橋口幸生氏による「言葉最前線」、ゲストは辻愛沙子氏

橋口幸生氏(以下、橋口):お集まりいただいたみなさん、お忙しい中ありがとうございます。「言葉最前線」、早いもので第3回になりまして、今夜は「社会を動かす広告の言葉」というテーマで送っていきたいと思います。

まず、初めての方もいらっしゃると思うので説明しますと、この配信イベントは、「新しいものは必ず新しい言葉と共にやってくる」というテーマで、私が新しい言葉の使い手たちに迫るB&Bのシリーズとなっています。

僕が尊敬する人や憧れてる人に会うという、ただひたすら僕得なシリーズなんですが、今日は辻愛沙子さんをお迎えしました。お忙しい中、今日はありがとうございます。よろしくお願いいたします。

辻愛沙子氏(以下、辻):すごく素敵なご紹介をいただいて、ありがとうございます。恐縮です。よろしくお願いします。

橋口:あらためて、辻愛沙子さんです。みなさんご存知かと思いますが、「社会派クリエイティブ」を掲げられて、さまざまな企業の広告や「Ladyknows」のプロジェクトから、テレビ番組のご出演までも、本当に八面六臂の活躍をしている方です。今日はぜひお話を聞きたいと思ったので、お招きしました。

:光栄です。ありがとうございます。

橋口:一応、私のプロフィールも紹介しますと、クリエイティブディレクター、コピーライターをやっている橋口です。今、ここに掲載されたようなものを、いろいろ手がけています。

糸井重里氏のようなコピーライターは、もう出てこない?

橋口:前段はこれくらいにして、さっそく辻さんにいろいろお聞きしたいと思っているんですが。実はこれは、僕が先月末に「広告朝日」で受けたインタビューの時に、偉そうに言ったことなんですけれども。

「広告クリエイター」っていろいろいても、たぶんコピーライターというカテゴリーであれば、糸井重里さんのようなスターコピーライターって、正直もう出てこないんじゃないかと。

でも、糸井さんのようなコピーライターが出てこなくても、違うかたちでそれぞれの個性を生かした新しいスターはどんどん出てくる、ということをインタビューで思いついたので言ったんですが。この時に、尊敬するいろんな方の名前を思い浮かべていたんですけれども、その1人が辻さんだったんですよね。

:恐縮です。

橋口:これまで思っていた、いわゆる「広告クリエイティブのスター」っているじゃないですか。そういう人とはぜんぜん違う登場のされ方をしたなと思っていて。

いわゆるこれまでの広告業界のスターとか、著名なクリエイターの出方って、まずどこかしらの広告会社に入社して、その中で「スター」と言われる人の下について、何年か下積みをやって新人賞を取って……という感じでブレイクする人が、ほとんどだったと思うんですよね。

:そうですね。

橋口:なので、辻さんの今のご活躍のされ方は、すごく新しいなと思っていて。

:ありがとうございます。

橋口:そういう辻さんのキャリアについても、今日はお聞きしたいなと思いました。

:ぜひぜひ。ありがとうございます。

業界に入る道が1つだけなのは、健全じゃない

:それこそ広告の本流の方に、そういうふうに言っていただけるのはとても……。「こんな獣道を歩んでいるけれども、大丈夫かしら?」と思うところもあるので、とてもうれしいです。

橋口:そうですよね。でもそれって、すごく健全なことだと思っていて。上に行くルートが1つしかないって、やっぱりよくないと思うんですよね。何年か前までそういう状態が続いていたんですが、今はいろんなやり方で自分らしい活躍ができるようになっているので。それ自体は、すごく健全なことだと思っていて。

辻さんは、そういうふうに意識されて今の立場になれたのか、というのをまず初めにお聞きしたいなと思いました。

:道や入り口が1つしかないのは健全じゃない、という話をおっしゃってましたが、広告業界や私がいる道に限らず、社会の構造上の話として、それはそうだなと思うところがすごくあって。

というのも最近だと、多様性とか、言い換えるならばダイバーシティとか。言葉的な軸で言うとホモソーシャルとか、そういう言葉たちがちょっとずつ広がりつつある時代ですが。

やっぱり道が1つしかないと、もともとその道を開拓した人や、歩んだ人のルールの元で歩く選択肢しかなくなってしまうので。何かを壊して新しいものにしていく感覚というよりかは、どちらかと言うと、新しい選択肢を増やしていくことに近いと言いますか。

多様な視点を持ち、画一的な体制を防ぐ

:例えば一昔前だと、会議の後や経営合宿の後にキャバクラやクラブに行ったり、その中でまた仕事の話があったりとか。カンファレンスの後とかもそうかもしれないですけど。最近だとサウナに入ったりとか、いわゆる経営合宿に出てくる経営者たちも男性だけじゃなくなってきたり、世代もいろいろになってきたり。

お酒が飲める人もいれば飲めない人もいたり、お子さんのいらっしゃる方、そうじゃない方もいらっしゃいますし。そういう意味で、いろんな選択肢があることって、そこに出てくるプレイヤーが増えることでもあると思うんです。

特にこの業界は、いろんな商材を扱ったりとか、いろんなところにメッセージを届ける仕事だと思うので、そこの技術を作るという意味での「型」みたいなものはある。それが、ある意味のクオリティーみたいなところはあるかもしれないですが。

視点は多様であればあるほどアイデアの気づきになったりとか、あとは新しいアウトプットになるものってたくさんあると思うので。そういう意味で言うと、道の選択肢が広がるのはこの業界に限らず、ホモソーシャルになる、画一的な体制にならないためにはすごく大事なことなのかなと思います。

橋口:ホモソーシャルというのは、たぶん今回はすごくキーワードになるのかなと思っていて。僕自身は、仕事が終わった後に飲み会やサウナにみんなで行ったりとか、そんなにしないほうなんですよね。

:そうなんですか。

橋口:なので、「そういうのとは無縁なんじゃないか」と自分で偉そうに思っていたんですが、気づくと自分の中にそういう部分ってすごくあって。

無意識に生まれる「男性だけ」「女性だけ」のチーム

橋口:例えば、クリエイティブディレクターとしてチームを作る時に、気づくと男性だけのチームを作っていたりとか、すごくあったんですよね。なので今、自分の中にそういう部分があるということを、すごく意識して活動するようにしていて。なかなかそこって、男性自身で気づくのは難しいなと思う部分がありますよね。

:確かに。男性を優遇しようと思ってというわけじゃないですが、カンファレンスとかで、「女性がいないからさ」みたいなのあるじゃないですか。でも逆に、私がイベントやろうと思うと、同質性という意味では気づいたら女性ばっかりになってて。

「いや、これはちょっと偏ってるかも」といって、逆に男性をアサインするようにしたりということもあるので。

チームを組んだりキャスティングしたりとか、そういう意思決定の場に男性が多いから、結果的に選ばれる人も男性になるだけであって。そういう意味で言うと、どっちが良い・悪いというより、そこに意識を持つことがすごく大事なのかもしれないですね。

橋口:でもそうですね。そういうのって本当に、無意識だからタチが悪くて。最近ネットで炎上させるのって、カンファレンスで(登壇者を)全員男にするのが、たぶん一番簡単な方法じゃないかという。

:確かに(笑)。間違いないですね。

橋口:それを見ていて、「なんかバカなことやってるな」と思っている人も、いざ自分ごとになると、気づくと男だけのチームを組んでいたとか、普通にあると思うんですよね。なのでこれはけっこう、「意識して自分をアップデートしないと、無意識にやっちゃうな」と常に思って行動するようにはしています。

:とてもわかります。