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阿部広太郎×田中泰延「あれも、これも、それも勝手な決めつけかもよ?」(全5記事)

人間関係のわだかまりを解く「受け止め方」のヒント 電通広告マンが、親友との“絶交の危機”で得た気付き

本屋B&Bにて、『それ、勝手な決めつけかもよ?だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)刊行記念イベントが開催されました。本セッションでは、著者の阿部広太郎氏と、文筆家・田中泰延氏の対談の模様をお届けします。「解釈」の仕方で、考え方や行動を変えることができると説く阿部氏。本記事では、本を書く支えになったハミングウェイの言葉や、人間関係における「決めつけ」について語られました。

書くことを支えてくれた、ヘミングウェイの言葉

阿部:そうしたら、次のトークテーマにいきます。我々はいつも、「勝手に決めつけてしまうこと」があるんじゃないかなと思っています。

僕も泰延さんも、なにか物事を書いて人に伝えたり、文章を読んでもらったりする仕事をしていますけど、僕自身は書いている途中に、自分への期待値が超上がっちゃって、ガチガチになってしまって、にっちもさっちもいかないというか、書くのが怖くなったような瞬間がありまして。

田中:それはみんなそうでしょ。俺もそうよ。

阿部:(笑)。

田中:ぜんぜん書けないもん。

阿部:そうなんです。泰延さんも昨日の配信のイベント(『僕たちはむつかしいことはわからない』)でおっしゃっていたように、原稿をいかに書いていくか、すごく考えられていらっしゃると思うんですけれども。

このヘミングウェイの言葉を初めて知って、すごく勇気付けられたことがあって。「初稿は例外なくクソだ」と。

田中:(大爆笑)。

阿部:本の中には書かなかったんですけど、めちゃくちゃ勇気付けられたんですよ。

田中:いい言葉ですね(笑)。

阿部:この言葉に支えられていたと言っても過言ではないぐらいです。書いている途中から、「これでいいのかな?」とか「これ大丈夫かな?」とか。それこそ土日の午後1時からドトールやエクセルシオールに行って書くんですけど、なんか途中で「ああだめだ」となっちゃって、1ページも進まなかったみたいな時があるんです。

田中:僕も毎日そうですよ。コメダ珈琲に行って、シロノワールしか食っていない。

阿部:わあ(笑)。

田中:最後帰るときは、原稿を書きに来たんじゃなくてシロノワール食べに来たことにすり替えていますから。

阿部:(笑)。

田中:1枚も書いていないけど「シロノワール食べられてよかった」って。

『読みたいことを、書けばいい』の初稿は、頭の中で書いていた?

阿部:でも、その時にハードルをめちゃくちゃ下げてくれたというか。ヘミングウェイという、ものすごくたくさんの作品を残されている人が、「クソだ」と言っている。つまり、「まずは書いてみることが大事なんだ」と言ってくれているような気がしていて。

田中:これは額に掘る。鏡を見たら見えるように、逆文字で。

阿部:(笑)。

田中:それはそうだよね。

阿部:そうなんですよ。まず初稿を書いて磨いていけばいいというか、直していけばいいと受け取りました。きっと泰延さんも、『読みたいことを、書けばいい』の時は、何回も推敲して書き上げていったんじゃないですか?

読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術

田中:それは違うのよ。

阿部:(笑)。違うんですか!

田中:手を動かすのが嫌で、頭の中でずっと考えて。でも頭の中で思い浮かぶ初稿はクソなの。それを頭の中で消して、人に見せるのが恥ずかしいから、もう大丈夫となるまで絶対に書かずに、最後に書いて出版社に送ったの。

阿部:だとすれば、泰延さんは今、頭の中で自分の2冊めの本の原稿を発酵させているんですね。

田中:と、編集者の人は信じているよね(笑)。

阿部:(笑)。

田中:嘘、嘘。でも今回はダメ。そのやり方がダメだと思ったから、今回はめっちゃ一生懸命書いて消してをやっていますよ。

阿部:そうですよね。1稿、2稿と書き直していって、だんだん重ねるごとに文章が磨かれていくんですよね。

田中:だから初稿はダメなんでしょうね。

阿部:そうなんですよ。だからまずは書いてみようぜと。こう言い換えてくれているヘミングウェイも、すごくありがたいなと思っています。

ヘミングウェイはどこにでもいる

田中:ヘミングウェイってどこにでもいるの、知っています?

