「2つ目の磁場」の研究が、遠い天体の海の発見につながる?

マイケル・アランダ氏:地球が広大な地磁気で覆われていることは、みなさんもよくご存じでしょう。

地磁気は、太陽の放射線から生命を守ってくれます。極地では、美しいオーロラが素敵なおまけとして発生します。

ところで、地表の海水から発生する「2つ目の磁場」が地球を覆っていることがわかったのです。

この「2つ目の磁場」を調べることで、地球の海について解明が進むだけではなく、遠い天体の「海」を発見できるかもしれません。

地磁気の存在は、非常に古くから知られてきました。地磁気は、地球内部の「外核」といわれる部分で、溶融状態になっている金属から発生しています。

金属に含有される電子は自由に動き回り、地表内部では大量の電荷が活動していると考えられます。そして、動き回る電荷は磁場を発生させます。

直径2,300キロメートルの地球の外核には、膨大な溶解金属が存在し、作り出される磁場は広大です。しかし、地磁気を作り出しているのは、どうやら超高温の液体金属だけではないようです。

人工衛星が見つけた、微弱な海洋由来の磁場

一方向に流れる電荷は電流を発生し、それに呼応して磁場が形成されます。要は、電流があるところに磁場が発生するのです。海洋には、イオンの形で大量の電荷が存在しています。

海水が塩辛いのは、塩化ナトリウムなどのミネラルを含有するからです。このミネラルは海水に溶解され、プラスの電荷を負うナトリウムイオンと、マイナスの電荷を負う塩素イオンとに分解されます。他のミネラルも同様です。

個々のイオンの電荷は微細なものですが、海洋には膨大な塩分が含まれます。塩分を含み、イオン化した水が地磁気の磁場の中を流れると、微弱な電流を生じます。ひいては固有の微弱な磁場を発生させるのです。

この現象は、なんと1830年代にはすでに予見されていましたが、21世紀に至るまでは海洋由来の磁場を測定するテクノロジーが十分ではありませんでした。欧州宇宙機関(ESA)の人工衛星SWARM(ESAが2013年11月に打ち上げた地磁気観測衛星)が、2018年に初めてこの磁場を観測しました。

3基の人工衛星が、地球の衛星軌道上を周回し、地球を包む地磁気と電磁場を綿密に計測します。この極めて詳細な計測で、微弱な海洋由来の磁場を、強大な地磁気と区別することができたのです。

「2つ目の磁場」は、潮汐により変動します。これは、海洋由来である確実な証拠です。ただし、海洋由来の磁場は地磁気の2万倍も微弱であり、地球生命を保護する役割はほとんど果たしていません。

異常気象の予測や、地下に眠る海を見つけることも可能に?

科学者たちは、海洋由来の磁場を研究することで、いずれは地球上の海流を把握することに役立つのではないかと期待しています。これにより、地球上でどのように熱が移動するかを解明できるでしょう。人間が過剰に排出する熱のうち、90パーセントが海に吸収されます。

この熱がどのように移動するかを追跡調査すれば、気候変動によって起こる異常気象を予測しやすくなるかもしれません。

海洋由来の磁場を観測することによってわかるのは、地球上の事象だけではありません。低温の惑星や衛星から発生する微弱な磁力を調べれば、地下に存在する海が見つかるかもしれません。

木星の衛星、ガニメデとイオの近辺では、木星から発生する磁場に変動が起きることがすでに観測されています。これは、これらの衛星の地下に海が存在し、衛星内部からも磁場が発生している可能性を示唆しています。

つまり、地球の「地磁気の弟分」は、それ自体が興味深いだけでなく、研究することで地球や他の天体についていろいろなことがわかってくる可能性があるのです。