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サブスクリプションへの道筋、あるべき姿(全2記事)

「note」に学ぶ、ゆるやかなサブスクモデル移行 本質に立ち返って考える、メディアビジネスのあるべき姿

2019年7月29日、株式会社キメラ主催によるイベント「メディアのサブスクリプションビジネス戦略」が開催されました。国内外で激変のさなかにあるパブリッシャーのメディアビジネス。広告収益による成長モデルはすでに限界を迎え、ビジネス継続が困難になるケースも現れるようになりました。無料の広告モデルから、昨今Webサービスの分野で主流になりつつあるサブスクリプションも交えた有料メディア運営へ、どう戦略的に切り替えればいいのか。本イベントでは、海外事例や日本国内で進行中の取り組みを参考に、サブスクリプションビジネスをいかに推進するかの考え方とその手法について明らかにします。本記事では、パネルディスカッション「サブスクリプションへの道筋、あるべき姿」の後半の模様をお送りします。

アド⇒サブスクにビジネスモデルを換えることのリスク

生崎文彦氏(以下、生崎):それでは次のテーマにいってしまおうと思います。じゃあ、今まで話した内容を踏まえて、「パブリッシャーはどういう戦略を持って進めていけば、サブスクリプションを成功させることができるのでしょうか?」というテーマで進めさせていただきたいと思います。

大東さんは今日、冒頭でもいろいろ話されたと思うんですけれども。いかがでしょうか?

大東:今のやり方で成功するのかというと、たぶん、今のやり方自体がそもそも存在していなくて。今いろんなところでサブスク文脈についてお話をうかがってみると、もう百発百中で、ほぼみなさん躊躇されているんですね。

やっぱり事例が少なすぎるし、今のビジネスモデルからサブスクにシフトするというと、もう一発で即死するんじゃないかというぐらいに、けっこうリスクの高い事業になってしまうと思っていて。

中には、そのサブスクサービスを作るために新たに事業を立ち上げてしまうとか、まったく別の文脈でサブスクのプロダクトを作ってしまうことを検討されている方もいらっしゃるとは聞いてはいます。

たぶん今の広告モデルありきのモデルや、コンテンツのつくりですとかサイト構成とかで、いきなり「じゃあ今日から有料課金で。もう全部でPaywallつくります」というと、たぶんユーザーも半減して、広告売上も吹っ飛んで事業としても成り立たなくなっちゃうというのが実は現実的なところで。

そのために、そこからスライドしてうまくサブスクで収益構造を作っていくために、何から始めればいいのかという順番が絶対にあるはずで。たぶん、そこに至るまでの、今の現状の分析とかユーザーの属性の分析とかも必要で。

逆に、個別のカテゴライズしたユーザーに対してどういうアプローチを仕掛けていけば、効率よく良いビジネスにしていけるのかという設計は、絶対できると思うので。急ぎすぎず、きちっとした分析をして。先ほどアントニオさんも言ってましたけど、やっぱりいかにデータと向き合いかというところだと思うんですね。

「note」に学ぶ、ゆるやかなサブスクモデル

大東:先ほど朝日新聞さんのメールが今読まれていないという話があったと思うんですけど、メールって実はまだまだ強くて。メールを読んでくれているような、実はエンゲージメントが高い層をいかに増やしていくかと、それに対して有効なアプローチをどう試していくか、仕掛けていくかというところだと思うので。

その設計をきちっとできることが大前提だと思います。短く言うと、今のやり方の延長線上で何ができるかをきちっと分析することかなと思います。

生崎:今の延長線上というところで言うと、ページビューをベースにして広告をマネタイズというのが、今の基本の回し方になっていると思います。これを急にHard Paywallにして、バシッと切るというわけには、なかなかいかないとは思います。じゃあ、そういう中で緩やかにシフトしていく手段は、具体的にどういうところが考えられるでしょうか?

大東:noteさんはうまいことやっているなと思っていて。あれはみなさんがやられているようなメディアとは、ぜんぜん路線が違うんですけど。ただ、切り出しで投げ銭できるとか、一部のプレミアムコンテンツは有料で購入が必要ですよとかって感じで、すべてのユーザーをバッサリ切ってしまわないような施策はけっこうありかなとは思っています。

あと海外の文化とかだと、例えばウィキペディアを開いたときに「みなさん募金してください」とか出ることがあるじゃないですか。あれが普通の一般のメディアでも、投げ銭で「このライターさんに募金してください」ってするような文化もあるので。実はそういうのも、切り口の1つとしてはありかなと思っていて。

ある程度かんたんな入口を作ってあげることが、継続的に有料課金につながると思うんですけど、そこで大前提としてすごく重要なのがブランドです。このコンテンツに対するブランドは、書いた人なのか、そのメディア自体のブランドなのかってところはすごく大事で。そこをどうやって作っていくかが、けっこう重要かなと思っています。

無料のコンテンツまで、自分たちの領域で流通させる必要はあるのか?

