2024.12.19
システムの穴を運用でカバーしようとしてミス多発… バグが大量発生、決算が合わない状態から業務効率化を実現するまで
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森正樹氏(以下、森):みなさま、大変お待たせしました。今日ご視聴いただいている方は「早く松村さんを見せてくれ」という状況なのかなと思いますので、みなさんの声にお応えして本日のゲストをお呼びしたいと思います。松村圭一郎さんです。
松村圭一郎氏(以下、松村):どうもこんにちは、松村です。
森:こんにちは、松村さん。本日はよろしくお願いします。
松村:よろしくお願いします。
森:30分前にZoomで「初めまして」とご挨拶させていただいて、一番最初に「その後ろの写真は?」ということがあったんですが、後ほどおうかがいできるということでよろしかったですか?
松村:はい、触れます。
森:ありがとうございます。まず、松村さんのプロフィールを私からご紹介させていただきます。松村圭一郎さんは岡山大学文学部准教授で、専門は文化人類学。所有と分配、海外出稼ぎ、市場と国家の関係などについて研究されています。
著書に、ミシマ社『うしろめたさの人類学』、NHK出版『はみだしの人類学』、春秋社『これからの大学』、ミシマ社『くらしのアナキズム』などがございます。また、共編著としまして、世界思想社『文化人類学の思考法』、黒鳥社『働くことの人類学』などがございます。
本をたくさん出されていて、私も今手元にたくさん(持っています)。愛読者です。ただのファンです(笑)。
松村:ありがとうございます(笑)。
森:さて、今日は「カリスマキャリア相談室」ということで、カリスマ講師としてご登壇いただいています。カリスマ講師をご依頼しておいてあれなんですが、心持ちとしていかがでしょうか?
松村:最初にその話からしようかなと思っています。
森:なるほど、わかりました。ありがとうございます。後半ではお申し込みいただいた方からの松村さんに対する質問や相談に乗っていただきますが、通常は岡山大学で勤務されているということで、ふだん学生さんから「松村先生」という感じで相談されるんですか?
松村:そうですね。いろいろな問題を抱える学生もいますし、卒論とかで「どう進めたらいいか」という相談はよく乗ります。でも、就活についてはぜんぜん相談してくれないんですよね。
森:(笑)。
松村:学生たちは「この人に聞いてもあまり役に立たないだろう」と思っているんだ、と。言えることはけっこうあると思うし、企業の人事担当者や役員とかの前に呼ばれて講演することもあるんですけど、学生は私なんかに聞いてもろくなアドバイスは受けられないと思っているのだろうなと思います(笑)。
森:それはもったいないですね(笑)。
松村:なので就活の相談はほとんど受けたことないですね。今年もゼミ生たちはみんな、いつの間にか「あれ、もう決まったの?」という感じでした。
森:(笑)。なるほど、わかりました。
森:もしかしたら後ほど触れるかもしれないですが、松村さんは同じ研究仲間の方に相談されるタイプですか?
松村:信頼している人類学の先輩や仲間たちのアドバイスとかはもらいます。例えば本を作る時だったら編集者の意見はやっぱり貴重ですよね。自分1人で考えていても気付かない点はいっぱいあるので、「誰かにちょっと違う視点で指摘してもらいたい」といつも思っています。
森:ありがとうございます。先ほどの松村さんのお話を受けて、さっそくリアルタイムの感想として「学生さんから就活相談をされないこと、とても意外です」と来ています。本当にそうですよね。『働くことの人類学』でまさにテーマにされているのに意外です。
松村:そうなんですよね。だから、それが「なぜ文化人類学は役に立たないのか?」という今日の話にも関わるかもしれません。
森:なるほど。そういったところにつながってくるということで、本日は「働く」にまつわるさまざまなモヤモヤを抱えていらっしゃる方、今見ていらっしゃる方、「何かしらすっきりしないものがあるな」と思っている方、多くはたぶん松村さんのファンじゃないかと思うんですが、そういった方から事前に本当にたくさんの質問をいただいています。後半ではその中からピックアップしてご紹介させていただければと思います。
では、オープニングトークはこのへんにして、みなさんは「早く松村さんのお話を聞きたいな」と思っているかと思いますので、ここからは文化人類学のフィールドで日々活躍されている松村さんより、日々の仕事や暮らしの中で感じている「あたりまえ」に対する違和感への向き合い方、先ほどおっしゃっていただいた「なぜ文化人類学は役に立たないのか?」というタイトルで講義していただきたいと思います。
