DXの文脈でも求められるようになったデータ活用

堅田洋資氏:「データを活用しよう」ということが、最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈でも、わりと言われはじめているなと思っています。

私が2017年に会社を創業した後はもちろん、それ以前から行ってきたデータ分析のお仕事の中で、思ったことがいろいろとありました。その実体験を踏まえながら、本日はお話しさせていただきます。

まずはじめに自己紹介をいたしますと、アメリカのお菓子メーカー・マースに新卒で入社したのがキャリアのスタートで、2年ほど財務とマーケティングの業務に携わっていました。と言っても下っ端の仕事でしたので、やっているうちには入らないかなと思っています。その後、KPMG FASという会社で事業再生の仕事を4年ほど行っておりました。

財務やマーケティングといったビジネス寄りの仕事をしてきたのですが、もともとデータ分析について勉強していたこともあって、その後に思い立ってアメリカに留学しました。それからデータ分析を仕事としてやり始めました。

なので、私自身はデータ分析だけをやってきたわけではありません。10年近く続けているデータ分析の経験と、ビジネスでの経験の両方を交えながら、今日はお話ができればと思います。

続いてデータミックスという会社について紹介させていただきます。データミックスのビジョンとして、我々は「オープンラボ」という言葉を大事にしています。今日ご参加いただいているみなさんも、このオープンラボの一員だと思っています。データサイエンスを使って、いろんな課題を発見したり解決したりできる社会を目指している会社です。

弊社の主力のサービスは、データサイエンティストの育成スクールです。今日はあまり細かいお話はしませんけれども、約7ヶ月間のコースを実施しています。その手前には、スキルを獲得するための入門コースもあり、こちらはたくさんの社会人の方が受講されています。

我々はビジネス課題の発見や解決を大事にしています。なので、特定のエンジニアリング能力を教えているわけではありません。

(スライドを指して)卒業生たちの課題の一部を持ってきました。未経験で始めた方でも、7ヶ月間の学習をすることで、自分でAIのモデルをつくったり、自分でデータを集めてきて分析したりできるようになっています。そうした方が数多くいらっしゃいまして、卒業生の活躍が私にとって一番の励みになっています。入学者はこれまでに900名ほどいまして、ほとんどが社会人の方です。

あと、これは私たちが「ビジネスでの適応」を強く言っているからだと思うんですけれども、ビジネス系の職種の方が未経験から入学されるケースが多いのが特徴です。本日は割愛しますが、こういったカリキュラムは法人様にも提供しているということで、ご紹介だけさせていただきます。

レンタルビデオ屋が次々と消えていったのはなぜ?

それでは本題に入りましょう。そもそも「なぜこんなにデータの活用が求められているのか」というところから話をスタートしていきます。

最近レンタルビデオ屋さんに行ったよという方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか。オフラインイベントであれば手を挙げていただきたいところではあるんですが、今日は心の中で手を挙げてもらえればと思います。

あと、紙の新聞を読んでいる方はどのくらいでしょうか。これはけっこういらっしゃると思いますね。2006年を100としたときに、今はそれぞれどのくらいの数字になるか、気になってちょっと調べてみました。

すると、レンタルビデオ屋さんはだいたい半分くらいに、新聞発行部数は75パーセントくらいまで減っていることがわかりました。近くにあったレンタルビデオ屋さんが最近無くなったなという感覚って、みなさんにもあると思います。私の近所にあったお店も無くなっちゃいました。

新聞も、一昔前には電車内で読んでいる人がけっこういたと思うんですが、最近は見かけませんね。この20年弱の間に、iPhoneのようなスマートフォンが生まれ、HuluやNetflixなどの動画ストリーミングサービスが出てきました。ボタンを押せば情報が入ってくる、記事が読める、動画を見られる時代になったというのは、みなさんも感じていると思います。

ただ、こうやってデータを調べてみると、やっぱり衝撃的な数字だと思うんですよね。何が言いたいかというと、この10年や20年のうちにデジタル技術を使った新しいサービスが出てきたことによって、これまで順調にいっていたビジネスにも、大きな変化が求められたということです。今は変化の曲がり角に来ているということなんですね。

