2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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橋口幸生氏(以下、橋口):今、映画とかで「伏線回収」みたいなのがものすごくありがたがられるんですけど、一方でむちゃくちゃ難しい本が売れたりするじゃないですか。『ホモ・デウス』とか『人新世の「資本論」』とか。
あれって、いわゆる伏線回収の反動から来ていると、僕は勝手に思ってるんですよね。文化全体にそういう揺り戻しが来ているので、広告の世界でも、これからルネッサンスのようなことが起きてくるのかなと思って、お話を聞いていました。
辻愛沙子氏(以下、辻):確かにそうですね。よく、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」と書いてたりするんですが、それも相反するものじゃなくて。ベン図みたいになっていて交わる部分があって、極論を言うとこの交わるところが、仕事としては一番渇望している領域という感覚なんです。
世界観は、まさに表現として自分の情緒で作っていきたいもの。これも必ずしも二項対立じゃないんですが、思想はもう少し言語的に届けていきたいもの。なのであえて言うならば、ファインアートとデザインの違いなのかもしれないですが。
辻:私の中で言うと、世界観はただ「だってそれがいいじゃん」という(情緒的な)世界だったりするんですね。
商業施設の内装の仕事とかもやらせていただいたりするんですが、そういうもので言うと、もちろん「空間の設計としてどうあるべきか」という左脳的なところから始まりますが、最後の「床材はどっちがいいか」「照明の明るさをどうするのか」ということって、ものすごく非言語的で。「だってそのほうが美しいと思う」という、ただそれに尽きるんですが。
一方で思想的な話で言うと、「表現としてこの文脈がどうあるべきか」「今の社会においてどういうメッセージを届けていくか」とか、まさに社会と企業の接着地点をめぐる作業だなと。
思想も前例踏襲で、「今までこうだったからこうあるべき」というのも、もちろんあるんですが。ゼロベースで、極端な話「差別のない社会」「戦争のない社会」「平和な社会」ということベースで考えていった結果、どちらかと言うと前例踏襲というより……「フューチャードリブン」という言葉をたまに使ったりするんですが。
これも有名な話だと思いますが、例えばAppleのイヤホンが白くなったのも、「イヤホンは黒いものである」というこれまでの当たり前を、「別にそうある必要ないから、白にしてみよう」という差別化としてやった逆張りかもしれないですが、「自分たちはこういうプロダクトを作ってるから白くしたくない? 以上」ということも、もしかしたらあるかもしれないですし。
そういう感覚的なものが、理詰めをしていった時に結果的に同じゴールに到達するということが、すごくある気がしていて。
なので、前例踏襲ではない「社会はこうあってほしい。こうあるべき。そのためにこのメッセージが必要」という、打ち手としては逆算なんですが、未来や理想、パーパスから考えていくことが、思想のすごく大事な部分の1個なので。
どこからこの話が始まったのか、ちょっと回収しきれなくなってきたんですけど(笑)。この2つの軸をすごく大事にしたいなと思っています。
辻:きっと思想もすごく左脳的に思えるかもしれないですが。「続けても意味ないと思われるかもしれないけど、ジェンダー平等が訪れた社会が来ることを目指して一歩ずつ進んでいくしかないよね」「そのために、私たちは何ができるだろう?」という希望的観測とか。
人間・生き物としての、もっと情熱的な欲求的からものを作ることが、けっこう私は多いのかもしれないです。
橋口:思想と世界観の話、すごくおもしろいと思って。その時に、辻さんのこの言葉を思い出したんですが、たぶん「世界観に拘る」って、これまでの広告形態でも大勢そういう人がいたと思うんですよね。特にアートディレクターとか、ヤバい人は1フレームの違いをめぐって、徹夜で議論したりするんですけれども。
特に企画会議をしてると、やはり「おもしろい」とか「人気がある」というのが価値観のすべてになりがちで。広告のクリエイティブをしてると、あまり思想の話になりにくいと思うんですよね。
よく「炎上する・しない」の議論にはなるんですけど、そこに思想があるか・ないかで見るかにはならなくて。だから結果、炎上するんですが(笑)。お話を聞いていて、僕も思想という軸は意識して持ちたいと思いましたね。
辻:ありがとうございます。
辻:私は「社会派クリエイティブ」「クリエイティブ・アクティビズム」という言葉をよく使うんですが、そもそもあらゆるクリエイティブの表現って、社会に何かしらの影響を届けていくものなので「社会派」だと思うんです。なのでこの言葉自体が成立することが、すごく不思議だなと私は思ってるんですけど。
まさに今おっしゃったとおり、表現としてはそうじゃない切り口のもの……。あらゆるクリエイティブ表現はなにかしらの影響を与えるので、そういう意味でそもそも、表現というもの自体が「社会派」なことだと思っています。
ただ、社会派であること・社会にメッセージを届けることと、クリエイティビティとしてそこが対立するものだ、と思われていることが、すごく多いなと思っていて。そこがとても不思議なんですけど。
例えば私は、初代『プリキュア』の世代で。黒い衣装にオレンジのショートカットの女の子と、黒髪のロングで白の衣装の子が2人いるわけですが、当時、黒い服の女の子のヒロインってほとんどいなかったんですよね。しかもショートカットで、ラクロスをやっている子で。
私はそれを当たり前に見て育ったので、その時に違和感はなかったんですが、今考えるとすごい挑戦だったなと思います。靴が厚底で、戦い方も素手で敵を殴るんですよ。
