2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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森:ここからは、事前にいただいた質問、また、リアルタイムでいただいている質問の中から読み上げさせていただければと思うんですけれども、まず1つ目です。
事前に来ている質問からです。まず、「労働」と「働く」の違いについて。先ほどの講義の本編の後半にも出てきたかと思うんですけれども、「『労働』と『働く』の違いは何だと思いますか?」。
松村:難しいですね。これは言葉の定義なので、「働く」と「仕事」とか、「仕事」と「稼ぎ」とか、対比的に捉えることだってできると思うんです。だからいろんな答え方があって、「労働」と「仕事」を違う概念としてドイツの哲学者ハンナ・アーレントは定義したし、哲学者の内山節さんは「『稼ぎ』と『仕事』は違う」と言っている。
これは、どういう意味を込めるかなんですよね。最初に出した4象限の図のように、私たちがやっていることって、どこが働いているんだか、どこが遊んでいるんだかがわからない領域にあるわけです。
つまり、私が独り言の技術を磨くことは、自分のキャリアアップのスキルにつながったなんて思ってもいないし、好きでやっているわけだけれども、好きでやっていることが自分の特徴の1つを形作ることだってあるわけです。
だから、連続している現象に切れ目を入れて、対比的に捉えると、ものごとには違う側面があることに気づけるわけです。これはそれぞれの方が「私にとっての『労働』と『仕事』」とか、「『働く』と『遊ぶ』が、どういうふうに区分けできるか」と考えてみたらいいと思うんです。
松村:それは、「自分が今いったい、何をしているのか」とか、「これは働くことが目的なのか、何か別の目的のための手段として働いているのか」を問うことでもあるかもしれないし、「いったい自分にとって、今やっていることはどういうふうに定義できるんだろう」と、みなさんがいろいろ想像し得ることかなと。だから、それは自由に対比的な概念を自分で作ってみると、物事がちょっと開けて見えると思うんです。
森:なるほど。あくまでも、私にとって対比したものがどうなるかという。
松村:そうなんです。だから、私にとっての答えは、誰かにとっての答えとは限らないので。私が答えを持っているわけではないというのは、私が過ごしてきた人生がそのまま誰かにとって役に立つわけがないということなんです。ぜんぜん違うので。
趣味も嗜好も生まれ育ちも、何もかも違う人しかこの世の中にはいないので、誰かにとっての正解をそのまま別の人に移し替えたら正解になるわけではない。それを前提にすると、私たちは自分で自分なりの、自分を支える何かを作り出しておけるようにしておいたほうがいいと思うんです。じゃないと、何か言われるたびに「あの人がこう言ったから」「この人が言っているから」となってしまう。
それは今日、高校生にも言ったんですけれども、常に自分にとっての切実な問いというか、「自分が今、何を問題と感じているか」みたいなところから「考える」というのは、始まるよね、と。誰かが言っているような、一般的な社会問題みたいなところからではなくて、自分にとっての問いから考え始めることが、考えるトレーニングで一番のスタートかと思います。
森:ありがとうございます。本当に貴重な、「私にとって」。それこそ「働くことが本当に正しいことなのか」みたいなことですよね。「切実な問いなのか」というところです。
森:次の質問です。「成長や成功を是とする社会にたまに息苦しくなり、『怠けていたっていいじゃん』と反発したくなります。でも、それと同時に、世界に置いていかれないように、成長しなければという焦りにも苛まれます。どういう考え方をすれば、もっと楽に生きられるでしょうか?」。
松村:それも成長というものが、フレームの中の1つの軸に過ぎないわけですよね。これはフランスの人類学者のレヴィ=ストロースが鉄道の比喩で言っているんですけれども、同じ方向に進んでいる鉄道だと、どっちが速いかはわかるけど、ぜんぜん違う方向に進んでいるのは、いったいどっちが進んでいるのかわからないんです。
どこから見るのが進んでいるのかなんて、軸が決まっているから、進むべき方向が決まったら、そっちに近い方がよりよいとなるわけですけれども、違う軸を立てたら「なんでそっちに行っているの」みたいな感じになるわけです。
森:真逆ということもあり得ますからね。
松村:グレーバーも『負債論』のなかで言っています。「過度に人間活動が生態的なものにも影響を与えすぎている世の中で、これ以上働きすぎてどうするんだ」とか、「経済活動を拡大して成長させてどうするのか」と。「どうやって人間活動を縮小しても生きていけるかを考えなければいけない世の中にあって、なぜ週15時間労働で、可能かもしれないのにそうしないのか」みたいなことを問いかけていますけれども。
