サステナブルな商品が買いやすい場所、EARTH MALL with Rakutenを作った理由

司会者:それでは、ただ今より「サステナブルな買い物のつくりかた」と題しまして、パネルディスカッションを行います。ここからの進行は、楽天株式会社サステナビリティ推進部の眞々部が行います。それでは、眞々部さん、よろしくお願いいたします。

眞々部貴之氏(以下、眞々部):よろしくお願いします。楽天株式会社サステナビリティ推進部の眞々部と申します。

(部署名が)「サステナビリティ」という名前になったのが、実は今年の1月で、その前はCSRという、いわゆる社会貢献活動などをする部署だったのですが、今日グランドオープンすることになった「EARTH MALL with Rakuten」のプロデューサーみたいな役割を担うことになりました。

なぜ、このサービスを始めたのかはすごく単純です。認証商品や、サステナブルな商品が世の中にあることは知っていたのですが、それをどこで買ったらいいのかは、よくわからないですよね。スーパーなどに行って商品を裏返したりして、表示を探さなきゃいけないんです。

(そうしたことが)すごく大変なので、楽天市場内のまとまったところにあれば買いやすくなって便利じゃないかなと思いました。シンプルに、サステナブルな商品が買いやすい場所を作りました。

また、サステナブルな商品の価値は、ここにいらっしゃるみなさまはご存知かと思いますが、現状はそうではない方々が世の中の大半だと思います。そういった方々に楽天のウェブサイトを通じて、お伝えしていきたい。以上の2つを推進していきたいと思っております。

普通、こういうサステナブルなショッピングモールを楽天の中に作ると言ったら、(社内で)「それは儲かるのか」という反論が出てきそうですよね。私もそういう反応があるかなと思ったので、わりと勝手にやりました(笑)。

社内でそういうことに関心がありそうな、楽天市場の事業開発を担当している人間を捕まえて、「こういうことを考えているんだけどやらない?」と言ったのが去年の今頃でした。

楽天だけではできないので、そのあと2月16日に、博報堂でSDGsを推進していらっしゃる川廷(昌弘)さんにお会いして、その場で川廷さんが末吉(里花)さんにメッセンジャーで「楽天はこんなことをやろうとしているらしい」とテキストを送られました。

その場で川廷さんが、博報堂のアースモールのチームを紹介してくださって、その3ヶ月後にはプレオープンというかたちで、簡易Webサイトができあがっていました。そこから、いろいろな認証機関のみなさま、専門家のみなさま、いろいろな方たちとお会いし、お話をして、今日この日を迎えることができました。本当にありがとうございます。

最初は100人くらいいらっしゃればいいかなと思っていたのですが、今日は150人位いらっしゃっているということで、すごく緊張してきたんですが、この辺りでパネルのみなさまをご紹介したいと思います。

最近のサステナブルな買い物は?

眞々部:では慶應義塾大学大学院、政策・メディア研究科の蟹江教授、ご登壇ください。よろしくお願いします。続きましてエシカル協会代表理事の末吉さん、どうぞ。

ここからはパネルで初めてご登場される方になりますが、楽天市場にご出店いただいているイーザッカマニアストアーズのバイヤーをしていらっしゃる浅野かおりさんです。最後に、「EARTH MALL with Rakuten」に、博報堂側のプロデューサー的な立場で関わっていらっしゃいます、小田部さんです。どうぞ。

(会場拍手)

ではこれよりパネルディスカッションを進めていきたいと思います。(EARTH MALL with Rakutenを立ち上げて)「とりあえず場所は作りました」というところなのですが、サステナブルな消費が当たり前の世界をどう実現できるんだろうということを、会場のみなさまと一緒に考えていきたいなと思っています。

このあとの懇親会に、ネットワーキングの機会を設けていまして、「EARTH MALL with Rakuten」で買えるフェアトレードのコーヒーなどをご用意しております。今日はいろいろな方がいらっしゃっていますので、一緒に考えていただければよろしいかなと。そのきっかけをこのパネルで提供できればと思っております。

まず、最近なにかサステナブルな買い物をしたか聞いていきたいと思います。 私のマイエシカル(注:末吉氏が提唱する「自分がどういうエシカル消費ができるのかを考えて実践していく活動」)はちくわです。ちくわは、MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会の認証を受けた漁場のもの)のものを買っています。そのくらいなのですが、小田部さんはどうですか? 

小田部:最近のですよね? 僕は普段、実は週末に農業などをやっているのですが、野菜に興味がありまして。楽天さんの広告をするわけでは全然ないのですが、楽天の「Ragri(ラグリ)」というサービスをご存知ですか? 