阿部:え、どこにですか?

田中:僕が生まれて初めて海外旅行に行ったのがバハマというところで。泊まったホテルが「ヘミングウェイの定宿だ」と言っていて、「へえ、すごいな。ヘミングウェイか」と思って。まあ、バハマだからあるだろうなと。

その翌年にイタリアに行って、ミラノから30分ぐらいの、コモという湖の街に行ったんですよ。そこのバーに入ったら、「ここはヘミングウェイが通ってたバーだ」と言っていて、「ええ!」と。

阿部:すごい。

田中:その翌年にパリに行ったんですよ。カフェに行ったら、「ここはヘミングウェイが毎日いた」と。ヘミングウェイって弘法大師か? どこにでもいるの? という。

阿部:そして泰延さんも、ヘミングウェイの道のりを辿っているんですね。

田中:たまたまよ。行く先々にヘミングウェイの写真が飾ってあって。

阿部:ええ!

田中:だから、ヘミングウェイは何人かいたんやと思う。

阿部:かもしれないし、書けなくて移動してたのかもしれないですね。

田中:ああ、イライラしてね。

阿部:(笑)。イライラして。

田中:ヘミングウェイってどこにでもいるんだと思って、ビックリした。

書く時の心の支えになっている、糸井重里氏の言葉

阿部:泰延さんが2作目にトライされていて、今日はきっと書く上での大変さのお話も伺えるかなと思っていて。

田中:大変に決まってるじゃん。

阿部:(笑)。そうですよね。泰延さんもそうなんだなあ......。

田中:本を1冊を書くのに、楽なことなんて何もないよね。

阿部:(笑)。そうなんですよ。本当に登山というか、一歩一歩が辛くて。富士山は5合目からスタートするんですけど、上がれば上がるほど、「この山でよかったのかな」みたいな(笑)。

田中:空気は薄くなっていくし。その山から降りたくもなってくるし。途中で「なんで俺はこんなことしているんやろ?」と思いますよね。

阿部:(笑)。本当にそうですよね。だから僕は「書く」ことに対して、このヘミングウェイの言葉にすごく支えられたんです。

田中:さすがヘミングウェイだな。

阿部:そうですね。泰延さんは書く時の心の支えになっている言葉ってあったりしますか?

田中:糸井重里さんの言葉で、Macのデスクトップに起動したら出るようになっているんだけど、「最初に、うまくやらないと決める」。 

阿部:ああ。

田中:これ、糸井さんの言葉です。

阿部:先程のヘミングウェイにも共鳴するような。

田中:すごい。何人もいるから、やはり糸井さんもヘミングウェイかもしれない。

阿部:そうですよね。でも、まさにその心構えでいることが、原稿を進めさせてくれますよね。

2作目を書くプライドとプレッシャー

田中:でもね、自分の凝り固まったプライドがあって。阿部さんも俺も本を出しているじゃない。「一応俺は本を書いたことがあるんだから、ビシッと書けるわ」と思うんですよ。

阿部:思いますね。

田中:でも、新しい本はゼロからスタートなんです。

阿部:(笑)。そうなんですよね。重版がかかるってすごい幸せなことだし、うれしいことなので、きっと泰延さんは『読みたいことを、書けばいい。』のプレッシャーを背負っている部分もあるんだろうなと。

田中:あるある。でも、昨日、燃え殻さんが来てくれて。燃え殻さんもデビュー小説の『ボクたちはみんな大人になれなかった』が大変なことになって、映画化されてたくさん売れて。それで2作目が今年の7月に出るんだけど、「もう売れなくてもいいやっていう気持ちもあります」って言っていたから「あっ、そうなんだ」って。