松村:ちょっとアカデミックな話をしてしまいましたが、別のフレームから見たら、「成長とか、まだ言っているんですか」と言うこともできるので(笑)。個人的に、世間に置いていかれているというのは、「いやいや、みんな焦って崖のほうに向かって走って、生き急いでどうするの」と見えなくもない。
だから、自分にとって進むべき方向がどちらなのかが、ある程度わかっている人というか、それは思い込みだと思うんですけれども、思い込めている人は強いんです。「みんな、がんばってあっちに行っているけど、そっちは駄目でしょう」と。
森:なるほど、「私にとっての」ということですよね。
松村:「世間に置いていかれる」というのは「みんなが行っている方角が正しい」ということを前提にしていますよね。でも、そんなことはない。世の中をよく見てみても、今、みんな同じ方向をぜんぜん向いていないですから。(大学のある)岡山とかにいると、本当に違う軸で生きている人にいっぱい出会うんです。
森:そうなんですね(笑)。
松村:移住してくる人とかもいて、別世界です。別世界はほうぼうにある。「置いていかれるとか成長とか、まだ言っているんですか」という世界は、現実に存在している。私たちは、それを過小評価したり見過ごしたり、存在しないかのように振る舞っているけれども、違う軸で生きている人は、世の中にも、世界に目を向けてもいっぱいいる。そこから、成長とか言っている人たちのフレームが、本当にちっぽけなフレームに過ぎないという自覚を持てるかということです。
もちろんわからないですよ。この(質問者の)人の状況で(笑)。本当に乗り遅れているかもしれないから。人の人生については勝手なことは言えないんです。この人にとってどうするべきかというアドバイスはできないということは、言っておかなければいけない。でも、そういうふうに見ることだって、できなくはないかもしれない。
森:なるほど。そのためのフレームを、自分にとっての見方を得るために、考え方の1つとして、人類学みたいなフレームを取りなおすという。
松村:そうですね。そう考えていただければと思います。
森:次は16歳の方からいただいている質問です。「勝手に行動することと自主的に行動することの違いを、松村さんの視点で聞きたいです」。「勝手に行動すること」と「自主的に行動すること」の違い。これも、あくまでもその人の捉え方ですよね。
松村:「勝手に」というのは、他者目線。人から見られて、ということですよね。自分の体が勝手に動き出すということなら、大変なことですけれども。自分は自分の意思を持って動いているのを、人が「勝手に」と言っているのは、人からはそう見えるということ。
どういう状況でそういうことが言われているのか、わからないですよね。その方が身近にいたとしたら、「勝手に動くよね」と私も言ってしまうかもしれないから(笑)。本当にわからないんですけれども、人からそう見えているということは、いちおう耳は傾けた方がいいと思います。
自分は本当によかれと思って自主的に動いているのに、なんで人はこれを「勝手に」と言うのか。何か足りないかもしれない可能性もあるわけですよね。一言言っておく(という配慮が足りなかった)とか。
森:なるほど。
松村:予告しておくって大事かもしれない。「私、こっちに行きます」と言ってから動くとか。そういうことが、社会生活を営む上では必要な場面もある。
松村:私がこういうふうにずっと話していると、「好き勝手に、みんな自由に思うとおりに生きればいいじゃないか」と言われているように思うかもしれないんですが、これも、どういうフレームの中でその言葉を受け止めるかによって違うわけですよね。私だって、ここでお話ししている時に、終わりの時間とかも気にして、まとめなければいけないかなとか考えているわけです(笑)。
森:ありがとうございます(笑)。
松村:調整して、このフレームの中での「よきこと」に適応することだって、もちろんしているし。フレームを外してばかりいたら、うまく生きられるとはぜんぜん思わないんです。でも、ここはフレームから意図せずして外れているとか、みんなと同じフレームにいるつもりなのに、違うフレームにいるように見られているのはなぜなのかとか、そこを問うことはできると思うんです。
だから、自主的に動くことはいいことだけど、それが「勝手に動いている」と見られるのには、何らかのボタンの掛け違いがあるのは、なんとなく想像はできますよね。私たちは一人で世の中を生きているわけではないので、それぞれ持っている違うフレームのすり合わせの中で生きていることも、一方で現実ですよね。