眞々部:はい。もちろんです(笑)。

小田部:そちらは、実はグローバルGAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)と有機JASの認証を取っている有機野菜を作っていて、そのお野菜を注文しました。

眞々部:ありがとうございます。

小田部:最近の買い物だとそういう感じです。

サステナブルな商品における認証の必要性

眞々部:Ragriというのは、楽天の「R」とagricultureの「agri」で、「Ragri」としました。今日はジェネラルマネージャー(Ragriの遠藤忍氏)があの辺に座っているのですが、遠藤さん、何か言いたいことありますか? 

遠藤:がんばって作ります。

(会場笑)

眞々部:Ragriでは、ゲームをしながら自分でスマホの中にオーガニック野菜の菜園を持てるサービスを提供しています。「EARTH MALL with Rakuten」以外でも楽天にはサステナブルなサービスがありますので、ぜひみなさまも試してみてください。

小田部:ちなみに、買ったものをご紹介します。野菜と言ったんですが、いま流行りのサブスクリプションってあるじゃないですか。サラダのサブスクリプションなんです。オーガニックのサラダが毎週、あるいは毎月送られてくるようなサービスです。普段なかなか野菜を食べないのですが、それがあると朝それをそのまますぐに食べられるので、すごく助かります。

眞々部:ありがとうございます。私も利用してみたいと思います。

小田部:僕だけ話すのもあれなので、続いて。

眞々部:次、浅野さんからでいいですか。

浅野かおり(以下、浅野):結果的に言うと、とくにしていない(笑)。そこまで意識して買い物をすることがないかな。もちろん、よくよく考えてみれば、エシカルな消費はあるのかもしれないですけれど、(意識しているものは)ないかなあ。

眞々部:私もちくわ以外はあまり。

(一同笑)

小田部:ちくわね。ちくわ(笑)。

眞々部:でも、今度GOTS(Global Organic Textile Standard:オーガニック・テキスタイルの世界基準)認証のTシャツの取扱いは……。

浅野:強引に? 

眞々部:はい(笑)。

浅野:はい、強引に(笑)。認証を受けることの重要性も不勉強で、「どうして私がここにいるんだろう」と、今日はずっと思いながら、数時間過ごしていたのですが……。もちろん工場に出向いて、どんな労働環境で作られているのかなど、生産工程を見に行くことは常々、積極的にやろうとはしています。ただ、認証を受けること自体、そこまでの重要性というか、認証を受けた方がいいの? という疑問があります。

証明になることはものすごく理解ができますし、今日はたくさんの先生方にお話しいただいて、認証の必要性はすごく理解できたのですが、今までの私の商品の作り方のなかには、それが本当に必要なものなのかという疑問がありました。

今回は、GOTS認証を受けたTシャツを作るということで、いろいろ調べたり、生産工場の方にもうかがったりしたのですが、結果的に、すごく勉強になりました。

眞々部:では、これからはちょっとだけそういうことも……。

浅野:ちょっとだけ意識をして(笑)。作る側の責任もありますし、そういうものを知らなければいけないと思います。

眞々部:ありがとうございます。

生活者にとって一番身近な「買い物」から行動を変える

眞々部:私の進行が拙すぎて、浅野さんのご紹介を忘れていたので、いま紹介したいと思います。浅野さんはイーザッカマニアストアーズの取締役をされていらっしゃいまして、楽天市場の中で、レディースファッションをけん引する存在の店舗さんです。

本当に月商何億という大きなビジネスをされていらっしゃる方なんですけれども…。テンション、高めですか?

浅野:我が社の経営理念が、「テンション高めな女子を作る」という理念なので(笑)。テンション「高い」じゃなくて、テンション「高め」なんです。

(会場笑)

となりの子の機嫌がちょっと良くなるようなことをやっていこうというのが我が社の理念なので、今日はいろいろ通じるところがあるなぁと思いました。

眞々部:そうですね。テンション「高い」はちょっとしんどいですけれど、「高め」だったらいける気がしますね。

浅野:そこが重要なんです。

眞々部:その違い、わかります。「意識高い」じゃなくて、「意識高め」くらいだったら、私でもいけるような気がしてきました。そういうわけで、今日は浅野さんは楽天市場の店舗さんを代表して、会場にいらしておられます。

小田部さんも自己紹介を……すみません(笑)。

小田部巧氏(以下、小田部):順番がおかしいなと思いながら聞いていました(笑)。

(会場笑)

