足立光氏・三浦崇宏氏による「劇薬の仕事術×超クリエイティブ」

足立光氏(以下、足立):「マーケティング・販促サミット2021 Spring」にご来場のみなさま、こんにちは。今日はとてもすてきなゲストをお迎えしています。The Break Through Company GO 代表取締役 三浦さんです。

三浦崇宏氏(以下、三浦):こんにちは、よろしくお願いします。足立さん、今日はお招きいただきましてありがとうございます。

足立:お願いします。

三浦:The Breakthrough Company GOの代表で、PR/Creative Directorの三浦といいます。もともとは、博報堂で10年ほどマーケティング・PRとして働いておりまして、そのあとに博報堂と外資系会社の合弁会社のTBWA\HAKUHODOで、クリエイティブディレクターになりました。そのあと博報堂に一瞬戻って、独立しました。

今はThe Breakthrough Company GOという、広告・PR・マーケティング、並びに事業開発の会社をやっております。今はだいたい(従業員数)38人くらいの会社ですね。

普通の広告会社と違って、中長期でクライアントさんとパートナーシップを組んで、PR・マーケティング、場合によっては新規事業の開発までを一緒にやっていくことをテーマにしております。

会社として「変化と挑戦にコミットする」ということを一番大事にして、常に掲げております。企業や社会が新しい変化を起こそうという時、あるいはなにかチャレンジしようという時に、一番最初に呼ばれるパートナーでありたいと思っております。今日はよろしくお願いします。

足立:よろしくお願いします。申し遅れましたが、私は足立と申します。いろんな仕事をしてきましたが、現在はファミリーマートにおります。

今日は「劇薬の仕事術×超クリエイティブ 圧倒的な成果を生み出す仕事術」というテーマなんですが、このテーマになった理由がけっこう簡単らしくて。我々2人の本の名前を掛けただけという、すごく安易なテーマ設定で申し訳ないんですが。

三浦:そうですね(笑)。著書のタイトルを2つ掛けていただいて、本当にありがとうございます。

足立:とんでもありません。

「圧倒的な成果を生み出す仕事術」はあるのか?

足立:今日のテーマの「圧倒的な成果を生み出す仕事術」とは、どんなものなんでしょう?

三浦:そうですね。やっぱり、今日のマーケティング・販促サミットにご来場のみなさまに、「圧倒的な成果を生み出す仕事術」をしっかりとお届けして参りたいと思うんですけれども。このテーマをいただいてから、1週間悩みに悩んで。

足立:1週間しか悩んでないのか。

三浦:足立さんと、深夜にもMessengerのやりとりをさせていただき。

足立:違うテーマだったと思いますが。

三浦:結論はこちらです! 「そんなものはない!」というね(笑)。マーケティング・販促サミットなので、今日は気合いの入ったビジネスパーソンがたくさんいらっしゃっていると思うので、できればバシッと言いたかったんですが、やっぱりそういうものはなくて。

足立:「そんなものはない!」って、どういうことですかね?

三浦:「朝7時に起きて、まずはメールをチェックして」「基本的にはパワーポイントやKeynoteは使わず、メールのリストとメモでTo Doを作って」みたいな、みなさんに仕事術でイケてることを言えればいいと思ったんですけど、そんな簡単なものはなくて(笑)。

足立:そんなに簡単にうまくいったら、苦労しませんよね。

三浦:本当にそのとおりです。逆にそれがあるなら教えてほしいんですよ。だからもう本当に、足立さんの『劇薬の仕事術』はめちゃめちゃいい本ですし、読んでいただきたいんですが。

マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術

足立:ありがとうございます。

三浦:僕の『超クリエイティブ』も合わせて読んでいただくことは、大前提なんですが。

超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす (文春e-book)

仕事とは「意思決定をするか・意思決定をもらうか」

三浦:やっぱりまずは、圧倒的な量とかで戦っていくしかないんですけど、もし何個かあるとしたら、構え方を変えるとちょっとよくなることもあります。

足立:あとは、態度や考え方とかだけじゃないですかね。

三浦:思考の構え方や向き合い方が変わるとちょっとよくなる、ということはお伝えできるかもしれないかなと思います。

足立:なるほど。そうじゃないと、この40分のセッションが5分で終わってしまうので。

三浦:そうですね(笑)。「そんなものはない。本を読めよ、終了!」みたいになってもしょうがないです。

足立:そうではないので、今からその構え方・態度・考え方の話をお伺いしていきたいです。

三浦:そうですね、僕も足立さんにいろいろ聞いていきたいです。

足立:僕も聞かれるんですか。

三浦:もちろん聞いていきたいです。

足立:それは想定外。とりあえず、1個目にいきましょう。「30分であなたの仕事に対する構えを変えましょう」ということで、1つ目のお題は意思決定のコツなんですが、いろんな意思決定をしなくちゃいけないですよね。なにかコツがあるんですか?

三浦:そうですね。結局仕事って、意思決定をするか、意思決定をもらうこと。

足立:意思決定をもらうというのは?

