないですか。電通に頼んで失敗したらしょうがないけど。僕らはその覚悟があるお客さまと一緒にやれているので、失敗する可能性が低いというか、成功するまで一緒に走れるんだと思います。

田久保:やはり覚悟のある担当者が、社内でも向こうのお偉いさんの方々と戦い続けてくれるみたいな、そういう状況が多いということですか?

三浦:そうですね。顧客の中のその方が諦めない限り、僕らも絶対諦めないので。

田久保:運命共同体を作れるかどうかということですね。

三浦:はい。

利益の追求よりも重要なこと

田久保:これも非常にグロービスっぽい感じの質問かもしれません。「例えばさっき、ユニクロのMoMAの話がありました。でも一方でウイグル自治区の綿の取り扱いで、いろいろ叩かれたこともありました。

大きな企業になると1つの一部分はいいんだけど、違う一部分がよくない、みたいなこともあるかもしれないし、もしくは最終的にはそういうことと、利益の追及が二律背反になる場合もあるように思います。このことについて三浦さんはどのようにお考えになり、クリエイティブの力でどういうサポートができるとお考えになりますか?」

三浦:すごく難しい質問だと思うんですけれども、大きい会社になってくると、利益の追求と、地球とか社会に対していい影響を与えることの、二律背反が起きるということですよね。でもこれはすごくシンプルで、利益の追求よりも重要なことはある、ということだと思っています。

これが資本主義経済の限界という話だと思うんですね。だから僕は、成長が絶対的な善ではないことを、何らかのかたちで広げていくのも我々の仕事かなと思っています。

例えば、今年1万円の物を100人に売ったら、来年120人に売らないといけない。これは成立しないよね、という話がさっきありましたよね。僕らは今日ビジネスの話をしたので、「1万円の物を100人に売った。来年は1万2,000円の物を買ってもらう」という言い方をしましたけれども、値上げをしないといけないこともありますよね。

具体的にウイグルの話がありましたけれども、労働状況を改善するためには、結果として値上げすることによって、ユーザーにそれまでよりも負担を強いることになる。それを納得させる価値を作る。それを成立させるビジネスモデルを作る。

この社会に対する価値と顧客に対する価値がコンフリクトを起こした時に、どうやって解決するかを考えるのも含めて、我々クリエイターの仕事になってくるのではないかと僕は思っています。

クリエイティブは値上げを納得させる力

田久保:クリエイティブディレクターという仕事の範囲もどんどん変化するし、どんどん広がっていくことが前提にあれば、何でもそこの範疇に入ってくるかもしれない。

三浦:そうですね。

田久保:ますます変化するかもしれないですね。

三浦:すごく下品な言い方をすると、それがすべてではないですが、クリエイティブは値上げを納得させる力です。みなさんはLouis Vuittonの鞄が30万円でも買うのは、あのブランド価値に納得しているからですよね。

ということは、ユニクロのことを批判しているわけではないんですけど、ユニクロのシャツが彼ら(ウイグルの人たち)の労働状況に対してフェアではないことをしている。それをやめるには値上げしないといけない。それを最終的に買い手になる顧客や社会にどう納得していただくかです。

ほとんどのことは値下げするために負担が起きているので、値上げを納得させることができれば、企業の社会的課題はけっこう解決するんですよ。であるならば、それを解決させるのはブランドの力であり、クリエイティブの力ではないかと僕は思っています。

「小」が「大」と戦う際のポイント

田久保:それでは最後の質問にしたいんですが、これ、おもしろいですね。「三浦さんがもし日本の総理大臣になったら、どんな日本を作りたいですか? 一言、コピー的に表現していただけますでしょうか」と。

三浦:変化と挑戦を喜べる国にしたいですね。人間の本能は変化と挑戦を恐れるんですよ。でも僕らは小さいんで、変化と挑戦をし続けないと生き残れないんですよね。僕、格闘技をやっていたんですが、ボクシングとかではほとんどないことですが、柔道をやっていると体が大きい選手と小さい選手が戦うことがあるんですね。

これだと、小さいほうが動きを止めた瞬間に投げられるんですよ。基本的には小さいほうは活動量が多くないといけない。ということは、変化することや挑戦することを喜べるような国にしないと、日本の価値は下がっていくのではないかなと思うので、変化と挑戦を喜べるような、楽しめるような国にしたいなと思います。

田久保:活動量で勝つと。

三浦:はい。

田久保:東京オリンピックの時の女子バスケットみたいな感じですね。

三浦:そうですね。

田久保:ありがとうございます。

人間が働く上での3つのファクター

田久保:それでは、最後に私から三浦さんにもう1つご質問させていただきたいと思います。

田久保:クリエイティブディレクターの方とか、クリエイティブなことをされていらっしゃる方は、一般的に言うとやんちゃな方が多いと思うんですけど。GOは50人いらっしゃって、これからどんどん大きくなって行くと思いますが、そういうクリエイティブ集団をまとめるトップとしてどんなリーダーシップを発揮されて、どんなことを考えてらっしゃるか。すごく興味があるんですけれどもいかがでしょうか。

三浦:僕らはクライアントさんの組織のコンサルもやるんですけど。GOも顧客に対しても基本全部同じです。説明しているのは、人が働くファクターは、「思想」と「環境」と「報酬」の3つだと思っているんですね。

