実は、『ティール組織』を読み切れた人は少ない

島田由香氏(以下、島田):今までのご質問から、「ちょっと先にこれを言いたい」というのはありますか? (面白法人カヤックでは)始まったときからずっとティール組織でやっているとおっしゃっていましたよね?

今こうやって“ティール”という言葉があるけれども、先駆者というんですかね。そのときから変わらず大切にしているもの、会社の進化とともに変わってきていているものなど、やっていらっしゃった立場から言っていただけることってありますか?

柳澤大輔氏(以下、柳澤):ティールのお話はこれでスパッとやって、あとコミュニティの話に入ります。最初にバクっと話しちゃいます。

ティールってどういうものかというのは概念なので、聞いていてもみんな定義が違うんだなという印象を持ちました。なんとなく共通していることがあるんでしょうけどね。

まず、『ティール組織』を読み切った人は(この場には)たぶんいないと思うんですよね。どれくらいの方があの本を本当に読み切りました?

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

(パラパラと手が挙がる)

柳澤:……ですよね。僕も会社で「これ、いいよ」って薦めて、読んでくれたのは……。うちの人事はみんな頭がいいからサッと読んだけど、例えば、10人のうち2人しか読み切れなかったです。

難しいので、僕がブログでまとめを書きました。それを読んでいただければわかります。『#面白法人カヤック社長日記』に書いたので、それでほぼ概要はつかめると思います。

あれ(『ティール組織』)は、やっぱりティール組織を運営した人が書いていなくて、外から見た人が書いています。だから、(書くべきことを)半分も書いていない印象なんですね。

(ブログには、)「こういうことが書いていない」というのをちょっと書いています。それを言い出すとけっこうキリがないので、1つだけ「ほとんど運営していない人には、これはどういう意味かわかんないだろうな」と思うことがあります。

ティール組織とは「誰かが勝手にやったこと」の責任を自分たちで背負うこと

柳澤:「組織をより生き物のように捉える」というところがあるんです。これは共通しているんですけど、そこをやるためにカヤックが最初にやったことは、端的に言うと3人の代表で3等分の株を持つことです。

すべての「組織の文化」は仕組みから生まれるし、あとは評価で生まれます。株式会社の場合、ティールにしたいならやっぱり構造上は、そもそも株を全員に持たせないと、たぶんティールにならないです。

一応そこを意識して「生き物」にするために、3等分しました。僕らは3人だけど、代表取締役が3人いる会社って、四季報で見ても上場企業ではほとんどないんですよね。

さらに代表取締役を深く突き詰めていくと、「3人が共同代表で印鑑が1つの会社」と、「それぞれに代表権があり印鑑がある会社」って、微妙に構造が違うんですよ。まずそもそも、どっちがティールだと思います?

成澤俊輔氏(以下、成澤):印鑑がバラバラのほう。

柳澤:そう。そういうことになるんですよ。うちは(代表取締役の3人が)友達なんですけど、友達が(判子を)捺いたものに、全部連帯責任を負うということです。けっこうフルにコミットして、一緒に組んでいないと難しいじゃないですか。

ティール組織って、「誰かが勝手にやったこと」の責任を全部自分たちが背負うことになるので、そのための工夫が相当に必要なんですよ。

採用から始まり、中でどういうふうにトレーニングするか、どうやって合わない人が自然と抜けるかまで、全部必要です。だけど端的に言うと、おおもとはやっぱり資本構成が一番重要だと思います。

……という話で一旦ティールの話は終えて、ちょっとまたコミュニティに絡めた話をしますね。

ティール組織を目指すために必要な2つの考え方

島田:ありがとうございます。今のお話から何か、成澤さん? なるっち。

成澤:柳澤さんがどちらかと言うと経営者みたいなところを引っ張られたので、僕はもう少し具体的な、アクチュアルなところでいきます。

僕の中でティールって、一言で言うと、お節介みたいなのが大事かなと思っているんです。

「個別分散型で、それぞれ自分の判断のもとでやっていいよ」って話じゃなくて、そこにクロスファンクションがあったり、お節介があったりみたいなことが僕はけっこう大事だなと思っています。

