コロナ渦が浮き彫りにした、信用格差の拡大

川崎龍吾氏(以下、川崎):LINE Creditの川崎と申します。Paymentの次はMoneyということで、このセッションではコロナ禍の影響によって変化しつつある信用評価の仕組みについてお話しさせていただき、我々LINEが考えるニューノーマルな個人とお金の関係のあり方、そしてLINEのチャレンジングな取り組みについてご紹介します。

まずはコロナショックの影響の整理から振り返りたいと思います。コロナ禍においては、多くの世帯が収入減に陥ってしまったことが報道されておりますが、その中でも特に、多様な働き方をする個人の影響が甚大でした。例えば緊急事態宣言下においては、勤務先の休業でシフトを入れてもらうことができず収入が途絶えたアルバイトの方や、取引先からの発注が停止し、仕事が大幅に減ったフリーランスの方の生活苦が社会問題化しました。

実際に厚生労働省の毎月勤労統計調査などを見ると、コロナの影響が本格化した3月以降に給与は急激に減少し、特に非正規雇用の方への影響が際立っていたことがわかります。

一時的な生活サポートとしては、公的支援の他、個人向けのローンサービスが1つの選択肢になりますが、伝統的な金融機関の与信の仕組みは、現代の多様なライフスタイルに追いついているのでしょうか? 

これまでの伝統的な信用評価は、雇用形態や勤続年数、年収や住居形態などの属性情報を基に行われていました。この場合、画一的な判断が下されやすい傾向にあり、例えばフリーランスや非正規雇用の方、従業員規模の少ない企業にお勤めの方、勤続年数が短い方などは、その表面的な属性情報によってどうしても評価されにくい構造にありました。

つまり、多様なライフスタイルが社会に定着するにつれ、伝統的な与信モデルは限界を迎えようとしているのではないでしょうか。さらに経済情勢の悪化が続くと、一般的に金融機関は与信基準を厳格化し、審査の引き締めを図ります。

そうすると多様な働き方をする個人は、より一層評価を受けづらいというジレンマが加速することになるのです。これはすなわち信用格差の拡大に陥るというのが、我々LINEが考える最大の問題意識にあります。

新たな信用評価のカギとなる「Credit Tech」

では、ニューノーマルな信用評価は何をキーに行うことが求められているのでしょうか? 

この新しい信用評価のカギとなる技術を、我々は「Credit Tech」と呼んでおります。これまでの信用評価は、先ほど申し上げたような属性データを基に画一的な判断がなされる傾向にありましたが、今後はユーザーお一人おひとりの行動を基にした個別的で柔軟な判断が求められてくるのではないでしょうか。

実際に「社会性があるかどうか、または約束を守れる方かどうか」という判断は、決して表面的な肩書きやステータスで決まるのではなく、個々人の行動や振る舞いにこそ表れるものだと思いますし、日々の何気ない行動を分析し解釈することで、これまでよりも解像度が一段と高まった信用評価が行えると考えています。

LINEの月間アクティブユーザーは8,400万人おり、メッセンジャーをはじめ、ニュース、エンタメ、広告、コマース、決済、金融など、さまざまなファミリーサービスをご利用いただいております。

個人のプライバシーをしっかりと守ることが大前提にはなりますが、オンライン上の膨大な行動データを機械学習にかけて解釈することで、個々人にフィットしたLINEらしい信用評価が行えると考えます。

この行動データに基づく「信用評価」というチャレンジングな取り組みを体現したサービスがLINEスコアです。

LINEスコアはユーザーの能動的な同意を元に、LINEサービス上での行動データと、ユーザーご自身が入力するライフスタイルに関する回答から信用スコアを算出します。このスコアに応じて、さまざまな特典を提供するサービスなのですが、リリースから1年経過し、登録ユーザー数は500万人を超えました。これは国内ナンバーワンの規模になります。

そして、先ほどのスコアを基盤にした個人向けローンサービスとして、LINEポケットマネーを提供しております。このサービスでは、スコアに応じて貸付利率とご利用可能額を決定するのが特徴です。リリースから1年弱で貸付実行額は100億円を超えました。利用者の年代としては20代から50代までまんべんなくご利用いただいております。

2月以降に需要が増えたLINEポケットマネーの貸し出し

さて、LINEポケットマネーの貸出実行件数の推移について分析すると、コロナの影響が本格化する2月以前と以降で比較すると、需要が増加傾向となっていることが見てとれると思います。