私もさっきタイトルだけ拝見させていただいてびっくりしたんですけど、「あとからわかるよ」ということだったので、松村さん、どうぞよろしくお願いいたします。
松村:よろしくお願いします。35分くらいいただいているので、できるだけコンパクトにお話ししたいと思います。
松村:ご依頼いただいた時、「文化人類学の考え方や思考法について話してください」ということでした。それこそ「カリスマキャリア相談室」という名前すらあまり記憶にないので、「人類学の思考法について話せばいいんですね」くらいでお引き受けしたんですけど、今日この話のスライドを作っていて、サブタイトルに「なぜ文化人類学は役に立たないのか?」を入れました。
『文化人類学の思考法』という本を編著として出していますが、文化人類学の考え方にはいろいろなものが含まれています。今日はそのうち1つだけお話しします。それは「フレームから問いなおす」という視点です。
「フレーム」と言っても何のことやらと思うかもしれませんが、私たちが物事や行為の意味がわかるのは、実はフレームが決めているんだということなんです。
例えば、私は今研究室で1人でぶつぶつしゃべっているんですけど、満員電車の中で「文化人類学の思考法というのはフレームでね」と1人で話し始めたとします。私が話している言葉は今みなさんが聞いている言葉とまったく同じだし、話している人間も一応文化人類学者で、文化人類学の思考法について話すことができる人間です。
でも、電車の中で隣の知らない人に話しかけ始める。どうでしょうか。聞きたいですか? 前に座っていたら、たぶん目を伏せるでしょう? 怖い人がいると思って目を合わせないですよね。 あるいは、駅員さんとかに「変な人がいます」と通報されるかもしれない。
私がやっていることは何1つ変わりません。今は研究室で1人で画面に向かって話していますが、この行為が電車の中や駅前、雑踏の中とかぜんぜん違う文脈に置かれた途端、私は「変な人」になるわけです。
松村:みなさんは今、「文化人類学者が何かを話してくれるだろう」と期待を込めて平日の夜にご参加いただいていると思うんです。「なんかおかしい人が変なことを勝手にしゃべっている」とは思っていない。でも、私の話がちょっと違う文脈に置かれた時、すごく変になるわけです。
「これが普通だよね」「これっておかしいよね」「この人おかしい」と感じる場面はいっぱいあると思うんですけど、「その人がおかしい」「その物事が普通だ・普通でない」というのは、その人や物が決めているわけじゃないということなんです。フレームとの組み合わせがフィットしているか、してないかということなんです。
これはけっこう重要なので、今日はその人類学の思考法だけ頭に入れておいていただいて、「それを問いなおすのが人類学らしい考え方の1つだ」と覚えていただければと思います。
例えば私は今、「カリスマキャリア相談室」という箱の中で何かを話している。でも、「カリスマ? キャリア? カリスマとキャリアがくっついて何を意味しているんだ?」。「キャリアを切り開く」という表現もありましたが、「キャリアを切り開く」って何なんですかね、とか。
私は就活とかほとんどしたことなくて、大学4年間を終えたあと(5年かかりましたけど)、大学院に通って、最初に就職したのは30歳の年です。
それまで「どうやって生きていけばいいのか?」「研究者になれるのか?」と不安を抱きながら生きてきました。本当にたまたま運がよくて就職できたというくらいなので、あまり切り開いている感じもないです。
でも、事実はどうであれ、みなさんはここに今、1つのフレームが設定されている。それってあまり意識できないと思うんです。フレームは見えにくいんですよ。でも一番重要です。
つまり、「カリスマキャリア相談室」というフレームの中で話している人は、ある種のカリスマとして悩みを抱えた人を救済する舞台装置というか、役柄設定がすでになされているわけです。それにやすやすと乗っちゃうと、あまり人類学的じゃない(笑)。だから、舞台設定そのものをちゃんと可視化するところが、まさに文化人類学の思考法なんですよね。
松村:いろいろ考えるとおかしなことがいっぱいあります。私がカリスマだったとして、「カリスマの話をカリスマじゃない人が聞いて、何か役に立つのか?」とか。この人はカリスマだからうまくいっているのであって、カリスマじゃなかったらカリスマの言うとおりにやってもうまくいかないですよね。