だから、そこはちゃんと同じフレームにい続けるためというか、そのフレームの中で物事を進めていくにはどうしたらいいかということも、フレームの中に注目すると必要になってくることもある。だけど、本当にそこのフレームにとどまることが自分にとっての苦痛でしかないみたいな時には、もうそのフレームそのものを捨て去ったほうがいいかもしれないし。
松村:そこに何らかのズレが生じているということだと思うんです。自主的にやっていると思ったら「勝手に」と言われる。そのズレが、物事を考える出発点になる。
私たちもなんでエチオピアとかにフィールドワークに行くかというと、「日本ではこうやっているのに、この人たちはこうしない」みたいなズレとか、「よかれと思っているのに、エチオピアだと怒られてしまう」みたいなことが、しょっちゅうあるからなんですね。
そういう失敗とかズレは、何かが起きている。そこに自分が気づいていない何かが、問いが埋まっているというか、そういうことの証でもあるので。さっきOさんにもそう言えばよかったかもしれないんですけれども(笑)。
森:いやいや、大丈夫です(笑)。聞いていると思います(笑)。
松村:ズレに敏感になるということ。私がつまづくのは、何かがそこにある。気づかない何かがあるという、物事を考える出発点なのかもしれないと思いました。
森:ありがとうございます。まだまだいろいろお伺いしたいんですけれども、お時間ですので。画面の中から、何か気になる質問をあと1つだけ。
松村:「マジョリティのフレームから外れると、風当たりが強くなることがあると思うんですが、そんな時に心が折れないようにするコツってありますか?」という質問。
森:いかがでしょうか?
松村:どこかで、根拠のない自信みたいなものですよね。さっきの「Last 10 years」とかも、根拠ない自信ですよね。自信なのか自己暗示なのかわからないですけれども。どこかで自分のやっていることは正しいんだと思える、それってどこから来るんでしょうね。
もちろん危害を加えられたりとか、排除されたりとか、圧力をかけられたりとか、そういう意味での風当たりは、本当にしんどいと思うんです。でも、勝手にこっちが「外れているんじゃないか」と思うような落差は、けっこう自分の心の持ちようによって、なんとか「気にしない」とスルーすることはできると思うんです。でもそれが本当にマジョリティなのかを問うことはできるかもしれないですよね。
松村:例えば、何か変わったことをして「お前は勝手な行動ばかりする」と言われているんだけれども、もしかしたら、そう言われているのは自分だけではなくて、けっこうあっちにもこっちにも「勝手に」と言われている人がいるかもしれない。
だから、1人でも仲間を見つけると、マイノリティではなくなっていくというか、実はみんなそういう圧力を感じていることがわかる。同じ何らかの悩みを持っている人とつながると、ちょっとだけ対抗できる力になるかなと思ったりします。
森:なるほど。そういった人、つながりというか、同じような状況にある方を探してもらう。
松村:そういう人を見つけると、「やっぱり、みんなそう感じていましたよね」みたいな。そうすると、問題はマジョリティ側にあるというか、そういうふうにずらしていけるかな。
森:ありがとうございます。他に何か「これは言っておきたいな」ということはありますか?
松村:「どんな時にフレームがあると気づきますか」という質問は、先ほど言ったズレだと思うんです。それが見えた時に「あっ、違うフレームが、今」と。
あえてフレームを「ずらしてみる」と最初に言いました。つまり私が今普通だと思ってやっている行為が、別の場面に立った時に変に見えるのは、今、ここにはこういうフレームがあるからですよね。あるいは逆に、私が今、変に見えていると思えるのは、こういうことが前提になっているからだけど、「そのフレーム自体がおかしいんじゃない?」ということなんです。ズレというのは、人類学にとっても重要な出発点です。
森:なるほど。そこのズレを意識して、ふだんの生活からいろいろ物事を見て考えていくということですかね。本当に名残惜しくて、みなさんもまだまだ聞きたいことや、まだ言葉にできていない部分とかもあるかとも思うんですけれども、そろそろお時間となりました。
最後に何か「これを伝えておきたいな」というメッセージはございますでしょうか?
松村:「カリスマキャリア相談室」にならなくて、すみませんでした(笑)。
森:いえいえ、とんでもないです(笑)。
松村:文化人類学という学問に興味を持っていただけたらうれしいなと思っています。
森:ありがとうございます。そうですよね。興味を持っていただいて、いろいろご著書がある中で、いろんなところに手を出していただいたら、もっと深い気づきを得られるのかなと思います。本日は松村さん、本当にありがとうございました。
松村:ありがとうございました。
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