新しい買い物の「ワクワク」につながるもの

小田部:僕は、博報堂のブランドイノベーションデザイン局というところで、企業さんや行政やNPOさんなどのマルチステークホルダーの方々と組んで、そこから社会課題について考えて、未来を良くするようなことを事業化したり、そうしたモデルを考えていくチームで活動しています。

この「EARTH MALL」に関しては、先ほどお話もありましたけれども、国連がSDGsを採択した直後に、そこにいらっしゃる蟹江先生も代表していらっしゃる有識者のプラットフォームの「OPEN 2030 PROJECT」から生まれた活動でして。

そのとき、「未来を変える買い物」というところで分科会的にスタートしました。「未来を変える買い物」の理由だけご紹介します。

先ほども末吉さんがおっしゃっていましたけれども、もともとの考え方は、「消費って誰でもするよね」と。僕らは「生活者」という言葉をよく使うんですけれども、生活者にとって一番身近な行動は何だろうと思ったときに、やはり「買い物だ」ということに落ち着いたんですね。なので、その買い物から変えるということです。

同時に認証などを推していたんですけれども、先ほどのお話のように、認証制度が知られていないなどの壁もあり、そういったところをまず知ってもらわないと広がっていかない。「あちらを立てればこちらが立たず」という状況だったので、なんとかしてそれを変えていかなければいけないと。

ただ、企業やその向こうにいる生産者も、実はそういうところ(認証制度など)を取り入れたいと思っているんだけれども、「じゃあ、誰が買ってくれるの?」というところに陥ってしまう。

バリューチェーンの中で言うと、今までの生活者は、物が作られて、運ばれて、売られてという最終段階でした。その川下だというところを逆転させて、実は生活者が川上にいるんだと。みんなの意識が変われば、生活者が求めているものに応じる企業がそこを変えていきます。調達も変えていくので、生産者の助けにもなるということです。

そうした未来を作るところが、新しい買い物のワクワクになるのではないかと。それでたぶん、「最近のサステナブルな買い物は何ですか?」という質問につながってくると思います。ワクワクがすごく大事だと思いますので、「最近ワクワクした買い物をしましたか?」という質問とほぼ同義になってくるといいんじゃないかなと思っています。

眞々部:ありがとうございます。そういうわけで、博報堂さん・小田部さんの取り組みが、いまの「EARTH MALL with Rakuten」につながっているということですね。

小田部:そうですね。

眞々部:いま改めてパネルの方がどういう方かがわかったということで(笑)。

小田部:よかったです(笑)。

エシカルなものは必ずストーリーがある

眞々部:では次に続きましょう。末吉さんいかがでしょうか?

末吉里花氏(以下、末吉):最近したサステナブルな買い物…。私はもう新しい洋服などはあまり買わなくなりまして、最近は、プレゼントにエシカルなものを買っています。これはいつも推薦していることなんですけれども、エシカルなものは必ずストーリーがあります。その物語を思わず誰かに話してみたくなってしまうものだと思うんですね。

それで、みなさまにも「自分にはちょっと高いけれども、愛するあの人にはエシカルなものを贈りたい」とみなさまに思っていただきたいなと思っています。最近は、このポーチを友達にプレゼントしました。

これは自分でもずっと使っているものなんですけれども、ブラジルの貧困層の女性たちが、アルミ缶のプルタブを寄せ集めて作ったフェアトレードの製品です。「アップサイクル」の製品ということですね。もともとあったものに付加価値を付けて新しいものを作る、と。これなんかはすごくおもしろいものだなぁと思ってプレゼントにあげました。

あとは、食べ物は日常的に買いますので、なるべく気を付けています。ついこの間、イトーヨーカドーさんのセブンプレミアムから、フェアトレード認証のカカオを使ったチョコレートが販売されました。値段も148円と、安いんですね。

そうした認証を用いたものを、こういった大手企業が、みなさまが日常的に手に取りやすい商品として作ってくださるのはすごく大事なことだと思っています。もちろん、それもこの楽天の「EARTH MALL with Rakuten」でも実現できることだなぁと思っています。今思いつくのはその二つですね。

思ったんですが、ぜひ楽天の「EARTH MALL with Rakuten」の中に、リペアというか、修理できるサービスを入れてほしいと思っています。これ、けっこう悩んでいる人がいるんですよね。先ほど会場にいらしていた方ともお話ししていたんですけれども、実際に自分が買ったものをどこで直していいのかわからない。

すごく大事なのが、エシカルの考え方は、消費の在り方を見つめ直すことです。むやみやたらに新しいものを買わなくても、そういったサービスを利用しながらお金をそこに使っていくことは、とても大事だと思います。

