幸せを定義することはなぜ難しいのか

荒川和久氏(以下、荒川):実は「どうすれば幸せを感じられるの?」というのがポイントです。これがわかっていたら、宗教いらないですよね。

さっきも言ったように、消費って幸せの1つのかたちだったりするし、時間と消費って大事だなと思っています。没頭しているときって、時間を忘れるじゃないですか。最高に幸せな気分のように思うんです。

中野信子氏(以下、中野):気持ちいいですね。

荒川:「気がついたらこんな時間だ」というような。それを見つけられる人と見つけられない人の差って、けっこうあるなと思います。

中野:さっき、「幸福感の定義が難しいよ」という話をしました。やはり種類がいっぱいあるんですよね。集中しているときのように、没頭していて自分が幸せかどうかすら考えなくてもいいという時間を過ごせることが幸せなのか。

それとも、素晴らしい温泉に行ってお湯に浸かって「ああ、幸せ」というのが幸せなのか。いろんな種類があって、どれも欲しい。どれも欲しいけど、どれか1つだけでも満たされた感じがします。統合して充足感を感じるというのが幸せなのかという定義もある。そうすると、どうすれば幸せを感じられるのかも、多様になってくる感じですね。

荒川:これはたぶん、問いを間違えているような気がしています。「どうすれば幸せを感じられるの?」と思っちゃうと、もう幸せを感じられないんじゃないかな。

中野:(笑)。そうですね。これって、「今は俺は幸せじゃありません」ということを前提に言っているフレーズですよね。

荒川:さっきの既婚者の方たちの幸せ度がすごく高いのは、ふだんの日常生活を幸せだと感じているわけじゃなくて、振り返ってみて「不幸じゃないしな」と。

中野:そういうことですね。

荒川:さりげない日常って幸せだよね、と思えればそれが幸せ。

中島みゆきの「糸」の歌詞に込められた、幸せのかたち

中野:『ロード』的な?

荒川:ああ。すみません。『ロード』じゃなくて、中島みゆきの『糸』ですよ。

(会場笑)

中島みゆきの『糸』、みなさんも結婚式などで歌ったりすると思います。これは「幸せ」を「仕合わせ」と書くんですよ。

中野:あああ。

荒川:「幸」じゃなくて「仕える」に「合わせる」。仕えるは当て字らしいです。

中野:仕を合わせるですか?

荒川:本当はタメが入っていて、「為し合わせ」、つまり「することを合わせる」ことらしい。それが仕合わせ。

中野:振る舞い、成すこと。

荒川:行動を人と合わせることによって……。

中野:「Do it Together」ですか?

荒川:そう、「Do it Together」。奈良時代がそう。室町時代になるとこれが変容します。

中野:もしかして、雅楽とかの言葉ですか?

荒川:そうかもしれません。室町時代になるとこれが変容して、めぐり合わせとかめぐり合い。人と人との関係性。

中野:変容されているんですね。

荒川:偶然の出会いみたいな。それが、仕合わせの元。仕合わせって人と人との関係性なんですね。

中野:ああ、なるほど。確かに。我々にしっくりくる。

荒川:そう言われると、「ソロはどうすればいいんですか?」ということになるんですよ。

中野:合わせられない……!

荒川:(笑)。でも、だから消費などを合わせているんですよ。

中野:人相手ではダメだから仕組みに合わせているんですか。

荒川:ある特定の人とずっと合わせているのではなく、いろんな時と場合によって、相手を変えながら関係性は断絶させないようなことでの、刹那の合わせ方というのもあるのかなと。

中野:テンポラリーな。

荒川:はい。そうそう。こういうのもあってもいいんじゃないかと思うんですよね。

中野:相手を1人に限定するよりも、リスクヘッジできていいとも言えますよね。

独身研究家が説く「恋愛強者3割の法則」

荒川:私は、恋愛強者3割の法則と言っていて、恋愛ができるのは3割しかいない。7割はできない。これは彼氏、彼女がいる率なんです。

中野:これ、なんで女のほうが多いんだろう。もうおもしろすぎる。

荒川:これはあれじゃないですか。不倫じゃないですか。

中野:そういうことですよね。ぼかして言ったのに。

(会場笑)

荒川:真面目な話、これには2つ理由があって、男女でいうと男のほうが人口が多いので、率にするとこうなっちゃうのと、さっき言ったように不倫というか「俺、独身だよ」と言っている人が騙している。

中野:一夫多妻の図じゃないですか。

荒川:一夫多妻ですよ。だいたい平均すると3割。30年くらい前から3割です。今の男の子が草食化したわけではないです。

中野:なんなら、男は2割ですよね。

荒川:2割です。2割台。1回も3割を超えたことないです。

中野:いやぁ。すごいな。(彼女がいる男の人は)5分の1か。

自分と近い組み合わせの「恋愛同類婚」が約半数

荒川:そういう話なんですよ。そうはいっても、既婚は恋愛強者3割じゃない。結婚しているんだから、という反論がきたんですよ。じゃあ、調べてみましょうかと、夫婦1,000組を調べたんですよ。既婚も男女とも3割ですよ。

要はこれは、なにをやっているかというと、「あなたは恋愛強者ですか?」という質問をしてもしょうがないので、「モテた」とか「告白されたか」とか、恋愛の基軸になっているいろんな問題に対して共通で答えた人が何パーセント。男女とも、夫も妻も31パーセント超です。きれいに分かれるんです。弱者も3割。

