羽根なし扇風機に隠された嘘と忍びの工学

オリビア・ゴードン氏:羽根なし扇風機は、まるで魔法のようです。羽根が回転する扇風機に慣れてしまっている私たちには、あの空洞から風が吹いてくる仕組みが、いまいちピンときませんよね。

さて、その実態ですが、実は羽根なし扇風機は、嘘の塊なのですよ。本当はどのモデルにも、昔ながらの羽根が隠されているのです。しかし、この「忍びの工学」以外にも、羽根なし扇風機には実は優れた点がたくさんあります。

本当は羽根がある羽根なし扇風機ですが、風が来るのは羽根からだけではありません。ついつい探してしまいたくなる羽根なし扇風機の羽根は基底部に隠されており、小さなファンが上部の円筒状の空洞に向かって送風しています。

円筒の内周には細い溝があり、風はそこを通って円筒の壁の傾斜に沿って、前面部へ向け送られます。

円筒は、後面部の方が前面部よりもわずかに厚いため、細い溝を通った風は、薄い前面部に向かって吹くのです。

問題は、これだけの送風の仕組みでは、円筒状にまとまった風にはならないことです。消えないタバコの煙の輪のように、くるくると風が回るだけになってしまいます。

2つの現象を利用し、隠された羽根の送風を10~20倍にしている

実際には、扇風機の中央部からも風は吹きますが、この風は基底部の羽根からのものではありません。実は、円筒の外側から来ているのです。この仕組みには空気圧が関係してきます。

扇風機のスイッチを入れると、速度の速い空気の流れが円筒部から吹き出します。

「ベルヌーイの定理」で知られる現象として、流れの速度が上がれば、流れの圧力は下がります。つまり、扇風機の円筒の中に気圧が低いゾーンができるのです。すると、扇風機の背面にある空気が、気圧が低いゾーンに向けて、周囲の高い気圧で押し出されます。

これは「インデュースメント」と呼ばれる現象で、溝が扇風機の外縁部にあるにも関わらず、風が扇風機の中央部からも吹く理由の一部です。

残りの風は「エントレインメント」によって起こります。これは、扇風機から送風される空気が、その粘度により、周囲の空気を引っ張って吹くことを指します。流体の外にある分子は、流体の中にある分子と結合しようとする性質があるため、流れに引っ張られるのです。

「インデュースメント」と「エントレインメント」に挟まれた羽根なし扇風機は、基底部からの風の10から20倍近い空気を送り出すことが可能です。

しかし、動いているものはまったく見えません。

ただし「羽根なし」が嘘であることは、帳消しにはなりませんよね。とはいえ、その機能はとても素晴らしいものだといえるでしょう。