眞々部:ありがとうございます。確かにサステナブルとかエシカルな消費と考えると、いろいろな広がりがあると思っております。楽天も楽天市場だけではなく、トラベルなど本当にいろいろな消費と接点がありますので、個人的には、これからどんどん広げていけるのではないかと思っております。

また、いま里花さんにご紹介いただいたプルタブの商品は、楽天市場でも取り扱いがございます。今日グランドオープンした「EARTH MALL with Rakuten」のなかで、里花さんがこれに触れていらっしゃる記事がありますので、ぜひみなさまにご覧いただければと思います。ありがとうございます。

前代未聞の「SDGsモデルハウス」

眞々部:では最後に蟹江さん。(先に行われた記者発表で)すでにネタバレしてしまったご質問ですが、最近何を買いましたか?

蟹江憲史氏(以下、蟹江):家。

(会場笑)

末吉:すごい~。

蟹江:まだ買ってないんですけど、作っています。

眞々部:(スライドを見せながら)これはSDGsモデルハウスとありますけれども、17色の外装があるということですか(笑)。

蟹江:ええ、17階建てで……ということでもないです(笑)。

(会場笑)

蟹江:家を買い替えようかと思っていたときに、同僚の建築家に「どこかいいハウスメーカー紹介してもらえませんか?」と聞いたところ、「蟹江さんが作るんだったら、SDGsで建てなきゃダメでしょ! 僕が作りますよ」と言われて。その人は建築家としては有名なんですけど、大学のプロジェクトでは、ベニヤハウスをやっているんですよね。

「ベニヤハウスを作るの!?」と思ったんですけれど(笑)。これは我々が想像してるようなベニヤ板ではなく、いらなくなった素材や廃材を貼り合わせて、新しい木材を作って、非常にサステナブルに家を作るということです。

僕もあまり知らなかったんですけれども、そんなことをやっている人だったんです。話してみたら、本当にいろいろなことができるということで、SDGsハウスというのも(前例が)ないし、やってみましょうということで、いま取り組んでいます。

末吉:世界にはあるんですか?

蟹江:ないです!

眞々部:世界初の(SDGsハウスですね)。

末吉:みんなが訪ねて来ちゃって大変ですね。住むんですよね?

蟹江:住みますけど、僕は作るプロセス自体が大事だと思うので、作るプロセスをいろいろと見ていただいたり。

小田部:ぜひ「EARTH MALL with Rakuten」で記事にさせてください(笑)。

蟹江:そうですね!

これからはリペアがキーとなる

眞々部:一番のおすすめポイントは何ですか?

蟹江:やはりパートナーシップというか、作る人がすごく参画して作っていることですね。

僕も最初「ハウスメーカーを紹介してください」と言ったんですが、(同僚の建築家に)言われたのは、「建築家と作りませんか?」「案外お金かかりませんよ」ということだったんです。

建築家と家を作るとすごく高くなるんだろうなと思って、「いや、でも……」と言いったんですが、「そんなにかからないですよ」「本当にあまり変わらないですよ」と。ハウスメーカーでは、いろいろなものがカスタマイズされているので、作りやすいし、わりと早くできます。でも、建築家だと「あなたのやりたいようにできます」ということを言われました。

本当にサステナブルにするんだったら、自分がやりたいように家を作ったほうが、使えますよね。それからリフォームもしやすい。トータルで見たら安くなるかもしれない。

(楽天の常務執行役員の小林)正忠さんが、先ほどの記者会見で「1,000円の商品を3回買う代わりに、1,500円の長く使える商品を2回買えば、同じ値段になる。だから『EARTH MALL with Rakuten』を作っても、楽天は損しません」と言ってたんですけど。

僕は例え2,000円のものを買ったとしても、後でリペアしていけばいいと思うんですよね。トータルで見ると、そのほうが安くつくんですね。たぶんそういうことだと思うんですよ。

今はESG(環境・社会・ガバナンスに配慮した企業への)投資などが話題になっていますが、短期的ではなくて長期的に見るとどうなるかという話をしてるだけなんですよね。結局そのほうがリターンが大きくなるから、ESG投資をする話になっています。長期的な視野を持ってやっていけばいいのかなと思っています。

眞々部:「リペア」は今日のキーワードかもしれないですね。ありがとうございます。屋根とかは売っていないのですが、内装の部分に関しては、ぜひ「EARTH MALL with Rakuten」で買っていただいて。その進捗や蟹江先生が何を買ったのかを記事にして、これからご紹介していきたいと今、決めました。

