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基調講演 「メイドインジャパン」で世界を変える、 業界を覆したひとりの情熱(全3記事)

2019.01.07

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自分たちが熱狂していれば、その余熱が人に伝わっていく 欲しいもの以外はつくらないファクトリエの信念

提供:株式会社トライバルメディアハウス

2018年11月5日、品川インターシティホールにて株式会社トライバルメディアハウス主催の「熱狂ブランドサミット 2018」が開催されました。マーケターがどのように顧客を熱狂に導くかをテーマに、経営者やデザイナー、インフルエンサーといった、さまざまな立場の有識者がセッションを行いました。本記事では冒頭に行われた基調講演の内、ファクトリエの山田敏夫氏とトライバルメディアハウスの高橋遼氏との対談後半の模様をお送りします。

工場の名前が世に出ることの是非

高橋遼氏(以下、高橋):先ほどステークホルダーの中でもとくに大切にされているものが2つあるという話がありました。工場の方とお客さまの2つですね。それについて2つ聞いていきたいなと思っています。

失礼ながら、僕は「ここがファクトリエさんの本質だな」とすごく感じたところがあって。以前『カンブリア宮殿』というTV番組に出演されていたじゃないですか。そのときに、工場で働かれている方のインタビューの中で、ご自身の工場の名前がブランドとして世の中に出ていくことについて、「ブランドが前に出ていくことの責任を感じます」ということをおっしゃっていました。

作り手がお店に納品したら終わりだという考え方って、もう終わっていると思っていて。最終消費者まで想像していくということが求められている中で、「希望小売価格」ではなく「希望工場価格」ということで工場の方に価格を決めていただくという仕組みになっているというお話でした。

それって工場の方にとってはすごくチャンスでありながら、一方ですごく責任感を負わされるというか、よりしっかりとしたものを作らなきゃいけないと感じるところがあるかなと思いました。

工場の方に対して売り手を想像させる狙いみたいなものって、どこまで考えられていたのかなぁというところが質問です。

山田敏夫氏(以下、山田):ありがとうございます。さっきお伝えしたように、下請けとして、ただ「ものを作る」というのは……日本のものづくりのほとんどが「海外実習生を呼んで安い賃金で作ろう」という、作業ベースのものが多いんですね。

ものづくりの本質って、考えることを楽しんで、相手のことを考えて付加価値を付けてやっていくところがすごく重要だと思っています。

縫製工場って、まだまだ最低時給のところが多いんですね。ブランドが、中国やバングラデシュやミャンマーやベトナムと同じコストで作らせようとしてきたからなんです。それをやめようよと。最低賃金が750円だから760円に上がったらどうしよう、と考えるんじゃなくて。

コスト削減型から価値型への転換

山田:地方創生の鍵は、もっとぼったくることだと思っているんですね。「ぼったくる」って言葉が悪いんですけど、きちんとお金をもらうということです。フランスにはパリの北東にシャンパーニュという地方があります。

シャンパーニュ地方の平均所得って、パリより高いですからね。フランスで一番平均所得が高いのはシャンパーニュ地方なんです。彼らがなにをやっているかと言うと、シャンパンを作っています。それも2~3人の家族でやっているんですね。

だから自分たちが、「熊本だから東京より安くニンジンを売らなきゃいけない」という考え方をやめようと。東京では200円なのに、なんで熊本で100円で売らなきゃいけないのか。そうじゃなくて、熊本で500円、1,000円で売ろうよと。その分価値を付けたものを売ろうよ。ということです。

僕はコスト削減型から価値型に変えたいんです。なので僕は、消費者を意識することもそうだし、工場側が価値をどう作っていくのかということを一緒に考えているんですね。

最初はできないですよ。下請けに慣れていて、材料も届いて、デザインもパターンも全部依頼が来たものをそのまま受けて縫うだけの工場だったので。生地の会社も紹介しますし、デザイナーも紹介しますし、パタンナーも紹介します。ものづくり以外は僕らが全部やります。売ることも全部やるし。最初は彼らもできないのでちょっとずつですね。