田久保:「思想」と「環境」と「報酬」。

三浦:「思想」とは我々の言う「変化と挑戦」だったり、「クリエイターが活躍する社会を作る」というGOの思想がある。「環境」は、GOはめちゃくちゃいい環境です。

なぜならば、さっきも言ったように、クライアントさんが意思を持ってやってくれる。電通とか博報堂とかサイバーエージェントとかにいると、やる気がなかったりとか、意思のないクライアントと仕事をするのが一番つらいんですよ。予算がないことよりも意思がないことのほうがよっぽどつらいですね。

田久保:なるほど。予算消化とか、予算取れちゃったみたいな。

三浦:それに対して、GOのクライアントはみんな意思があって来るので。

環境の2つ目としては、メンバーがみんな優秀なこと。自分ではっきり言いますけど、メンバーのアベレージが日本の広告マーケティングに関する会社で、一番だと僕は自負しているんですね。なので、ハイパフォーマーと仕事ができる点があります。

その上で、オフィスが六本木の通りのど真ん中にあって、帰る時とかすごく柄が悪くて嫌だと、女性社員に言われるんですけど、その環境は良くないかもしれないです。

田久保:(笑)。

ハイパフォーマーが気にすること、ローパフォーマーの関心事

三浦:あと「報酬」もとてもいいです。大手に比べてけっこういいです。この時、けっこうみんな勘違いするのが、ハイパフォーマーほど「報酬」が大事だと思うじゃないですか。逆なんですよ。ハイパフォーマーほど「思想」が大事です。自分が何か新しいことをしたい。自分の人生を何かに使いたいと思った時に、思想で共感できるか。

ローパフォーマーほど金のことを言うんですよ。1万円、2万円、10万円、30万円の違いがすごく大事です。僕はもう「思想」を徹底的に共有していきます。その上で環境を徹底的に整えていく。そうすると自動的にハイパフォーマーが入ってきて、ここの環境を良くしていこうと、すごく貢献してくれるようになるという。

田久保:なるほどな。この間、ちょっと社名は避けますが、誰でも知っているようなメガベンチャーのHRのトップの方が、アメリカで採用すると、採用の面接中に9割くらいの時間をパーパスへの適応について質問されると。

本当のハイパフォーマーはどこにいっても、どういう条件でも、お金は稼げるから、別にそんなことは話題にもならないんだと。いかにMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)みたいなことに共感できるかで、ほぼ話が終わるのを見て、「日本のマーケットとの違いを感じるんだよね」みたいな話をされていたんですけど。それが今、GOの中で起きているということですね。

三浦:完全にそうですね。だから報酬の話をする人と面接をすると、自信がないのかなと思ってしまうんですよね。「放っておいてもお前が稼いでくれたらその分払うよ。そんなことより一緒にどんなこと、どんな社会を作りたいか話そうよ」みたいな、そういう気持ちですね。

トップが定期的に考えを全社に共有することの重要性

三浦:あと、僕は本当にくどいほど会社のビジョンを話します。「ハイパフォーマーで、クリエイター集団で」とかいろいろ言っているじゃないですか。うち、毎週月曜日に、全社定例集会をやっているんですよ。

田久保:それまたベタですね(笑)。

三浦:はい。オンラインの人もいるんですけど、毎週月曜日だけは全員で集まって、会社のことを全部共有します。最後に僕の口から「今週こんなことがあった。こんなすばらしいことがあった。こんな悲しいことがあった。でもこれからは、こうやってがんばっていこう」と、僕が5分くらい話すんですよ。

毎週トップのビジョン、トップが何を考えているかということを共有し続ける。これはやはり有効かなと思います。どれだけ共有しても足りないと思いますね。

田久保:永遠にやり続けることですかね。ありがとうございます。やはり最先端をいっている会社ほど、パッケージ研修のナントカに任せるとか、「このシステムのこのeラーニングを見ておいてね」じゃなくて、一子相伝みたいな感じでずっと横で見ているとか、それ系のトレーニングをしているところは非常に多いんですよね。

三浦:そうですね。

田久保:ありがとうございます。本当に一瞬で終わってしまった感じのセミナーになりましたけど、みなさんもたくさんのことを学んでいただけたのではないかと思います。最後に、三浦さんから一言メッセージをいただきたいと思います。

三浦:現場に来ていただいている方々も、オンラインで見てくださっている方々も、お忙しい中すごく貴重な時間を割いていただいて本当にありがとうございました。繰り返しになりますが、日本のビジネス、日本の経済、これから先の社会を作っていく上で、クリエイティビティはものすごく大事だと僕は確信しています。

何度も言いますが、クリエイティビティとは、一部のデザイナー、コピーライター、映像監督のものではなく、我々人間一人ひとりが持っている脳の筋肉とか、思考の可能性だと思っています。

ぜひみなさんも僕の話をきっかけに、クリエイティブの力に気付いて、自分の仕事とか生活の中で活かしてもらえたらすばらしいなと思います。その積み重ねが結果的にめちゃめちゃすばらしい未来を作ることになると思うので。ぜひみなさんも自分の可能性を信じて、明日以降の仕事にチャレンジしていただきたいと思います。

あと僕自身は、GOの仲間にもなってほしいし。一緒に仕事をする人、クライアントもGOに入ってくる人も、全員僕はファミリーだと思っているので。今日の講義をきっかけにぜひ新しいファミリーが生まれたらうれしいなと思っています。聞いてくださったみなさんも、呼んでくださったグロービスのみなさんも、今日は本当にありがとうございました。

田久保:ありがとうございました。

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