あとは、「自分の常識が他人の常識ではない」という疑問を持つことですね。僕はこの2つが、文化を作るという意味で大事かなと思います。

お節介とか、自分の常識は常識じゃないとなったときに、僕が仕事としている障害者とか引きこもりの人たちの話というのがけっこうこれに近いと思っています。

今まで「1」って言ったら、人は「2」って言ってくれたのに、僕らがふだん接する人材は「1」って言うと「あ」って言うんですよ。「どういうこと!?」みたいになることが、この仕事にはとても多くあるんです。

そこにラスト1マイル、人のことを思えたりできれば、組織とかコミュニティみたいなハードを超えていきます。そういうお節介とか、自分の常識が相手の常識ではないよなということを現場でやっていくとティール型の組織になっていくんじゃないかなと思います。

コルクでも“トップの完全なる権限委譲”はうまくいかなかった

長谷川寛氏(以下、長谷川):すみません今、やなさん(柳澤氏)となるさん(成澤氏)の話があって、「なるっち」って呼ばせていただいていいのか……ちょっと図りかねているんです。

(会場笑)

長谷川:ティールについてお話しいただいたので、私はどちらかと言うとご質問いただいたことについて、「コルクだとこんなことがあったよ」というところでお話をできればと思います。

まず、「権限委譲」をした場合に、コルクはどうなったかというところで申し上げます。

コルクって本当におもしろい会社で、去年1年間、佐渡島が一旦経営からすべて退くという判断をしました。現場というか、他の社員に経営の権限を全部委譲したんですね。

本来的にはティール的な在り方を企図したものではあったんですけれども、それで何が起きたかと言うと、「やっぱりなかなかうまくいかなかったよね」というのが実情としてありました。

それを今、経営合宿で「なぜうまくいかなかったのか」という話をしていまして、「ミッションとかビジョンとかバリューの解像度が低かったんじゃないか」とか、「そもそもティール的な在り方を現場に説明し切れていたのか」といった意見が出ています。

いろんな文脈があるんですけれども、やっぱりなかなかうまくいかなかった。

その理由の1つに、コルクという会社がクリエイティブなものを扱っていることもあります。なかなか再現性を持たせられない中で、しかもクリエイティブなプロダクトを出せる能力が最も高いのが佐渡島だった、というところがありました。

「(経営者である)トッププレーヤーが経営を権限委譲しても、なかなかガバナンスが効きづらい」というところが今、組織構造の問題点として起きています。

日本人は、FFS理論で言うと「受容」「保全」タイプが圧倒的に多い

長谷川:すみません。先ほどの質問をいただいた、奥にいらっしゃる方。ごめんない、お名前がちょっと……。ダンさん?

ダンさんがおっしゃっていた、Twitterで話題となった台風のときの対応の話ですが、これも佐渡島はやっぱりおもしろい人間なので、日本だと当てはまりづらいんじゃないかというような仮説を持っています。

FFS(Five Factors & Stress)理論といって、人間の行動因子を5つに分けるものがあります。「凝縮的な人間」「受容的な人間」「弁別、理屈に基づいて物事を判断する人間」「拡散的な思考の人間」「保全的にすべてを安全・安心な状態で物事を進めたい人間」という5つの因子に分ける。

そのときに、欧米には「凝縮」という、要は「自分の信念を信じて、他の人たちにあれこれ左右されずに意思決定して進められる」という人がすごく多いらしいんです。

(対して)日本って圧倒的に「受容」と「保全」が高い人が多いらしいんです。そのTwitterの話題の出来事が起きたのって、そういう国民性を反映させているようなところもあるんだと思っています。

なかなかティール組織というのを日本に当てはめていくのは難しいんじゃないかなというのが、今、佐渡島とよく話しているところですね。

島田:そうすると今の長谷川さんが、「はせっち」がいるところは、どうなんですか? ティールだなぁと思うんですか?

長谷川:コルクという組織ですか? ティールになったばかりだと思います。(成澤氏に向かって)「なりっち」なのか、「なるっち」なのか、どっち?