でも、僕らが6年やってきて、最初の工場なんてもう自分たちのブランドの売上比率が3割超えてきたので、めちゃくちゃ安定して売上がいいんですね。そうすると、若手が「自分たちのブランドで服を作っているんだ」「しかも海外でも売れている」となるから、そりゃあやりたいわけですよね。しかも最低時給でもないし。

日本のものづくりは価値型に切り替えていかないとAIに負けるし、海外の安い労働力に負けるって思っているんですよ。だから根本はそっちです。価値を創っていくために考え方を変えるっていう。

「作り手の想いで買う」がメジャーになればそれでいい

高橋:自分たちで決めていくことによって、やらなきゃいけない仕事がやりたい仕事になっていくということですね。消費者の声を生産者や工場の方々にフィードバックする仕組みみたいなものは、あったりするんですか?

山田:そうですね。僕らって工場のファンでもあるので、工場ツアーに参加して直接言っていますね。「ここがもっとこうなったらいいんですけど」とか。

あと、僕らに届く話は全部工場にも伝えますし、「工場サミット」は全工場に横のつながりがあるので、情報交換してもらっています。そこにお客さまも一部いらっしゃるので、そこからもフィードバックがいきます。

僕らの場合、ファクトリエとして有名になりたいわけでは一切なくて。「作り手の想いで買う」という概念がメジャーになればそれでいいんですね。「ファクトリエが世界ブランドに」って思いがちですけど、そうではなくて。「ファクトリエで売っている工場名で買う」っていう時代を作るためなので、僕らは黒子です。

例えるなら、「伊勢丹で買ったら安心だよね」というようなものだと思っていて。だからそこにあるブランドこそが重要で、僕らは最初はそこの目利きをやるけれど、最終的に僕らから離れて飛び立っていく工場がいたとしても、僕は大歓迎だし。

工場名を出しているので、別にファクトリエじゃないところで自分たちで売っていってもいい。僕らは本当に黒子だと思っているので、この概念を世の中に広げたい。

自分たちが熱狂していれば、その余熱が人に伝わる

高橋:先ほど熱狂的なファンという言葉も出てきたんですけれども、このセッションのために山田さんは「熱狂! 熱狂!」っておっしゃっているわけではなくて(笑)。僕らが言う前からずっと、山田さんは熱狂的なファンという言葉を使われていたと思います。

ファクトリエさんの顧客に対する向き合い方として、どんなことをされているのか。先ほど「仲間」というお話もありましたけれども、おうかがいできたらと思います。

山田:ありがとうございます。まず、熱狂の「熱」って伝導すると思っているんですね。僕らが思いっきり熱狂して楽しんでいる余熱がお客さまに伝わると思っているんです。

なので、お客さまとのコミュニケーションについて「こうやればブランドになれる」「こうやれば熱狂的なファンが作れる」と僕は思っていないんです。重要なのは、僕らがどれだけ熱狂しているかなんですね。ファクトリエのお客さまから僕らの仲間になるっていうケースはすごく多いですし。

まず僕らが楽しいし、僕らが何着でもほしいと思える商品以外は作らないです。僕らが最高だと思えるもの以外は作らない。去年流行ったり、ほかのブランドで売れているとしても、どうでもいいです。大事なのは僕らが最高と思えるかっていうことだけで。

だから、うちの会社ってたくさん失敗もしているんです。横浜のお店は去年撤退しましたし、海外でも、この間300万円の詐欺に遭ったり、いろいろな失敗があったんです。

自分の仕事が“私事”になる人以外、採用しない

僕たちは「成長シート」というものをやっているんですね。成長シートとはなにかと言うと……自分の夢に向かってこの1年間どういうふうにしなきゃいけないかというのを、僕と3ヶ月に1回面談するんですね。

要は、自分の夢と会社の夢が一緒で、なおかつ会社にどういうことをやってもらえたら最高かっていうのを3ヶ月に1回話し合うんです。うちのメンバーがファクトリエという会社に思うことは……この会社は自分の夢に対して応援してくれるかという、言わば器なんですね。