ボクたちはみんな大人になれなかった

阿部:ちょうど書き途中の時って、「書けるかな」と思う時があったり、「書けないかな」って思う時があったりしますよね。

田中:あれはなんでかな(笑)。それで、編集者さんに「もう大丈夫です! トンネル抜けました」とか、わけのわかんないことを連絡したりするんだよ。

阿部:そうそう(笑)。

田中:いやいや、抜けてないから(笑)。

阿部:自信の波がすごいですよね。

田中:「一気に突き進めると思います」とかメールしてんの。でも翌日になったら、やっぱりちょっとなんか……(笑)。

阿部:何回も「いける」「いけない」を繰り返しながら、波を楽しんでいるところもあるのかなって。

田中:楽しいかな? しんどいよ(笑)。阿部さんはちょうど本が出たところだから、最高ですよ。俺は今しんどいよ……(笑)。

阿部:(笑)。

大変だった時期が思い出になり、記憶で解釈が変わる

阿部:泰延さんの本が出た時はぜひ、あとから振り返ったお話を伺えれば。

田中:「楽勝」みたいな顔をして言います。シュシュシュって書いてやりました、と言うつもりです。

阿部:(笑)。書き上げた時は大変だった時期が思い出になっていたり、記憶が解釈で変わるんですよね。

田中:『読みたいことを、書けばいい。』の時も実はしんどかったのかもしれないけど、今になって聞かれたら、さも天才のように「頭の中で書いたのをチョチョっと書いたら入稿しましたよ」ってうまいことを言っている。

阿部:(笑)。すごいなと思いましたよ。頭の中で初稿を書いて、それを最後に書くだけって、そんなの超人ですよ。

田中:だいぶ自由な解釈が発生しているかもしれません(笑)。

親友とのエピソードから考える、「人間関係の決めつけ」

阿部:ありがとうございます。次に、僕は人間関係でも決めつけちゃうことってあるんじゃないかなと思ってて。

僕には鈴木智也くんという親友がいて、駆け出しの頃は広告賞のコンペに出すようなトライをずっと一緒にやってきたんですけど、ある時に彼がご結婚されて。子どもができて、一軒家を買ってみたいな時期がありました。僕は当時独身だったんですけど、彼が変わっていく姿を見ていて。「一緒に広告を作ろう」って誘ったら「ごめん、今はちょっと」って、フラれたんですよね。

このメールに書いてあるんですけど、その後ずーっと「カレー食べに行こう」とか「折り返し電話ください」とか「何度もごめん」みたいにめちゃくちゃ連絡しまくって、でも全部スルーされてて。

田中:うわ、深夜に。

阿部:朝とかに連絡して。

田中:あだ名がスージーの鈴木智也くん? スージー、ひどいなぁ(笑)。

阿部:返事がほしくて何度も連絡してしまって(笑)。

田中:これ、未読無視? 既読無視?

阿部:これはSMSなんで、未読か既読かはわからなかったんですよ。でもそれが救いでもあったんです。もしかしたら、エラーで届いてないだけかもなって(笑)。

田中:(笑)。

阿部:たぶん届いているんですけど(笑)。何度も何度も返事を待ってたんです。でもあとから振り返った時に、彼が置かれている状況とか、家族との時間とか、彼にとって今一番大事なものってそういうことだったんだなって理解できて。

絶交せずに済んだのは、「解釈」を持てたから

阿部:僕が親友をテーマにした文章を書くことによって、また一緒にものづくりをしたり、つながりが再開できたんですよね。

田中:あっ、よかった! 絶交しているんじゃないんだね。

阿部:そうなんです。絶交しているんじゃなくて、昨日もZoomで話しました。今は話せる関係性になって、めちゃくちゃうれしいです。

田中:でも、このメールひどいじゃない(笑)。

阿部:とにかく連絡をとりたくて(笑)。彼が2019年にTCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞を受賞して、その授賞式で会うという、自分的にもすごく胸が熱くなるエピソードがあって、つながりが再開できたんです。泰延さんはどうですか? やっぱり人間関係における、ある種のわだかまりってありますか。

田中:あるよ。その話と一緒で、急につれなくなったと感じる時に、自分はこの状態をどう受け止めたらいいのか、解釈すればいいのか。「カレー行かない?」ってここまでバタバタする人も、俺は見たことないけどね(笑)。

阿部:(笑)。めちゃくちゃおいしいカレー屋さんがあって。よくデートに誘うのも、「デートに行こう」じゃなくて「今度おいしいイタリアンに行こう」みたいに言ったほうが、成功確率が高くなるって話があると思うんですけど。

