キャッシュフローマネジメントの基本精神は「入りは早く出は遅く」

石黒卓弥氏(以下、石黒):(時間的に)4つのテーマは最初から無理だったんじゃないかと諦めそうになっているんですけども。あと2ついきましょう。次のテーマお願いします。

今日は130名近い参加者の方にお聞きいただいてますが、山田さんのTwitterのファンの方が8割5分ぐらいいると思うので。山田さんのnoteでもあったテーマかなと思うんですけども。「足元の市況を踏まえたキャッシュフローマネジメントの要諦」ですね。

特に昨今のマーケットとか市場感を意識しつつ、とはいえ事業の成長というのを止めることはできない。その中で、その舵取りの責任者がお二方であると思うんです。ここをどんなふうにやってますかっていうお話ですよね。

今度は渡瀬さんから。LayerXの足元のキャッシュフローマネジメントについて、どんなことを意識されてるか、ぜひ、いけるところまで開示いただければと思います。

渡瀬浩行氏(以下、渡瀬):そうですね。昨今の市況、調達環境は非常に厳しくなっているんですが。2年前にうちもバクラク事業にピボットして、今は当然投資をする時期です。事業を止めるわけにいかない。幸いピボット前に資金調達をさせてもらっているので、その資金をしっかり使って、きちんと結果を出すフェーズに今はいます。

やっぱりキャッシュがすごく大事っていうのは、どのフェーズでも、どの会社でも、その精神は変わらないと思っています。前職でもとてもお金には苦労しましたので、市況に関わらず大事にしていきたい。あまり具体的なことを言うのは難しいんですけど、基本的な精神として、「入りは早く出は遅く」。

あと必要なものにはしっかり投資する前提のもとで、コーポレートとして気をつけてることで言うと、初期投資にかかるものにはなるべくお金を使わないようにするとか。あと、地味なものでも毎月発生するコストを下げることにこだわる。このへんは気をつけてやっています。

その資金の使途は「投資」なのか「浪費」なのか?

石黒:さらっとおっしゃってますけどね。「入りを早く出は遅く」って当たり前なんです。この間、1ヶ月前に渡瀬さんが全社定例でも言ってましたね。

基本の行動をちゃんとやることが、会社の事業継続につながるっていうお話をしましたから。これを全社に伝えていくのは、すごく意味があることだなと、私もそれを聞いていた1人として思いましたね。ぜひ山田さんもこの点、コメントいただきたいなと思います。

山田聡氏(以下、山田):そうですね。渡瀬さんおっしゃられたとおり、1つは言い方が難しいですけど、「投資」なのか「浪費」なのか、資金使途を明確にする。

とはいえスタートアップなので、成長しないと何者でもないところがあるので、慎重にいきすぎて、成長の果実を刈り取れないのは、そもそもスタートアップの存在意義としてどうなのってところなので。ちゃんと投資していくべきものとか、リスクはあってもチャレンジしていくところは、意識はします。

今までより調達の難易度って上がってるし、お金を使うことへの説明責任が上がってきてると思うんです。

そういう意味では投資も、今まではいきなりドンと10億円いってたやつを、少しフェーズ分けして、フェーズ1でまずテスト的に2億円投資しましょうとか、そういうかたちで刻んでいく。よりリスクをミニマムにするアプローチは、けっこう意識をしています。

あと会社全体って意味でいくと、より「1円を投資する価値」をしっかり考えるとか。もしくは1円でも売り上げを多く、かつ早く立てるための価値みたいなものが、相対的に上がってるんだと思うんですよね。

せっかくこういう市況になってるので、ファイナンスとかコーポレートの人たちだけではなくて、全社員がそういうことを意識しやすいような環境作りとかメッセージングとかを、普段から意識してやっている状況です。

「承認するけど何に使うの?」という投げかけで気づきを与える

石黒:具体的には全社定例で話をするとか、Slackとか。山田さんどんなシーンでお伝えなさってるんですか。

山田:まず1つは明確に、自らの行動でリードするという意味で、まず財務部とかファイナンス部門として少しでも資金回収を早くできる努力はないかとか。あと支払いを本当に遅くできないかとか、自ら突っ込んでやりますね。

しかも今我々は、社内に対して目標として「財務ランウェイをxxくらい伸ばすためのアクションをします」という宣言をしています。目標としてやり切ることを見せているので。

