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パーソナルゲノム時代が拓く未来 〜 ゲノムが生命科学・医療へ引き起こすイノベーションと未来の可能性 〜(全6記事)

データがあふれる時代に重要なのは「何を達成したいか」 ジーンクエスト代表が語る、遺伝子解析サービスの真価

2019年9月4日、WASEDA NEOにて、「パーソナルゲノム時代が拓く未来〜 ゲノムが生命科学・医療へ引き起こすイノベーションと未来の可能性〜」と題したイベントが開催されました。株式会社ジーンクエスト代表取締役の高橋祥子氏が登壇し、起業のいきさつやパーソナルゲノムサービスを取り巻く市場環境、生命科学・医療分野の未来に向けた挑戦について語ります。本パートでは、ゲノムの解析技術の飛躍的な進化と、それによってどのようなことが可能になるかを紹介しました。

どんなビジネスも流れを読んで未来を予測することが重要

高橋祥子氏:これまで、立ち上げの経緯と取り組んできたことをお話したんですけれども、最後にちょっとだけ未来、これからの話をみなさんにシェアさせていただきたいなと思っています。『ZERO to ONE』という本がありますけど、この本を読んだことのある方いらっしゃいますか?

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

(会場挙手)

いらっしゃいますね。これは起業家なら絶対に読むという本の1つなんですけど、名前のとおり「ゼロから何かを生み出す」というもので、会社を生み出すとか新規事業を生み出すということが書かれているピーター・ティール氏の本ですね。

この本の中に1つの表があります。これは「バイオテックのスタートアップは、IT系のスタートアップと比べて難しい」という話をしているんですね。

なぜかと言うと、「対象がそもそもコントロール不可能な生物だし、周りの理解度も低い」などという理由が列挙されています。私もいろいろな投資家の方に「ゲノムって何ですか?」と言われ、周りの理解度とのギャップを感じた経験は多くあります。そこから説明しなきゃいけないんです。

あとは「規制もガチガチだし、コストも高い。IT系のスタートアップだと起業家精神を持った熱心なハッカーがたくさんいるけど、バイオテックは非協調的なラボの先生と一緒にやらなきゃいけない」ということが書いてあるわけです(笑)。

この表自体を見ると確かに大変そうだなぁと思いますが、じゃあどうしたらいいかということは、この本には書いてないわけです。ただ、私が思うことは、「参入障壁が高い」とか「難しい」と思われがちなんですけど、流れを読んで未来を予測していくということはまったく一緒だし、非常に重要だということなんですね。

ヒト1人の全ゲノムを解析するコストはいずれ1万円程度になる

最近、なにかと人工知能、AIとみんなが言って、いろいろなところでAIが使われていますけど、突然出てきたわけじゃないんですよね。電気がコンピュータを生んで、コンピュータがインターネットにつながって、インターネットが社会の隅々にまで浸透したからこそ膨大なデータが発生して、膨大なデータが発生したからAIも発展したし、使われるようになったんです。突然出てきたわけではなく、流れを把握することが大事なんです。

その考えでは、ゲノムについても同じようなことが遅れて起こっています。DNAが発見されたのが1950年代ですけれど、ヒトのゲノムが初めて解読されたのが2003年ですよね。16年前。そこから15年でゲノムの解析技術が飛躍的に進歩しました。だから今、ゲノムを含むいろいろな生体の膨大なデータが取得できるようになってきています。そのデータを活用して、ゲノム周辺の領域が発展しているわけなんですね。

(スライドを指しながら)ゲノムの解析技術が飛躍的に進歩したという話をしたんですけど、それを表す非常に有名なグラフがこれです。これはアメリカのNIH(National Institutes of Health)が発表しているものですけど、ヒト1人あたりの全ゲノムを解析するときのコストですね。2001年に100億円だったのが、もうムーアの法則も超えて急激に落ちてきて、今は10万円くらいですね。近いうちに1万円くらいになるんじゃないかと言われています。

こんなイノベーションが起こると何が起きるか。(スライドを指しながら)これは1年間あたりの「ゲノムに関して新しく発表された論文の数」です。累計じゃなくて年間あたりの新規の数です。ご覧のとおり、直線ではなく指数関数的に増えていて、2000年くらいには1,000本にも満たなかったものが、今は毎年20,000本以上出ています。

論文というのは新規性がないと論文にならないので、新しい発見の数が加速度的に増えているということです。これを見るといきなりここで止まるということは想定しにくいですから、今後も急速な勢いでさまざまなことが解明されていくというのが一目でわかるグラフです。

血液を1滴たらすだけで15分で全ゲノムが解読できる

さらに次の、もっと簡易的なシーケンサー、DNAを読み取る機械も出てきていますね。これは(Oxford)Nanopore Technologyという会社のものなんですけれども、パソコンにUSBでつなげて、そこに血液を1滴たらすだけで15分で全ゲノムが解読できるというものなんですね。

今はまだランニングコストの問題とか、精度の問題とか課題はまだあるようですが、例えばみなさんが各自で1つ持っていたとすると、そこの観葉植物のゲノムも今すぐここで見られます。ここに落ちているような髪の毛も、ゲノムを読んで誰のものか当てることもできるかもしれないですね。

そうすると例えば先ほど言っていたように、「特定の遺伝子については(情報を)本人にも出せません」ということができなくなります。だから、リスクがあるから使わないのではなくて、どうせ必ず発展してしまうので、リスクを今からどう乗り越えていくかということを考えなきゃいけないということなんです。

あと、生命には「セントラルドグマ」という仕組みがあり、DNAというのはRNAという物質に転写されたり、それがタンパク質になっていくもので、DNAがわかると他の生体分子情報も情報としては繋がっていてどんどん解明されていくんですね。