成澤:「なりさわ」だけど、「なるっち」って呼んでください。

長谷川:「なりさわ」だけど「なるっち」で……(笑)。すみません、ちょっと「何っち」なのかよくわからなくなってきちゃった(笑)。

島田:なんだかよくわかんない(笑)。

ビジネスモデルが固まっていれば“ティール”がハマる可能性はある

長谷川:それで申し上げると、段階論かなと思っています。というのは、佐渡島がやっている「コルクラボ」というオンラインサロンって、極めてティール的だと思っているんですね。

要はやりたい人たちがやっているわけです。僕は「自分の素でい続けられる状態であること」がティール組織の一番の魅力だと思っているんです。コルクラボってとくに誰からも評価されないし、フラットな状態で入ってきます。

……「やなっち」でよろしかったですか?(笑)。恐縮ですけど、さっきのやなっちさんの話のリスク&リターンの分配みたいなところで言うと、コルクラボはみんな1万円を払って来ているので、ある種、等分にリスクを負っている状態の組織体になっています。

そういう状況で好きなものを語り合う場であり、「好きのおすそわけ」というコピーライティングで運営しているので、けっこううまくいっているんです。

それを、ビジネスモデルが固まっていないコルクという会社の中でやりに行くと、なかなか回らないなという気がしています。

ある程度固まった組織体に対して当てはめないとだめで、資本主義のドグマで動いている会社だとちょっとつらそうだなって思いますね。

(そういうわけで)むしろ、アドバイスを賜りたいという感じですね。

「ティールっぽい体質」はブレインストーミングで身につく

島田:今の、はせっちの話ですが、さっきやなっちは「株を3等分した」「資本構成の問題なんじゃないか」っておっしゃったじゃないですか? そのことと、今シェアしてくれたことって、何か結びつけて言えることってあります?

柳澤:ちょっと一足飛びに株の話をしちゃったなという印象はあります。そのプロセスというか仕組みがすべてを決定づけるので、紐解いていくとそこが一番重要だという話がしたかったんです。

たぶん働いている人たちはあんまりそこの認識はないですよね。今、それを1万円のリスクとリターンの例で、うまく話を噛み砕いてもらった感じです。

NPOって、基本は利益を構成員に分配することもしませんし、最終的に解散するときに財産は国に取られちゃうので、誰のものでもないじゃないですか。NPOとかコミュニティは本来、絶対にティールになりやすいんですよ。

なりやすいんだけど、じゃあNPOでティールの会社があるかと言うと、あまりない。なぜかと言うと、意外に仕組みが古いからなんです。

構造上はそうなんだけど、評価制度、採用、トレーニング、会社の中でのビジョンの浸透だったりというところをはっきりやってないと、結局ティールにはならないんですよね。

最終的に僕は資本構成が重要だと思っているけど、どっちも揃っているというところは少ないんじゃないでしょうか。どっちかでいくことはできると思うんですけどね。

コルクの今の構造では、コルクラボは当然コミュニティのほうだからティールになりやすいですね。

そこって、慣れていない人が来ると無理なんですね。うちで言うと例えば中途の人が入って最初に苦労するのは、「誰が意思決定者かわからない」ということでして、誰に根回しすればいいかさっぱりわかんないんですよ。

そういうふうに構造上そっち(ティールではない組織)に慣れている人は、どうにもならない。そういう体質的なものもたぶんあるんだけど、ちゃんとトレーニングすれば体質は変わる。だから、そこのトレーニングの仕組みがないとだめですね。

うちで言うと、それはブレインストーミングです。ブレインストーミングというのは体質が変わって素になるので有効です。おそらく、「ティールっぽい考え方」にするトレーニングもないと無理ですね。

島田:そのトレーニングってどうやるんですか? 会社の中で作ったんですか?

柳澤:いや、たまたま最初からそういうことをやっていたら、「これがそうだったんだ!?」ってわかったという感じです。

ブレストを定着させるコツは“やり続けること”

長谷川:ちょっと私からも、おうかがいいしていいですか? まさに悩んでいるところで、コルクという会社は今、中途採用がほとんどを占めている会社なんです。

どちらかと言うとやっぱりティール組織的な会社ってあまりないから、必然的にヒエラルキー的なところから転職してきた人間でほぼ構成されている組織体なんですね。

その中で、例えばブレスト(ブレインストーミング)をトライアルでやるじゃないですか。でも、意見出しをするところに1回ハードルがあるような気がしています。

とくに佐渡島ってクリエイティブが強いから、例えば仮の話ですけど「佐渡島に否定されるんじゃないか?」とか思ってしまうわけです。そういう、ブレストを活性化させるというか、組織に馴染ませるには、どういうところが必要でしょうか?