神谷アントニオ氏(以下、神谷):結局みなさんは、読者が欲しいと思っているコンテンツを日々切磋琢磨して書いていると思います。それをどこで届けるかということだと思うんですね。

昔の紙の時代と違って、メディアは大量にあるんです。それこそキュレーションメディアもそうだし、ソーシャルメディアもそうで。無料のコンテンツが必ずしも自分たちの最も重要な領域で流通させる必要があるのか、という意味では、今後いろんなチャレンジをしていくべきなんじゃないかなと。

例えば、無料は外部サイトのみ。でも、自分たちのサイトではしっかりとロイヤルなユーザーであることを認識した上で、共有した上で参加してもらうのはどうか。こういった、いろんなチャレンジがあるんじゃないかなと思っています。

なので、今までのビジネスモデルという意味では、もう最初から紙の頃からやっていることとまったく同じで、要は自分たちのブランド領域をしっかりと持った場所を押さえる。僕らが取り扱っている商材だと、それは雑誌でした。

無料の部分は……例えるならなんだろう。電車の中吊り? あれは無料メディアだったと思うんですよ。あそこでどこまで出すか。あそこだったら無料の領域だけど、そこでしっかりと、自分たちのロイヤルユーザーしか参加できない場に人を誘導していくと。

そのビジネスモデルは、そういう意味では、スピード感だったりフローは若干違えど、本質的には変わっていないんじゃないかなと思いますので。今までどおりというわけでもないですが、いいコンテンツを、無料なものは無料の場所で、有料のものは有料で、かつ本気でブランドを信じている人たちとともに共有していく。そういうビジネスモデルがいいんじゃないかなと考えています。

出版社や新聞社のブランド力は想像以上に強い

井崎:電通さんはメディア自体のブランディングもやっていらっしゃると思うんですけれども、そのあたりで何か「こういうやり方があり得る」とか「すでにこういうことをやっている」という、具体的なものはありますでしょうか?

照井:いや、たぶんあると思うんですけど、僕はあんまりやってなくてよく知らないんですけど(笑)。

僕が感じるのは、みなさんが思っている以上に、出版社さんとか新聞社さんのブランドって強力だなってことです。これまで築き上げてきたブランド力とか蓄積されているコンテンツとかは、おそらくサブスクリプションビジネスを考える上でも、もっと自信を持っていいんじゃないかなというのは感じています。僕らのほうでもデータを活用したりして、いろいろなお手伝いをできるのではと考えています。

生崎:ありがとうございます。大東さん、これを踏まえて、このテーマ2をまとめる方向でひとつお願いしたいんですけど。

大東洋克氏(以下、大東):むちゃくちゃに振りますね……。

(会場笑)

先ほど僕のプレゼンの中でも言ったんですけど、基本的にやっていることって、実は昔から何も変わっていなくて。情報の伝達装置がインターネットの上に乗っかってきただけというところがあります。ベーシックに立ち返って、「自分たちのパブリッシャーのみなさんのやっていることって何だろう?」というところと、「その価値をいかに知ってもらうためにはどうすればいいか?」ということもすごく大事です。

ユーザー全体ではなく、コアなユーザーをいかに増やしていくか

大東:あとは、結局全体のユーザーの母数を追っかけるよりも、本当にコアなユーザー層のパイをしっかりと増やしていくことがすごく重要です。

例えば、ロイヤリティの高いユーザーがつくるトラフィックが、実は全体の4〜5割とか占めているところがあって。単純なユーザー層というよりも、ユーザーの行動の特性というところで、全体のトラフィックの価値というか、見てもらえているものの価値が出てくるのかなと思いますね。

やっぱりそこが欠け落ちている部分が大きくて。データを通してユーザーの行動とか、ユーザーが何を見ているか、何を思ってそこを見ているかということをしっかり知るということと、いかにたくさんの仮説を投げまくって、PDCAを回して実際のファクトを探していくか。そこにあると思うので、チャレンジをみなさん、ぜひやっていただけたらなと思います。

けっこう保守的に、堅実に押さえていきましょうというところはあるんですけれども、逆にそれが停滞を生んじゃっているかなとも思うので。すごく難しいことだと思うんですけれども、いかにデータを通じてファクトを探していくかを考えていただけるといいんじゃないかと。まとまりましたかね?