2月下旬には政府によるイベント自粛要請や臨時休校要請などがなされ、4月から5月は緊急事態宣言が発令されました。この間は、冒頭に申し上げたように勤務先の休業で収入が途絶えたアルバイトの方や、取引先からの発注が停止し仕事が大幅に減ったフリーランスの方の生活の困窮状態が表面化しました。

収入減における一時的な生活サポートとしては、特別定額給付金などの支援制度が設けられましたが、各世帯への10万円の支給は自治体によっては時間を要したこともあり、民間のローンサービスの役割や需要も一定増したと思います。

また、6月以降でも定額給付金の金額のみでは収入減の影響がカバーしきれないケースなど継続的な資金需要が発生していると考えられます。実際にLINEポケットマネーのご利用者を分析すると、業界平均と比べて自営業・派遣・契約社員・パート・アルバイトの方の比率が10パーセント以上高く、まさに「多様な働き方をする個人のみなさま」に多くご利用いただけていると自負しております。

また、使われ方としては、1回あたり3万円未満のご利用者が6割と、必要な時に必要な金額だけ賢くお使いいただいている印象です。資金使途としては日常の生活費が最多になります。

LINEのコミュニケーション強度と延滞・貸し倒れの相関関係

そしてリリースから1年が経過した今、昨今の社会情勢を鑑み、ユーザーニーズを柔軟に汲み取るためにも、我々はこの信用評価の仕組みを大幅にアップデートすることといたしました。

この1年間においても、属性データにLINE内の行動データを加味した与信審査を継続してまいりましたが、そのノウハウを結集し、この秋より行動データを軸として新たなLINE Activityモデル2.0へと移行します。

この新たなモデルの開発には、LINEポケットマネーで実際に発生した延滞や貸し倒れのデータを教師データ、つまり予測する対象データとして定義しました。こういった、残念ながら延滞や貸し倒れとなってしまったユーザーの方が、過去に「LINEサービス内でどのような行動をとられていたのか?」という観点で相関分析を行い、統計的に有意な行動変数を決定します。

非金融の行動データで延滞や貸し倒れの発生率を予測するのは、非常にチャレンジングな取り組みではありますが、実際にこの1年でさまざまなことがわかってきました。例えば友達の数の変化であったり、友達の期間が長い方とよくコミュニケーションされるかどうかなど、LINE利用におけるコミュニケーション強度が延滞や貸し倒れの結果と明確な相関関係があることなどがわかってきました。

ユーザーの同意を得てスコアを算出

右側のグラフは、延滞・貸し倒れをBADな行動と定義し、それ以外をGOODな行動と定義した場合の相関分析のグラフです。とあるLINE内のコミュニケーションについて、現在と1年前とを比較し、その行動が1年前と比べて多かったのか少なかったのか。0.1倍以下から1.4倍以上で4つのグループに分解しました。

その結果、1年前と比べた増減によって、最もBADな状態の発生確率が高い左上(0.1倍以下のグループ)から、発生確率が低い右下(1.4倍以上)にかけて、きれいな相関性が出ていることが見てとれます。これはあくまで相関分析の一例ですが、このような行動変数の分析を1万件近く行い、有効な組み合わせとなるように絞り込んでモデルを構築しました。

このように、非金融のデータであっても相関性の強い行動変数をさまざまな角度からピックアップすることで、肩書きや働き方などの従来の属性情報に偏らないLINE独自のユニークな与信が可能だと考えます。

スコア算出はユーザーの同意が必須になります。ユーザーの同意なしにスコア算出することは絶対にありません。また、個人間・グループ間を問わずLINE上の通話やメッセージの内容は暗号化され、原則としてLINEのすべてのサービスにおいて閲覧も利用もできない仕組みです。当然ながらLINEスコアにおいても同じ取り扱いとなっております。

我々は、個人の行動に焦点を当てた評価により、信用評価の仕組みをリデザインし、信用格差の解消へ取り組んでまいりたいと思います。また、これによりwithコロナで到来する個人の時代にフィットしたフェアなローンサービスの提供を強化してまいります。

個人・法人向けローンや予約サービスなどへの展開

最後に、この信用評価の仕組みは、個人向けローンのみにはとどまりません。今後は中小企業向けのローンなど、金融分野での水平展開はもちろん、本日発表になりました“LINEで予約”のような予約系サービスにおける「No-Show保証」。

あるいは「LINE ID Passport」のようなパーソナルデータとの連携、CtoC向けのシェアリングサービスへの導入などをスコープとしてとらえながら、Credit Techなサービスを展開し、人とお金との距離を“CLOSING THE DISTANCE”してまいります。ご清聴ありがとうございました。