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「タニタの考える働き方改革」(全1記事)

2019.11.21

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タニタが社員を「フリーランス化」 健康的な働き方を目指す、創業75年目の大改革の舞台裏

提供:ランサーズ株式会社

2019年9月25日、ランサーズ株式会社が主催するイベント「オープンタレントサミット〜令和元年、これから求められる本当の働き方改革とは?」が開催されました。働き方改革が進展し、終身雇用が揺らぎ、副業解禁が拡大するなかで、企業はこれからの働き方にどう向き合っていけばいいのでしょうか。今回のイベントでは、本質的な働き方の変化を推し進めている企業が、最先端の取り組みを紹介します。本パートでは、株式会社タニタ 社長補佐の二瓶琢史氏が登壇し、社員をフリーランス化する「日本活性化プロジェクト」について語りました。

タニタの考える働き方改革

二瓶琢史氏:ご紹介いただきまして、ありがとうございます。株式会社タニタより参りました、二瓶琢史と申します。

この前にお話しされていました澤(円)様に比べますと、いきなりザ・サラリーマンみたいなかたちで登壇してしまって、ちょっと場違いになってしまったかなと反省しておるところですけれども。

本日は、タニタの考える働き方改革ということで、私どもの現在の取り組みであります「日本活性化プロジェクト」につきまして、大変僭越でございますが、私からご紹介、ご説明をさせていただければと存じます。

こういう場で私どもの取り組みをご紹介させていただくことは大変光栄でございます。同時にそこそこ緊張もいたしますので、ちょっと噛み噛みになったりお聞き苦しい点が多々出てきてしまうかと思うのですが、どうぞ最後までのお時間、お耳を拝借できればと存じます。よろしくお願いいたします。

まず、私ども株式会社タニタの概要を若干ご紹介させていただきます。最近「タニタ食堂」という事業をマスメディアでずいぶん取り上げていただきましたので、この数年、「食の会社ですか?」と言われることもしばしばあるのですが、本業はものづくりの会社でございます。

本社は東京都板橋区にございます。代表取締役社長は谷田千里と申します。今日の話にも若干絡みますけれども、いわゆる直接雇用の従業員は、海外法人も含めたグループ全体の人数として、今だいたい1,200名前後になっております。ただ、私のおります本社だけで見ますと、従業員数はだいたい210名ぐらいでございます。

主な事業内容は、家庭用や業務用の計測計量機器の製造・販売業になります。とくに最近は健康関連の計測機器の製造・販売に注力しております。わかりやすいところでは、いわゆる体重計。それの進化型として、からだの筋肉や脂肪の状態をはかることのできる体組成計。あるいは歩数計。その進化型として、消費カロリー……何キロカロリーぐらい消費しているかがわかる活動量計を、現在の主力商品として事業化させていただいております。

ほかにも、クッキングスケールですとか、変わったところでは塩分計というのもございます。あるいは睡眠計や血圧計といったものも開発しております。

社長から「社員のフリーランス化をしたい」

会社の設立は1944年にさかのぼります。おかげさまで、今年はちょうど会社設立から75周年という節目の年を迎えさせていただきました。

先ほどのお話と若干重複しますけれども、計測機器・計測デバイスの開発・販売を本社が担いつつ、グループ会社でフィットネス事業、あるいは例えば今一番有名になった「タニタ食堂」といった食堂事業などを展開させていただいております。

グループ全体としては、「『はかる』を起点に健康をつくる」といったことをスローガンに業務を進めさせていただいております。

今日はこういう場で、私どもタニタの働き方改革のお話をご紹介させていただけるということで、お声がけをいただきました。その一番のきっかけは、私どもの社長の谷田千里の著書として、3ヶ月ほど前に『タニタの働き方革命』という本が出版されたことです。日本経済新聞出版社様から刊行されており、1,500円ぐらいの定価で今も店頭に並んでいるかと思います。

この書籍では、「社員をフリーランス化してみる」という取り組みを紹介させていただいています。この書籍をご覧いただいた方には若干重複する部分も含まれてしまうと思うのですが、社員のフリーランス化について、私の目線から少しご紹介、ご説明をさせていただこうと思います。

ちょっとだけ自己紹介をさせていただきますと、生まれは1968年(昭和43年)になります。今は50歳を少し超えたぐらいです。社会人になったのが1990年。最初は自動車メーカーに就職いたしました。縁がございまして、株式会社タニタには2003年の1月から中途入社で、いわゆる転職で入っております。

いわゆる知的財産の管理や企業法務の関係の仕事にずっと従事してまいりましたけれども、タニタ社内でのいろいろなジョブローテーションなどがあって、2010年から人事関係の仕事に就きました。そういう意味では、人事関係の仕事はまだ始めてから10年足らずで、その部分はまだまだ若輩の状態かなと思っております。

