2024.12.10
“放置系”なのにサイバー攻撃を監視・検知、「統合ログ管理ツール」とは 最先端のログ管理体制を実現する方法
株式会社Lightblue Technology代表取締役 園田 亜斗夢氏(全1記事)
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アマテラス:はじめに生い立ちからうかがいたいと思います。どんな少年時代を過ごされていましたか。
園田亜斗夢氏(以下、園田):子どもの頃の思い出は、宮崎県えびの市で祖父が林業を経営していて、そこによく行ったことです。祖父は私をとてもかわいがってくれ、よく山に連れていってくれました。
Lightblue Technologyがミッションとして掲げる「先端技術を応用し、労働環境を向上させる」にも関連するのですが、山で働いている人たちや祖母・母は「雨が降ると心配だね」とよく話していました。
「東京で雨が降る」との天気予報なら、折りたたみの傘を持って家を出ようかと考える程度で、特に身の危険を感じることはないでしょう。
しかし、山で働く人にとっては、足場が悪くなって斜面を滑り落ちる危険や、土砂崩れなどの命にかかわる事故が発生することもあります。九州なので台風の接近や上陸も多く、天候の悪化が労働災害に結びつきやすい環境でもあります。
地方では、昔も今もテクノロジーの活用が進んでいるわけではありません。コロナ禍でもリモートワークしている人は少なく、地方ではデジタルの恩恵が浸透していないと強く感じています。そこでLightblue Technologyは、そのギャップを解消して解決を目指すというミッションを掲げました。
アマテラス:小学校から大学時代にはどんなことをされていたのでしょうか。
園田:小学校5年生から北海道で暮らし始めました。そこから高校を卒業するまでの8年間、ずっと乗馬に明け暮れる生活でした。「乗馬」というと東京ではハイソなイメージがあるようですが、私がいたのは北海道の小さな牧場や地域の乗馬クラブで、ハイソなものではありません。
朝は午前4時半に起きて、厩舎の掃除と馬の世話をするために自転車で30分かけて乗馬クラブに通っていました。馬の世話が終わると乗馬の練習をし、午前7時くらいに家に帰ってシャワーを浴び、朝ごはんを食べて学校に行く生活でした。
中学2年生の頃には、牧場に住み込みで馬の世話をし、乗馬の練習をしました。冬はマイナス20度にも冷え込む厳しい環境でしたが、「乗馬がうまくなりたい」との一心で住み込みを決意しました。その牧場の方には今も感謝しています。
アマテラス:乗馬にのめり込んだ中高生時代を経て、東京大学へ進もうと考えたのはなぜですか。
園田:僕は4人兄弟の長男なので、最初は仕送りをもらわなくても通える大学に行こうと、地元で医学部への進学を考えていました。地方大学の医学部は国立でも推薦制度がありましたし、地方では医師不足も深刻なので奨学金も充実していたからです。
しかし、高校3年生で乗馬をやめる時になって、「このまま北海道にいるのはどうなのか」との考えが頭をもたげました。
地元でなければ「東京に行ってみたい」と思いましたが、親に仕送りしてもらわねばなりません。そこで、喜んで仕送りしてもらうためにも「東大に行くのがベストだろう」と考えたのです。そして、幸いにも東大工学部に合格できました。
アマテラス:大学ではどのような学生生活を送っていましたか。
園田:大学に入学した2013年は、「アベノミクス」を背景に景気が良い時期でした。景気が良いと、学生もアルバイトよりも部活に力を入れるようになるらしく、周りにもクラブ活動をする人が多かったです。僕はヨット部に入りました。
東大のヨット部は多くが大学から始めるのでレギュラーを目指せますし、ヨットという道具を使って自分の力をレバレッジ(てこ入れ)できる点がいいとも考えました。馬に乗ることで、人間が不可能な速さで走れ、高いジャンプも可能になるのと同様に、ヨットはうまく操れば海の上を滑ることができます。
アマテラス:その後、大学4年生ごろからプログラミングを始められたとのことですが、きっかけは何だったのでしょうか。