まずファイナンス部門が率先してコミットして、成果を出す。まずメッセージングを出す。あとは日々の草の根で、まさに各部門の予算の承認の時に......これはバクラクさんにもお世話になってるんですけど。

そこできちっとROIの説明に細かくツッコミを入れたり、「承認はするけどどういう背景でやるか軽く教えてください」とを投げかけたり、草の根でやってますね。

石黒:いや......僕モデレーターですけど、いち従業員の目線で「承認されたんだけどこれ何に使う?」って1回言われると、「ああ、次ちゃんと用意しなきゃ」ってなるんですよね。

山田:(笑)。

石黒:素晴らしいなと思って。渡瀬さんも「これ、承認しとくけど……」っておっしゃってるのを、僕もよく目にするなと思って。

渡瀬:そうですね。余韻を残す言い方ですけど。

石黒:めっちゃ効果的ですよね。いち従業員として、CFOは承認してくれるんですけど、「あれ、承認したけどさ......」って、しかもオープンチャンネルでおっしゃってくださるから、やるほうは「ひっ!」てなるんですよね(笑)。

山田:スピードは止めずに、ちょっと気づきを与える感じですよね。確かに、それいいですね。

石黒:マネージャーでも言われるんです。例えば私だったら、私のチームのメンバーも(Slackを)見るので。10XさんもSlackはオープンだと思うんですけど、そういうフィードバックって......すいません、思い出しながら背中に汗をかいてます。「もっといいやり方ねえかな~」みたいに、常に疑っていくのはすごくいいなと思って聞かせてもらってました。

「オフィス」で共感を得ることも

石黒:これ、時間配分に無理がありますよ。でも大丈夫です。F1の第4コーナーに期待してください。このお話、山田さんぜひ。

山田:せっかくなので、最近ちょっとおもしろいなと思ったことなんですけど。銀行さんと借り入れの交渉してた時に、オフィスに来てくださって。

弊社のオフィスって、石黒さんもご覧のとおり、かなり質素なんです。そこにすごく共感してくれて。「この人たちはキャッシュフローマネジメントをちゃんとやってるんだと、すごく印象いいです」と、銀行の部長さんがおっしゃってくれて。すごくポジティブになりました。

そういうところも見られてるので、日々の小さな行いって大事だなって感じた次第です。

石黒:めちゃくちゃいい話。渡瀬さん、何か言いたそうな顔されてましたが、この点いかがですか。

渡瀬:当社のオフィスもかなり質素。しかも質実剛健なデザインにしすぎて、女性社員から……。

山田:そっちはそっちで……(笑)。

渡瀬:いいデザインにしてくれって、突っ込まれたことも確かにあります。

石黒:難しいですね。「もうちょっと椅子のカラーリングを増やしたいです」って言われてましたよね(笑)。

渡瀬:「お金をかけずにできることもありますよね」って。

石黒:いや、でも今の山田さんのお話で、僕は採用広報に携わる一人としてにアテンドする立場でもあるんですけども、同じようにオフィスで共感いただく方は増えてきた気はしますね。体感ですけれども。「実はこのビルまだ埋まってないんですよ」「確かにオフィスが埋まりにくい時にうまく入られたんですね」とか、そんなお話もあったりして。

投資とか何にお金をかけるかって、見ていただいたほうが早いですよね。そういう意味で、今日来ていらっしゃる10Xさんがもしかしてオープンオフィスをやる時があれば、ぜひ行かれるといいと思います。

質素である以上に、あの実験スペースがあるじゃないですか。あそこも10Xさんの会社のカラーを表してるなと思っていつも見ています。

経営陣の中での「CFO」の役割

石黒:さあ、第4コーナーまで来ましたが、時速240キロの第4コーナーなんですけども。

最後のテーマですね。これはぜひと思っていて。よくCXOと言われますけども、経営陣の中でのそれぞれお二人の役割とか、お二人が思う「CFO」の役割について。それぞれのスタイルなのか、自分はこういうポリシーを持ってるとか、こういう感じでやってるよ、といった話をお聞きしたいです。

