熱狂顧客ベースのコミュニティづくりを意識する

高橋遼氏:コミュニティの話をするにあたって、私たちとしては「熱狂顧客」をベースとしたコミュニティづくりというのが必要なんじゃないかなと思ってます。コミュニティというと、割と外の枠を囲ってとにかく多くの人にコミュニティ会員になってもらおうと思いがちなんですけども、そうじゃなくて彼らはこの「熱狂顧客」の人たちとのコミュニティづくりというのをやってらっしゃいますね。

とにかく熱狂的なファンと濃い対話をしたうえで、それ以外のライトファンに広めていく、という活動を、まあ意識的にやってるかどうかはわからないところがあるんですけれども、いまそれをやられているというところが印象としてあります。

コミュニティの在り方のベースといいますか、これからはやっぱり「熱狂顧客」の人を軸にどうそのブランドの価値を広めていくのかということをしっかりと、そして構造的に設計していかなきゃいけないじゃないかなと思っています。

私たちもいくつかブランドコミュニティを運営しているんですが、先ほどの失敗例にもあったとおり、顧客の熱量ってなかなか直線的には上がっていかないんですよ。

いろんな会話をしたり、いろんなコンテンツを出したりするんですけれど、コミュニティのなかで継続して熱量を上げていくことはなかなかできません。

実は熱量って、抽象的ですけれど直線的な上がり方ではなくて、なにかのきっかけに急激に上がるものなんじゃないかな、と感じています。

この「きっかけ」というのが、先ほど言ったブランドマネージャーからの手紙やこういったミートアップ(リアルな関わり)なんですね。特別な体験によって熱量が上がる、ということがよくあります。

先ほどのヤッホーブルーイングさんやSnowPeakさんもそうなんですけれど、熱狂的なファンの人たちの熱量をとにかく上げて、上がった熱量をもとにそれらを伝えていくと、その赤のところと青のところというのをしっかりと分けて意識的にやられているというのが非常にうまいなと思っているポイントです。

熱狂顧客の様子をライトな層に伝える工夫

コミュニティというと、とにかく多くの人たちを囲ってその中でじわじわと熱量を高めていこうと考えられがちなんですけれど、うまく「熱狂顧客」とお付き合いをされている企業さんというのは、一部のユーザーと一緒に、ファンの熱量を高める取り組みをライトなファンに伝えようと努力していると思います。

またほぼ日の話か……って感じなんですけれども(笑)、「100人に聞いたほぼ日5年手帳の使いかた」というコンテンツがあるんですね。これ、5年分書けるほぼ日手帳なんです。

今後5年は、この手帳とお付き合いをしていくわけですが、この5年手帳って発売してすぐに完売するくらい人気だったんです。しかも発売された2カ月後くらいには、この「100人に聞いたほぼ日5年手帳の使いかた2018春」というコンテンツが公開されていました。

そのコンテンツには、このようなことが書かれています。「使いはじめて2カ月ほどたった時点で、みなさんがどんなことを書いているのか募集してみたところ、100通をこえるメールをいただきました。」つまり、皆さんがどういう使い方をしているのか発売後少ししてから募集をしてるんです。

100通り全部紹介しているわけじゃないんですけれど、いろんな使い方をこうやってコンテンツにしているんですね。

こういう手法はすごくうまいな、と思っていて。先ほどのヤッホーさんだったりとかSnow Peakさんとけっこう似たような構造をしていますよね。少数ですけれども、熱狂的な使い方をされている人たちに使い方を聞いて、それをまだ使ってない人たちに伝えるためのコンテンツに応用しているってことです。

例えば、一緒に暮らす犬のことを書いている人だったり、一日のことを漢字一文字で書き続けている人だったり、身近な人に贈ったものを記録していたり。ほかにも、カップルとか夫婦で1冊使うとか、親子で交換日記をするとか、本当にいろいろな使われ方をしてるんですね。

これって、ほぼ日の方々が考えてもこういった100通りの使い方のアイデアは生まれなかったんじゃないかなと思うんです。「熱狂顧客」の人たちに聞いたからこそこれだけのバリエーションが出てきたんじゃないかなと。

熱狂の壁を超えていかなければならない

ほぼ日についてこうして語ってますけれど、僕は「熱狂顧客」かというとそうではなく、けっこうライトなファンで。ただ、ライトなほぼ日ファンもこれくらいの(かなり多い)ボリュームのコンテンツは読めちゃうんですよね。

