「連続起業家」の孫泰蔵氏

堀内勉氏(以下、堀内):私が選ばせていただきました7人の方に、まず文藝春秋社から『コーポレート・トランスフォーメーション』の原稿を、かなり早い段階で送ってもらって、みなさんに読んでもらってます。それを前提にみなさんから事前に質問をいただいて、私がパワーポイントにまとめました。

7人の方、質問が来た順番に、今日は冨山さんに質問を投げかけていただくというかたちで進行したいと思います。まず最初に孫さんからなんですけど、自己紹介と質問の趣旨ということで、それで冨山さんとの質疑で。だいたい1人10分ぐらいで進めていっていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

孫泰蔵氏(以下、孫):はい、よろしくお願いします。孫泰蔵と申します。私は「連続起業家」っていうと聞こえがいいんですけど、いろいろやりたいなということで、ずっとインターネットの世界を中心に、いろいろな事業を興すというのをやって参りました。

そして2011年の東日本大震災後ぐらいからいろいろと考えることがありまして、後進の若い起業家を応援するためにスタートアップ・アクセラレーターといわれれているような支援プログラムをやったり、実際にその若い起業家たちや、非常に斬新なテクノロジーをつかってイノベーションを起こし、社会に大きなインパクトを与えそうなスタートアップを応援する投資活動などもやっております。

ローカルのCX経営者が意識すべきこと

:今回(書籍を)読ませていただいて、先ほどちょうどプレゼンテーションの中でも、バス会社の件でお答えになっておられましたけども、私も非常に共感したのが「L型経済圏の一人ひとりがもっと、経済的にも精神的にも豊かに暮らしていける産業構造を、21世紀的な脈絡で再構築することが重要じゃないか」とおっしゃっておられたことです。

ただ実際、G型経済圏の企業というのが非常に強大な力を持っていて、価格競争力とかも時には無料で提供したり、非常に洗練されたサービスとかプラットフォームを持っていたりするので、普通にガチンコで競争すると、L型経済圏の企業は蹴散らされてしまったりするんではないかと思うんです。先ほどバス会社の件では「そうじゃないよ」とおっしゃっていましたが。

こういったローカルの産業構造、豊かな産業構造を各地に作っていくためには、ローカルのCXの経営者というのは、どういうことを特に意識するべきなのか。それから国としてとか地方自治体として、産業振興政策としてはどのようなことを執り行うべきなのか、というのが1つ目の質問です。

冨山和彦氏(以下、冨山):ありがとうございます。泰蔵さんのいろんな活動ぶりは僕もよく拝見してるので、いつも大変敬意を表しております(笑)。

まず経営者のありようとしては、自分たちが持ってる、地域でなんらかの事業をやってるわけですよね、もともと。多くの場合。それはバスかもしれないし旅館かもしれないし、小売業かもしれません。あるいは農林水産業かもしれません。で、一番原理原則に戻ることが大事で。ローカルで密着してることによって持っている、比較優位・競争優位は何なんですかってことを、やっぱり徹底的に研ぎ澄ますことだと思うんですよ。

なので、僕らが別にUber怖くないって思うかっていうと、あるいはGoogleは怖くないと思うかっていうと、我々がやってるバス事業っていうのは、かなり自動運転化が進んだとしても、やっぱり事故は起きるんですね。整備はしなきゃいけないんです。その地域に駐車場を確保しなきゃいけないんです。それこそ、もし事故を起こして人が亡くなったら、やっぱり謝りに行かなきゃいけないんです。

で、そういうベタなことって、やりたくないはずなんですよ。GoogleとかUberとか。比較優位はないです、彼らに。あとぜんぜん規模の経済性が効きません、こっちは(笑)。ネットワークの外部性も効きません。むしろ分散的で、密度の経済性なんですよ。そうするともしそれぞれが本当に、要は合理的な経済行動をとるんであれば、彼らは空中戦やってたほうがいいはずだし、我々はベタに地上戦やるんですね、徹底的に。空軍と陸軍で住み分けるはずなんです。

