参加者の発言量が同じ=集合知性の発揮される会議?

斉藤知明氏(以下、斉藤):じゃあ僕の中で「集合知性が発揮されてる会議って、どんなものなんだろう?」と、解像度を高めてみたいのですが。例えば「プロダクトの未来について語りましょう」「この3ヶ月間の戦略について一緒に議論しましょう」という会議があるとします。

「この会社の3ヶ月について議論しましょう」って大きなお題だし、難しいお題ではあるんだけど。「ちょっと私、いいですか?」ってみんなが話して、「それってどういうことなの?」と問い合って、結果的に発言量が同じぐらいになっている状態が、集合知性が発揮できている会議の1つのイメージなのかな? と思ったんですけれども。これって、間違ってないですかね。

岩崎一郎氏(以下、岩崎):そのとおりだと思います。

斉藤:すっごく作るのが難しそうに感じちゃいましたね(笑)。

岩崎:会議だけでそれを作ろうとすると、非常に難しく感じます。大事なのは、この信頼関係って、その場で突然できるものじゃないんですよね。「会議をやります」「じゃあ信頼関係を作りましょう!」っていうものではなくて。

ふだんから信頼関係を作っている状態があるからこそ、会議になった時にみんなが本音というか、それぞれの持ってるクリエイティブというか、お互いに相補できるような意見を発言してくれるということです。

この信頼関係を築くっていうのは、「じゃあ今、作りましょう!」「これから会議やります!」っていうものではない、ってことですよね。

「心の状態」のシェアから1日を始める

斉藤:となると、例えばDay0ですと。今日、初めてチームのメンバーが5人10人集まって、「私がリーダーです」とした時、たぶん信頼関係がない状態ですね。

同じ会社とはいえ、はじめましてのメンバーがいる中で、チャットの中でも出てきたのが「理解し合い、気持ちを汲み取れる」という状態の順番ではあると思うんですけれども、ある意味でアクションの順番ではないというか。

何から始めていくと、この信頼関係も構築できるかな? というのを想像した時に、「Day0」においては何をすべきなんですかね?

岩崎:そうですね、普通に自己紹介がありますよね。その中で、その人の背景。例えば僕らがよくやるのは、「子どもの頃は何が好きだった?」とか、仕事とぜんぜん関係ないと思うようなところから、お互いを理解し合うことを始めたりします。

それからこれは「はじめまして」の状態ではないですが、まず今の気持ち、心の状態をシェアすることから1日を始めたり。あと、今はオンラインでそういう時間が少ないかもしれませんけど、一緒に食事をするとか。お昼の時間に、オンライン状態で一緒に食事してもいいですよね。

その時に仕事の話ではなくて、「昨日は何をした」とか「先週末、自分は映画を見に行ったよ」とか、いわゆる雑談と言われるものが出てくると思うんですが、それって実は、信頼関係を構築する、お互いを知り合うという意味で、すごく大事な役割を持っています。

朝礼でやってほしい「脳磨き」

岩崎:もう1つ、これは脳磨きの一部であるんですが、僕たちが使ってるのは『京セラフィロソフィ』という、稲盛和夫さんが書かれた本をベースにシェアをしています。

例えば「フィロソフィに沿った行動として、最近の自分はどんな行動を取ったか?」というのを、お互いにシェアし合うことをやっています。

「ふだんどんなふうに考えてどんな行動を取って」みたいなことをシェアしていくと、「この人ってそんなふうに考えるんだ」「そんなふうにして人の役に立とうとしているんだ」ということが、朝の15〜20分くらいの(朝活や朝礼の)中で、お互いを理解し合えるんです。そういう時間をすごく大事にすることが、信頼関係を築くことに役立ちます。

斉藤:なるほど。さっきの「弱いリーダーに見える」という話も、まさにその1つ。自分自身もその枠組みの中に入って行って、自己開示するし、相手の開示も受け入れるし。互いを知ったり、興味を持つ、理解し合うというところからスタートできる、1つの形から入ったほうがいいんじゃないか、ということだったかと思いました。

雑談では生き生きするのに、ディスカッションでは口をつぐむ人

斉藤:チャットの中でもいただいてるのが「最後の『共通の目的に向かっている』という状態も、それが最低限最初にないと、理解し合うだけの組織にならないか。ないしは、そこからスタートしたほうがいいんじゃないか」というご意見もいただいていたりします。

雑談だと生き生きするのに、目的に対するディスカッションになると口をつぐんじゃう、みたいになってしまうのって、そこなんじゃなかろうか? という問いも出てきているんですが、ここに関しては岩崎さんどう思われますか?

