「企業がどう変わるか」で、今後の日本が変わる
翁百合氏(以下、翁):日本総研の翁です。私は最初に勤めたのが日銀で。京都支店という所で小さな信用金庫とか、たくさんいろいろ考査をしたりして。ちょうどバブルが膨らんだ頃で、京都はもうキラキラの状況だったんですけれども(笑)。
(一同笑)
バブルが崩壊してから、ちょっと先ぐらいまで日銀にいたんですけども。金融機関は全部残れないのではと思っていたところ、やっぱり金融危機にどんどん入ってしまいました。
日本総研に入ってから、破綻処理とか不良債権処理とか。とくにアメリカが先行していたので、そういうことを研究していて。不良債権を早期処理するべきだとか、回収すべきだとか言ってたんですけども。ずっと銀行サイドというか、金融サイドからしか見ていなかったんです。その後、ちょうど冨山さんがCOOで入られる、産業再生機構にご一緒することになって。
冨山和彦氏(以下、冨山):ああ、お世話になる(笑)。
翁:(笑)。冨山さんと私は同世代なんですけれども。その頃にご一緒して、いろんな経験をさせていただいて。産業と金融の両方から、不良債権の問題を非常に勉強させてもらったということがあります。
その後もいろんなところで冨山さんとはご一緒しているんですけれども、そういうこともありまして。質問は(スライドを指して)ここに今出てますけれども、まず冨山さんの本についての私の感想です。
もちろん、デジタルトランスフォーメーションでどんどん変わるっていうこともあると思うんですが。地域とか地方というのはかなり、やっぱりアフターコロナで着目されると思います。そういう意味では、企業がどういうふうにこのアフターコロナで自分自身を変えていくかということで、これからの日本が大きく変わるチャンスでもあると思っています。
そういう意味で、冨山さんは本の最後のほうでも、ご自身もいろいろ取り組んでいかれたいと言っておられて。経営共創基盤とか、そういったところを舞台にいろいろな企業のトランスフォーメーションに、実際にまた関わっていかれるのかなと思っているんですけれども。
政治介入が生む“ゾンビ”
翁:私がお伺いしたいのは、政府のほうでもこういう動きが、今は資金繰り支援ということで一生懸命、金融機関が支えているわけですけれども。徐々に債務過多になってきていて、大きいところも小さいところも、非常に大きな困難に直面していく可能性があるわけなんですが。
そういった中でREVICとか、地域経済活性化支援機構ですね。これ、官民ファンドの一つなんですけれども。こういったところを活用してエクイティ性資金を入れて、再生していこうというような動きが出てくることがわかってきているんですが。
冨山さんにお聞きしたいのは、こういった動きについてどういうふうに評価しているのか。で、こうした取り組みについてどういう注文をつけたいのか、ということですね。それから、そういったところで「官」と一緒に共同することがあると考えておられるのか。それはぜんぜん考えていないということなら、的外れになってしまいますけれども。もし一緒にやることがあるのなら、それについてどう考えてらっしゃるのかといことを、お伺いしたいなと思います。
冨山:わかりました、ありがとうございました。産業再生機構のときもそうだったんですけど、こういうある種の危機的な経済状況になったときに、市場の機能がやっぱりすごく弱まっちゃうんで。政治部分が介入するっていうのは、それ自体はあってもいいとは思うんですね。
ただ問題は、これはもう翁さんには釈迦に説法ですけど、副作用もあるので(笑)。要はゾンビをいっぱい作っちゃうって副作用もあって。再生機構のときにも「どっちにいくんだ」みたいな感じがずいぶんある中で、それは翁さんにも助けてもらって、ゾンビを作らない方向に僕らは持っていけたんですけど。どっちかというと政治的には「ゾンビを作れ」っていう力が働くんですよね。
で、ゾンビを作らないようにやろうと思うと、やってる側に相当な意志と覚悟が必要で(笑)。我々がそれをできたのは、いくつかの当時の政権からの後押しがあったというのもあるし、あと我々自身ができるだけ早く民間に帰りたかったんで(笑)。その組織に長い間すがりつきたいと思ってなかったという、いくつかの動機付け的要素もあったから、割とさっぱりとした形でやれたんですけど。
今の官民ファンドの多くが、必ずしもそういう組織構造になってないので。どちらかというと、ちょっと油断するとゾンビ延命型の資本注入になっていく危険性のほうが高いです。ここは結局、関わってる人たちの根本的動機付けとか、位置付けって言うのかな? その人の人生がどういうポジションにいるかってことに規定されちゃうからなかなか綺麗事でいかないんですよね、現実問題として。
だから、そこも含めた設定をどうするかという問題がある。
恒久的な構えでCX・DXの再編を行う
冨山:それから2つ目の質問に関わるんですけど、やっぱりローカル企業のトランスフォーメーションって「バーッと債務を落として、バーッと資産を売る」とかって外科的な手術は、ものの数ヶ月でできますけど。
うちのバスがそうだけど、やっぱりコーポレート自体をトランスフォームするのって、5年10年かかるんですよね。長期戦になって、さっき出ているような新しいテクノロジーも入れるとかって話だと、すごい長い時間軸の中で延々とやってかなきゃいけないんで。それをやるにはやっぱり官民ファンドって、建付けとしては向いてないんですよね。要するに、企業体を恒久保有できないんで。