だから逆に言うと、こっちが明確に住み分けるほど、たぶん住み分けは起きると思っているので。それがよくわかってるってことが、1つは大事だと思ってます。

で、逆に言っちゃうと相互利用なんで。さっきちょっと申し上げたように、GoogleやUberが持っている、あるいはAirbnbが持っているテクノロジー的な優位性っていうのを、こっちは使い倒す立場ですから。じゃあ彼らは、使い倒す技能はなきゃいけない。変にぶつかりに行っちゃうと、おっしゃるようなことになっちゃうんで(笑)。

お互い利用し合えばいいと私は思っているので、それができる経営者かどうかですね。ですから本人が別にPythonでプログラミングできる必要はなくて(笑)。だけども要はそういった連中を使う、あるいはそういった連中の技術を使う能力ってやっぱり大事で。で、現状それがすごく弱いんですよ。だって別に高いお金で経理部にいっぱい人揃えて、税理士にお金払わなくても、フリーでできちゃうわけでしょ、大抵の会計処理は(笑)。

:はい、そうですね。

冨山:それが現にできてないんですよ、90何パーセントの中小企業。これ1つ挙げても、いっぱいやることってあって。だから僕らがだいたい地方案件で再生に成功するのは、それがいっぱいあるからなんです。要するに、ロー・ハンギング・フルーツがいっぱいあるからで。だからそういった人材が大事なのかなと思っています。

それからあと産業政策論で言っちゃうと、とにかくグローバルなネットレイヤーのプレイヤーに競争し続けてもらうことです。絶対に独占を許さないことです。ExpediaとBooking.comとじゃらんが競争してる限りにおいては、どんどん彼らのマージンは減っていくんです。ユーザーも複数から選ぶし、旅館の側も複数から選ぶので、この間の中間マージンは減っていきます。それは実際Uberなんか、要はライドシェアでも起きてることです。

独占になっちゃうと、これは必ず搾取が始まります。ですから徹底的に、永久にマネタイズさせない。永久に消耗戦をやり続けてもらう(笑)。ですから最良の産業政策は競争政策だと思ってます。

:なるほど。G型というときにGoogleとかUberとかAirbnbとか、そういうのだなっていうのはわかるんですけど。例えば日本の場合ですと、楽天とかヤフーとかリクルートみたいな、グローバルではないですけどネーションワイドでプラットフォームを展開してる企業、けっこうありますよね。そういった人たちって、けっこう小さいところもM&Aしたりして、全国網を作ろうとかって。わりとL型的なところもありながら、G型的なプレイをするっていう人たちとの戦いっていうのは、どうやればいいでしょうか?。

冨山:例えばさっきの旅館とか、ああいう関係でいっちゃうと、別にじゃらんは脅威でもなんでもなくて。

:うん、そうですね。

冨山:じゃらんのおかげで、田舎の要するにチェーンとかに入らなくても、集客できるようになっちゃってるんで。むしろネット系になればなるほど住み分けできちゃうんですよね。

:リアルに来ないから。

冨山:そうです。逆にリアル系の地域密着産業で彼らが規模を拡大すると、多くの場合、彼らの収益力は下がっていきます。規模の経済なんで。

:確かに。

冨山:だからそういうことはやらないほうがいいんじゃないかと、僕がもし彼らの立場だったら思いますけどね。戻っちゃうんですけど、それぞれの本当の比較優位に徹するっていうのが、1つの住み分けとか共存共栄になるような気がしていて。

ただやっぱりありがちなのは、人間って、帝国主義的な本能あるじゃないですか(笑)。

:はい。

冨山:帝国主義的な本能を持っている人って、なんでもかんでも支配したいもんだから、泰蔵さんがおっしゃるように妙に買収したがるんですよね(笑)。

:そうですね(笑)。

冨山:あれはだから、どうかなって感じは正直するので。そうすると今度はそういった企業に対する、ガバナンスの問題になると思います。そういう規模の不経済なことやるなよ、というのがたぶん大事な気がするんですけど。