私が平凡な人でキャリアを切り開いているんだったらみなさんの役に立つこともあるかもしれないけど、「カリスマがみなさんを導く」という設定そのものにはある種の無理があるし、ある種の前提があるわけです。
そもそもこの舞台装置には「いいことを言ってくれる人の言葉を聞くと、私も人生が切り開かれていくに違いない」という淡い期待が仕込まれている。
だから、みなさんは「まんまと」なのか「ちゃんとわかって」なのかはわかりませんが、この舞台装置の一部として、これを聞く側の人間として、そのフレームに収まっているんです。これは見えないフレームなので淡々と物事は進んでいくんですけど、人類学はまさにこのフレームをちゃんと意識するところから始めます。
それを「文化」と言ったり「規範」と言ったり、いろんな言葉で言えるかもしれませんが、とりあえず今日は「フレーム」という言葉にしておきます。文化人類学は「『あたりまえ』を問いなおす」とか「そもそもから考える」という表現で特徴が語られることも多いし、私もそう表現したりします。
松村:それがどういうことかと言うと、私たちは何事もなく「あたりまえ」に日常を過ごしていますが、その日常をかたち作っているさまざまなフレームをちゃんと意識することで、「あたりまえ」からちょっと距離を取って問いなおせるわけです。「あたりまえ」の中に入っていたら、「あたりまえ」を問うことはできない。
つまり、「カリスマキャリア相談室」というフレームに何の疑問も抱かなかったら、このフレームが持っているある種の誘導する方向性やそこに埋め込まれている影のメッセージ、暗黙の了解・暗黙の前提みたいなものを問うことができないわけです。だから、やっぱりそこから自分を切り離さなきゃいけない。
「ここは今、こういう舞台設定の上で話が進んでいますけど、みなさんいいんですか?」ということです。それが「そもそもから考える」ことにつながる。だから、文化人類学における「比較」もそういう側面があります。
文化を比較したり、いろんな文化の中でもいろんなロジックを比較するとかいろいろあるんですが、1つのフレームから少し距離を取って考えるということです。
松村:今日は「働く」というテーマで、先ほどご紹介いただいて、Podcastでも配信していた『働くことの人類学』が関連していますが、私がさまざまな人類学者のお話をうかがうという形式で、書籍化もされています。ここでも日本のフレームとは違うフレームで生きている人たちの話を聞くことによって、なんとなく私たちのフレームが見えるわけです。
つまり、私たちは「あたりまえ」としてそれに何の疑問も抱かないで生活している。そこで、違うフレームで生きている人の話を聞くと、「私たちが前提としていた前提そのものは、本当に正しいのか?」という問い方ができる。これも、私たちが今どういうフレームの中にいるかを意識するための方法です。
今日は「そもそも働くとは何なのか?」を、人類学者の話を紹介しながらお話ししようと思います。この「カリスマキャリア相談室」にしても、OSAKAしごとフィールドさんにしても、ある種の前提があります。「働くことはこういうことで、働くことはいいことで、働いていないとちょっといまいち」とか(笑)。
「できれば就職できたり、職場に恵まれるほうがいいよね」という、なんとなくの前提がある。そこで、「そもそもOSAKAしごとフィールドさんが言う仕事は、いったい何を指しているんですか?」と言われると困るわけです。そういうフレームの中でお仕事をされているので、「そこを言われても……」となるわけですよね。人類学者の仕事はまさに「そこを言われても……」という仕事をやることなのですが(笑)。
松村:例えばいろんな労働を考えた時に、お金がもらえるか、もらえないかという軸が当然あります。あとで説明しますが、物事を作り出すことと、何かをメンテナンスするという軸があるんです。メンテナンスする軸を「ケア」と一応(スライドに)書いています。
作り出すのはすごくわかりやすいです。「車を作ります」「製品を開発して売ります」「ケーキを作って売ります」とか、何か新しいものが作られて、誰かが買ってくれる。働いている感があるわけです。
でも、ケアはちょっと難しい。現状あるものをよりよくメンテナンスしながら使っていく、ちょっと壊れたものを直しながらうまく使っていくのは、仕事なのか、何なのかな。
例えば昨日、我が家の目覚まし時計がいきなり動かなくなったので、私がよくわからないなりにドライバーで分解して直していました。これは当然、時計屋さんで修理してもらうとサービスとしてお金(対価)を払うことになりますが、「時計屋さんでお金を払うくらいだったら、買ったほうが安くなるよな」とか思いながら私が適当にぱかっと開けて針を押したら直ったんですけど、「これは仕事なんですか?」ということです。