デジタルディスラプターが提供している3つの価値

この現象を「デジタルディスラプターによる破壊的創造」みたいな言い方をする人もいます。

とある本に書いてあったので抜粋して持ってきました。このデジタルディスラプターとは何者かというと、先ほどのNetflixがまさにそうですね。デジタル技術を使って、これまでとは違ったやり方、違ったサービス提供を行う会社をデジタルディスラプターと言います。

この人たちはいったいどんな価値を提供しているんでしょうか。価値というとちょっと抽象的ですが、サービスの利用者たちにとってどんなうれしいことがあるのかを考えるときに、マイケル・ウェイドという先生はこのように整理しています。

まずはコストバリュー。たしかに安いですね。Netflixは今、1ヶ月1,000円ちょっとくらいですかね。これが高いか安いかは微妙な線ですけれども、たくさん映画を見る人にとっては安いでしょう。

続いてエクスペリエンスバリュー。これは日本語だと体験価値と言われています。後でUberの話をしますけれども、お客さんの体験として、これまでリアルではできなかった価値が出せるということです。

最後がネットワークバリュー。人と人とがデジタル上でつながることによって実現できる価値と、マイケル・ウェイド先生は述べています。

タクシーの当たり前を変えたUber

Uberを例に挙げますと、これはつまりタクシーですよね。日本ではあまり使われていないかもしれません。アメリカに留学していたときにタクシーに乗って思ったのは、概して「超きれいな車じゃないよな」ということでした。

運転手さんもなんかちょっと怖くて、行き先を告げても「は?」みたいな感じだし、イヤだなということで、私のような外国人からすると使うハードルがやや高いなと感じていました。

それと比べて、Uberは、まず安いんですよね。事前にどこからどこへ行きたいかを言っておけるので、金額もはっきりしている。あと、ドライバーに対して格付けができる。例えばドライバーが全然言うことを聞いてくれなかったとか、指定した場所と違うところに行ってしまったとか、ある種のクレームや主張もアプリで簡単にできる。ドライバー側は、空き時間に副業できるチャンスが生まれる。

このUberとタクシーの例をとっても、デジタル技術によって、これまでできなかったことができるようになったというのは感じられると思います。同じようなことは、あらゆる業界で起きています。

こういった技術によって新しい価値を提供しようとしているのはベンチャー企業だけでなく、大企業でもデジタル技術を使った新しいサービスをつくっているところはあります。それと既存のビジネスを行っている産業が対決している、と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、これまでのやり方では問題があると感じているからDXが必要だと言っている。そんな背景があります。

つまり、これまでとは違ったビジネスのやり方をしてくる会社が出てきているから、既存産業側もなにか新しいことで対抗しなければならない。そのためにDXが必要だという話です。

AIやRPAの導入は手段でしかない

これをもう少し整理してお話しします。ちょっと文字の多いスライドで申し訳ないんですけど、上がデジタルトランスフォーメーションのWikipedia、下が経産省の「DX推進ガイドライン」の抜粋です。

ここで太文字にしているところがキーワードかなと思っています。これを図解するとどうなるかが次のスライドです。

DXというと「AIやRPAを入れましょう」みたいな話になりがちです。それはもちろん否定されるものじゃないんですけれども、最終的にやらなきゃいけないのは、NetflixやAmazonといったデジタルディスラプターにどう対抗するのか、またはどう共存していくのかを考えないといけないということですね。

そのためには、自分たちの組織と業務のやり方も変えなければいけない。その文脈でAIやRPAを入れて自動化しましょうとか、生産性を上げましょうといった議論はもちろんあります。

でもそれだけじゃなくて、業務を変えて、組織を変えて、企業風土まで変えて、データや技術を使えるように組織や社員を変革させていくことによって、最終的に製品やサービス、ビジネスモデルまで変えていきましょうというのが、DXのよく言われている内容です。

DXの本丸は「データ」にある

これをさらに整理してみます。横軸は変化が大きいかどうか。縦軸は今のビジネスと関連が深いかどうかです。深いということは、既存のビジネスに近いということですね。逆に浅い方は新規のビジネスだということです。