先ほどはゲノムに関する論文のものでしたが、これはタンパク質だったり代謝物だったり、それぞれの生体分子情報のビッグデータを活用したものに関する論文がどんどん増えていって、生体情報が今後も加速度的に増加していくと、それを活用した新しい産業の可能性が出てきます。

見つかりにくい病気や「なんとなく不調」という状態を可視化

結局、私たちがデータを集めて何をしているのかと言うと、3つのことをやっているんですね。まずは、①適切なデータを収集する。次の②が、そのデータの中に法則性を発見する。そして、その③法則性を活用する。データ自体には意味がなくて、この仕組みをいかに設計できるかということがデータを価値化することになってきます。

例えば遺伝子だと、特定の疾患の患者さんのゲノムのデータを収集します。すると「この遺伝子がこの疾患に関わっている」と、その疾患の発症に関わる法則性がわかるわけですね。そうするとその遺伝子をターゲットとする治療法を開発したり、その遺伝子をマーカーにして「この人は将来この疾患になるから」ということで、未来を予測して変えていくという法則性の活用ができたりするんです。私たちはこの3つのことを、さまざまな領域で繰り返し行っています。ゲノムだけではなくて、さまざまな生体データに応用できるんです。

例えば代謝産物で言うと、多くのデータを取得して血中の代謝産物を研究している企業があります。すい臓がんというのは発見がすごく難しくて、だいたいわかったときにはもう末期ということが多いんですが、血中のデータを使うことで判別できるようになったりします。

あとは、例えばうつ病の診断にも応用できます。うつ病の診断って、今はお医者さんの問診で診断されているんです。「最近眠れていますか?」とかいう質問などで、「あなたはうつ病ですね」って診断されるんです。そのデータをたくさん集めることで法則性がわかり、うつ病のデータを血中の代謝物から数値化できるようになってきています。

データがわかって法則性がわかるということは、これまでよくわからなかった「なんとなく体調が悪い」とか、「自覚症状がないけど病気が進行している」というのが、どんどん可視化されて適切に対処できるということなんですね。

取得したデータで「どういう未来を作りたいか」をデザインする力が重要

例えば腸内細菌についても最近ホットですね。(スライドを指しながら)これは弊社のサービスでも提供しているものですけど、お腹にいる腸内細菌のゲノムの解析もできるようになっているんですね。そうすると、これまでは「お腹がなんとなく調子が悪い」というのはよくわからなかったけど、それが「見える化」するんですね。

「今どれくらいの腸内細菌の多様性があるか」とか、「ビフィズス菌がどれくらいの割合いるか」ということが見えてくるんです。腸内細菌については変えていけるので、適切な食品を摂ってコントロールすることができるようになるわけです。

同じように最近ホットな話題になっているゲノム編集や再生医療も、ゲノムの全体像が理解されてきたことで、それを活用している例ですね。例えば「このゲノムのこの位置の遺伝子をいじると、こういうふうに機能が変わる」とわかったから、ゲノム編集に応用できるんです。あとはiPS細胞なども「こういうふうに分化誘導すると神経細胞になる」という法則性がわかったので、それを活用しているんですね。

いろいろな領域においてデータの取得コストがどんどん下がっていきます。そのときに、私たちはどういう心得でいたらいいのかということをお話します。

これまでは、データの取得が困難でした。そのときはやはり「過去」の経験や知識による仮説を構築して、それを検証していくということだったので、過去の知識がとても大事でした。しかし、これからは先にデータが容易に取得できてしまいます。そうするとデータは取得できるので、結局「何をしたいのか」「どういう未来を作りたいのか」という「未来」をデザインする力のほうが非常に重要になってくるということなんですね。

人間にとって最大の幸福は「新しい発展に参加すること」

実際に私たちの会社でも、「どういう未来を作るか」というところで研究のアプローチを実施しています。今後の生命科学時代、とくにデータが溢れる時代は「結局、何を達成したいのか」という「ミッション・オリエンテッド」であることがより一層重要になってくると思います。

最後になります。生命科学者ではないですけれども、私は宇宙飛行士のユーリ・ガガーリンが言った言葉が非常に好きです。「地球は青かった」と言った人ですね。彼が「人間にとって最大の幸福とは何か」という話をしているんです。非常にいいことを言っているなあと思ったんですけど、「人間にとって最大の幸福とは、新しい発展に参加することだ」と言っているんですね。

今、世界の中では環境問題とか食料問題とか貧困問題とかいろいろな問題がありますが、それが解決されても絶対に新しい問題が出てきます。栄養失調の問題が解決されても、今度は肥満で苦しむ人が世界で10億人以上出てきているわけですよね。それを解決しても、絶対にまた次の新しい問題が出てきます。

じゃあもう絶望しかないのかというと、そういうわけではないです。常に前進できる、問題を解決していける状態そのものが希望なんですよね。それが「新しい発展に参加していくということが最大の幸福」ということではないでしょうか。私も本当にそう思います。

私が提供している「新しい発展」は、最初にお話したこのサイクルです。遺伝子解析サービスを通じて、今ある研究成果を社会に還元しながら、その発展に参加していただくことで、結果的に今はまだ誰もわかっていないような生命の仕組みが解明されていきます。それはユーザーのみなさんが参加してくださるから新しい発展になるわけなんですけど、それをまた社会にフィードバックしていくということが私のチャレンジです。

今はまだ医療の領域が多いですけれども、医療だけではなくて食品・栄養や、健康の領域、もちろん創薬の分野もそうですけれども、今の日本や世界が抱えている問題を解決するためにチャレンジをしているというお話をさせていただきました。ありがとうございました。

(会場拍手)

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