どこの誰がつくっているのか、連絡先まですべてオープンに

山田敏夫氏(以下、山田):僕ら「ファクトリエ」は、メンズ、レディース、ベビーなどの洋服全部をインターネットで売っています。

野菜の産直って言いましたけど、僕は月の半分以上、工場を回っているんですね。会社を作って6年ですけど、これまでに600工場くらい回っていて、一戸一戸訪問して、選んでということをやっています。

「工場ってどうやって探すの?」ってよく聞かれるんですが、現地に行って、近くの急行とか快速が止まる駅に行って公衆電話を探して、タウンページの上から電話をかけていくんです。これが一番効率的なんですね。

去年か一昨年、『カンブリア宮殿』というTV番組にファクトリエが取り上げられたときに、そのシーンが一瞬映ったんですね。そうしたら、NTTタウンページ株式会社のかたが直接会社にいらっしゃったんです(笑)。会社を作ってから一番うれしかったことの一つです。 (会場笑)

まだまかないきれていない地域がけっこうあるので、結局は行かざるを得ないんですけど、うれしかったですね。

僕らは作り手が主役だと考えているので、誰がどこで作ったのか、連絡先も全部オープンにしています。

ファッション業界で工場情報をオープンにするというのはタブー中のタブーでした。理由はほかのブランドに取られてしまうとか、新商品の情報が漏れてしまうとか、いろいろあるんですけど。例えば、LACOSTEを作っているポロシャツの工場が、Ralph Laurenに取られてしまうとか。工場の生産キャパは決まっていますからね。

あとは、理想と現実のギャップですよね。ファッションモデルが華やかなパーティーで着ている服が日本製だったらまだいいですけど、バングラデシュの児童労働で作られていることがわかったら、イメージが悪いじゃないですか。

こういった理想と現実のギャップがあるので、作り手の情報を表に出すというのはアパレル業界のタブー中のタブーだった。なので、僕がこれをやったときには強烈な逆風が吹きました。

希望小売価格ではなく、希望「工場」価格での販売

山田:いまは北海道から沖縄まで55個の工場と提携して、生産しています。何が工場にとってのイノベーションになったかと言うと、2つあります。

1つが工場の名前を全面に出したということ。これが大きなイノベーションだったんですね。イノベーションがなにかと言うと、僕は潜在的課題の解決だと思っていまして。

工場に「なにを解決すればいいですか?」と聞いても、「工賃を10円上げてほしい」「パターンをデータでほしい」ということしか言ってくれなかったんですね。

これって結局「改善」でしかなくて。先進国の僕らにとっては、改善って意味がないんですよね。先進国で時給も高いので、僕らがやるべきことっていうのは改善じゃなくてイノベーションなんです。

工場の情報を表に出すことって、すごく些細なことなのに、イノベーションだったんです。なぜかと言うと、工場は自分たちが表に出られるなんて思わなかったので。工場の名前をオープンにしたことで、彼らは誇りを持ってものを作れるようになったんですね。

いままでは、FAXが届いたらそれに従って「いつまでに何着、何円で作れ」ってことでしかなかったのが、自分たちの名前が出るので、自分たちで考えて作って、作ったものを胸を張って表に出していける。

これと同時に渡さなきゃいけなかったのが、希望小売価格を捨てて「希望工場価格」にするってことだったんですね。僕がいま着ている服も、このジーンズも、このスニーカーも、ソックスも、全部工場の言い値で買っているんですね。

普通だったら希望小売価格を決めて、そこから原価率を設定してやっていくわけですね。僕らは全部工場の言い値で買っていると。

僕らの工場は55個あるんですけど、かなり新卒採用が多いんですね。なぜかと言うと、最高の商品を作れるからなんです。そしてちゃんと儲かるかたちなんですね。僕らは彼らの言い値で買っていますし。

日本の工場に来る仕事って、結局は中国と同じ値段でやる仕事ってよく言われるんですね。中国と日本ではどれくらい時給が違うかと言うと、だいたい10分の1くらいです。日本が1,000円としたら、中国は100円くらいです。

じゃあバングラデシュがいくらかと言うと、だいたい20円くらいですね。日本にバングラデシュと同じものづくりをさせるんだったら、意味がないですね。

僕はすべての産業のものづくりに対して同じことを思っているんですね。バングラデシュと同じことを日本人にやらせて、日本製品を守ろうなんて僕は思っていません。

自分で考えてパターンを引いて、素材を選んでその人に合わせてものを作っていくということについて、日本人はすごく優れていて。彼らが優れているんだったら、彼らの値段を極限まで高めていい仕事をしてもらわないと、それは引き出せないんですね。

単純に「日本製だから」ってマーケティング的に安く作らせてたら、(途上国で作る洋服と)なにも変わらないものができちゃうんですね。僕は日本から世界ブランドを作りたいので、こういうことをやっています。

お客さまと工場がステークホルダー

山田:実は就活もかなり手伝っていまして、来週も「工場サミット」というイベントをやります。学生とお客さまを100人くらい集めて、なかなか新卒採用ができていない工場に集まってもらうという、ボランティアでやっているものです。

今回が第5回で、4年前から始めたんですね。4年前と言うと、社員は僕とあと1人だったんです。それで、「工場で働きたい」とか「興味がある」と言って参加してくれた子たちが、実際に工場に入ったということもあります。

9時から17時まで自分の好きなものづくりをやって、週末は温泉に入ってみんなとバーベキューをやってという生活の話を聞くと、けっこう楽しそうだなと思います。

いまではその「工場サミット」に、当たり前(のよう)に東大生も来てしまうんですけど、4年前はこういう「山っ気があるけど、こだわる分にはとことんこだわる」っていう、エネルギーのでかいメンバーが来てくれていました。

