20万年の間にすべての生物の90%以上が絶滅

マイケル・アランダ氏:恐竜を死に追いやった出来事は、かつてないほどの大量絶滅事件として知られているのではないでしょうか。研究者たちが言うには、メキシコ湾の隕石火口がその現場なのだそうです。6,600万年前に起ったのその出来事は、単に地球上の歴史に起こったほんの一部分の出来事ではなく、まったくもって最悪な出来事だったのです。

研究者たちはロシアの陸地における帯状の地帯を調査し、恐竜を根絶やしにした出来事の手がかりを集め、形にしていっているのですが、その出来事は恐竜を絶滅に追いやったとするにはあまりにも不甲斐ないものです。

問題となっている出来事はペルム紀の終わり、2億9,900万から2億5,200万年前にかけての地質学的な期間に起こりました。これは恐竜が誕生する少し以前のことですが、異質に見える光景が広がっていた頃ほど前のことではありません。鳥やほ乳類は存在してはいませんでしたが、は虫類や両生類が闊歩し、シダに覆われ、昆虫たちが行き交っていたのですから。

ペルム紀に誕生したディメトロドンのような生き物は、私たちの目には奇妙なものとして写るでしょうが、その時代に周りを見渡せば、見知った植物や動物たちに出会えたに違いないのです。しかし、ペルム紀の終わりには、突然それはもうたくさんの動植物が絶滅してしまったのです。

たった20万年の間に、地球上の海生と陸生、ほとんどの両方の生物が姿を消してしまったのです。細かい数値は変わるでしょうが、すべての生物の90パーセント以上がその姿を消してしまったのです。

地球における生態系の完全な回復には、およそ800から900万年かかるとされています。この絶滅は、あまりにも劇的なゆえに、研究者たちの間で「大量絶滅」と名付けられています。何年にも渡って、この大規模な絶滅を解明かす鍵は、ほんのひと握りの仮説に委ねられていました。恐竜を死に至らしめるほどの大きな小惑星の衝突が原因であるという説を立てた研究者がいたからです。

シベリアの火山活動こそが大量絶滅の謎の答え

しかし、ある場所が、絶滅劇の舞台としてかなり怪しいと浮上してきたのです。そこは、「シベリア・トラップ」として知られている、ロシアの大規模な火山地帯です。

シベリア地帯の岩盤は、他の火山地帯のように構造プレート境界の上にあるわけではないので、比較的安定しています。しかし、「大絶滅」と時期を同じくしている時代には、地球の奥底からの広範囲に及ぶマグマの対流が殻を境として溶かされる、マントルプルームとして知られているマントル内の大規模な対流運動が起こっていたのです。

プルームは、100万年以上もの間続いていたかもしれないという、かつてないほどの最大級の火山噴火を引き起こし、グリーンランドをも上回る広さを溶岩で覆い尽くしたのです。

最初の噴火後、しばしの活動休止期間を経て、最後の一手となる大規模な噴火活動の幕が開けられました。研究者たちは、これらの噴火が大量絶滅の時期とほぼ同じくして起きたとされることから、この火山活動こそが大量絶滅の謎の答えなのではないかと考えています。

噴火は、大量の二酸化炭素やメタンを大気中に放出し、地球上の大気と水の化学を変化させます。海を例に挙げると、不意に海水がより酸性になり、温度が10度ほど上がることで、酸素がほとんどない状態になってしまったと考えられます。その状況はマズいとあなたが感じたなら、その通り、正解です!

火山活動と生物の絶滅との関連性

さらに、もう少し詳しい裏付けもあります。大規模な火山活動があったとされる形跡が発見されていますし、年代も一致します。とは言え、シベリア・トラップにおける最初の噴火が「大絶滅」を招いたとするには、時間軸が正確とは言えないのです。絶滅連鎖が始まったとされる頃は、すでに噴火が始まってから30万年ほどの頃で、マグマも3分の2ほど放出されていたのですから。

さらには、こう言った類いの大規模な噴火は違う時期に違う場所でも起こっていたのです。中には大量絶滅と関連付けることが出来るものもあるでしょうが、全部が全部そうではないでしょう。では、シベリア・トラップも関連性はないのでしょうか?

2009年に出された発表によると、火山活動はあったにはあったのですが、驚くべきことに、最初の大規模な噴火というのはなかったのだとか。火山活動休止期間がしばらくあったと言いましたよね? 活動休止期間にも溶岩は流れ続けるのですが、劇的に噴出したりはしません。それは火山内の地層の中に貫入し、岩床を形成します。

今日では、川岸などで目にすることができる、岩床が巨大なケーキの層に挟まれた砂糖衣のように見える部分がそうです。

溶岩が放出されると、その周りの岩は熱せられ、変質するのですが、これは接触変成作用と言われる作用です。何百万年にも及ぶ地質学的活動によって形作られた岩石には、多くの炭素や炭層が含まれています。

溶岩との接触によって良いように料理された岩石は二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスを生み出し、排出するようになります。また、近年のフロンのようにオゾン層をむき出しにする化合物であるハロゲン化炭素化合物も放出します。

「静かなる死の期間」は地球をどのように変えていったか

研究者たちが算出したところによると、接触変成作用によって発生する二酸化炭素の量は、もともと溶岩に含まれる量の4倍から9倍以上にもなるのだとか。

2017年に、この静かなる死の期間が起こり始めた時期が、改めて着目されました。そして、安定した放射性崩壊成分を用いて行われた放射性年代測定のおかげで、時計のように極めて正確に、岩石やその他の物質の正確な年代を見積もることができ、大量絶滅が起こり始めた時期を、数ある候補の中から絞り込むことができたのです。

この研究結果により、なぜ大量絶滅が始まるまでに30万年も要したのかという問いに対する説明もつけられるようになったのです。大きな噴火は劇的ではありましたが、十分な二酸化炭素を吐き出したわけでも、地下の岩床となった岩石をいいように料理したわけでもないのです。

つまり、二酸化炭素が変質した岩石から一度も排出されないということが、地球上の大気を変えてしまうという事態を引き起こしたのです。それは気温を上昇させ、酸化した海へと変えてしまうほどのものでした。

そして、それが私たちの惑星がそれまで遭遇したことのないほどの驚異的な生命の損失へと繋がって行ったのでしょう。私たちが今まで手にできなかった、大絶滅と理論上訪れられる地球上の場所とを結びつけることのできる、確たる証拠と成り得るもの。それは、無数にあるシベリアの岩石に秘められているのです。