園田:入学した頃、データサイエンスやクラウドが流行し始めました。そして、その2年後にはAI(人工知能)がいろんな場面で語られるようになりました。そこで、「それならAIをやってみよう」とデータ解析や機械学習を学べる研究室を選んだのです。
しかし、ヨットばかりやっていたので、プログラミングに関してはぜんぜん手をつけていませんでした。卒論をまとめる時期になって気づくと、周りはプログラミングに習熟していたのに、僕はできません。
卒論はなんとか完成させましたが、指導教官の先生が僕の卒論テーマに関する書籍の出版にあたり、1章分を任せてもらえました。そこで、「恥ずかしいものは残せないぞ」と考え、プログラミングの学習に注力しました。
卒論を終えた後の2月〜4月には、1日12〜13時間をプログラミングや機械学習の独学に充てました。そして修士1年の5月ごろから、研究室の先輩の会社で業務委託という形でプログラミングの仕事を請け負い始めました。4人兄弟の長男ということもあり、「博士課程までは仕送りに頼れないな」と思っていたからです。
アマテラス:大学院時代から今の起業へとつながっていったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
園田:研究室の先生からの紹介で、エンジェル投資家の方と一緒に米シリコンバレーへ行く機会がありました。そこで会ったのが、イグジット経験済みのスタートアップ創業者や投資家などの方々でした。
彼らは日本では全く見たことのない最先端のデバイスを使っていたり、「地球環境のため」といってテスラに乗っていたりと、視座の高さを感じました。かっこいいし、うらやましいと強く惹かれました。
一方でお金を稼ぐ必要もあったので、業務委託よりは自分で事業をやったほうが効率もいいだろう、と考えるようになっていました。そのタイミングで友人に誘われたこともあり、2018年1月に共同でAIビジネスマッチングのサイト「Business Hub」を立ち上げて起業しました。
やってみて実感したのは、新規顧客開拓などは大変だけれども、「想像以上におもしろい」というワクワクした高揚感でした。当時はAIのスタートアップがまだ少なく、僕らのような小さな会社でも、営業で大手企業に出向くと社長や役員クラスが出てくることが多くありました。
東大生が就職活動して入るような企業の、偉い人たちが面会してくれるのです。修士の学生にとって、この体験は非常に刺激的でした。
園田:東大から外資系コンサルティング会社に入る学生は、就活セミナーなどで「コンサルタントは若い頃からハイレイヤー(役員クラス)の人たちと働けます」とアピールされるそうです。しかし、「自分で会社をやっていても、経営レベルの事業に携わるチャンスがある」と思いました。
また、林業経営をしていた祖父のこともあり、「いつかは自分で事業をやってみたい」という思いもありました。40歳くらいで起業するイメージを元々持っていましたが、修士課程在籍中も世の中は景気が良かったこともあり、1年経った頃には「自分でやってみよう」という気になっていました。
アマテラス:起業を意思決定できる人はなかなか少ないのが実情です。園田さんが起業に踏み切れたのは、何が大きかったのでしょうか。
園田:最初の友人との起業は「誘われたのでやってみるか」という感じでしたが、1年やってみて「学生時代だけではなく、ずっと自分で事業をやっていこう」と決意しました。
第一には、「稼がなきゃならない」という思いがあったことだと思います。共同創業した友人は、「稼ぎたい」というより「何かおもしろいことをやりたい」という意識が強かったようです。
起業して1年が経ってもサービスが伸び悩んでいたため、友人から「会社をやめたい」と言われました。「会社を畳む」という選択肢もありましたが、既存のお客様も何社かあり、「サービスを使い続けたい」と言っていただきました。ありがたいことに仕事を増やして応援してくれるお客様もありました。
園田:また、友人の働きかけから出資していただいた企業も「仮に友人が辞めても、資本を引き上げることはしない」と言ってくれたのです。