ライトなファンの方たちが、ページ数の多いコンテンツでも読めるのは、「自分たちももっとほぼ日を使いたい(使いこなしたい)」と思っているからなんだと思います。だから、熱狂的なファンの人たちがどんな使い方をしているのか、といった内容はけっこうライトなファンの人たちにも実は刺さってるんじゃないかなと。

こうしたやり方は、ほぼ日さんがすごく秀逸ですね。「熱狂顧客」の熱量をうまくライトファンに伝える、という「伝え方」が。

コミュニティの考え方をまとめると、以前のコミュニティというのはファンをひとりでも多く増やしてコミュニティの中にとにかく囲い込むという方法だったんですけれど、これからは、「熱狂顧客」が誰なのか、どういう人なのかということをしっかりと定義して、顧客との対話の場を作る、というコミュニティづくりが必要なんです。

2つめは、先ほど熱量のパートでもお話ししましたが、定期的にコンテンツを投下さえすれば顧客の熱量は自動的に高まる、と思いがちですがそんなことはありません。私たちがよく言っている「熱狂の壁」を越えて、特別なブランドとして認識してもらうためには、どんな体験が必要なのか、そしてその体験はブランドサイドが自ら提供していかなければならない、ということですね。

コミュニティの人数をむやみに増やさない

オンラインコミュニティのなかだけで価値を算出しようとするのは間違っている、というのは先ほどの失敗例でもご紹介しましたが、ではどうしたらいいのか。オンラインコミュニティのなかだけで成果を求めるのではなくオンラインコミュニティの外での成果、オンラインコミュニティを使ってどのように外で成果を出していくのか、というところで価値を算出していかなきゃいけないんですね。

すごいざっくりしたまとめみたいな感じになるんですけれども、熱狂的なファンとその他のファンていうのはやっぱり分けていかなきゃいけないと思ってます。

熱狂的なファンの度合いって、じわじわ変わるものではなくて、先ほど言ったように特別な体験によって急激に上がっていくものだったりするので、コミュニティでも熱狂的なファンとそうじゃないライトなファンをしっかり分けてコミュニケーションをとっていかなければいけませんよ、というのがこの「熱狂顧客戦略」から考えるコミュニティの在り方です。

いま私たちが運用しているコミュニティでは、あまりむやみに人を増やすことはしていません。人の顔を見て、その人たちの性格を知ったり理解できる人数は、100人から150人ぐらいだとよく言われているんですね。

なので、私たちが携わっているブランドコミュニティでは、だいたい100~150人ぐらいに参加者を絞って、その人たちと一緒に会話をしながら、外の人たちにどんな伝え方をしていけばいいのか考える、といった運用をしているケースが非常に多いです。

山下達郎がハガキでのリクエストにこだわっているワケ

次にご紹介するのは、雑誌のBRUTUS(ブルータス)が、「山下達郎のBrutus Songbook」というのを出したお話です。今年2月に出版されたんですけど、個人的にすごく好きで。結構売れているみたいです。

この「山下達郎のBrutus Songbook」は、日曜放送のラジオ番組「山下達郎のサンデー・ソングブック」の特集なんですけど、あまり知られていない裏話とか舞台裏の話が描かれているんですね。その中に、リクエストの話があって。

最近のラジオ番組のリクエストって、みんなEメールで受け付けているらしいんですよ。リクエストする側もラジオ局側も、なるべく手間がかからないようにEメールで受け付けてるらしいんですけれど、山下達郎さんってテレビに出ないみたいなことで有名だったりしますが、ラジオもハガキでしかリクエストを受け付けてないそうなんです。

もちろん、意地悪をしようとしてるわけではなくて。募集すると、だいたい毎週100通ぐらいのハガキが届くらしいんですよ。

ハガキって、もう書く機会も少ないですし、何より、書くのに結構労力かかるじゃないですか。それなのに、やっぱりリスナーの超熱狂的な人たちは山下達郎さんに自分の送ったリクエストを取り上げてもらうために、すごく熱心に書いてくれるそうなんです。

先週はこういう曲を取り上げていたから今度はこんな曲を、みたいなリクエストだったり、「毎週聴いてるぞ!」というアピールだったり、結構濃いリクエストが届く、と。

山下達郎さんも、100通というのはしっかり読める量なんで、すべて読んだうえでこれだ!というものを毎週紹介しているらしいんです。

これって、まさにコミュニティのお話なんですよね。本当に限定的に熱狂的な顧客の声を聞いて、ライトなファンの人たちにも届けていく、ということを25年間ずっとやっていらっしゃるわけです。コミュニティづくりとしてすごく秀逸なエピソードというか、さすがだなーと感じていたのでご紹介させていただきました。