もちろん右上の、既存ビジネスと関連があって変化が大きいDXを行いたいと、経営者は思っているでしょう。ただ、なかなか一足飛びには行けないので、右下のデジタル新規事業をやってみたり、左上のデータドリブンな業務改善や意思決定の高度化を図っていったりしながら、なんとか右上を目指そうという流れがあると思います。

私はデータ分析屋さんなので、これをデータ分析の切り口で見てみます。すると、このように捉えることができます。右下は、いわゆるAIを使ったサービスの開発です。左上は課題発見や解決型のデータ分析で、これをデータアナリティクスと呼んでいる人もいますけれども、つまりはデータ分析ということです。

この種類分けについては後々お話ししますけれども、ここで大事なのは、どちらの道を選ぼうとしても、データがないとDXの本丸にはたどりつけないということです。それはわかってるけど、なかなか進まないと。これは弊社のお客さんもそうですし、弊社自身もそうかもしれない。そんな簡単に進むわけじゃないんですね。

適切な問いがなければ、データを分析する意味がない

これは、よく見かけるデータ分析の失敗例です。

かなり極端に書いてあるので、データ分析をやっているオーディエンスの方の気を悪くしたらすみません。

まずビジネス側の担当者が「データはあるから、何かやってよ」と言ってくる。分析側が「いやいやそんな、データ分析芸人じゃないんだから…」みたいな感じになりますよね。そこで「何か課題があるんですか?」と問いかけると「そんなのないよ、適当に考えて」と返ってくる。

そうなると、もう困っちゃうんですね。何を分析して、何をアウトプットしていいのかわからない。自分なりに考えて分析したものが、必ずしもビジネス側の人が求めているものにはならないというわけです。

他にもあります。販促キャンペーン系で、データがちょっと溜まってくるとなりがちなケースです。ビジネス側の担当者から「販促キャンペーンやったけど、結果はどうだった?」と問われ、「これ、成功・失敗ってどうやって決めたらいいですか?」と聞くと「それも考えてもらえる?」と言われる。

これほどの丸投げは極端にひどい例ですけど、こうなっちゃうと顛末は先ほどと同じです。

つまり、データ分析官の腕前がどうかという以前の問題です。データ分析官がいれば、データサイエンティストがいればなんとかなるって話じゃない。

何が大事かという質問に対して、私は「問い」という言葉をよく使います。ビジネス側の人たちが解決したい問い、もしくは知りたいと思っていることと、データで導けることの両方を併せ持ったもの。それをチームや組織で共有していくことが、データドリブンの最初の一歩だと思います。

細かいデータ分析をやっていてもなかなか価値にはつながらないですし、ビジネス側からしても「何やってんだろうね、あのデータサイエンティストのチームは」という感じになってしまいます。

「問いの価値の総量」こそが、データ活用における組織的な価値

この「問いの共有化」、そして「データで解ける問いとはどういうものか」を理解していくことが、今日お話ししたいことの骨格になっているところです。

データがあるから分析するのではなく、問いを立ててからデータを集めて分析していき、その構造に対して仮説を立てる。そういうサイクルをクルクル回していくのが大事だということです。

今日のテーマとしては、それを組織でどう活用するかです。こちらのスライドで、少し構造化してみました。

データを活用していくことの組織的な価値は、「組織から生み出される問いの価値の総量」だと思っています。問いの価値の測り方には、質もあれば量もある。総量というのは質と量の掛け算です。

では、良質な問いを立てるには何が必要でしょうか。解決したいことが本当に解決でき得るか、知りたいことが本当に知り得るかどうかは、データそのものと分析する技術が必要です。

問いの量のほうはどうでしょう。今日もし上位職の方がいらっしゃったら、データを活用する文化をつくることと、民主化を進めるということを、ぜひやってほしいです。

この4つのファクターと呼んでいる「データ」「データ分析技術」「データを活用する文化」「民主化の度合い」ついてお話をしていくというのが、今日の大きな方向性です。