蟹江:ありがとうございます。

眞々部:ありがとうございます。

サステナブルな消費を阻むものとは

眞々部:(みなさまも)いろいろと買い物はしているとは思うんですけど、今日はすごく意識の高い方……もとい、「高め」(笑)の方がたくさん来ていらっしゃいます。「とはいえ、どうなのよ」と。「興味はある」と言うだけならタダなので、誰でも言えるかもしれないです(笑)。

若い世代、Z世代やミレニアル世代の「関心が高いです」という話はよく聞くんですが、それぞれのお立場として、広告で関わっている立場もあるでしょうし、店舗さんとしてテンション高め女子(笑)とお付き合いされている中で、あるいは高校生や大学生と関わっている中で、現状で感じているところを聞かせていただければと思います。

蟹江:今日も(会場に)大学生が1人、あの辺にいますけれど。大学生はけっこう意識が高いと思いますけど、どうですか?

眞々部:ちょっと本人に聞いてみましょうか?

蟹江:(会場の大学生を指して)彼女も1年のときに僕のゼミにコンタクトしてきた人です。大学生は高学年の人よりも、むしろ低学年のほうが意識が高いんじゃないかと思うんですが、いかがでしょうか?

会場の大学生:そうですね。私の今のゼミとかでもエシカルに興味のある人はたくさんいます。でも今、卒論を書いていて、あまり環境問題やサステナビリティに興味がない人にアプローチして、サステナブルな消費を呼びかけているんですが、やっぱり何が阻んでいるって、「高い」とか、「そもそも環境問題を自分ごと化できていない」とか、あとは、「エシカルなものを買うことに自分へのメリットを感じない」というのがある気がします。

認証があるものを買うメリットがわからないという人が多かったので、そこらへんをクリアできたら、もっと多くの人が買うのかなぁと感じています。

眞々部:なるほど。

サステナブル消費が広がるには

眞々部:浅野さん、ものづくり現場の実際のところもお伺いしたいのですが、(サステナブルな商品は値段が)高いんですか……?

浅野:高いですね(笑)。

眞々部:今回TシャツをGOTSで作られたと思うんですけど、ほかのTシャツと比べてどうですか?

浅野:すごく制約がかかるので、まず、作りたいものが作りたいように作れないんですよ。うちの場合は、オーガニックコットンの綿花の確保自体がものすごく難しくて。

たぶん知れば、いろいろな経路があるんだと思いますけれども、ヨーロッパや国内などで作ったならば、今回のTシャツも5倍……下手するともっとかかってしまうものになったと思っています。うちは中国などのアジア圏で作っているものがほとんどですので、まずはいつも取引している工場さんに聞いていろいろ探していました。

GOTS認証のお話をいろいろ聞いてたんですが、まず私が聞いたのは年間に取れる(オーガニックコットンの)量が限られているということです。それを大手の企業さんが全部持ってしまっているので、私たちが突然「作りたい」と名乗りを上げても、綿は突然手に入らない。まさか、ですよね。

認証を受けることがどんなことなのか、ということから始め、何を材料に使うのか、染料は何を使うのか、染める工程で出る汚染水の量がどのくらいなのか。輸送や管理まで、もちろん手間も暇もかかる。

証明するところに、実はお金がかかるところもすごく大きいと思うんです。経路を明らかにするということで、やはりコストはすごくかかってくるとは感じました。

眞々部:適正な支払いというところもあるでしょうし、追加的なコストがかかってくることもあるでしょうけれども、やはりそれを上回る価値を伝えたり、作っていかないといけないということですよね。サステナブルな商品には、そういう価値はありますか?

末吉:大いにあると思いますし、先ほどの話にも通じますけれども、「自分にとって何がいいんだろう」ということだと思います。「高いから買えない」と言う人たちは、そうは言っても、安いものはけっこう買っていたりしますよね。そうすると、本当に思い入れがあってストーリーがあるものを1枚、長く身に付けていくとか……。

若い人たちなんかはお金がないですが、ある程度のものは購入して生活をしていますよね。そのなかで、自分がもっともお金を使う分野、優先順位が高い分野の中から、「何か変えられるものがあるかな?」と考えてもらいたいなと思います。

こういうエシカルなものは、世界にとってと自分にとっての両方にとって良くないと進んでいかない話だと思うので、(サステナブルな商品は)大いに価値があり、そして若い人たちには受け入れられつつある考え方だと思っています。