誰もお金は払ってくれません。でも、やっていることは壊れた時計を修理して使い続けるということです。子どもを育てることなどもわかりやすいと思います。子どもを育てるのは職業にもなるけど、家庭内では仕事というよりも生活の一部というか、仕事とはちょっと違うものとして語られるかもしれません。
老人介護になると、専門の施設で介護する場合と家庭内でケアする場合で同じことをやっているのに、一方は仕事っぽいし、一方は労働というよりは親に対する愛の領域だったりケアの領域とされてしまう。
松村:大学で私が教えていることも、本当に微妙です。先ほどの学生からの相談もどこまでが私の仕事なのか。学生から相談を受けても、例えば「1時間いくら払え」と言いませんよね。
でも、だから教育はどこまででも無限に拡張し得るし、有償か無償かよくわからない。私が今日ここにいるのも、有償か無償かよくわからないまま出ている(笑)。「お金をもらえるから出ている」ではなくて、「いったいこれは私にとって仕事なのか?」というのがよくわからないままいるわけです。
今朝、県内のある高校に呼ばれて、生徒さんの発表を聞いてコメントしましたが、お金をもらえるから行くわけじゃないんですよ。いろいろお世話になった地域の人との関係もあったからです。だから、私が大学で教えていることや教育、研究とか、切れ目がぜんぜんないんです。
どこからどこまでが私にとっての「働く」で、どこからがそうではないのかというのは、意外と難しい。バイトで料理を作ることと自宅で料理を作ることは行為としては一緒なのに、まさにこれも文脈が変わると労働っぽくなったり、労働っぽさがなくなったりする。
こういうことを考える1つの手掛かりとして、みなさんもよくご存知だと思いますが、今日はデヴィッド・グレーバーという人類学者の話を紹介しようと思います。残念ながら2020年に亡くなってしまいましたが、私も非常に影響を受けた人類学者で、彼の残している作品の中で「労働」は大きな問いなんです。
今日は2つ触れますが、1つは『負債論』です。本当に分厚い本ですが、なぜか最後に「労働」の話が出てきます。『ブルシット・ジョブ』は、まさにど真ん中に仕事の話があります。
松村:『負債論』の最後にどういう話が出てくるかと言うと、追加で書かれたあとがきの結びのエピソードに、グレーバーのシカゴ大学の時の指導教官でもあるマーシャル・サーリンズという人類学者が冗談でよく言う話が、けっこう長々と引用されているんです。宣教師が浜辺で寝そべっているサモア人を諭す場面で、(スライドに)そのまま全部書き出しています。
宣教師が「いったいなにをしているのかね! そうやってごろごろして、人生をムダにしちゃだめじゃないか」と言うと、サモア人が「どうしてだね? じゃあいったいなにをすればいいのかい?」と聞く。宣教師は「そら、ここには椰子の実が山ほどある。干して売ったらいい」と言う。
サモア人が「いったいぜんたい、なんでそんなことをしなきゃいけないんだ?」と聞くと、「おかねがたくさん手に入るではないか。そのおかねで干し機を買えば、もっと手早く干し椰子の実が作れるし、そうすればもっとおかねももうかるのだ」と。
「なるほど。でも、どうしておかねをもうけなきゃいけないんだい?」「おかねもちになれるではないか。それで土地を買って、木をたくさん植えて、事業を広げればいい。その頃には、きみはもう働かなくてよくなっているのだ。たくさん人を雇ってやらせればいい」「でも、どうしておかねもちになって、そういうことをひとにやらせなきゃいけないんだい?」
「ううむ、椰子の実と土地と機械と雇い人ともうけたおかねで、おかねもちになったら、引退できるではないか。そうすれば、もうなにもする必要はない。一日中、きみは浜辺で寝ていられるのだ」
「いや、もう一日中寝ていますけど」というオチなんです。これは冗談なのですが、ある研究会でこの部分を紹介したら、サモアを研究している方から「サモア人は浜辺でごろごろしていません!」とお叱りを受けました(笑)。
それで今日、浜辺っぽい写真ということで、エチオピアの湖べりで子どもたちが遊んでいるんだか働いているんだかわからないところを撮った写真を背景画像に持ってきました。
このエピソードは架空の話ですが、グレーバーがなぜこれを最後に持ってきたのか。ここにはけっこう重要なメッセージがあるし、考えるべき問いが隠されている。その1つは、「いったいなぜ、何のために私たちは働いているのだろうか?」ということです。
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