僕らはチーム作りをすごく大切にしていて、採用のときから、自分たちの仕事が私事(わたくしごと)になる人以外は採用しないんです。仕事が「わたくしごと」のほうの私事になる。だから、夢と僕らの数字がつながっていない人は採用しません。

採用するなかで、社員全員へのプレゼンというのが必ず1つ入っていて。must、can、willという順で言うんですね。入ることによって、自分はこの会社にとってどんな課題解決ができるか、自分はどういう価値を発揮できるか。その次がcanで、自分はそれに対してなにができるか。willは、自分は将来なにをやりたいか。それをプレゼンしてもらいます。

最終面接は僕なんですけど、僕との話は基本、その人にとっての仕事が「事に仕える」じゃなくて「わたくしごと」のほうの私事になっているかという確認です。そのために3ヶ月に1回、僕と成長シートというのを見つめ合って、何が毎日やるべきルーティーンかとか、どうなっていかなきゃいけないかというのを話し合います。

自分たちがいまやっている筋トレが単なる筋トレなのか、未来のインターハイ優勝に向けての筋トレなのかによって、同じ筋トレでも意味合いがかなり変わるんですね。

こんなことをやっているので、うちのメンバーが一番熱狂しています。お客さまからカスタマーサポートに電話があっても、お店に来ていただいても、ECで買うときの問い合わせにしても、僕らが熱狂しているので、その余熱が伝わっていっているという状況ですかね。

サプライズを重視するのはなぜ?

高橋:全社員の前でプレゼンするってすごいなと思いました。そのmust、can、willの中でも、mustのところはもちろん見るけど、けっこうwillのところを見られているということですか?

山田:そうですね。

高橋:そのwillの大きさというか、ファクトリエにどれだけマッチしているかっていうことなんですね。

山田:はい。ライフチャートも書きますしね。

高橋:ライフチャート?

山田:自分がなにに対してうれしいと思って、なにに対して悲しいと思って、というようなこともやります。

僕らってサプライズを大切にしていまして。熱狂的な仲間を作るために、8つの曼荼羅があって。8つの曼荼羅をアクションまで8つずつにもう1回分解して、64のアクションをやるということを僕らはやっているんですね。

これって結局、うちのメンバーから出てきたんです。お客さまにインタビューして、僕らを因数分解したときに、お客さまからどう思われているか。ファクトリエのお客さまだからこそ、痒いところに手が届く策がずっと取れると。

こうやったらもっとうれしいってことが、熱狂的なお客さまからうちの社員のツボを突き続けるんですね。

この64個の曼荼羅も、毎日みんなが自発的にやっていて、僕からなにかをやって、なんて思っていないんですね。だから僕が命令することはほとんどないんです。

管理は依存につながるから、決裁はしない

山田:以前は僕が全部決めていたときもあったんです。僕が全部決めて、僕が決めたとおりにやるっていう時期が長かったんですね。でもそれで成長しなくなったり、いろいろ失敗したときに、結局大量に人が辞めていったことがあって。

そのとき、僕は「チームって何だろう?」って思ったんです。1人が100の力を出すんだったら、単なる寄せ集めじゃないか……。この手の話は、もしかしたら楽天大学の仲山さんに聞いたほうがいいかもしれないけど。

僕がこうやって、どちらかと言うとお客さまが仲間になって、その仲間が熱狂できることをやり続けている理由がこれですね。

高橋:これは、どういったところにお客さまが価値を感じるかというものを可視化していて、全社員の方が把握しているということですか?

山田:そうです。全部それに合わせて行動を取っているという感じですね。

高橋:なるほど。とある対談で山田さんが、「管理は依存につながってしまうので一切決裁をしない」という話があったと思います。ゴールは明示するんだけれども、プロセスにはあまり口を出さないというか、ほぼ社員の自主的なアクションに任されているということなんですか?

