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ラルーさん・青野さん・上田さんとのダイアログ(全4記事)

リーダーは情報を隠すべきではない 「情報を持っている人=権力者」という構造からの脱却

2019年9月14日、日本初のティールカンファレンスとして、ティール探求者が一堂に会する大規模カンファレンス「Teal Journey Campus」が開催されました。「これからの組織のあり方」を示して注目を集めた『ティール組織』発売から1年余り。「どんな形やあり方が、自分の組織に合っているだろう?」「だれもが本当に自分らしくあれる職場は、どうすれば実現できるだろう?」 。さまざまな問いに対して、学びを共有してインスピレーションを与え合い、仲間を見つけ、つながることで「次の一歩」を見い出すことを目指すイベントとなりました。本パートでは、『ティール組織』著者のフレデリック・ラルー氏と、サイボウズ株式会社の青野氏、株式会社ガイアックスの上田氏によるトークセッションの模様をお届けします。今回は、意思決定の方法と新しいリーダーシップの在り方について意見を交わしました。

「チームワークあふれる会社を作る」という判断の難しさ

青野慶久氏(以下、青野):このサイボウズという会社の場合は、「チームワークあふれる社会を作る」。こうした企業理念を掲げてやっていますので、基本的にはこれに沿って判断することになります。そこには売上を伸ばしなさいとは書いていないし、利益を出しなさいとも、組織を大きくしなさいとも書いていない。

「チームワークあふれる社会を作るんです」と書いてあるので、どっちのディシジョン(決断)の方がその理念に近づくかといった判断です。ただ、口で言うのは簡単ですが(笑)、日々がけっこう辛くて。一つ紹介しますと、5年前にオフィスを移転しなければならなくなりました。

いくつか新しいオフィスの候補があって、日本橋のオフィスの提案が来ました。家賃を見たらもうびっくりですよ。「うわ、高けぇ!」というような。

(会場笑)

こんなの借りたら赤字になるじゃん、というような金額のオフィスなんですよ。これはないな、と値段を見たときには思ったんですが、このへんからですよ、チームワークの神様が降りてきました。

(会場笑)

「青野くん。別にあなたの会社が赤字になろうが、どうでもいいんだ。今、この日本橋という交通の便がいいところに新しいオフィスを作って、それでもって日本の組織の働き方を変えていきなさい。そのあとにあなたの会社がなくなっても、それはそれでいいじゃないか」。

こうした声が聞こえてきました(笑)。

(会場笑)

「はい、わかりました」と(笑)。それで東京のサイボウズのユニークな日本橋オフィスができた。そういうこともありました。

組織の長としての判断と、“神様”というメタの視点を意識

フレデリック・ラルー氏(以下、ラルー):チームワークの神様は冗談だと思いますが(笑)。

青野:でも、本当なんです。やっぱり、どうしても自分が組織を持っていると、メタの視点が持てなくなってしまうんですね。まあ本当に神様がいるかどうかはわかりませんが、「神様だったらどう言うだろうか」というメタの視点を切り替えながら、意思決定をすることを心がけています。

ラルー:青野さんの場合、実際にはそうやって声として聞こえてくるのか、それとも腹から感じるのか、シャワーを浴びているときなどにふっと思い浮かぶのか。どんなかたちで訪れますか?

青野:私はどちらかと言えば、理屈で考えていくタイプなので、ふっと降りてくるというよりは、今のさまざまな状況を見て、ロジカルな判断を下そうとします。ただ、それが組織の長としてロジカルな判断をするのと、もっと高い視点からの神様であれば、どんなロジカルな判断を下すんだろうなと。

まさに自分が神になって、今の社会の状況を見て、どれが正しいチョイスかと。サイボウズの青野はこう動かそうと、そんな判断をします。おかしなことを言っていますか?

(会場笑)

全体会議の途中退室も引き抜きも自由

上田祐司氏(以下、上田):まず、(社員から)日々の意思決定を僕に聞いてもらえないという、今日この頃があるんですが。

(会場笑)

うちも情報共有の同じ志を持っているので、本当に情報をオープンにしようというのがあります。本当にたくさんの社員や、取締役も5名中4名が社外の方だったりするんですが、それにすごく引きずられています。

例えば、あるときうちの事業部(子会社)だったユーチューバーのマックスむらいが、「今のこの会社を俺のにしたいんやけど」と、わけのわからんことを言ってきまして。

(会場笑)

「100パーセント子会社やで」と言ったのに、「いや、でも俺の(会社だと思える)方が、モチベーション上がるし」と言われまして。マジでわけわからんなと思いながら、初めて(株をみんなに持たせることを)考え始めました。

日頃の事業でも、全体会議が自由に退室可能なので、僕がしゃべっていても、みんながつまらないと思ったら帰っちゃうんですよ。各事業部の発表も数字を見ればわかるので、そんなことをしゃべったら誰も残ってくれない。「なぜこれをやっているのか、これが実現するとどうなるのか」という感情のようなものをグアーッと言うんです。

引き抜きなども自由なんですが、本当にそうしたものがブワーッとパワーがあるところにみんなが寄っていくような。日頃から、動物がみんなで大陸を大移動していくような雰囲気の意思決定をしていると思います。

従来のリーダー像とはかけ離れた、珍しいリーダーシップ

ラルー:みなさんに手を挙げてほしいんですが、この人たちの会社と共に働いてみたいと感じる人はどのくらいいらっしゃいますか?