僕らが工場のイノベーションに向けてどういうことをやっているかと言うと、下請けを直売に変えて、赤字だったのを儲かるかたちに変えて、若手不在の状況を採用につなげて、やる気をアップさせるということ。これが僕らの工場に対するイノベーションです。

僕らのステークホルダーでも、とくに大切にしていることが2つあります。両方ともお客さまなんですけど、1つは工場で、もう1つがお客さまなんですね。これが僕らの考え方です。

お客さまはもはや、ファクトリエの革命の同志

山田:次は消費者に対しての僕らの考え方を、今日のテーマに沿ってお話ししたいなと思います。みなさんもプロだと思うので、釈迦に説法のようで恐縮なんですが。よくフィリップ・コトラーさんが言っているように、いまの日本には、マズローの欲求5段階説で言うところの「自己実現」と「承認」しかなくて。

さっきの高橋さんの言葉で言うと、製品中心から消費者志向の価値主導って、宗教的な信仰みたいなものですよね。

価値がないと信仰するべきものがないので、価値で主導していくというのがいまの時代だと思っていまして。

僕らはお客さまを、まさしく「熱狂的な仲間」だと定義づけています。さっき言ったように僕は、2年半くらいバイトをしながら1人でこの仕事をやってきました。熱狂的な仲間を作っていくのに、最低限必要なことって3つあると思っています。

1つが使命です。「語れるもので日々を豊かに」とさっき言ったように、「従来のファッション性や経済性ではなく、作り手の想いで買う。コスト削減ではなく、世界一の価値を創造する」っていうのが僕らの使命です。

何かと言うと、お客さまは僕らの革命の同志なんですね。だから「ファクトリエがおしゃれだよね」という話よりも、ファストファッションやデザイナーのそういったものに対するアンチテーゼとして、お客さまが革命の同志の仲間になってくれているというのが、僕らの使命です。

2つ目は、「語れる商品」ということです。僕はよく5段階で言っていて。5が「誰かに言ってくれる(勧めてくれる)」、4が「好きで買い続けているけど人には勧めない」、3が「普通」となったときに、顧客満足でいけるのはリピート率の向上までだと思っていまして。

うちの会社みたいに、宣伝広告費をほぼなしで成長していくのに、唯一無二の方法はクチコミだけなんですね。クチコミしてもらうって、めちゃくちゃ難しかったです! クーポンを配っても、誰もクチコミなんかしてくれないですから。

いまはInstagram、Facebookの自分のタイムラインが神格化していて、そこに投稿するハードルってめちゃくちゃ高いんですよね。単純に「こうやってあげます」くらいじゃ無理で、結局その人たちを熱狂させなきいけないというところがあります。

熱狂については、4から5に上げる工程を僕らはできているので、宣伝広告費もなく急成長できているんだろうなと思っています。そのときに僕が肝だと思っているのは、物質じゃなく精神性だと思っています。

「語れる商品」以外は商品開発しない

山田:例えば、温泉に行きたい人って「あそこの温泉は泉質が良くて、硫黄が何パーセント入っているから」って理由で行くというよりは、家族との時間とか自分が集中したいからとかリラックスとか、そういった感情を買うために行くわけですよね。

なので、大切なのは物質ではなくて精神だと思っていて。4から5にいくためには精神性はすごく重要だと思っています。同時に、僕らの語れる商品について、例えばどういうものを僕たちががんばって作っているかをイメージとしてお伝えします。

僕って、白いジーンズを履いたときに限って醤油とかをこぼしてしまうんですね。そういうときに限ってミートソースをこぼしたり、急に雨が降ったりするじゃないですか。買った初日に泥水を跳ねさせて汚したりしていたんですね。

それが嫌だったので、絶対に汚れないっていう白いジーンズを作ったんです。汚れを全部弾くんです。でも、普通の肌触りなんですよ。

これはジーンズの聖地である岡山の工場で作っているんですけど、最後に(ジーンズを)焼くんです。構想を入れると1年かかったんですけど、3つの工場でいままでやったことのないものづくりを一緒にやったんですね。

ジーンズ工場って、これまで加工するとなったら、汚すことしかやってこなかったんです。汚さない加工なんてしてこなかったんですね。でも、焼くことによって(弾く成分を)固着することで、100回洗ってもその効果が落ちなくなるんです。

たぶん「ファクトリエ 白いジーンズ」とかで検索すると出てきます。これは『ワールドビジネスサテライト』や『スーパーJチャンネル』、『羽鳥慎一モーニングショー』、『王様のブランチ』、『スッキリ』、明石家さんまさんの『ホンマでっか!?TV』といった、いろいろなテレビ番組で紹介されたんです。

僕らはそういう「自分たちがワクワクすることで、なにかを解決する」という、語れる商品しか作らないんですね。

ファストファッションのレベルがあまりにも上がっていて、工業製品としてはユニクロが一番いいと思っています。もし服を経済性や工業製品として買おうとするなら、ユニクロが一番だと思います。

今日はスーツ姿の方も多いですけど、日本でネクタイが一番売れているところってダイソーなんですね。ダイソーって年間200万本のネクタイを売るんです。全売上本数の2割はダイソーさんなんですね。100円で買えるんですよ。

ファストファッションのレベルが非常に高いので、僕らは圧倒的価値を出せる「語れる商品」を作れないなら、商品開発しないと決めています。