どちらからいきましょう。渡瀬さんからいきますか。

渡瀬:そうですね。CFOは会社によっても違うし、会社のステージによっても役割は変わっていくもんだとは思っているんですが、今だと会社の事業の成長を止めないで、しっかり成長できるように必要なリソースを確保するとか、あとは会社の仕組みとか環境を整えるのが1つの大事な役割かなと思っています。

あとは難しくて、実際できてるかっていうとあれなんですが、きちんと物事のリスク面を見て、ある意味一番冷静な意見を伝えていく役割。とはいえいろんなトラブルが起こっちゃうので、その時のトラブルシューティング。だいたい現場で解決できないものが回ってくるじゃないですか。これは、ちゃんと……。

石黒:急に生々しくなってきましたね(笑)。

渡瀬:そういう役割と。あと自社プロダクト・サービスに対する貢献。これはCFOであろうがなんだろうが、やっていったほうがいいかなって思っています。自分が直接開発には関わらないとしても、プロダクトを徹底的に触って、フィードバックをしていく。そういうことはできるかなと思うので。

自社プロダクトに愛があるCFOは、現場との距離が縮まる

渡瀬:前職はゲームの会社だったんですが、僕は1日中ゲームをして、ちゃんとアップデートとかバグの報告もしていました。この精神は、どのポジションであっても大事なことだなとは思っています。

自分たちのプロダクト・サービスを使い込んでると、外部の人と話してる時も、話のリアリティとか説得力が違ってくると思うので、大事にしています。

石黒:いい話がたくさんあって......私「1日中ゲームしてアップデートしていた」しか脳みそに残ってないんですけど(笑)。

渡瀬:(笑)。

石黒:時間がないのでかいつまんだ話ですけど、私がLayerXに入社する時に、渡瀬さんを紹介してくれた他のメンバーから最初に聞いたエピソードが、「渡瀬さんは月額の課金がすごい」っていう話で(笑)。

自社プロダクトが好きなコーポレートの方って、僕はいいなと思っています。実際にバクラクの場合は、ファーストユーザーとして、渡瀬さんが開発に対していろんなフィードバックをしながらどんどん開発していました。それを脇で見ていました。

自社プロダクトが好きだと言う、特に愛があるCFO、管理部門の方は、すごくいいC(Chief)になる。現場との距離が近づきますよね。すごくうまく距離を作られてるなと思っています。

CFOは社長とのディスカッションパートナー

石黒:山田さんもぜひ「CFOとは」、特に10Xさんでの山田さんの役割のぜひ聞かせていただけばと思います。

山田:ありがとうございます。最初に思ったのは、まさに私もコーポレート部門含む10人ぐらいの時からスタートしているので、すごく現場とも距離感近くやってたんですけど。

組織が100人ぐらいになってくると、それぞれ役割分担があるので。その中で多少うるさいことや厳しいことも言わなきゃいけないのが、たぶんコーポレートの立場なんです。

そこでちゃんとプロダクトに対しての愛情があるとか、現場に対して責任者であるCFOが愛着を持ってることは、コーポレート全体組織のスタンスとか雰囲気を決める上でもすごく重要です。渡瀬さんのマインドセットは、私もぜひ学ばなきゃいけないなと思って、今聞いてました。

弊社の中ででいくと、私は最近、2つぐらい大きな役割あると思っていて。1つは社長とのディスカッションパートナー的な位置付け。株主とか、今後の市場みたいな情報・視点を一番持っている立場なので。

その視点で、社長が今後会社をどういう方向に持っていきたいかという時に、当然いろんな可視化をしながら、どこに注力していくべきかとか、どれぐらいの投資余力があるからこういうチャレンジはGOしてもいいんじゃないかみたいなところを、ファイナンス面含めてサポートをする。会社として大きな意思決定を一緒にしていくのが1つ、あると思っています。

本部長クラスにも同じように、壁打ち相手になること

山田:最近我々も100人ぐらいになってきて、もう1個大事だと思うのは、本部長クラス。CEOの1つ下のレイヤーに対しても同じように、いろいろ壁打ち相手になっていく。

例えば彼らが大胆な投資ができるようにとか、自分たちでもっと組織をこれぐらい拡張してもいいんじゃないかと、社内の中でも説明責任を果たせるような材料を、一緒になって提供していく。これがすごい大事だなと思っているので。