三浦:相手に意思決定していただくことですよね。例えば足立さんが上長だった時に「すみません。これ、AとBがあるんですが、どっちにしていただけますか?」とか。あるいは、僕がクリエイターとしてクライアントの方に「AとBとCがあります。どれにしますか?」という意思決定をいただくか。

もしくは自分がマーケター・クリエイターとして、「今回はこれでいく」という意思決定をし続けること。仕事って究極的には、意思決定をするか意思決定をしていただくかの2つの積み重ねです。

足立:意思決定の積み重ねだし、それの連続なんですよね。

意思決定のコツは「前提をぶっ壊すことを前提に」

三浦:じゃあ、意思決定のコツって一体なんだろう? ということですね。僕に関していうと、すごく大事にしていることが一つあって。「前提をぶっ壊すことを前提にしろ」ということを、会社のメンバーには常々言っています。

足立:今のはちょっと難しいので、解説が要るかもしれません。

三浦:解説させてください。マーケティング・販促サミットなので、みなさん聞いていらっしゃる方も多いと思うんですが、例えば僕らでいうと広告の仕事をするので「予算2億円で、ある車のCMを作ってほしい」と。

足立:前提ですね。

三浦:「ターゲットは若い女性です」という前提が来るわけです。僕らは意思決定をする時に、だいたいこの与えられた前提条件の中で考えるんですよね。「予算2億円だったらテレビCMで」とか、わーっと考えるんですけど。

意思決定をする前に、まず一回全部それを取っ払って「本当に予算が2億円でいいのか?」と考える。だってマーケティング目標を達成するためだったら、別に1億円でできるやり方があったらそのほうがいいし。

僕らは常々「広告費、使わなければ、純利益」と言われているので(笑)。とにかく、本当は広告費なんて使わないほうがいいわけです。逆に、マーケティングの必達目標が年間10万台だったら、2億円じゃ絶対に無理。「その場合は10億円ください」と、まずは予算を外す。

前提条件を疑うと、新たなマーケ施策が見えてくる

三浦:例えば車種が「足立」という車だとして、「『足立』の新型が出たので売ってください」って……。

足立:乗り心地悪そうな車ですね。

三浦:ええ(笑)。でも、ちっちゃくてかわいいかもしれないですよ。

AIで自動運転が優秀そうですね。……そんな話はいいんですが(笑)。

「足立の新タイプを売れ」と言われた時に、本当に足立の新タイプでいいのか。もしかしたら、例えばトヨタなり日産なりVolkswagenなどありますけど、その車メーカーのブランドの話をしたほうがいいんじゃないか? とか。あるいはもっと言うと、車というカテゴリーのことを考えたほうがいいんじゃないか? ということも、一回前提を外す。

次にテレビCM。本当にテレビCMでいいんですか? もし予算が2億円あったら、ぶっちゃけ営業会社を1個作ってもいいわけですよ。営業の社員を雇ってもいいし、あるいは大きいイベントをやるとか。例えばMercedes-Benzだったら、車じゃなくて「Mercedes me」という店舗を、六本木に作ったりとか。

足立:そうですね。

三浦:マーケティングって、本当にいろんな施策がある。本当にテレビCMでいいのか。そして「ターゲットは若い女性」と言われているけれども、本当に若い女性なのか。若い女性に車を買ってもらうんだったら、それを後押しするのはお父さん・お母さんじゃないか。

というかそもそも、若い女性に車を売ることってもう無理ゲーだから、お年寄りに買ってもらって、実際に乗り回す時に女性に使ってもらうということでもいいんじゃないか、とか。

最適解を導き出すために、前提条件を外してみる

三浦:前提条件を一回全部書き出して、その前提条件を全部外せるんじゃないか? と1個ずつ検討する。その中で本当にいい答えが出るかを、自分の中で意思決定する時の最大限の条件にしているのが、僕の考え方です。

足立:そこまで考えていただけるのは、むしろクライアント側だとすごくありがたいと思 うんです。比較的、クライアント側にも「ブリーフの中のことをやってくれ」「(前提条件から)外れるな」と言う方もけっこう多いと思っています。

かつ、エージェンシー・パートナー側も「言われたことをちゃんとやるのが仕事だ」と思っている方が多いと思うんですよ。なんで、あえてそこの枠を外しているんですか?

三浦:足立さんにこれを言うのはすごく失礼なんですけど。

足立:(胸に手を当てて)かわいいですけど。

三浦:かわいいし、顔もいいですし、眼鏡もすてきですけど。

別に、僕が毎回正しいことを言えるとは思っていないんですが、ブリーフが間違っていることがめちゃくちゃ多いと考えています。

広告・マーケが目指すべきは「業者」ではなく「医者」

三浦:今日は販促・マーケティングの事業部にいらっしゃる方や、宣伝部にいらっしゃる方もいると思うんですが、基本的に僕ら外部のエージェンシーのところに来るのって、すごく困っている時ですよね。

さっきも言いましたように、僕らやメディアに払う宣伝費って、(本来は)払いたくないはずなので。「自社の中で答えが出ない」という、病気・ケガをしているのに極めて近い状態です。

足立:そもそも(原因が)何かわかっていたら、頼まないですもんね。

三浦:そういう時って、だいたい判断を誤るんですよ。僕ら広告会社・マーケティング会社は、業者になってはいけない。我々はなるべく、医者のような立場になっていかないといけないんです。

お医者さまって、患者の方に「お腹が痛いんです。これ、盲腸だと思うんです。手術してください」と言われて、いきなり「わかりました、じゃあ盲腸ですね。手術しましょう」って言わないわけじゃないですか。

足立:それはヤブ医者ですね。

三浦:はい(笑)。「どこが痛いの? 本当に盲腸? ちなみにお腹が痛いって、腹膜炎の可能性もあるし、憩室炎の可能性もあるし、ウイルス性腸炎の可能性もあるし、いろんな可能性があります」みたいに診断して、場合によっては投薬で済ますこともありますし。「そもそも三浦さん、ダイエットしたほうがいいですよ」で話が終わる場合もあります。

そういう課題の捉え直しをすることが、ものすごく重要。これは我々外部のエージェンシーにとっても、内部でマーケティングをされる方もそうです。自分の課題が“視野狭窄”に陥ってしまっていて、「もっと大きい課題を見過ごしていないか?」「もっとSure(確実)な解決策があるんじゃないか?」を前提に、一旦捉え直したほうがいいんじゃないかなとは思っています。

足立:なるほどね。