田中:いや、でもこれは男同士だよ(笑)。

阿部:そうなんです、もう一生懸命誘ってたんです(笑)。誰しも「つれなくなるなぁ」っていう瞬間はありますよね。

田中:あるある。2014年の阿部さんは、スージーが家を買ったり結婚したりで「それどころじゃなくバタバタしてたんだ」という解釈を持てたから、今もつながれていると思うんですけど、この時に「スージーばかやろう」と思ってたら、今はもうムリでしょ。

阿部:ムリだと思います。やっぱり関係性が切れちゃってましたよね。

大人になってからの人間関係は「仕事」でつながる

田中:僕もそういう時があるけど、1回パッと、別のことを考えてます。「きっと何か理由があるんだろうな」と、その人のことばかりを考えないようにするしかないよね。

阿部:ですよね。その時その人が言えなかったこととか、抱えていた思いとか、心に秘めてることがあるんじゃないかなってちょっと想像するだけでも、自分の捉え方が変わりますよね。

田中:このメールは何回見ても、しつこくて笑えるね(笑)。

阿部:本当にしつこいですよ(笑)。

田中:すごいよ。しかも10日後とか2週間後とか頻度がひどいね(笑)。

阿部:執着していたんですよね。ちょっと情けないですけど、でもこういうことがあったからこそ復縁できたという。

田中:どんだけ仲がいいの(笑)。

阿部:学生時代だけじゃなくて、社会人になってからも、30代、40代、その先になってからも、友人や仲間ができていくと思います。大人になってから友人が仲間になったり、職場の先輩後輩だったのが同志になったり、関係性の呼び方も変わることがあって。人間関係も、解釈で変わっていきますよね。

田中:そうですね。僕が人間関係ですごく意識していることは、大人になってからの人間関係は仕事でつながるべきだというか、お互いを認めることはできないんですよ。

阿部:あぁ、なるほど。

田中:それがすごく大事で。共通の目標を持って、同じ会社とか同じ業界で一緒に組んで仕事するのがベスト。もしくは同じ業界で、彼の仕事もよく知っている、私の仕事に対しても理解があるっていうつながりとか。異業種だけど、その人の業績に対してすごく尊敬していて、つながりができるとか。つまり、職業とか仕事に関わりがなければ大人になってからの人間関係は難しいと思う。

何か目標を作って一緒にやっていくことで、豊かなつながりになる

田中:小・中・高・大ぐらいまではそういうのがなくて、同じ枠に入れられてワイワイやってたから、他愛もないわけですよ。なんの利害関係もないから、それはそれで一生の友達なんです。いくつになっても「イェーイ、おっぱい」みたいなことを言って盛り上がれる仲間っているじゃないですか。

阿部:(笑)。いますね。

田中:でも大人になって成人してからは、絶対に仕事を一緒にやらないと。もしくは仕事についての理解がお互いにないと難しいと思う。

阿部:それこそ仕事ってビジネスだけじゃなくて、一緒に何かをやってみようとか。YouTubeでYouTuberの人たちがコラボしているのも、遊びに見えるけどやはり仕事で。大人になってからもリスペクトし合えるような何かを一緒にやらないと、関係性が育っていかないですよね。

田中:そうなんですよ、仕事じゃなくてもいいんですよ。例えばボランティアで一緒にゴミ拾いをした仲でも、共通の目標に対してがんばった人じゃないですか。あと阿部さんがやっているような言葉のワークショップでも、一緒にがんばったらそういう関係になる。まず大人になったら「たまたま同じ枠に座らされる」ことがありえないでしょ。

阿部:ありえないですね。

田中:小中学校はそれだけだから。

阿部:偶然同じ枠で会えた人と関係性を育てていくためには、何か目標を作って一緒にやっていくことで、「戦友」というか「親友」になったりとか、「同志」になったりとか。ただのつながりじゃなく、豊かなものになっていきますよね。

田中:そう。阿部さんのところに集まる人たちも、「みんなでコピーを考えよう」とか、「このお題でがんばろう」「チーム分けして発表し合おう」って仲間になるけど、もしこれが「阿部広太郎の仲良しサークル」で「週に1回集まって飲んだり食べたりしましょう」だったら、ぜんぜん友達にならないですよ。すぐケンカです。

阿部:本当にそうですね。やっぱり課題に取り組むことが青春的要素になっていくんですね。同じテーマに取り組むことが大事ですね。おもしろいですね。

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