山田:はい。僕らって単なるECでも単なるアパレルブランドでもなかったんですよね。いままで僕らみたいなものってなかったんです。ファクトリエってすごく特殊で、「作り手の想いで買う」という新しい概念を作ろうとしているので。単なるECでも単なるアパレルでもない新しい道を作るわけですね。

「本屋だけど本屋じゃない」という価値の創造

山田:蔦屋書店がすごいと思うのは、単なる本屋であれば紀伊国屋や丸善がライバルなんですけど、彼らってあの空間を作ってスターバックスのコーヒーを売るということをやったわけじゃないですか。

それによって結局人が集まっているので、彼らが何屋さんかと言うと、本屋さんじゃないわけですね。本屋さんかもしれないけど、本屋さんじゃないという価値を作ったわけじゃないですか。

だから、僕らもそうだなと思っていて。価値づくりの根本的な、コンセプチュアルスキルが必要なところは僕がやらなきゃいけないことですけど、通常の売上を作っていくとか、お客さまを熱狂させていくということは、もう僕らがこうやればいいということが見えていることなので。それをどうやって、より楽しくやっていくかとか、より大きく広げていくかというのは、うちのメンバーで考えてもらっています。

だから僕は、決裁にあがってくるものは全部イエスですね。「50万円かかるんですが、やっていいですか?」でも「イエス」ですね。だって、うちを潰そうと思っている社員なんていないし。必死に考えてこれがこういうことを生み出すと思ってやってくるわけじゃないですか。

だから僕は決裁は全部イエスにしている。おっしゃるように管理は依存で、自分で考えなくなる組織になると思います。僕が言って40点のアクションしか取らないんだったら、自分で決めて70点のほうが会社は進むんですね。

失敗するところまで任せる勇気

高橋:なるほど。例えば出てきたアクション自体が山田さんにとって40点だった場合って、それもノーは言わないんですか(笑)。その場合も基本進められるってことなんですか?

山田:そうですね。僕の思い込みかもしれないしね。むしろ失敗するかもしれないなと思いながらも、もちろん「イエス」ですよね。それが学びです。

1回口を出さないって決めたら、徹底的に口を出さないようにしないと。俺がなんとか巻き取ってやったドヤ感みたいなのは、絶対にダメですもんね(笑)。最後は俺がなんとかしたよ、というような、そういう上司の変なプライドとか。やるんだったら失敗するところまで任せる勇気を持たなきゃダメですよね。

高橋:なるほど。

山田:だからそれによって失われるコストは考えますけど、それは腹をくくりますよね。

高橋:失敗することもあるかもしれないけど、社員の方々が決めてやるということを重視されているということですね。

山田:もちろんです。

高橋:そういう意味では、極端な話、ファクトリエのビジョンとかミッションに沿わなくなった方々は辞めていただくと言ったらあれですけども、離れていくんですか?

山田:もちろんありますよ。例えば、僕がさっき言ったこの64個の曼荼羅って、サプライズがけっこう重要なことで。サプライズってやる人とやられる人がいるんですよね。

「やるのが苦手」「サプライズされることが好き」などと言う人は採用しないですね。「サプライズをすることがワクワクする」とか、そういう人しか採用しないです。あとは僕らが一緒にいて気持ちいいかとかだと思いますね。

規模を追いかけて売上が伸びるビジネスモデルではない

高橋:いま20人くらいの社員の方がいると思うんですけど、これから50人、100人というふうに増えていくと、価値観ってやっぱり人によって差が生まれると言いますか、バラバラになっていくと言うか、少し角度が変わっていくかなと思います。

そういったときに、どうやってファクトリエというビジョンだったりミッションを見せていくかって、けっこう難しくなってくるのかなって個人的には思いました。それについて、どうお考えですか?

