介する人との信頼関係がなければ、広く告げることはできない

角田陽一郎氏(以下、角田):この本のタイトルでもある「愛される理由(ワケ)」のメソッドというか、人間関係を作っていく中で野木さんが気をつけていることはありますか? 人を介せば誰でも会えると言ってますけど、それがなかなかできなくてみんな苦労していると思うんですよ。

野木志郎氏(以下、野木):例えば、まず角田さんと知り合うとするじゃないですか。角田さんは明石家さんまさんと繋がっていると知って、僕がさんまさんに包帯パンツを渡して欲しいがために角田さんに近づくとするじゃないですか。「さんまさんに渡して」と。角田さん本人よりも先のことばっかり、必死にアタックするわけですよ。でも、アタックされている人には、それってわかるじゃないですか。

角田:うーん、正直言って「やらしいな」という感じがしますよね。

野木:でしょ。昔はそれでもその人に「渡してください!」とガンガンいっていたんですよ。でも、今はそれをやめて、まずはその人と関係性をちゃんと持って、お互いに納得いくようになってから、その人から自然に渡してもらえるようになるまではなにも言わないようにしています。

角田:僕たちがお会いしたのは2年くらい前ですよね。もちろん包帯パンツは渡されたんだけど、「さんまさんに渡して」とは言われなかったもんね。

野木:言っていませんね。

角田:だから、僕、自分が穿いているだけだもんね。

(会場笑)

でも、確かにそう。それは要するに、僕的な言い方でいうと、広告というものがもうなくなるんじゃないかということで。広告ではなくて、これからは広告の字を逆さにして「告広」になるとよく言っているんですよ。

野木:ほう。

欲しいと思っていない人に買わせようとする広告は、もう終わり

角田:どういうことかというと、広告というのは「広く告げる」と書くじゃないですか。でも告広というのは、「告げたら広がる」。

野木:なるほど、なるほど。

角田:そう。広告というものが今までどうしてあったかというと、大量にモノを作るから大量に売らなきゃいけなって、そのために大量に宣伝しなきゃいけなかったからですね。大量に宣伝するということはどういうことかというと、ぶっちゃけると、欲しくない人にも欲しいと思わせちゃうということですよ。

一番アレな広告は、「今、コレを買うとコレが付いてくる!」というものですね。これってもう、本質が伝わっていないのに、売りたいがために無理くり広告して買わせてるってことですよね。

そういうやり方は、もう今の時代には合わないんじゃないかと思っているんですよ。小西利行さんという有名なCMプランナーの方がいらっしゃるんですが、その方と対談した時に、これからは逆の「告広」になると。だから、まず欲しい人に告げる。告げてそれがいいものであれば、勝手に広げてくれる。それはいいものだから。

僕はテレビ業界にいたんですけど、テレビこそ広告で食べてるようなものですよね。それがもう過渡期になっているんじゃないかというのが、僕がテレビ局を辞めた1つの理由でもあるんです。告広をやるのであれば、広告で広く告げる必要がないから、テレビで広告をする必要はもうないんじゃないかということです。

むしろ、今回のイベントのようなものをYouTubeの動画で流して、この本のいいところを言って、欲しいと思う人が買えばいいんだけど、欲しいと思わない人は買わなくていいんじゃないかと思っています。欲しいと思う人がこれを買って、すごくいいと思えば勝手に人に告げてくれますから。

野木:そうですね。

角田:包帯パンツとこの本の売り方は一緒なんじゃないかな。

欲しいと思ってくれる人にだけ届けたい

野木:書店さんを見ていると、最初は平積みになっていたりするのに、徐々に少なくなっていくじゃないですか。僕の本、表紙にインパクトがあるんですが、本を出してみてなんとなく思ったのは、常にランキングを気にするのが、なんかイヤやなと思うようになってきたということで。

角田:ランキングとか気にするのであれば、そもそも包帯パンツなんて作っていないでしょ。

野木:まあ、そうですよね。

角田:包帯パンツをそんな思いをしてまでも作ろうということは、極論すれば売れたほうがいいけど、「別に包帯パンツじゃなくてもいい」という人は穿かなくてもいいやくらいに思っていますよね。