エシカルという考え方を教育する重要性

末吉:私は今朝、埼玉県の高校生1,000人に話してきたんですけど、すごく怒られたんですよ。「なんで大人は問題を知っているのに、それに真摯に取り組まないんですか?」「なんで、たくさん作りすぎて、たくさん捨てるんですか?」と。もう、シンプルな質問ですよね。でも、私はそれに対して答えられなかったんですよ。

やはり私たちには本当に責任があると思うし、若い人たちは「できれば、自分たちはそういう誰かの犠牲の上に立った生活をしたくない」と思っている人たちが非常に多いということを、あらゆるところで感じるんですね。

この間も、エシカルの話をしたあとに小学校5年生の女の子が私のところにやってきて、「こういう大切なエシカルの考え方を、今まで大人は誰も教えてくれなかった」と私に言ってくれました。

本当にシンプルな話であると思うので、なんかうまくこう若い人たちが「テンション高め」になるようなエシカルの世界をうまく作っていきたい。だから、こういう場は本当に重要であるなと感じています。

持続可能な開発目標ですが、「開発」は外に向けてなにかを新しく作っていったり、広めていったりすることだと思います。でも、仏教用語では、開発は「開発(かいほつ)」と言うらしいです。それは、「自分の内なる心を耕す」という意味なんだそうですね。

このSDGsも、結局、実行するのは人ですよね。なので、その人の心をどうやったら耕していけるんだろうか? やはり、これからの社会を担う若い人たちに、エシカルという考え方や持続可能な生産と消費について、きちんと教育していかなくちゃいけないとも思っています。

「独自の価値」を生み出す、南三陸のとある牡蠣

小田部:じゃあ少し毛色を変えた話を。今言っていた「(サステナブルな商品は)高いんじゃないか?」という話があるじゃないですか。それは実は「未来を変える買い物」を始めた時に、僕が真っ先に思ったことです。広告会社にいると、生活者の反応はすごく気になります。

やはり人は、単に「社会にいいから」とか「環境にいいから」という理由だけでは買ってくれないところがあります。意識高めな人たちは「俺、いいことしてるね」という感じで買ってくれたりするんですけど。

生活者に買ってもらえるだけの魅力が必要だなと思います。1つヒントになる話がありまして、ASCという養殖の認証があります。とある東北、たしか南三陸に、牡蠣の養殖場があるんですけど、そこは震災が起こって津波で流れてしまったんです。そこを立て直す時に、普通にやり直すんではなくて、「認証を取ってやり直そう」と考えたらしいんですよ。

普通ならたくさん売りたいじゃないですか。だから、それまでは養殖する筏(いかだ)に牡蠣をぎっしり詰め込んで、「これでもか」という感じで育てていたんですけど、それでは認証を通らない。牡蠣の生育上もそうですし、海が汚れてしまうんですね。

養殖密度を下げたことによって収穫量が減るのかなと思いきや、実は(牡蠣が)出荷できるまで3年かかっていたのが、1年で大きくなるということが起こったんです。そうなると、いろいろ良いことがありますよね。

キャッシュに関してもお店側からすると1年でお金になるし、消費者側から見てみると、僕がそこで思ったのは、「1年でそんなに大きくなるということは、のびのび育っているということじゃないか」と。「そんなふうにのびのび育っている牡蠣だったら、ちょっと食べてみたいな」と思ったんです。つまり、それ独自の価値ができているんじゃないか、ということがあって。

だから、こういうことも1つのサステナブルな消費のストーリーに関わる部分かもしれないのですが、そういった新しい価値が見つかるんじゃないかなという気がしています。

眞々部:「サステナブル」という言葉だけじゃ伝わらない価値があるんですね。確かにそうですね、のびのび育った牡蠣(笑)、食べてみたいですね。そういう気持ちになります。

小田部:(笑)。

Eコマースによって、ストーリーや商品の背景が「見える化」する

眞々部:時間もなくなってきたので、楽天含めて、インターネットビジネスやEコマースなどで、このSDGsの12番の目標の「持続可能な消費」にどういう効果を期待するのかを、蟹江先生と末吉さんからお聞きしたいなと思います。

蟹江:Eコマースを使うことで、いろいろなプロセスを省けると思うんです。お店に行って見るのもすごく楽しいし大事だと思うんですけど、(インターネットを通して)目の前にこうやって商品が出てきたら、手間も省けるし、注文したら直接送られてくるわけです。いろいろなプロセスが省けると思うんですよね。

それは、エシカルなものを買うっていうことだけじゃなくて、例えばエネルギーの消費量が少なくなることにつながっていたり、それによって温暖化の対策にもつながっていったりする。

