クマは冬眠中に出産をする

ハンク・グリーン氏:クマは、食料が不足する冬季に、エネルギーを温存してさまざまな活動を休止します。これには摂食・排糞・排尿などの大切な身体活動も含まれます。しかしクマは、長いお昼寝のためにエネルギーを温存しているわけではありません。実はクマは、冬眠中に出産します。そうなんです、なんとクマは、冬の巣ごもり中に赤ちゃんを生むのです。

一見すると冬は、子どもを生むには一年の中でももっとも厳しい時期に思われます。狭い巣穴で身動きが取れない状況であることを考えるとなおさらです。ではなぜ、そしてどのようにして、クマは子どもを生むのでしょうか。

「冬眠」とは、クマをはじめとする恒温動物の多くが取る、一年のうち数か月間に渡り活動を休止させる状態です。しかし冬眠の生理状態は、誤って認識されているような「寒い時期に長期間眠る」状態ではありません。

冬眠とは、長期間維持される「トーパー (Torpor:鈍麻状態)」のことです。生存が厳しい環境下で発生する、食料の乏しい期間に活動を停止させる状態です。

トーパーの間、動物の代謝や呼吸、心拍、体温は低下します。トーパーが日周期(デイリートーパー)や、数日・数週間・数か月周期で起こる動物もいます。一定期間以上続くトーパーが「冬眠」なのです。

リスなどの冬眠する小動物の体温が0度近くまで低下するのに対し、クマの体温はわずか数度程度しか低下しません。そのため、クマを「スーパーハイバーネーター(super hibernator:卓越した冬眠を行う動物)」と呼ぶ研究者もいます。

体温降下度が小さいため、外敵に襲われてもすぐに覚醒します。見た目はぐっすり眠っているようであっても、外界からの刺激は知覚しているのです。

2011年に発表された論文では、研究者たちが冬眠中のアメリカクロクマの巣に近づいたところ、心拍が上昇することが報告されました。これは、冬眠中のアメリカクロクマが、外界の敵を知覚できることを示しています。

また、妊娠したアメリカクロクマの心拍は、妊娠月数が進むにつれ上昇することがわかりました。さらに、仔グマを出産した後には、あまり身動きをしなくなることも判明しました。これは、誤って仔グマを下敷きにすることを防ぐためだと考えられています。

生まれたばかりの仔グマは、暖かさと母乳の恒常的な補給のみで生きられることもわかりました。つまり、母グマが冬眠に入る前に適切な準備を整えていれば、母グマと仔グマ双方が生き延びることができるのです。

ヒグマは、十分に脂肪を蓄えないと妊娠できない

これにはまず、冬眠中の数か月を生き延びるための膨大な脂肪を蓄える必要があります。クマの体は、エサと水の代わりに、蓄えた脂肪をゆっくりと代謝します。さらにはなんと、排泄物をタンパク質に変えて、筋肉の維持や中枢器官の活動源として使います。

雌クマの妊娠は、脂肪の貯蓄と密接な関係性にあります。クマは、適切な条件が達成されるまで妊娠を遅らせること(着床遅延)ができる、稀な哺乳類です。春から初夏にかけての交尾後、受精卵はしばらく漂い続け、秋になると子宮壁に着床します。ただし、着床できるのは十分に脂肪を蓄えられた場合だけです。

例えばヒグマは、交尾しても体脂肪が20パーセントに満たなければ、妊娠することはありません。雌グマは、自分自身と仔グマの生命維持に脂肪を使う必要があります。そのためこれ(妊娠できない現象)は、十分にエネルギーを蓄えることができなかった場合の過分なエネルギー消費を防ぐ、雌グマを守るための進化だと考えられています。

つまり、食料がもっとも乏しい数か月に、これほどの長さの妊娠期間を経るのは不思議ですが、納得できる理由もあるのです。また、このような戦略を取ることにより、クマは出産を(他の動物に)妨げられることなく、もっとも食料が豊富な時期に摂食を続けることができます。さらに、もっとも脆弱で外敵に狙われやすい時期の赤ん坊を、巣穴の中で守ることができます。

初めて空を見上げる仔グマたちを連れて巣穴から出てくるクマは、巣穴の中でのんびりと寝ていたわけではありません。クマの親子が無事に外界に出るまでには、入念な準備と膨大なエネルギーとが必要なのです。