スコットランドに存在する一直線上の渓谷
ステファン・チン氏:スコットランドの地図を見ると、一方の海岸から他方の海岸にかけて、ほぼ一直線の渓谷が通っていることに気が付きます。
スコットランドは起伏に富んだ地形ですが、不思議なことにこの渓谷は直線です。過去に、何かしらの興味深い地質学的イベントが発生したに違いありません。しかも、それは一回限りではなかったようです。
5億2千万年前、地球上の陸塊は、その大部分がローレンシア大陸とゴンドワナ大陸の2大陸に分かれました。この時、現在のグレートブリテン島にあたる部分が分裂し、スコットランド北部がローレンシア大陸に、残り半分の南部がゴンドワナ大陸の一部となりました。
4億3万年前のカレドニア造山運動期にこの2大陸が衝突し、この衝突によって2つの部分がくっついて、現在の私たちが知るグレートブリテン島の元となったのです。
プレートのずれによって生じる「横ずれ断層」
その過程で地殻にしわや歪みが生じ、地球上のあらゆる場所で新たに山や断層が作られました。こうして新たにできた断層の1つが、「横ずれ断層」であるスコットランドのグレート・グレン断層です。
横ずれ断層とは、2つの構造プレートがずれたり、水平方向にすれ違って生じたものです。断層運動は、他にも片方の断層が垂直方向に動くもの(縦ずれ断層)があり、断層上に山脈などの隆起した地形を形成します。
造山運動で2つのプレートが衝突し、グレートグレン断層の両岩盤は水平に移動しました。断層の形成過程において、このような運動は何回か繰り返されました。グレートグレン断層は幾度か活動し、ローレンシアとゴンドワナの両大陸は、そのたびに8キロから29キロメートル程度動きました。断層は、蓄積された歪みのストレスを、時折このような形で放出します。
直線上の断層は、地球が形作られた証拠
2つのプレートが衝突し合って圧力が加わると、歪みのストレスが生じ、それが限界に達するとプレートはずれて互いに逆方向へ動き、蓄積されたストレスを放出します。最大の活動が起きたのは6,600万年くらい前と比較的最近で、付近の別の地殻プレートが引き裂かれる運動により引き起こされたものと考えられます。
このような直線状の線があまり見られないのはなぜでしょうか。現在のグレートグレン断層は、「ロッホ」と呼ばれる湖が点々と連なり、視認しやすくなっています。これは、イギリスとアイルランドの諸島の大部分が、過去何万年かの間にたびたび起こった氷河期に巨大な氷床に覆われていたためです。
また、グレートグレン断層付近の氷河は約1万年前に後退をはじめ、断層線上に海水面位より深い渓谷を刻み込みました。そのため、スコットランドを貫く直線がより目につきやすくなったのです。
つまり、この直線状の断層は、5000万年もの歳月と地殻変動の産物であり、今日の私たちが目にする地球を形作った大スケールのイベントの証拠なのです。