山田:僕は社員数って少なければ少ないほうがいいと思っていて。100人になったからとか200人になったから(会社が成長した)って、ぜんぜん僕は思ってないんです。

僕らが増やさなきゃいけない従業員の数は、「工場の」なんですよね。工場の採用数しか僕は見ていなくて。さっき言ったように、僕らはあらゆるものを仕組み化したり価値を創っていくことにお金をかけなきゃいけないので。

さっきお伝えしたとおり、営業がいるわけではないので、僕らの会社の社員数が増えたからって売上が増えるってモデルではないんですよね。

僕ら(の会社)って本当にプロフェッショナルが集まっているんです。生産管理は64歳の人間ですし。どちらかと言うと工場における価値最大化など、工場側にもっとメスを入れていかなければいけないな、ということが強くて。

いまいる人間はほとんどがお客さまからだったりするんです。 いま僕らって求人サイトを使ったこともないですし、紹介会社から採用もしないので。基本的にはウェブサイトか友人紹介の2つだけなんですね。だから、あまり間違った人は来ないし、どちらかと言うと規模が売上につながっていくものじゃない、という感じです。

サイバーエージェントでも上場したときって28人とかですよね。だから、「規模を追いかけていく」というよりは、「どれだけこのメンバーで価値を生み出せる状態が作れるか」ということかなと思いますね。

会社をよくする委員会の発足

高橋:さっき控え室でお話しいただいた、「会社をよくする取り組み」というところで、もう1つあったと思います。そちらについて、ご紹介いただけないでしょうか。

山田:わかりました。「会社をよくする委員会」というのがあって、毎週月曜の朝8時からやっているんですけれども、僕は出ていないんですね。うちの社員が有志で始めたもので。僕らは正社員が20人ちょっとで、契約社員や業務委託を含めると、だいたい40人くらいなんですね。そこからたしか10人くらいが参加しているのかな。

子どもがいてなかなか出られないとか、距離の遠い名古屋とか熊本のメンバーとかは全部スカイプで参加していて。会社における課題を全部洗い出して、そこで決め方まで決めてもらっています。別に多数決でもいいし、誰かリーダーを決めてもらうでもいいし。

それは別に僕から言い出したわけじゃなくて、社内で立ち上がっていて。「この仕事って誰がやるんだっけ?」「これってやったほうがいいけど、誰がやるんだっけ?」「電気ケトルが壊れてるけど、これは誰がどうやるんだっけ?」というような(笑)。そういう間に落ちたやつを自責で拾いにいくチームです。

工場ツアーもうちのメンバーが引率していますし、仲間たちに興味を持つとか、課題をみんなで考えて解決していく、という場はすごく多いかもしれないですね。

ボランティアをやっている人のほうが人生の満足度が高い

高橋:やっぱりプロセスをご自身で決められているし、社員の方一人ひとりが山田さんと同じ目線でやられているんだなというのをすごく感じるんですよね。

先週、失礼ながら初めて山田さんのお店にお邪魔しました。今日は(ファクトリエの)ジーンズを履いているんですけど。

山田:ありがとうございます!

高橋:お店にお邪魔したときに、お客さま全員がファクトリエさんの方々と一人ひとりしゃべっているんですよね。そういうお店ってこれまであまり見たことがなかったので、すごく衝撃的というか。そのときはたぶん、お客さまが4〜5人くらいいらしたんですけど、僕だけポツンといたんですよ(笑)。

山田:そうだったんですね(笑)。

高橋:それってすごいなと思っていて。接客について指導されているわけではないじゃないですか。なのに、みなさん一人ひとりが矢面に立つというか、最前線に立ってお客さまと接しているという姿勢がすごいなと思っていて。

山田:お客さまのほうが働いているケースがあるんですよ。この間名古屋でイベントをやったら、うちの名古屋のメンバーは5人くらいなんですけど、お客さま6人がボランティアでイベントの設営とかをやってくれていたんですね。一昨日は名古屋から銀座のお店に運ばなきゃいけないミシンがあって、それをお客さまが車で運んでました。

高橋:お客さまが(笑)。

山田:スナックのママが言うところの「あなた、皿洗いしてよ」じゃないですけど、お客さまもうちのメンバーのように働いてもらうと。誤解を恐れずに言うと、ボランティアをやっている人のほうが人生の満足度って高いんですね。

それと同じで、自分たちもファクトリエを手伝って汗をかいたっていうお客さまのほうがすごく(満足度が高い)……たぶんそれって(ヤッホーブルーイングさんの)『よなよなエールの超宴』を手伝っているボランティアメンバーのようなものだと思っていて。

そこにあまり差はなくて……さっき言ったように、僕は「お客さま」とか「ファン」っていうよりは「友だち」って考えたほうがよくて。友だちの店だから友だちの店に飲みに行くし、友だちのやっている服だから、俺はそこの服を買うし、だから手伝う。

名古屋から東京まで朝5時起きでミシンを運んでくれた、すごく熱狂的な2人の仲間たちに報いるためのサプライズとして、ファクトリエの看板がその2人の似顔絵になって「ようこそ東京へ」っていうような。

高橋:へ~!