野木:そうそう。どちらかというと、プロダクトアウト型なんですよ。作ったものがいいんだから、これを穿いてみてよという。マーケットがそう思うんだから作ってみるというやり方もありますが、どちらかというと「こういうものを作りました。どうですか?」ってほうですね。

だから、本も「こういう本作ったんやけど、どうでっか?」です。それで響かへんのなら無理に売る必要ないしという。こないなこと言うてごめんなさいね。

角田:(笑)。でもね、これからの新しいものを作ることというのは、本当にそっちなんじゃないかと僕は思っているんですよね。いらない人にも売ろうとするからたくさん宣伝しなきゃいけないし、価格を下げたりしなければいけないんだと思うと、欲しい人にだけ届くように丁寧に作って、中身も充実させたほうがいいんじゃないかって。

自己啓発本すらマンガでしか読めない人なんて、絶対成功しない

角田:本屋さんでイベントやってるからってわけじゃないんですけど、「本」なんてとくにそうなんじゃないかと僕は思うんですよ。最近よく聞くのは「若い子はみんな本を読まないんですよ。だから内容を簡単にするんです」ということで。それでどんどん簡単にしていくわけじゃないですか。

例えば自己啓発本って、かなり簡単に書いてあるものだし、最近はさらにそれをマンガで読めるというものがあるじゃないですか。

野木:ああ、ありますね。

角田:僕は思うんだけど、「マンガで読める○○」というシリーズって、そもそもマンガで読まなきゃわからないような人は、それを読んだところで絶対に成功しませんよね。

野木:僕もそう思います。

角田:その人ってマンガじゃないとわかんないんでしょ? そうじゃなくて、マンガじゃなくてもわかるくらいの頭が必要なんじゃないかと本気で思うんですよ。

野木:本当。あんなの咀嚼する意味がないんですよ。

角田:咀嚼してあげなきゃわかんない人は、なにやったって成功しませんよ。

野木:本当にそう思いますね。

角田:本屋さんでこうしたイベントをやっている理由は、本質的にはそこにあるからね。僕はこれを言っていいのかどうかは思うところはあるんだけど、本を読まない人はもう死んじゃってもいいんじゃないかと思っているんですよ。

(会場笑)

語弊があるといけないんですけど、もちろん「殺す」とか「死ぬ」とかそのものの意味で言っているわけでは勿論ないんですが。

なぜそう思うかというと、よく広告代理店などで「本を読まない人に向けて宣伝したいんです」という話を聞くんだけど、それは違うなと思うから。

その人がやりたいことができるかどうかっていうのは、結局その人が本を読まないからなんです。就職活動で学生さんから「どうやればテレビ局に入れるんですか?」と聞かれるんですけど、「本は読んでるんですか?」と聞くと「読んでない」というんですよ。「それ、絶対受かんないよ、おめぇ」と。

(会場笑)

絶対に受かんないよ、だって。本を読んでいないのになぜ受かると思うのかが本当にわかんなくて。

興行収入と観客動員数以外の評価基準を作りたかった

野木:前から角田さんに言おう言おうと思ってたんですけど、映画のレビューサイトをやっていらっしゃるじゃないですか。

角田:はいはい、やってます、やってます。「ii Movie」ですね。

野木:あれの本番をやってほしいと思っているんです。

角田:あー、今はβ版ですからね。「ii Movie」というサイトをやっているんですけど、検索していただければ出ると思います。今までって、映画を評価するものは観客動員数か興行収入しかありませんでした。でも結局それってただの数字じゃないですか。

でも、例えば100人くらいしか観ていなくても、観た人の人生を変えた映画というものがありますよね。そういうものをきちんと評価できるようにしたんです。

今までであれば横軸しか評価基準がなかったものを、自分の人生をどれだけ変えたか、自分の心をどれだけムービングしたムービーなのか。そういう、心がどれだけ動いたかを数値化してみたんですね。

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