(会場たくさんの人が挙手)

最後の質問になりますが、まだ多くの人は、従来からのリーダー感をお持ちだと思うんですね。例えば、「リーダーたるものは、すべてを掌握していなければいけない。すべてを知っていなければいけない。答えを持っていなくちゃいけない。そして、決して弱みを見せてはならぬ」。そういうリーダー像があると思うんですが、お二人の話を聞いていると、非常に珍しいリーダーをやっていらっしゃると思う。

たとえば(青野さんを指して)「私に答えはわからないので、現場の社員に聞いてみよう」と仰った。(上田さんは)「私はまったく指示しないし、みんな自分で決めています」と仰った。

私が見てきたリーダーも、お二人のやっているようなことを試してみると、「実際にやってみたらそんなに恐ろしいものではなかった」「むしろ、いまが一番幸せだと思う」ということを発見することが多いんですね。もうすでに、その珍しいタイプのリーダーシップを発揮していらっしゃる。お二人は実際にそうなのでしょうか。

また、この会場の中で、従来の組織に属しているけれど、お二人の話にすごくわくわくすると同時に、まだ踏み込むのが怖いと感じている方がいらっしゃるとすれば、そうした方には、どのように助言をされますでしょうか。

「退職しようかな」とつぶやいてほしい

上田:従来、日本では「報連相」というものがあって、報告は僕も徹底しているんですよね。上司だけじゃなくて、会社のメンバー全員に報告しろとも言っているし、もっといえば、世の中全体に報告しろと言っておりまして。最近、僕のメンバーの千葉憲子からはTwitterで僕に日報が上がるという。

(会場笑)

そのようになっているんですが、全部情報が明らかになった方が、組織として効率的だよね、と。そこは従来のリーダーも認めるところだと思いますが、そこから始めるのがいいんじゃないかと思います。この前も、うちのメンバーが1人で退職を悩んで、意思決定をして、僕に報告をして、順番に挨拶をしていって、みんなには最後に流したんですが、「頼むからそういうのはやめてくれ」と。

もう(退職を)決めたらその瞬間、全員に流してほしいし、もっと言えば「退職しようかな」とつぶやいてほしい。

(会場笑)

そういう情報が入った方が、みんなにとってハッピーだし、効率的だし、パフォーマンスが上がると思うんですよね。だから、そのようなアドバイスを。

(会場笑)

情報格差をなくすことは、リーダーにとって勇気がいること

青野:そうですね。今までの組織のかたちでは、情報を持つ人が権力を持つ構図だったんだろうと思います。ですから、情報を手放す、情報を分離する、情報格差をなくすことは、ある意味リーダーにとってはとても勇気のいることです。

例えば、今、私が毎週主催する経営会議があるんですが、今はもう参加したい人は誰でも参加できるようになっています。議事録もすべてがすぐに公開されますし、その場に来られない人に向けては、ビデオ会議で遠隔からでも参加できるようにしています。

先日私が開いた会議は、そのオンラインの参加者を含めると、75名が参加。みんな仕事をしようよ、と。

(会場笑)

でも、よっぽど興味があったんでしょうね。それだけにみんなが参加します。とても勇気のいることなんですが、今、上田さんがおっしゃったように、非常に効率がいいんですね。私がいろいろと考えたアイデアが本当に正しいかどうか。これを確認するためには、やっぱり現場の人たちに、もう一度確認して聞いていかないといけない。

でも、会議に参加してくれれば、すぐにフィードバックがもらえるわけです。その社内のグループウェアには、私がしゃべることを実況する人もいまして。すぐ、「青野さん、それ間違っていますよ」と。

(会場笑)

その場で返ってくるわけですよね。非常に効率がいい、精度の高い戦略を短期間で作ることができて、しかもそれを伝達するときにも、みんながそのプロセスを知っていますから、わかった状態になっているわけですよ。リーダーの人に気付いてほしいのは、その情報を隠さないこと。

これはすごく勇気のいることです。今日は「フール」という言葉もありましたが、自分のアホなところも見られることにはなるんだけれども、経営効率は格段と上がる。もっと儲かる組織になりますよ、と。それに気付いてもらえれば、この一歩を踏み出してもらえるんじゃないかと思いますね。

スモールスタートを続ければ大きな変化になる

ラルー:この会場の中で、「よくわかる。それはよくわかるんだけれども、ちょっとまだ怖いんだよね」という方に向けて、一言かけるとすれば、なんとおっしゃいますか?

青野:スモールスタートでいいと思うんです。今のサイボウズのような状況を一気に目指すんではなくて、サイボウズもここまでくるのに14年間もかかっていますので。思っていることがあるのであれば、少しでも安心できる人と、まずはシェアをしてみること。

それで上手くいったら、もう少し多くの人とシェアをしてみる。いきなりジャンプをするのではなくて、スモールスタートを続けていくと、大きな変化になるんだと思いますよ。

上田:僕らが信じていることは、本当に根本的なところから間違っていることが多々あるんですよね。今まで会社として、礼儀正しくあるべきというようなものが、まさにこの本で、まあそういうタイプもありますよね、というような感じで書かれているわけですよ。

資本主義もはっきり言って、だいぶ間違ってきていると言われていますが、それを僕も感じていて、先ほどマッキンゼーの話もされていらっしゃいましたが、金儲けが一体なんの人類の幸せに直結しているのか、マジでわからないわけですよ。そうしたところから間違ってんのやな、と思うと、少しは勇気を出してもらえるのではないかと思います。

(会場笑)

司会者:ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:ありがとうございます。それでは、このあとのQ&Aは、青野さんにバトンをタッチして進んでいくんですが、その間今のパネルディスカッションを聞いていただいて、またお隣同士で5分ほどお時間を取りますので、どんな感想を持たれたのか、どんなことを今感じていらっしゃるのか、ぜひご共有をお願いします。

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