だからそういう意味合いで言うと、もし、例えば我々が今やってる「みちのり」みたいな業態をさらに拡大して、より大規模なかたちでコーポレートトランスフォーメーションなり、デジタルトランスフォーメーションに再編なりを、10年20年、恒久的な構えでできるような受け皿を、もしうまく作れたらいいのかと思います。短期的な資金注入と外科手術をやる官民ファンドという、本来、官民ファンドのフィットが良い役割と、その後のトランスフォーメーションを営々と、後ろを切らずにやっていくっていう受け皿です。
これ、後ろを切らないほうが実はトランスフォーメーションって早く進むんですよ。後ろ切っちゃうと、みんなトランスフォーメーションしたふりをして(笑)、それが終わった瞬間に戻っちゃうんですよね。改革の揺り戻しが起きちゃうんで。だから後ろを切らないほうがうまくいくので。
ですから民間の側のほうが、例えば我々自身の事業体が、パーマネントなかたちにできれば。いわゆるプライベートでパーマネントにする手もあるし、上場してパーマネントにするって手もあるんですけど。やっぱりパーマネントな資本になることによって、あるいは企業となることによって、そういう時間軸におけるお互いの比較優位を埋め合えるので。そういう枠組みが作れたらおもしろいですね。
日本のローカル市場に世界から攻めてくる人は滅多にいない
翁:冨山さんみたいな会社がたくさんあればいいんですけれども(笑)。今、ローカルにいろんな課題を抱えてる企業って本当に多くて。そういった意味では冨山さんの会社だけでも規模はないし、それから官民ファンドだけでもそうでないとすると、どういったところがそういったことへ本格的に取り組んでいけばいいと思われますか。
冨山:これね、さっきちょっと申し上げましたけど、ロー・ハンギング・フルーツがけっこういっぱいあるんですよね。低いところにぶら下がってるものが。結局、日本みたいに人口が増えない社会で成長を志向すると、生産性を上げる方向しかないわけですよ。お客さんの頭数が増えないんだから。だから「国内型の産業で成長を」とすれば、むしろローカル経済圏で。さっき言ったように、90パーセントはローカルですから。そこに大きな、私に言わせればまだ未開の、ベリー・ブルー&リッチオーシャンがあるので。それはそこに気がついた人たちは、みんなやればいいと思いますよ(笑)。
翁:地方銀行とか、そういったところはどうなんですかね。
冨山:さっき申し上げたように、地銀にとってもすごくビジネスチャンスがありますし。あとその地域に関わっている、それこそ鉄道会社だって、あるいは通信会社も実はけっこう地域型なんで、本当は。地域に線を走らせてるわけですから。ですから本来、ローカル型でやってるビジネスって少なくないので。商社だってけっこうローカルなことやってますからね、実は。
翁:そうですね。
冨山:某商社みたいに、むしろローカルをちゃんとやった会社のほうが調子いいでしょう、今。グローバル資源よりも。
翁:そうですね。
冨山:だから実はそこにけっこう、安定収益を作っていく……こういう領域って一回競争優位を作っちゃうと、守りやすいんで。日本のローカル市場に世界から攻めてくる人、滅多にいないですから(笑)。
翁:(笑)。
冨山:だからそういう意味じゃ、ビジネスのシーンっていっぱいあるから。別に我々に限らず、いろんな会社がここでいろんなことをやってみたらいいと思いますし。やっぱりシリコンバレーとかイスラエルに出て行って、戦って勝つことよりは遥かに難易度低いですよ。
翁:それはそうですよね。
冨山:わりと、ハイリターンはないけれど、ローリスクミドルリターンみたいな経済領域なんで。そういう意味ではおっしゃったように、プレイヤーは地銀、それから本来ローカル型経済圏のビジネスをやってる、それなりの規模の会社。
ハイブランドだけど外資もみんな本来はローカルですし、小売りだって本来はローカル型産業ですからね。だから、そういった産業群。それから我々みたいなプレイヤー。あと物流もそうですよね。ヤマトだって日本郵政だって、本来、ローカル型産業なので。
翁:そうですね。
冨山:だからそういった人たちがそれぞれ、あるいは場合によっては組んで、より大きい領域・規模で生産性を上げることをやっていくっていうのは、私は非常にオーソドックスな日本における成長戦略だと思ってます。
でも今ね、とにかくデジタルテクノロジー、安いんで(笑)。安くていいもの手に入るから、これはすごくいい時代だと思うんですけどね。
翁:(笑)。
冨山:銀行だって今、どんどん安くなってますよね、新しいシステム入れるコストって。
翁:そうですね。本当に今、そういう意味ではチャンスですし。やっぱりいろいろな企業が社会的課題と思って取り組んでいくということが、とても大事ですよね。地域全体を。
冨山:そうです。だからさっきの「Making money by doing good」ですよ、まさに。社会にとっていいことをやって、地域の生産性を上げて賃金上げて、かつ、ちゃんと収益も上げられるっていうのは、そういう世界ですから。それはもうみんなやればいいのに、と私は思いますけど(笑)。
翁:いや、本当にそう思います。どうもありがとうございました。