2011年からは人事も含めてタニタ社の総務の責任者を拝命いたしまして、当時からいくつかの人事施策を企画し実行してきたという状況です。

そんな私に、ある時社長からお題が下りました。2016年1月、年始早々に社長から「社員をフリーランス化をしたいね」という話がいきなり……本当にかなりいきなり投げられた次第です。

こちらは先ほどの書籍の一部抜粋でございます。第3章の書き出しの部分なんですけれども、そのときの私の様子です。私、どうもポカーンとしたらしいです。「何を言い出すんだ、この社長」というのが、その時の率直な感想でございました。

目指すのは「働き方も、健康に」

話を聞いてみると、社員をフリーランス化するとは、雇用契約をやめて業務委託契約に切り替えようということで、よくよく考えていろんな方とお話ししてみると「おもしろそうだな」と思うようになり、2016年はこの社員フリーランス化の仕組みづくりにかなり注力するようになりました。

その当時、総務部長という役職では少し動きづらいところがあると思いましたので、社長補佐という、わかるようなわからないようなポジションに変えていただきました。

実際に私自身も2016年末にはタニタを退職して、2017年1月からは個人事業主になりました。我々はこれを「日本活性化プロジェクトメンバー」と呼んでおりますけれども、そういう立ち位置になりました。このプロジェクトの推進業務、あるいは社長の補佐業務を「受託」というかたちで、今も続けている状況でございます。

その「日本活性化プロジェクト」でございますが、タニタにとっては人事施策の最前線という表現になろうかと思います。どういうことかと申しますと、会社と個人の関係性を「雇用」にとらわれず見直してみようじゃないかというお話です。それが社員のフリーランス化といいますか、個人事業主化ということです。

フリーランスや個人事業主という言葉は、一般名称としては当てはまるのですけれども、もともとフリーランスでやっていらっしゃる方とは就業環境なども若干異なると思いますので、本当はもう少し個性的な名前、呼び方がそのうち出てくるといいかなと思っています。

そういうことも若干あって、社内では「活性化メンバー」や「日本活性化プロジェクトメンバー」と呼んでおります。目指すところは「働き方も、健康に」ということです。

人材流出を防ぎ、やる気が出る仕掛けをつくるには?

谷田千里が社長に就任したのが2008年でございますが、その頃からの社長の懸案事項をご紹介させていただきます。

まず1つは、経営は山あり谷ありで、良いとき悪いときがあると。良いときはいいけれども、悪いときにどういった手を打つかが大事であるということでございます。これを、人的リソースに落とし込んで考えてみますと、業績が悪化すると良い人が抜けてしまうというリスクが考えられます。

ちょっと掘り下げて考えますと、いわゆる良い方、良い人材は、「業績が悪くなったから、はいさよなら」ということは、あまりないと思っています。こういう方は組織に対するロイヤリティや責任感が非常に強うございますから、会社の業績が悪くなったときほど、むしろ「自分はがんばるぞ」「最後まで踏ん張るぞ」と言ってくれる方のほうが多いのではないかと思っております。

それでもやはり、ご家族やご家庭の事情などもいろいろございまして、業績が悪い状態が続いて給料がぜんぜん上がらない、ボーナスも出なくなったというところまでいきますと、本人の意向とは別に、ご家族のためにやむにやまれず退職する・転職するという選択肢を取らざるを得ない。そういったこともあるかと存じます。

そういうことにならないよう、なにか仕掛けといいますか、対策を取ることが、谷田千里の懸案事項の1つでございました。

2つ目の懸案事項としては、人材がいわゆる人“財”、つまり財産であるためには、その人のやる気が出るような仕掛けが必要だということです。

逆に言えば、やらされ仕事や、仕事が他人事になっているうちは、本当の意味でのやる気は出ないのではないか。踏ん張りがきかないのではないかということです。そういったやらされ仕事できつい状況になると、最悪の場合、メンタル不調にもつながりかねない。

したがって、やらされ仕事にならないで、やる気が出てくるような仕掛けも必要であると。これが2つ目の懸案事項でございました。

個人の主体性を高める「日本活性化プロジェクト」

具体的には2015年末から、社長の谷田の中では検討を始めており、2016年の始めから私も一緒になって、ほぼ1年をかけて検討と準備を進め、2017年の1月から本格的にスタートしました。「日本活性化プロジェクト」の趣旨や制度の大枠をなんとか言語化してご説明しようとすると、だいたいこういうことだと思っています。

「日本活性化プロジェクト」とは、まず会社に過度な負担をかけることなく、社員や……もう少し広義に言いますと、会社に貢献する人の「報われ感」を最大化して、「やる気」を引き出したいと。こういうことです。