岩崎:すごく大事なポイントをご指摘くださったなと思ってます。チームを作る時に、これは採用・人事にも関係してきます。

大きな目的がありますよね。例えば会社であったら、「こういうことをして、世の中の役に立とうとしてる会社です」みたいな、理念にも関係するようなところがあって。そこにやっぱり共感してくれる人たちを、まず集めていくというところ。

社内でチームを作っていこうとしたら、上から「あんた、あっちのチームに行きなさい」というよりは、「このチームはこういうことをして、会社内でみんなの役に立とうと思ってます」という理念的なものを掲げて、それに共感してくれるような人たちをチームのメンバーとして受け入れていくところから始めると、チームビルディングがうまくいきます。

集合知性を発揮するための「人事・採用」のコツ

岩崎:「チームに一体感がある」というのが(「集合知性を発揮するための3つの要素」の)3番目にきていますけども、実は最初でもあるんですよ。ただ大事なのが、最初にこれをみんなに押しつけると、非常につらい状態が起こってしまうことにもなるので、3番目に置いています。

本当は採用的なところで、この3つ目の要素「共通の目的に向かいましょう(「チームに一体感がある」)」っていう。

斉藤:そこの合意が取れている状態からスタートできればこそ、1番目として「メンバー同士が互いに理解し合うのが必要だ」という。サンドイッチみたいなイメージを受けました。

岩崎:まさにそのとおりです。①、②、③と、この順番にしてある理由がもう1つあって。多くの会社さんって、そういう人事・採用をしてないんですよね。

やっぱり「給料がいくらで、休みはどのくらいあって」っていう条件で採用されます。そういう人事・採用をしてしまっている会社さんでも、集合知性が発揮しやすい状態を作るためにという意味で、「相手の立場に立てる」というのが一番上に来てます。

でも理想を言えば、「こういう目的で、このチーム、もしくはこの会社は社会の役に立とうとしてます。それに共感してくれる人は来てください」っていうところから始めるほうが、もっと集合知性を発揮しやすいのです。

会社は「家族」ではない

斉藤:会社って家族じゃないと思うんです。会社って、組織・集団をもって1つの目的を成すっていうのが、営利組織であり法人・法人格だと言われているように、「この会社はこういう色がある」というものがある状態なんですよね。

「目的で絞ることって、果たしていいのかしら?」「宗教っぽいですね」っていうチャットもいただいていたんですけれども。宗教っぽくていいんじゃないかな? って僕は思いました、という1つの問いなんですけれども。

会社っていうのは、結局は1つの目的を達成する、ないし1つの社会課題を解決する、もしくはなんらかの価値を社会に生み出すために複数人が集まることで、1つの変革を生み出そうとしたりだとか。

「利益を出そう」という組織・集団であるからこそ、やっぱり目的として同じ方向、共通の目的を目指している状態は、1つの集合知性を発揮するための重要な条件であり。

集合知性を発揮する組織だからこそ……つまり、複数の人数が集まって1つの大きな成果を成そうとする組織だからこそ、目的の共通化ないし納得感の醸成はすごく重要なんだろうなと感じました。

「Company」の意味は「悩みも目的も共有した仲間」

岩崎:英語で「Company」ってありますよね。日本語で訳すと「会社」。もともと「Company」は、「悩みも目的も共有した仲間」っていう意味です。「会社」という日本語にしてしまっていますが、もともとの「Company」の意味は、目的と悩みを共有するっていうのが、1番目とか2番目に当たると思うんですよね。

「目的を共有する」っていうのは、(「集合知性を発揮するための3つの要素」において)3番目ですよね。もともとはそういう組織を「Company」と言っていたと思います。

斉藤:なるほど。だからこそ、目的を持った方向性。「Company」っていう名前はすごく理解できましたし、自分自身が「複数の目的を成したい」だったり、それこそチャットでいただいてた「複数の組織にも属する」っていうのはアリだなと思います。

目的を1つにした集団で、最大出力と言いますか、最大の成果を発揮するために、この集合知性、同じ目的を持ち、互いに理解し合い、互いに発言し合える。そういう組織が必要なのかなっていうのを、すごく納得できた時間でございました。