そして、当時10人ほどのインターン生がいましたが、友人と一緒に去ろうとするインターンは一人もいませんでした。むしろ、彼らがこの会社の将来性に魅力を感じていることも伝わってきていたので、「こうなったら続けるしかない」と背中を押してもらった気がします。
アマテラス:創業当初はお金の苦労をする起業家も多いのですが、園田さんは資金面で危機的な経験はありましたか。
園田氏:幸いなことに、運転資金などで危機的な状況になったことはありませんでした。多くのお客様に利用していただき売上自体は立っています。また、初期はインターン生だけでしたので人件費の負担もそれほど大きくなく、マンションの1室で創業したので家賃も負担ではなかったのです。
今後は、事業を拡大していくための資本をどうするか。当社の事業はSaaS化を進めている最中であり、単にプロジェクトをこなしていくだけではキャッシュフローの拡大には限界があります。今は、それを打開するための手を打ち始めています。
アマテラス:学生創業では、当初は信用がないこともネックになりますが、「信用の壁」で苦労した経験はありましたか。
園田:「大きい会社の仕事を取るためだ」といって、今だったら確実に断るような案件でたくさんのタダ働きをしてしまったことがありました。起業初期にコミュニケーションを取っていたお客様には「頼めば何でもやる」というイメージで見られていたかもしれません。信用の有無というよりも、知識がなかったゆえの悩みでしたね。
お客様の都合によってデータ取得が遅れてプロジェクトが進まなくなったのに、未払いに甘んじてしまった苦い経験もありました。「大人や大企業は正しいだろう」と思い込み、仕方ないと考えてしまったのです。今思えば、おかしいことなのですが。
アマテラス:その状況が変わった転換点は、何かありましたか。
園田氏:初期の「信用の支え」という面では、鳥海不二夫先生(東京大学工学系研究科教授)に顧問になっていただいたことが大きかったと思います。技術的な部分もそうですが、後ろ盾があることで顧客企業にも安心してもらえた面があります。
現在はビジネス経験豊かで、力量のある社員が参画して支えてくれています。彼らが新規のお客様や案件について、信用面の問題などを見極めています。そうした体制になっていく中で、「学生創業の会社」とは見られなくなりました。
アマテラス:「事業拡大の壁」を感じて、苦労した経験は何かありましたか。また、東大発のAIスタートアップがたくさん生まれて競合も増えています。今後は事業をどのように伸ばしていくのでしょうか。
園田:建設現場でAIによる画像処理技術を駆使して、「労災をなくす」ためのサービスを売っていくことを考えてきました。例えば、大手ゼネコンは建設現場で様々な安全管理システムを使っていますが、「価格や供給力の点でLightblue Technologyのサービスは他社より優れていますね」と評価していただける機会が増えています。
他方で、「労災を減らす」ためにコストをかけられる建設業者がどれだけいるかという問題があります。建設業者も労災は当然減らしたいのですが、労災削減に対して建設作業員1人あたり月10万円を負担できるかというと難しい。同じ10万円を支出するなら「作業員の給料を増やしたい」と考える経営者が多いからです。
「事業者がコストを支払う意義」を見出しにくい今の状況をどう打開していき、売りやすくなる認定をどう取っていくかという「壁」ですね。
祖父が林業の経営者で、雨の日に山で作業するのは命懸けになるから、「技術を使って労災を減らしたい」と考えたと最初に話しました。ただ、林業はマーケットサイズは大きくなく、また古い産業でもあるため、AIで労災を減らすシステムはすぐには浸透しにくいでしょう。
まずは、多くの人が集まる場所で「ヒューマンセンシングによる人の映像解析」のような分野なら、価値を最大化できる可能性が高い。そこで2021年からは駅のプロジェクトを、2022年に入ってからは空港のプロジェクトを手掛けてきました。
このほか、店舗数の多い飲食店などの業界で技術を磨くのもスケールメリットが出せると見ています。そうして労災削減へ管理コストが支払える業界や分野への進出を急ぎたいと思います。