その具体的な施策として、雇用関係の終了と業務委託契約による業務発注。仕事をする人が自分の仕事として、仕事に取り組む状態を作りたいということです。

それによって期待する効果としては、なんといっても個人の主体性が高まるということです。その延長として、ライフスタイルやライフステージに応じて仕事を続けていける。そういう仕組みにもなるのではないかと。

私どもとしては、これが真の働き方改革になるのかなと位置づけております。これを実現する個々人を「日本活性化プロジェクトメンバー」と呼んでおる次第でございます。世の中では、2016年ぐらいから「働き方改革」というキーワードをかなり耳にするようになりました。今では、聞かない日はないぐらいになっております。

次に、国が進めている働き方改革について少し紹介したいと思います。現在考えられている、施行されている働き方改革は、おおむね残業時間の上限規制や休暇取得の奨励といったことに、高度プロフェッショナル制度を補完的に組み合わせるものです。

誤解されないようにあえて強く明言させていただきたいのですが、私どもタニタは、今の働き方改革に関連する法律・法制・仕組みに、別に異を唱えるつもりはありません。むしろ、過剰な労働力の提供が横行しているような状況においては、適切な規制は絶対必要だろうと考えております。

会社が個人を抱え込む関係を見直す

基本的にこういったことにはもちろん賛成しておるのですが、その上で、「もっと働きたい人」、要は「この仕事を今日ここでがんばりきりたい。今が本当に踏ん張りどころだから、時間を忘れて、寝食を忘れて、これに没頭したい」と思っている方、そう思っている瞬間にまで規制をかけてしまっていいのでしょうか?

ちょっと口幅ったいのですが、人が成長をするときは、その手前でけっこうぐっと踏ん張るといいますか、ここ一番をがんばりきるようなきつい時期もあるんじゃないかと。こういった人たちの受け皿になるような仕組みも同時に必要じゃないかというのが、我々の考えているところでございます。

会社は今まで、「社員」ということで人を抱え込んできたわけですね。先ほどの話にも少し出たように、終身雇用、就社というかたちですね。新卒で採用して育成していくと。

そうしますと、育成していく流れの中で、ともすれば「この仕事も、この仕事も……」というふうにどんどん仕事を積み上げていって、いつの間にか過剰な労働力の提供を要求してくるということになる恐れがあります。サービス残業はもってのほかですけれども、そういった事態になってしまうという具合ですね。

あるいは、このような状態で本人がほかの会社に移りたいといったときに、「せっかくここまで育てたのになんで辞めるんだ。考え直してくれ」ということで強く慰留する。度を越せば、縛りつけるようなハラスメントまがいのことにつながってしまうこともあるかもしれません。

私どもは「雇用」の上に成り立つ、今までの会社と社員の関係性を根本的に見直そうと考えました。これからは会社が個人を抱え込むのではなくて、会社と個人が雇用とは違う別の契約の下で新しい信頼関係を構築していく。そういったことを模索しようじゃないですかと申し上げたいのでございます。

実際に個人事業主になると、社員時代にいろいろと制約されていたことが軒並み自由になります。主に、時間や場所、仕事の進め方といったことが、ほぼほぼ自分次第になってきます。自由になる半面、今度は働き手にも相応の覚悟が求められるようになります。この覚悟を持ち切ることが自立への第一歩かなと考えています。

経営層・管理職・一般社員から上がった不安の声

そのようなことを考えながら、日本活性化プロジェクトの仕組みづくりを検討しておりました。しかし、まだぜんぜんディテールが決まらない中でもう2016年9月頃になっていたのですね。

制度の開始目標に近づいていましたので、社内で「これからは雇用という形態を脱却して、フリーランスで業務委託契約で仕事を続けてもらう。そういう仕組みをスタートしますよ」と告知したのですね。「ただ、まだディテールは決まっていないので、できれば一緒に考えながらやっていきましょうね」というかたちで説明会を開きました。

そうしましたら、もちろん「非常におもしろそうだ」と興味を示してくださった社員もおりましたけれども、大方の一般の社員からは不安の声が多かったです。

整理しますと、まず「収入や社会保障の面が不安定になるのじゃないの?」といったところです。それからもう1つ、会社員だからもらえるという社会的信用、社会的地位があるといいますかね、「それが低くなっちゃうのではないの?」という心配の声です。

他には、「独立した個人事業主になったら、外部と競争させられて、結局収入ダウンになっちゃうのではないの?」「会社の社会保険から外れるだろうから、怪我とか病気とか将来のことも非常に不安です」「出産や育児ができなくなってしまいませんか?」「最終的には、ある日『契約終了です』と言われて、実質リストラされるのではないですか?」。まぁ、こういったことですね。