橋口:殴り合いなんですね(笑)。
辻:そうなんですよ。しかも敵を殺すんじゃなくて、「プリキュア」なのでキュアする(治す)と。絶対悪をやっつけてこらしめて殺すのではなくて、キュアするという概念なんです。
絶対的悪が存在しないところは、当時の中ではすごく新しい概念だなと思います。が……今の時代で言うと「女性にキュアを(させるの)?」という話になっちゃうかもしれないんですけど(笑)。
辻:すごく華麗にミニスカ・ヒールでも走り回って、魔法でやっつけるみたいな、そういうものではない。敵にやられて、かかとをズズッと踏み込むシーンが毎話入ってるんですよ。
橋口:かかとを踏み込むと。
辻:華やかに美しく戦うんじゃなくても、ものすごく泥臭く、奥歯を噛み締め、足を踏ん張りながら。しかもキャッチが「女の子だって暴れたい」なんですよ。
橋口:それはけっこう衝撃的なコピーですね。
辻:そうなんですよ。当時、2000年前半とかですかね。
橋口:相当新しいですよね。
辻:そうなんです。今考えると、それを私は当たり前に見て育ったので、もしかしたら影響を受けてこうなったところもあるんじゃないかなと思っていて。死ぬほど好きだったので。
橋口:あると思いますよ。
辻:そう考えると、実写版の『アラジン』を見て育っている子どもたちが、もしかしたら「女の子ってプリンセスじゃなくて王様になれるんだ」ということを感じて育っているかもしれないですし。別に説教臭く「これが正しいです!」という表現じゃなくても、あらゆる表現って、実は社会的であるものだと思うんです。
辻:ただやっぱり、あえてこういう言葉を使う意図でもあるんですが、まさにダイバーシティとか。
そもそも、コンテンツとしてはダイバーシティが内包されていること自体が前提なのに、社会文脈へのポリコレの配慮がすごく大事だということを、プラスアルファで求められていると認識している方は、「そんなことをしたら表現としてもおもしろいものが作れなくなる」と言う人もいると思うんです。
でも、先ほどお話しした通り、「誰かを傷つけない表現であるか否か」という配慮は、プラスアルファの「目的」ではなく、クリエイティブにおける「前提」だと思うんですよね。それを実現しようとしておもしろいものが作れなくなるほど、人のクリエイティビティは脆いものではないと私は信じています。
個人的には、人を傷つけないとおもしろくならないものは、「本当におもしろいのか」とそもそも思いますし。思想の何がいいかって、やっぱり正義じゃなくて思想なので。ある意味での前提はありますけど、正義の置き方は人によって違うんですよね。
辻:極論、私やarcaが「思想」を1つの軸に置いている以上、絶対的に相容れないお仕事や、どれだけフィーが高くても、お引き受けできないクライアントさんはやっぱりいるんですね。会長が差別的な発言をされた会社さんとか……(笑)。
橋口:ありましたね(笑)。
辻:結局「彼らが間違っているから(仕事を)受けない」というのは、個人の意思としてはありますが、ただ「思想として合致しないから、それは合致するところとやってください」という話で。
私で言うと、別に会社が大きいわけでもないので、限りあるリソースを少しでも同じ思想・パーパスを持つ企業さんや、同じ思いを持って社会に向き合おうとしてる企業さんのお役に立ちたい、という思いでやっていたりもするので。そういう意味で「社会派クリエイティブ」と言っていたりとか。
プラカードを持って署名活動したりするアクティビストたちが使う、社会に対するアプローチとしてのアクティビズム。「アクション」から来ている言葉でもあるので、すごく好きな言葉なんですが。あえてそれを、直接的なメッセージだけではない表現として、どういうふうに社会に伝えていくのか、広げていくのかとか。
辻:かつ、クリエイティブってきっと、余白を作る仕事でもあるんじゃないかなと思います。釈迦に説法過ぎて、言っていて恥ずかしくなってきたんですが(笑)。
橋口:いえいえ!
辻:一方的なメッセージや正しさだけじゃない。メッセージを受け取った時に、それを自分のトピックとして思えるか否か。そういう余白を作ることが、特に政治や社会の文脈で言うと必要なんじゃないかなっていうのを、日々すごく思っていて。
なので、もともと最初はタピオカとかナイトプールとか、いろんな世界観の仕事をやらせていただいてたところから、まだまだですけど、感じてきたものとかを作れるようになってきたり。
それこそ、一緒にモノを作れるクラフト力のある人たちにも、仕事の中で出会ってきたので。そういう人たちと一緒に社会に対してどういうメッセージを届けられるのか、ということを考えている「クリエーティブ・アクティビズム」でございます。すいません、長くて(笑)。
橋口:ありがとうございます(笑)。
橋口:今、『プリキュア』の話が出たのはおもしろいと思って。僕自身は『プリキュア』を見たことないんですが、今でこそハリウッドで女性ヒーローって当たり前になってきてるじゃないですか。『プリキュア』とか『セーラームーン』って、あれにものすごく影響を与えてるみたいですね。
辻:すごい。
橋口:ちょっと前に、マーベル映画に出ている女優のインタビューを読んだら、「『セーラームーン』に憧れてこの仕事を始めた」みたいな。30年ぐらい日本が早かったのに、あまりそれに日本人が気づいていないですよね。
辻:そうかもしれないですね。女子校の中だとジェンダーロールという規範がないのと同じで、「少女漫画」というカテゴライズの中だったから自由にできた。
最近ちょっと問題になってましたけど、「漫画」と言われると、良くも悪くもやっぱり少年漫画がすごくメインストリームに(なっている)。実は少女漫画って、少女漫画として括られていたからこそ自由にできた強い表現みたいなものが、もしかしたらあるかもしれないですね。
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