世界征服のカギとなるのは「舌」?

マイケル・アランダ氏:あなたの舌は、受けるべき賞賛を受けていません。私たちの口内にあるこの筋肉は、ただ食べ物の味を味わうためだけに付いているのではありません。舌がなかったら、ほかの背骨を持つ動物と一緒になって、征服することのできなかった乾いた陸地に憧れながら、未だに水の中で暮らしていたかもしれないのです。

ですから、今日は進化の歴史を振り返りながら、この健気な舌という器官が、なぜ世界征服のカギとなったのかについて考えていきましょう。

一番最初の脊椎動物は魚です。魚には舌がありません。きっとみなさんは魚の舌を見たことがあるとおっしゃることでしょう。しかし魚の舌を見たことのある人が、いるはずがありません。多くの魚は「基舌骨(きぜっこつ)」と呼ばれる器官を持っています。基舌骨とは、口の下にある骨や軟骨でできた盛り上がった部分です。見た目は舌のようかもしれません。

しかし、基舌骨は動かすことができませんし、味蕾もありません。ですから本当の舌ではありません。基舌骨は繊細な神経や血管を守るための硬いシールドなのです。舌を持つほとんどの動物は、舌を使って食べ物を受け止めたり飲み込んだりするのに対し、魚は口にそのような付属物が付いている必要がないことを考えれば納得がいくかもしれません。

魚が陸に上がるために越えなければならない高いハードル

ほとんどの魚は「吸い込み送り」と呼ばれる粋なトリックを使います。魚は美味しそうな餌のかけらを見つけると、泳いで行って爆発的に口を拡張します。その時、頭蓋骨の上部は前面に動き、顎の下部が勢いよく開きます。そして舌骨と呼ばれる骨ばった喉の器官が喉の奥に向かって下がります。

この一連の動きが魚の口内で水圧の急激な低下を引き起こします。そして水が勢いよく口内に入り込むと、それと一緒に美味しい餌も流れ込むというわけです。餌食に噛み付く魚でも、多少の吸い込みを使って餌食を喉の方へ引き込みます。吸い込みを使わない魚は、ただ口を開けて泳ぐことで水を逆流させて餌を取り込みます。

しかし、これら全ての方法は水中でのみ有効です。空気は水より密度が低いので、獲物を喉に引き込んだり詰め込んだりするのに必要な力を空気から得ることはできません。ですから魚は陸に上がるために高いハードルを乗り越えなければならなかったのです。

化石の記録から肉鰭類と呼ばれる骨ばった魚のグループがいて、4億から3億5千万年前のデボン紀に陸に上がってきたことがわかっています。

その後、それは四足獣、つまり両生類、爬虫類、鳥類、そして哺乳類を含む足のある動物となりました。

それらは陸、空、そして私たち人間を含めれば宇宙をも制服していったのです。

舌の進化を裏付けする証拠

まず魚は水から出る必要がありました。有名な四肢魚やティクターリクなどの四足獣の初期の頃の化石を見ると、陸から出るためにかなり悩んでいたことがわかります。

この変化のために手足、背骨、頭蓋骨、眼球、肺などが必要になるからです。それに食べ方も変えなくてはなりませんでした。残念なことに、舌の初期の進化を裏付けることのできる化石の証拠はあまり発見されていません。

しかし、魚と水に慣れていない陸者を比べることにより、どの時点で変化が生じたのかを見ることはできます。それは先程述べました舌骨という喉の構造を見ればわかります。魚の場合、舌骨はえらの筋肉を大きく支えます。しかし四足獣のほとんどには、えらがほとんどありません。そこで、舌骨はえらではなく、舌の筋肉を支えています。

この変化の過程は現代の両生類にも見ることができるのです! サンショウウオの幼体は水中に生活していて、その舌骨はえらの構造の一部となっています。

しかし大人になる変態を遂げるとき、舌骨が舌を支えるように変化するのです!

舌を支える構造変化、2つの仮説

えらから舌を支えるように構造が変化する方法として考えられるのに、主に二つのアイデアがあります。

一つ目の仮定は、舌が先に進化して食べ物を口から喉に動かせるようになったという説です。初期の四足獣がデボン紀の海岸線を、奇妙な細いワニのような形をして這い回っている様子を想像してください。小さな獲物に向かって顎を素早く閉じてそれを捕まえ、頭を上向きに傾けることによって、食料を口の中に落とし込みます。

簡単な舌があれば、食物を正しい場所に動かすのに大変便利でしょう。現代のサンショウウオはこの方法で食事をとります。その舌骨が喉の方へ落ちることで舌が動きます。この舌骨の動きは、魚が吸い込み送りをするときにも見られます。ですからこれが一番簡単な進化のステップだったと思われます。

しかし、もう一つの仮説は、舌が初めに進化して食物を捕まえるようになったのではないかというものです。サンショウウオやトカゲなどの多くの動物は、粘着力のある舌を突き出すことで食物を捕まえます。2015年のある論文では、似たような方法が、とても変わった魚に見られることが報告されています。その魚は流体力学という舌を使うのです。つまり、水でできた舌を使うというのです!

この論文によれば、トビハゼが口いっぱいの水を含んで陸に出ます。そして陸で食べ物を見つけると、それに向かって口から水を吐き出して全体にかけ、それを全てまた吸い込むというのです。

そのようにして陸地でも吸い込んで餌をとる方法を見つけたというわけです。そしてスローモーションのX線を見ると、トビハゼが水を吐き出す時、その舌骨が上向きに、口の方へ向かって動いていることがわかりました。この動きはサンショウウオが、その粘着力のある舌を突き出して食料を捕まえる時の舌骨の動きと似ていました。

ですから、初期の四足獣も、もしかしたらトビハゼのように水の舌を使うように、前へ動く舌骨を進化させたのかもしれません。そして徐々に水から、柔らかい現在の舌へと変わっていったのかもしれません。

舌があったから、我々はいろんなものを食べられるようになった

現段階では、この仮説のどちらかが正しいと明言することはできません。もしかしたら私たちの知る舌の状態になるまでに、何度も変化したのかもしれません。私たちがわかっているのは、先祖の四足獣が一度ふさわしい舌を手に入れたら、古代の海岸線のものをたくさん食べることができるようになったであろうということです。それから、大陸全体を征服する必要があったのです!

現代の両生類のように、初期の四足獣もたくさんの水がある場所に限定して生活していたと思われます。なぜなら卵を水の中に産む必要があったからです。しかし約3億年ほど前、四足獣のあるグループが、乾燥した場所に産んでも大丈夫な、硬い殻の卵を産むように進化しました。このグループは羊膜類と呼ばれ、最終的にそれが爬虫類と哺乳類になったというわけです。

そして初期の羊膜類が新しい環境に移動したとき、新しい舌が必要になったのです! ほとんどの両生類は濡れた、柔らかい舌を持っています。

もしその舌が乾いてしまうと、正しく食物を食べることができなくなってしまいます。爬虫類と哺乳類はそれとは対照的に、硬かったり、うろこ状だったりする舌を持っていて、それはケラチンという、髪や爪を構成するのと同じ物質で覆われています。

それにより、舌は水分を失うことがなく、湿度が低い場所でも食事をすることができるのです。このようにして脊椎動物は湿地帯へ、そして完全に乾いた陸地へと移動し、最終的に地球上のすべての場所を征服したというわけです。ですから舌を大事にしてあげてください。私たちは舌に借りがあるのですから。