さらに見える化することが大事です。お店に売っているものを見える化することはなかなか難しいと思うんですけれど、インターネット上だったら、クリック1つでストーリーが出てきてたり、どこで作られたものかがバッとわかります。

眞々部:伝えやすいですよね。

蟹江:やりようじゃないかなと思うんですが、そういうのがたぶん普通のお店で買うよりもやりやすいと思うので、ぜひそういったことも含めて、(インターネット上で)出してもらいたいなと思います。可能であれば、どれだけのことがSDGsに貢献しているのか……「これはSDGs度10」「この服はSDGs度50」など、目に見えてわかったらいいですよね。

眞々部:じゃあ、そういう指標を作ってくれるんですね(笑)。

蟹江:作りましょう! 作りたいですね(笑)。そういうものを作って見える化したら、すごくおもしろいんじゃないかなと思います。

眞々部:ありがとうございます。さきほど「買えば買うほど(サステナブルな消費に貢献する)みたいな商品が作れないかな?」ということを言っていましたね。

蟹江:そう! 「このシャツを買えば買うほどCO2が削減できる」とか。

眞々部:そういうことを、さっき裏で浅野さんと話していて。

蟹江:そしたら、みんな買い物をしたくなりますよね。

眞々部:そうですよね。「(この商品を購入することで)CO2を50トン削減してます!」みたいな? 「50トンだから5万円」みたいなTシャツとか、いかがですか?

浅野:すごく良いと思ったんですよ。そのまままるっといただいて、商品化したらいいんじゃないかなと思って。

眞々部:「私が今着ているTシャツで、CO2を50トン削減しました」みたいな。

浅野:そこも、欲しくなるようなデザインじゃないといけないなと思って……。

眞々部:そうですね。テンション高めに調整をしていただいて。

(一同笑)

エシカル消費をするためのインセンティブ

浅野:やはり消費するって、自己満足というか、すごく大事な要素が含まれていると思うんですね。「心を満たす」というところでいけば、やはり「おしゃれだから欲しい」、「かわいいと思って一目惚れしたから、それを買いたい」という欲求だと思うんです。

そこに付加価値としてなのか、逆に自分もCO2削減に貢献したいと思っていて、かつ「あっ、かわいいやん!」と思えるというものなのか。どちらがプラス(の要素)なのかはわからないですけど、買ったことがCO2削減になったというだけではなく、ファッションとしても自分が満足できるようなものにしていけば、すごくおもしろいムーブメントになるんじゃないかなと思いました。

眞々部:ありがとうございます。末吉さん、どうですか?

末吉:いいですね。やはり見える化はすごく重要だと思いますね。私が普段活動しているなかでは、「エシカルなものはどこで買えるんですか?」「どこでアクセスできるんですか?」という質問がすごく多いです。

そういった受け皿となるのが「EARTH MALL with Rakuten」であると思っていますし、先ほど蟹江先生がおっしゃったように、やはり情報が伝わりやすいのもEコマースの特徴だと思うので、とてもいいと思います。

自分にとってなにがいいかというところで、やはり私たちにもなにかしらのインセンティブが発生するように、その仕組みもここ(「EARTH MALL with Rakuten」)に加えていただけたらなと思います。例えば、「ポイントが普通のものより高い」とかは、どうだろう? ……難しいかな?(笑)。

「インセンティブ的なことはできるのかな?」というところは、お店にとっても買う側にとっても、なにかあればいいと思っています。

先ほど記者会見の中で申し上げたんですけれども、やはり今までの資本主義の社会システムのなかで、エシカルな消費がどんどん進んでいっても意味がない。つまり、私たちは今の社会システムの創造的破壊をしながら、消費・生産のあり方をもう一回見つめ直した上で、エシカルな消費をしていかなくてはいけないと思っています。

そこは非常に重要なので、「エシカル消費だから、毎日消費してね」というのは少し違うかなと思うんですね。だから、そこは間違わないように進めていかねばならないことじゃないかなと思っています。ぜひこの中から、エシカルな社会を築く文化をつくり出していっていただけたらなと思います。

眞々部:ありがとうございます。本当にみんなにとって良いということがサステナブルだとしたら、自分にとっても良いことが大事だということ。そして、カルチャーをつくっていくということですね。ありがとうございました。

「EARTH MALL with Rakuten」がお買い物を褒めてくれる!?

