「君はもうこのビジネスをすぐやめなさい」
佐々木大輔氏:みなさんこんにちは。freeeの佐々木です。主にクラウド会計ソフト・人事労務ソフト等を提供する会社を経営しています。
今となってはクラウド会計ソフトは当たり前になってますけれども、立ち上げ前にいろいろ困難があって、今日はそれを支えたアイデンティティの話をできればと思います。
2012年、僕たちはfreeeを創業しました。当時、まだクラウド会計なんて言葉もなかったと思うんですけれども、「こういった新しいタイプのクラウド会計ソフトがあったらほしいですか?」といろんな人に聞いて回りました。
「銀行やクレジットカードのデータと同期して、請求書を作ってるだけで勝手に経理の仕事が終わる。こんなソフトウェア、ほしいですか?」と経営者の方々とかに聞いて回ったんですけれども、みなさんこぞって反応はよくなかったんですよね。「別に今のままで十分」とか「こんなの自動でできちゃうのは怖い」「クラウドに置いとくのは怖い」と。こういった意見をたくさんいただきました。
さらに、会計ソフトなので、会計のプロの会計事務所の方にヒアリングをすると「やめてくれ」と。「これ以上会計ソフトなんか増えたら、仕事がめんどくさくなるからやめてくれ」と言われました。
それでも食い下がって、「今の業務の課題はなんですか?」ということをヒアリングしたんですけれども、1時間ヒアリングした後に「ありがとうございました。このいだたいたお話をもとに再度開発をがんばっていきます」という話をすると、「まだやる気なのか?」と。「君はもうこのビジネスをすぐやめなさい」ということを言われたりもしたんですね。
あとは、いろんなビジネスの先輩方にアドバイスを求めたんですけれども、そうすると、この会計ソフト業界は30年間変わっていないと。「確固たるポジションを築いているプレイヤーがしっかりいて、それが30年間変わっていない。その状況を変えられるはずがないじゃないか」と。このようなお言葉もたくさんいただきました。
当時3人ぐらいで開発をしてたんですけれども、そんな話を聞くたびに意気消沈していました。
人と違うことをやる、ないものをつくる
それでもなんとか「このビジネスって可能性があるんじゃないか、やる意味があるんじゃないか」と思って、がんばって開発を続けました。
その理由はいくつかあって、1つは、「中小企業のテクノロジーを促進するということを自分のミッションとしてやっていきたい」という想いであったり、もう1つは、このクラウド会計ソフトというビジネスの先に、人工知能でCFOサービスを自動で提供するような未来が作れるんじゃないかというワクワク感だったり。
あとは、みんな「できない」って言うけど、できない本当の理由ってなんなんだろうっていうのを自分で突き止めてみたかった。
こんないろんな理由があったんですけれども、突き詰めていくと、やっぱりこういった状況でも「それでもやっていくんだ」と思えたドライバーというか推進力というのは、僕自身のアイデンティティだったんじゃないかなと思います。
それは、「人と違うことをやる、ないものをつくる」。これはすごく大事にしている考えだし、僕は一時期生きる意味みたいなものを見失っていたことがあるんですけれども、それを取り戻してくれたのがこの考え方だと思っています。
どういうことなのかということをお話しさせていただきます。