もっとおもしろいのは、強者と弱者、どういう組み合わせなのかなというのを調べたんですね。こうです。恋愛強者同士が3割いるじゃないですか。その3割では組まないんです。15パーセント、半分しか組まないんです。

中野:へえ。

荒川:強者と中間層と弱者とばらけるんです。おもしろいのは、恋愛同類婚と言っていて、強者と強者、中間と中間、弱者と弱者の組み合わせが一番多くて、ここでは同類が約50パーセントです。

中野:なるほどね。

恋愛強者は男女ともに年収も高い

荒川:要は、恋愛は女の人が上(強者または中間)で、男の人が下(中間または弱者)という人と、その逆という組み合わせはだいたい似たようなものです。

もっとおもしろいのが、恋愛強者の女の人は、どういう旦那と結婚してその旦那の年収はいくらなのという話を調べると、恋愛強者の女性の年収が一番高いんですよ。これはもう完璧に容姿と経済力のトレードオフですよ。残念なことに、恋愛弱者の女性が一番年収が低いわけですよ。

中野:男性は容姿で女性を選ぶということが……。

荒川:あと逆にいうと、モテない男子でも経済力があればモテる女子と結婚しているということですよね。

中野:そういうことですよね。

荒川:でもこれ、身も蓋もないなと思ったのは、結局、男女とも強者が年収が高いんだね。コミュ力と仕事って関係性があるかもしれないですよね。

中野:ですね。

自分から能動的に動ける3割の人が恋愛強者

荒川:そういう調べ物をしておもしろかったので、恋愛強者って能動的に動ける人のことなんじゃないか。要するに、逆にいうと7割は受け身なんですよ。

(スライドを指して)「ナッジ」。ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セーラーさんが、みんながトイレを汚してしょうがないから、どうしたら汚れないトイレにするかといったときに、トイレの便器の真ん中にハエの絵を描いたんです。そうすると、男性がこの絵をめがけてオシッコをするようになるので、トイレにオシッコが飛び散らなくなる。

ナッジって膝で小突くという、ちょっとしたきっかけを作ってあげること。例えば「トイレを汚さないでください」と貼っても、誰も見ないじゃないですか。むしろ汚してやるみたいな人もいる。でも、こういうハエの絵を描くと、みんながきれいにしましょうと言わなくても、結果的にきれいになる。

中野:無意識に誘導しちゃう。

荒川:そういうふうに誘導することをナッジと言って、こういうものが大事だなと思っています。

7割の受け身な人々は、ナッジがなければ動かない

荒川:昔、「ゴミを路上に捨てると汚れるので、街をきれいにしましょう」と言っても、なかなか市民がゴミなんか拾わないわけですよ。捨てるわけですよ。それで、ナイキがゴミ箱にバスケットのゴールを付けた。

(会場笑)

みんながゴミを拾って、むしろゴミを拾って投げ入れて、外れたらもう1回入れるようになる、という。

中野:これはすごくいいですよね。

荒川:なんならどこかからゴミを見つけてきて、ここ(バスケットのゴールのゴミ箱)に入れる。これも1つのナッジです。さっきの受け身が7割なんだとすると、恋愛も結婚もナッジ的なことをやらないと誰も動かないということなんじゃないか。

中野:それができる人のことをモテるというんですね。

荒川:そうです。言われなくてもやれる人。もっというと、言われなくてもやれる人が搾取することにおいて、この世の資本主義が成り立っているということも言えます。

中野:ああ~、確かに。

ステレオタイプ脅威を払拭するのは至難の業

荒川:あと、こういうことが言われるじゃないですか。「女性は直感で選ぶ、男性は理屈で選ぶ」。

中野:これは逆じゃないかと思うんですが……。

荒川:(世間一般では)よく言うじゃないですか。

中野:よく言いますね。

荒川:感性で選ぶでもいいです。この絵でもステレオタイプというか、地図を読めないだとか、みんな好きですよね。私が言うのもなんですが、よくしゃべる男なんてたくさんいます。

中野:男の人で意外としゃべる人って、そこそこいますよね。

荒川:めっちゃしゃべりますよ。逆に、みんな「しゃべらせろ」と言うんですよね。

中野:『俺の話を聞け』という感じですよね。

(会場笑)

荒川:俺の話を聞けです。業界によって違うんです。職人さんとかだったら、黙って寡黙な男の人もいる。

中野:いや、それでも技術のことになると、けっこうしゃべりますよ。

荒川:ありますね~。でも、こうやって男はこう、女はこうって分けて見せるじゃないですか。そうすると、「あるある、そうだそうだ」ってほとんどの人が思っちゃうんですよ。

中野:うーん。実際にはロマンティックでガラスのハートの、恋愛重視の男性が「論理的」ですか。はあ~。

(会場笑)

荒川:血液型あるあると一緒ですよ。

中野:そう思います。

荒川:こういうのって、血液型を何回言ってもみんなが信じているように、これを払拭するのって相当至難の業なんだなというところです。

中野:私も払拭することはだんだん諦めてきていて、ステレオタイプの通りに誘導した方が得するんじゃないかな、とちょっと思い始めたりしています……。