テクノロジーによって可能となった1対nの認知

山田:ファクトリエで夜20時からやっているライブ配信があって。こんなの僕、許可した覚えはないですからね。勝手に夜20時から15分間、「ファクトリエ通信」というものをやっているんですよ。

「山田さん、この間ついに1万人にリーチしたんです!」って言ってきて。「クオリティとか大丈夫!? うちのブランドを傷つけてない?」って聞いたら「大丈夫です!」って。

僕は知らなかったんですけど、うちの実家のお店は接客が1対1だったんですよ。うちの母親が接客しているときに他のお客さまが来るじゃないですか。すると、僕が出るんですよ。僕は話をしながらチラチラ母親のほうを見て、母親が空いたらパスするわけですね。

先ほどの配信って、1対nがテクノロジーによってようやくできるようになったから可能になったんだ、と思ったんですよね。自分たちが好きなことをしゃべって、それに対するコメントがめちゃくちゃ入って、なんとかかんとかやっているわけですよ。

たくさんの人たちが見てくれて、会話に参加してくれているということは、これはよかったなというか。テクノロジーがかけ合わさると、こういうかたちになるんだなって思ったんですね。

生きることは、目的ではなく手段

高橋:まさに自分たちで役割を見つけて同志を募っていくっていうのにすごく近いなと思いました。ということで、ちょっと時間ですね。最後に、今週山田さんのご著書が発売されるということで。

山田:出ますね。

高橋:今日ご来場されている方はマーケッターの方々が多いと思うんですけれども、そのお話も兼ねて、最後にご来場されている方々に、メッセージをぜひ一言お願いできたらと思います。

山田:わかりました。『ものがたりのあるものづくり』という本が、日経BP社から今週の木曜日から出ますので、もし興味あれば、ぜひご覧ください。

ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命

僕は本当に1人の人間から変えられると思っていまして。いまのライブ配信もそうですし、「会社をよくする委員会」も、うちのメンバーの1人がやったほうがいいんじゃないかと言って始まったものです。

この手のものって、人や組織とかが重要などと言うと、壮大な話のように感じてしまうので、「自分の部署じゃないんじゃないか」「人事がやることなんじゃないか」「もっと上のほうが考えるべきなんじゃないか」と思うかもしれないんですけど、僕はそんなことはないと思っているんですね。

さっき高橋さんが言ったように、6パーセントの人が日本の会社を支えていると思うんですよ。月曜日のこの時間にいらっしゃっているみなさんのような方々は、間違いなく6パーセントの人です。大企業だからなんだとか、そういう話じゃなくて。

僕は、生きるということは目的じゃなくて手段だと思っています。自分の命を何に使うかだと思うんですね。だから、この命というものを使って毎日をワクワクさせたい。6パーセントのみなさんが会社をより飛躍させて、より自分の好きなものを伝えるという世の中になればいいと思うんですね。それがワクワクする社会だと思います。

だって、世の中には似たようなものばっかりあるし。僕は水を買うときって、ここに飲料メーカーの方がいたら申し訳ないですけど、1円でも安いほうを買っちゃうんです。でも本当は、「水だったらこれだろ!」みたいなものがもっと欲しいです。

そういうものが世の中に溢れているほうが、日本って楽しくなると思うんですね。みなさん一人ひとりの熱狂が、より社会を熱く、楽しくしていくと思うので。同志として、よりよい社会にできたらなと思います。

本日はありがとうございました。

(会場拍手)

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