生崎:まとまったと思います。

大東:よかった。

商売の本質は変わっていない 変わったのはスピードだけ

生崎:それでは最後に一言ずつよろしいでしょうか?

神谷:今いろんなメディアがある中で、ユーザーは不安になっていると思うんですよ。何を信じていいのかわからなくなっている。みなさまが持っているブランドは、信用されているという確固たる証拠なんです。なので、それをいかに伸ばしていくのか。

結局、ほかのメディアで自分たちのコンテンツを流したところで、ブランドには寄与しないんですね。ユーザーがお金を払うぐらいに信用できるんだという取引をもって、初めてコミュニティとして活動できるようになると思いますので。

今回キメラさんが提供しているPianoだったり、Chartbeatだったり、紙を印刷する上では使わなかった道具ではありますが、新しい時代には新しい道具です。でも、商売自体は本質的には変わっていない。

いかにスピードを速めて真実にたどり着いていくかが、僕らの新しい勝負だと思いますので。ぜひ一緒に、我々のやっていることが市場にとっても重要な役割を果たしていることを、今後も引き続き証明し続けられたらなと思います。ぜひよろしくお願いします。

照井:今日の話のテーマとしてはあんまりなかったんですけど、これからのメディアビジネスを考えていく上では、やっぱり海外に出ていくことはどうしても考えなきゃいけないんじゃないかなと思っています。

海外に出ていく際には、やっぱりグローバルに評価されているいろんなイケてるツール……今日いろんな説明がありましたPianoさんですとか、Chartbeatですとか。グローバルのイケてるツールをどんどん使いこなす。日本のメディアが海外の最先端ツールを取り入れ使いこなすことは、海外に出ていくための重要なステップの1つになるんじゃないかなと思っています。ぜひPiano、Chartbeatのツールにもトライアルしていただけるとうれしいなと思っています。

パブリッシャーが持つ価値あるコンテンツが、ちゃんと伝わる世界を実現する

大東:今パブリッシングやメディアコンテンツの領域ですごい脅威だなと思っているのは、たぶん5年前10年前には存在しなかった、ほかの事業領域からの参入が実は増えていることだと思うんですね。

ぜんぜん違う文脈から、サブスクリプションベースのコンテンツとかメディアという領域に入ってきたり、企業がオウンドメディアを作ったりしているんですけれども。それは結果として、ライトなコンテンツで世の中を埋めてきてしまっているような感じもしていて。

実はみなさんの持たれているような、きちっとした歴史のあるというか、内容のあるパブリッシャーのコンテンツは、みなさんが思われているよりも何倍も何十倍も、本当はすごい価値がある。その価値をしっかり訴求していって、ちゃんと伝えることができれば、ちゃんとした事業として継続できるし、これからもっともっと拡大できるものであると僕は信じています。

そのために、スピード感って話もあったと思いますけど、この技術の力を活かしていくことは大事です。今まで紙を通して見えてこなかった顧客層ですとか、顧客の行動というところが今は知ることができる状態にあるので。うまく手を伸ばしてしっかりつかむことによって、次の領域として、今パブリッシャーが持っているビジネスの本質をしっかり次の世代につなげていけるかってことが、すごく重要だと思うんですね。

パブリッシャーのみなさんがされている事業ですとか、情報をしっかり伝えていくという行いは、本当に残さなきゃいけない。もっと伝えていかなきゃいけないことだと思っているので、ぜひこういった機会を通じて、事業としてもしっかり拡大していきたいし、もっと価値をしっかり伝えていけるようなことができればいいなと思っています。

キメラもまだまだ始まったばかりの事業ばかりなんですけれども、そういった意味では、海外のプロダクトとか、いろんなものとの接点をつくることによって、みなさまの事業に少しでも力になれればいいなと思っています。ぜひお話しできればと思います。よろしくお願いいたします。

生崎:ということで、パネルディスカッションにお付き合いいただきましてありがとうございました。会場のみなさまも、ご清聴いただきありがとうございました。

今後とも、我々3社含めて、パブリッシャーのみなさまのお手伝いをできるように進めていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

(会場拍手)

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