ややみんな、ちょっと帝国主義なところあるので(笑)。だから僕らはそういう帝国主義に負けないように。経済の競争ってなると、最終的には経済性が勝つので。仮に楽天がバスの世界に侵攻してきても、結局こっちのほうが良い経営をしてをいれば、バスの世界では僕ら負けないんで。そういうことかなと思うんですよね。

:つまりL型の人から見ると、地域密着とかで徹底的に自分たちの価値を研ぎ澄ましつつ、G型の良いものは片っ端から使い倒すスキルを持つっていうことですね。

冨山:そうです。パクりまくる、使い倒しまくる。その良い均衡ができてくると、L・Gそれぞれに繁栄していくっていうモデルに均衡が起きるような気がしてるのと。あとね、僕はG型のゲームやってる人もそこをやってかないと、最後、彼らが自己破壊すると思いますよ。

:なるほど。

冨山:結局、政治的にはL型のほうが強いから。政治はやっぱりLなんですよ、それはアメリカ行こうがイギリス行こうが、だからブレグジットになっちゃうんですけど(笑)。なのでそれは昔のアレですよね、産業資本主義の時代にロックフェラーみたいな馬鹿でかいのがでてきて、帝国主義的にデカくなってきましたと。あれをずっとやり続けちゃうと最後は共産主義革命になっちゃうんで、みんなで自己修正かけたわけですよね。

だから私は、今度はG型経済圏のプレイヤー自身が、どこである種の資本の理性をはたらかせるかっていうのも、このあと問われるような気がします。

:なるほど、ありがとうございます。

冨山:でないと最後は革命になっちゃうんで。

:確かにそうですね。

「自由化と淘汰」が地方大学を強くする

堀内:ありがとうございます、ちょっと時間もアレなので「地方大学の財政基盤の強化」という2番目の質問、簡単にコメントしていただいて。あとは東大の藤井さんとかもいらしてるので、後半でまたお答えいただければと思うんですけど、どうでしょうか。

冨山:ストレートなこと言ってしまえば、地方大学、数が多すぎます。地方国立大学だけで80いくつあって、数が多すぎる。半分にすれば、1大学あたりの財務基盤は倍になります。かつ基本的に、地方国立大学はミニ東大が多いです。私が見てると、私立大学の中に、地方ではむしろおもしろい取り組みをやってる会社が少なくないですね。結局、私立大学は、いわゆるミニ東大を捨ててるので。非常に特色を出したことをやってる会社が、金沢工業大学もそうですけど、出てきてます。

そうすると、地方国公立大学は、私はちょっと乱暴な意見になっちゃうんだけど……とにかくいろんな規制があるんですよね、資金調達からなにから。それをもう取っ払って、定員も自由にやらせて、科目も全部自由にして、ダメになっちゃったら潰していったほうがいいと思う。そうすると結果的に数が減って強いところが残ってきますから、財政基盤は強くなると思います。私はやや乱暴ですけど、そういう意見です。

自由化と淘汰、それをしたほうがかえって地方大学が強くなるし、真剣にその地域にとってどう役に立とうかってことを考えるし。それを考えた結果として地方大学にお金が集まってくるようになると思うので。とにかくもう勝手にやってくださいと。その代わりヤバくなったときは面倒みないですよ、というふうにしていくほうが、僕は正しいような気がしています。

自分、地方大学の仕事もけっこうやっているので、ちょっとストレートに言っちゃいますけど(笑)。今言ったように、中途半端に助けるような助けないような、箸の上げ下ろしまで介入するようなやり方をしていると、かえってどんどん弱くなっていくような気がします。

:ありがとうございます。