最近は現場とか意思決定者に寄り添って、一緒に最適な意思決定をしていくマインドセットで取り組んでいますね。

石黒:ありがとうございます。CEOのディスカッションパートナーっていうのは、よく言われそうだなと思ったんですけど、その次の各本部長ラインと(のディスカッションも大事ですよね)。この間yamotty(矢本氏)が10Xさんの新しい組織マトリックスを発表されてましたけども、各事業本部長とは1on1もされてるんですか。

山田:そうっすね。最近入れるようにしています。それぞれの組織課題とかも聞いていて、そこに対してどういうサポートをするか、逆にこういうリソース取りにいったらどうでしょうかみたいなアドバイスをさせてもらったりとか、やっていますね。

石黒:事業の解像度を高めるんですね。ありがとうございます。

土台がしっかりしていないと、大きな山は積み上げられない

石黒:あっという間に、一瞬で終わってしまいました。今135名の方に聞いていただいてます。すごいです。あと1~2分なので、お二人から宣伝とか「黒子のコーポレート」の作り方とか、これからどんな組織を作っていきたいか、一言ずついただいてこのセッションを終わりにしたいなと思います

立ち上がりと攻め守りのバランスと、それぞれの役割なんだっけという3つの話をしました。これから両者とも、ここから成長しないことはまったくないと思うので、これからどんな組織を作っていきたいか一言ずついただいて、このセッションの最後にしたいと思います。渡瀬さんからぜひお願いします。

渡瀬:これからますます成長して大きな会社になって、人も増えますし処理数も増えていく中で、人が少なくてもきちんと回るような組織になるために、バクラクを使っていきたいなと思ってます。

石黒:ありがとうございます。本当に一言で、しかもPRがまた出てきまして(笑)。ありがとうございます。テクノロジーを使って小さなチームで回っていくっていうのは、僕も一緒に実現していきたいなと思います。ありがとうございます。では、山田さんも一言お願いします。

山田:我々もこれから、もっと事業を大きくしていくことを当然のミッションとしてやっていますので、それを最低限支えていく。ピラミッドの土台じゃないですけど、土台がしっかりしてないと大きな山は積み上げられないと思うので、土台としての岩盤という意味で、強化はしていきたいと思います。

あとはプラスアルファで、せっかくスタートアップの中でコーポレートを作っているので、攻めとか成長に対しても何らかの貢献ができるような組織でいたいと思います。必ずしも守りだけではなく、事業部と一緒になって事業成長を加速させるサポートをしていければと思います。

意見交換することで、スタートアップ全体のコーポレート機能が強くなる

山田:いろいろ模索しながらやってるので、答えはまだ誰も持ってないんですけど。そういう部分を一緒に模索していくようなコーポレート組織を作りたいと思っています。

我々もコーポレートの採用を募集してますので、もしご興味ある方はお話しいただければと思います。あとは他社のコーポレートの方と、今日も渡瀬さんとお話しできて、私もすごく参考になることが多かったです。

意見交換することで、スタートアップ全体のコーポレート機能がどんどん強くなっていくと思うので、気軽にTwitter、DM、Meety等申し込んでいただければ、私もうれしいなと思っています。

石黒:ありがとうございます。今日の40分通じて、テクノロジーへの投資っていう話と、山田さんから事業へのアラインっていうお話もありました。

エンプロイーインターフェースで、ストレスがなくなるだけじゃなくて、ガバナンスにもいいよねってお話だったりとか、事業を伸ばす中で、常に事業にアンテナを示していくっていう、コーポレートとして事業にアラインしてなんぼだよねってお話がお聞きできたのは、スタートアップ成長企業の中のCFOの役割として、すごく学びが多いセッションだったのかなと思います。

一応私からお伝えしておくと、(私が山田さんに)本当にDMしたことがあって、即レスをいただいて、お互いオフィスが近いので一緒に牛タンを食べたことがありました。思い出もみなさんに共有させていただいて。

山田:確かに(笑)。

石黒:あの時は本当にいろんな学びがありましたし、いい時間だったなと思います。今日の時間が、何かみなさんのスタートアップ広報の1歩進んでいくきっかけになったらなと思っております。

それではあらためてお聞きいただいたみなさん、渡瀬さんと山田さんに拍手をいただければと思います。1個目のセッション、これで終わりたいと思います。ありがとうございました。