小田部:付け加えていいですか? 「EARTH MALL with Rakuten」にこれから載る記事なのですが、松浦弥太郎さんにインタビューしに行った時に、僕が一番印象に残ったことがあります。「褒められる買い物がしたい」というのを聞いて「なるほどな」と思ったんですね。

ふだん自分が買い物をしていて、褒められることってなかなかないですよね。わざわざ自分から自慢しにいかなきゃいけないじゃないですか。「これ、いいものを買ったね」とはなかなか言われない。

「それを『EARTH MALL with Rakuten』がやってくれたらいいんじゃない?」という話があって、すごく印象的でした。

さきほどのインセンティブじゃないですけど、それを買ったら「EARTH MALL with Rakuten」がすごく褒めてくれる、そんな見える化もおもしろいと思いました。

眞々部:わかりました。「見える化」することによって、心理的なインセンティブになるかもしれないですね。ありがとうごございます。この5人だけでもいろいろなアイデアが出てきたと思います。

「EARTH MALL with Rakuten」でよきことを見える化していく決意

眞々部:今日、国谷(裕子)さんがいらっしゃっていますので、ぜひ「楽天にこんなことをしてほしい」ということを教えていただければと思います。

会場より国谷裕子氏(以下、国谷):すいません、無茶振りされました(笑)。「こんなことをしてください」という要望でいいんですか?

眞々部:はい。

国谷:例えば、これは「使い捨てプラスチックを使っていない商品ですよ」とか、あるいは「脱CO2・脱炭素で、『RE100(事業で使用するエネルギーが100%再生可能エネルギー)』で全部、再生エネルギーで作られていますよ」など、そういうものが見える化されると、もっと具体的に、このことに関心を持っている人たちが選べる商品、プラス、ストーリーが見えるようなディスプレイにしていただけるといいかなと思います。

眞々部:ありがとうございます。やはり見える化なんですね。今日のキーワードが出てきたと思います。

ちなみに、今回(参加されているみなさんの中で)、Eコマースに関わっていらっしゃる方はどのぐらいいらっしゃいますか? 後ろのほうにいらっしゃいますね。一番後ろの方とか、なにか言いたそうにしているので。

参加者:熊本で今、洋蘭の生産農家をやっています、「森水木のラン屋さん」の宮川です。楽天で11年間お店を出させていただいて、昨年CSR賞をいただきました。ありがとうございました。

実は今日、ずっと勉強させてもらいながらサステナブルなお話を聞いていて、自分たちだったらどうやってアクションができるかということを考えていました。

そのなかで、実は今、(山間およびその周辺地域である)中山間地域が、イノシシですごく大変なことになっています。このへんでは感覚がわからないと思うんですが、みんな荒らされてしまって、どうしようもない状態になっていて。

そこで、僕たちは「農家ハンター」という名前をつけて、農家自らが鳥獣対策をしながら地域のリーダーになっていく活動を今100人ぐらいのメンバーとやっています。私はリーダーをさせてもらっています。

今までは、クラウドファンディングでお金を集めて罠を買って、イノシシを捕まえたりしていたんですけれども、そこでイノシシの命を絶ってしまうことが、僕らはすごく苦しかったんです。でも、それをこれから持続可能な対策にしていくために、実は今日、ネットショップをオープンしました。「農家ハンターショップ」といいます。

僕らの活動を伝えながら応援していただけるような環境を、どんな場所に作ろうかと考えたときに、今日おっしゃったように、まさに僕らはストーリーだと思っていて、迷わず楽天市場を選ばせていただきました。

(ショップは)もう本当にできたてホヤホヤなんですけれども、これから獲れるイノシシさんの本当においしいお肉をみなさんにB to Cとしてお届けしたり、イノシシさんに食べられるはずだった野菜や果物などの美味しい農産物を、みなさまにお届けするようなサービスをぜひこの「EARTH MALL with Rakuten」で取り組ませていただきたいと思って、ワクワクしながら聞かせていただきました。本当にありがとうございます。

眞々部:本当にストーリー・見える化ということで、もうとにかく今日は、これから「EARTH MALL with Rakuten」を使って、いろいろなプロダクト・商品の背景など、よきことを見える化してお伝えしていこう、というところかなと思います。

約7,000点(の販売)からスタートした「EARTH MALL with Rakuten」なんですが、今日はこんなにたくさんの方に集まっていただきました。

さらに、こういうリアルな接点も持ちながら、今日ここにいらしていただいたみなさまと一緒にチームになって、サステナブルな消費を進めていけたらなと思っております。

本当に拙い進行で申し訳なかったのですが、ここでパネルを閉じさせていただきます。パネルのみなさまに拍手をお願いいたします。

(会場拍手)