柳澤:いいのかな? この質問に答えていていいのかな(笑)。ちょっと長くなっちゃうけど、話しますね。とにかく馴染ませるというかブレストを忠実にやっていれば、そもそもヒエラルキーがなくなっちゃいます。

究極のブレスト体質の人間って、自分が出したアイデアか相手が出したアイデアかまったく忘れています。もうちょっとマインドフルネス的に言うと、他者と融合しちゃっているんですね。

本当にブレストって僕らはずっとたくさんやっていて、(言うなれば)最終的にはもうブレストしかやってないんですよ。

『HUNTER×HUNTER』という漫画があるんですけど、あれの中でネテロ会長という最強の人がいますね。その人は「感謝の正拳突き」を10年間やり続けた結果、最強になったわけです。ほぼそんな感覚で、「ブレストだけやっていたら、なんか行き着いた!」みたいな感覚なんです(笑)。

人とのコミュニケーションがオンラインでうまくいかない理由

柳澤:いろいろやってみた結果ですが、これはけっこうおもしろいんだけど、オンラインでブレストをやるとまくいかないですね。

ポストイットも、厳密にはブレスト的にならないです。あれは別のフレームワークです。ポストイットに書いているときは相手と融合しにくくて、自分のアイデアに集中するので、分離されています。

オンラインでなぜうまくいかないのかなと思って、考えました。(このセッションの参加者は)人事の方が多いと言っていたからわかると思いますが、面接をオンラインでやると、実際にお会いするのと情報量がやっぱり違うじゃないですか。

解像度の問題じゃないんですよ。今は4Kだけど、8Kくらいまでいくと人間の目が見る画質にほぼ匹敵するので、16Kまで作っても変わらないんですよ。8Kでほぼ人間の目の視覚情報と同じなんだけど、じゃあ8Kになったらほぼ面接もオンラインでいけるかと言うと、やっぱりそういうことではないんですね。

会わないとわからない情報を、相当受け取っているわけですね。それってたぶん例えば呼吸のリズムとか全体的なものじゃないですか。

ブレストも結局、融合するためには、オンラインだと(全体的なものが)遮断されているから他者との融合が生まれにくい。

実際に会って、本当に混じり合うと、本気の融合が生まれる。そうするとティールになりますよね。なぜかと言うと、相手が言ったのか自分が言ったのかわからないからです。自分が責任を取らなきゃなんないし、素にならざるを得ない。

そういう意味でいくと僕は、本当の究極のブレストをやれば、だいたいティールになると個人的には思っています。

究極のブレスト方法、それは……

島田:ちょっと聞いてもいいですか? 「究極のブレスト」はどうやるんですか?

柳澤:ただ長時間やるだけです。

(会場笑、会場拍手)

柳澤:筋肉(を鍛えるの)と一緒です。脳を破壊して柔らかくする。

島田:ポストイットも別のフレームワークって言っていたから、とにかく話して意見を出すということですか?

柳澤:そう。アイデアを出す。その代わり、全部アイデアにしなきゃだめです。そうじゃないと雑談になっちゃう。全部口から出る言葉がアイデアになってなきゃだめです。そうすると主に右脳のほうが中心なんだけど、アイデアを出す脳だけが使われます。

島田:例えばですけど、そこでは「出てきたアイデアは否定しない」とか、そういう何かのルールはありますか?

柳澤:それも究極どうでもいい感じになってきます(笑)。もう口から出る言葉を、全部アイデアにするということです。そうするともう、わけわかんなくなりますから。

島田:それを最初の頃からやられていて、今はそれがもう仕組み、文化になっているということですか?

柳澤:でも、それを突き詰めてもやっぱり苦手な人もいるし、そうは言ってもいろいろとあります。だから中間くらいだと思いますけどね。