「チームワークあふれる会社を作る」という判断の難しさ

青野慶久氏(以下、青野):このサイボウズという会社の場合は、「チームワークあふれる社会を作る」。こうした企業理念を掲げてやっていますので、基本的にはこれに沿って判断することになります。そこには売上を伸ばしなさいとは書いていないし、利益を出しなさいとも、組織を大きくしなさいとも書いていない。

「チームワークあふれる社会を作るんです」と書いてあるので、どっちのディシジョン(決断)の方がその理念に近づくかといった判断です。ただ、口で言うのは簡単ですが(笑)、日々がけっこう辛くて。一つ紹介しますと、5年前にオフィスを移転しなければならなくなりました。

いくつか新しいオフィスの候補があって、日本橋のオフィスの提案が来ました。家賃を見たらもうびっくりですよ。「うわ、高けぇ!」というような。

(会場笑)

こんなの借りたら赤字になるじゃん、というような金額のオフィスなんですよ。これはないな、と値段を見たときには思ったんですが、このへんからですよ、チームワークの神様が降りてきました。

(会場笑)

「青野くん。別にあなたの会社が赤字になろうが、どうでもいいんだ。今、この日本橋という交通の便がいいところに新しいオフィスを作って、それでもって日本の組織の働き方を変えていきなさい。そのあとにあなたの会社がなくなっても、それはそれでいいじゃないか」。

こうした声が聞こえてきました(笑)。

(会場笑)

「はい、わかりました」と(笑)。それで東京のサイボウズのユニークな日本橋オフィスができた。そういうこともありました。

組織の長としての判断と、“神様”というメタの視点を意識

フレデリック・ラルー氏(以下、ラルー):チームワークの神様は冗談だと思いますが(笑)。

青野:でも、本当なんです。やっぱり、どうしても自分が組織を持っていると、メタの視点が持てなくなってしまうんですね。まあ本当に神様がいるかどうかはわかりませんが、「神様だったらどう言うだろうか」というメタの視点を切り替えながら、意思決定をすることを心がけています。

ラルー:青野さんの場合、実際にはそうやって声として聞こえてくるのか、それとも腹から感じるのか、シャワーを浴びているときなどにふっと思い浮かぶのか。どんなかたちで訪れますか?

青野:私はどちらかと言えば、理屈で考えていくタイプなので、ふっと降りてくるというよりは、今のさまざまな状況を見て、ロジカルな判断を下そうとします。ただ、それが組織の長としてロジカルな判断をするのと、もっと高い視点からの神様であれば、どんなロジカルな判断を下すんだろうなと。

まさに自分が神になって、今の社会の状況を見て、どれが正しいチョイスかと。サイボウズの青野はこう動かそうと、そんな判断をします。おかしなことを言っていますか?

(会場笑)

全体会議の途中退室も引き抜きも自由

上田祐司氏(以下、上田):まず、(社員から)日々の意思決定を僕に聞いてもらえないという、今日この頃があるんですが。

(会場笑)

うちも情報共有の同じ志を持っているので、本当に情報をオープンにしようというのがあります。本当にたくさんの社員や、取締役も5名中4名が社外の方だったりするんですが、それにすごく引きずられています。

例えば、あるときうちの事業部(子会社)だったユーチューバーのマックスむらいが、「今のこの会社を俺のにしたいんやけど」と、わけのわからんことを言ってきまして。

(会場笑)

「100パーセント子会社やで」と言ったのに、「いや、でも俺の(会社だと思える)方が、モチベーション上がるし」と言われまして。マジでわけわからんなと思いながら、初めて(株をみんなに持たせることを)考え始めました。

日頃の事業でも、全体会議が自由に退室可能なので、僕がしゃべっていても、みんながつまらないと思ったら帰っちゃうんですよ。各事業部の発表も数字を見ればわかるので、そんなことをしゃべったら誰も残ってくれない。「なぜこれをやっているのか、これが実現するとどうなるのか」という感情のようなものをグアーッと言うんです。

引き抜きなども自由なんですが、本当にそうしたものがブワーッとパワーがあるところにみんなが寄っていくような。日頃から、動物がみんなで大陸を大移動していくような雰囲気の意思決定をしていると思います。

従来のリーダー像とはかけ離れた、珍しいリーダーシップ

ラルー:みなさんに手を挙げてほしいんですが、この人たちの会社と共に働いてみたいと感じる人はどのくらいいらっしゃいますか?

(会場たくさんの人が挙手)

最後の質問になりますが、まだ多くの人は、従来からのリーダー感をお持ちだと思うんですね。例えば、「リーダーたるものは、すべてを掌握していなければいけない。すべてを知っていなければいけない。答えを持っていなくちゃいけない。そして、決して弱みを見せてはならぬ」。そういうリーダー像があると思うんですが、お二人の話を聞いていると、非常に珍しいリーダーをやっていらっしゃると思う。

たとえば(青野さんを指して)「私に答えはわからないので、現場の社員に聞いてみよう」と仰った。(上田さんは)「私はまったく指示しないし、みんな自分で決めています」と仰った。

私が見てきたリーダーも、お二人のやっているようなことを試してみると、「実際にやってみたらそんなに恐ろしいものではなかった」「むしろ、いまが一番幸せだと思う」ということを発見することが多いんですね。もうすでに、その珍しいタイプのリーダーシップを発揮していらっしゃる。お二人は実際にそうなのでしょうか。

また、この会場の中で、従来の組織に属しているけれど、お二人の話にすごくわくわくすると同時に、まだ踏み込むのが怖いと感じている方がいらっしゃるとすれば、そうした方には、どのように助言をされますでしょうか。

「退職しようかな」とつぶやいてほしい

上田:従来、日本では「報連相」というものがあって、報告は僕も徹底しているんですよね。上司だけじゃなくて、会社のメンバー全員に報告しろとも言っているし、もっといえば、世の中全体に報告しろと言っておりまして。最近、僕のメンバーの千葉憲子からはTwitterで僕に日報が上がるという。

(会場笑)

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