園田:一方で、「林業」のような産業でも使えるようにしたい。現在は、自社で研究開発してきた映像解析装置と、その設置施工費などを全部含めて1つのシステムとして導入できるようにしました。これはランニングコストが月額6万〜10万円ほどで、競合しているサービスと同等の価値があると評価していただいています。
この価格を、半分の月額3万円程度に抑えたいというのが今の目標です。そうすれば、今まで導入できていない事業者にも使ってもらえるのではないか。市場シェアを獲得していくことよりも、今は市場の裾野をもっと広げるための施策を打ちたいと考えています。
それは僕たちの「デジタルの恩恵を全ての人に届ける」というミッションにも合致します。なるべく広い分野で使ってもらえる価格帯にすることに今まさに取り組んでいるところです。
アマテラス:今後についてLightblue Technologyとしてどのような目標をお持ちですか。園田氏:東大のAIスタートアップは、アルゴリズムの精度を高めていく研究をして「新記録を達成した」ことをアピールする、サイエンス寄りの会社が多い面があります。しかし、Lightblue Technologyは工学部発で、あくまでもエンジニアリング=人間の役に立つもので世の中を変えていくことが信念です。
林業の会社でも使えるようなモノやサービスを創造していくこと、利用しやすい価格帯の追求も含めて幅広い人に使ってもらうことを追求するのが当社のカルチャーです。
長期ビジョンとして「デジタルの恩恵を届ける」「労災を減らす」という目標を実現するため、短期では「事故を減らせることを示せたら補助金がもらえますよ」「保険料が安くなりますよ」などの点も、事業経営者に訴求することが重要な目標になってくるでしょう。
そのために人材をどう集め、どう育てるかが重要な取り組みになります。特に、「ビジネスを生み出す」ために、お客様の経営に「こういう成果が出せる」や「メリットを最大化できる」という発想や思考を持つエンジニアが活躍できるフェーズに入ったと思います。
アマテラス:2022年の今、Lightblue Technologyに参画する魅力や、働きがいとは何でしょうか。
園田:当社の社風として、思いやりがあり、自分への見返りよりも利他の精神でお互いをサポートしていくようなカルチャーがあります。そこに魅力を感じて入社してくれる人が増えていますので、良い循環が起こっているなと感じています。
また、みんなが顔を合わせて話し合えるように、エンジニアの出社日を月2回設定しています。これも雨が降ったり、猛暑日になったりして出社が大変になりそうなら、臨機応変に延期する対応をしています。
会社としては「効率的に意思決定する」ことを目指し、徹底しています。こうした効率的で柔軟な意思決定ができないと、大企業を含む多くのライバルとの競争に勝てないとも感じています。この価値観に共感してもらえる人には働きやすい場所になると思います。
当社に参画するタイミングでいえば、今は良い時期で、今後1年間で社員数を倍増したいと考えています。というのも現在、多くの企業がDX化をコストではなく「未来のための投資」だと考えるようになり、足元では事業部レベルでDX予算を増やそうとしています。
当社が受注できるパイも拡大している時期なので、顧客のメリットを最大化する発想で、仕事をどんどん生み出せる人材が活躍できるタイミングだと思います。
当社は採用までの選考プロセスをとても長くとっています。面接後に数理テストやコーディングテストを受けてもらい、その後に「1日インターン」も体験していただきます。これはスキルセットを確かめるというより、「コミュニケーションスタイル」を確認させてもらうのが狙いです。
丸1日体験いただくのでメンターの社員をつけるのですが、そのメンターとのコミュニケーションや、何かを発表する時の態度などを確認したいからです。
入社を希望する人も1日かけて何人もの社員と話せるので、「入ったらこういう人たちと働くのか」と理解してもらえます。選考過程は長いですが、入社してからのギャップは少ない、というメリットがあると確信しています。
アマテラス:本日は貴重なお話をありがとうございました。
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