あるいは、会社との関係ではないですけれども、「住宅ローンみたいな長期で高額のローンは組めなくなるのではないですか?」、こういった不安が出てまいりました。

これは2016年当時のデータではないのですけれども、本日主催されているランサーズ様の最近の調査結果を見ましても、自由な働き方をしようと思ったときの障壁としてトップに挙げられるのが「収入の不安定さ」になっております。ちょっと後づけなのですけれども、この解決のカギは金額と期間の安定かなと考えております。

話を社内に話を戻しますと、一般社員からは先ほどのような不安の声があったのですが、同時に経営層・管理職からの不安の声も出てまいりました。

社員が独立したら、指示を聞いてくれなくなる?

どういうことかといいますと、「社員が独立したら指示できなくなるのじゃないか?」。あるいは「指示しても言うことを聞いてくれなくなっちゃうのじゃないか?」といったことですね。これが一番多かったです。

それから、「仕事に対して業務委託で報酬を払うのはわかるけれども、この仕事にいくら払えばいいのか? ぜんぜん相場感がわからないよ」と。こういった声もけっこう聞かれました。

もう少し細かく言いますと、「そんなことをしたら組織崩壊するでしょ」「育成や教育ができなくなってしまわない?」と。「ほかの会社の仕事をするようになったら情報漏えいも心配だよね」。「最終的には、ほかの会社に行ってしまって、人材流出になるのではないか?」ということですね。

報酬面の話になりますと、「仕事に対していくら払えばいいのかわからないから、どんどん払ってしまって、外注費がやたら膨らんでしまうのではないか?」とか、逆に「買いたたきみたいなひどい目に遭わせる人も出てきてしまうのではないか?」といった、不安の声がございました。

こういった不安の声も踏まえながら、実際にこの「日本活性化プロジェクト」、社員のフリーランス化をどのように立てつけていけば、少しでも不安解消になるかと検討を進めていきました。この業務委託契約では、とくに社員から個人事業主に移行する初年度の契約の内容をどう決めるか。ここが一番の肝かなと今は考えております。

業務委託契約のベースは、社員時代の業務と報酬

実際、私どもタニタでは、最初の移行初年度の業務委託契約の内容は、その人が社員のときに担当していた職務に基づいて業務内容を決定するようにしております。言われてみれば、これは単純な話だときっと思われるかもしれないのですけれども、ゼロベースでここに行きつくには、けっこう右往左往いたしました。

この社員時代の担当職務に基づいて、もっと言ってしまえば、その仕事をそのまま委託業務内容と定めて、基本業務という呼び方をしております。

仕事の内容が社員時代と基本的に変わりませんから、報酬額はどうやって決定しようかと言いますと、その人が社員時代に受け取っていた給与・賞与がベースになるということです。フリーランス・個人事業主に移行する最初の報酬額の設定は、「社員時代の給与・賞与をベースにしましょう」ということになりました。これを固定額できちんと契約しましょうということにして、我々は「基本報酬」という呼び方をしております。

その上で、この基本業務、あるいは基本報酬の対象に当てはまらないような追加の仕事をしたときには、当然ながら報酬も追加でお支払いいたしますよと。これを「成果報酬」と名づけて運用をすることにいたしました。

例えば私の場合は、社員時代の最後に担当していた職務が、「日本活性化プロジェクト」の企画推進ということですので、これが1つあります。それから社長の諸々の補佐業務があって、ほかにもいくつかとあるわけですけれども、単純にすると、これをそのまま業務委託しますよ、ということにしたのです。

こうすることで、社員がやっていた仕事はその人が個人事業主になっても引き続き担当する状態を作れますので、業務の安定性、ひいては組織の安定性に寄与できるのではないかと考えておるわけです。

報酬も社員時代の給与・賞与がベースと申し上げましたけれども、実際には社会保障費や福利厚生費といったものも込みにして、それをベースに固定の基本報酬を契約いたします。こうすれば、個人事業主に移行した人からみても、収入の安定性が一応は確保されるでしょうと。こういう話でございます。

さらに社員の場合、あるとき突然新しい仕事を上司に振られたとしても、いきなりそれが給料に反映されるわけではなく、同じ給料の中で新しい仕事もこなしていくという話になるのですが、個人事業主として独立して契約ベースで仕事をしますので、契約していない仕事を振られたときは、「これは追加の仕事ですよね」ということで追加の報酬をいただけると。こういう立てつけになるわけです。

その働き手にとって見れば、成果やがんばりが直接的に報われる仕掛けになるというお話です。

契約期間を複数年契約毎年更新にすることで安定性を確保

活性化プロジェクトの契約構成のもう1つの肝は、契約期間をどのようにするかという点でございました。私どもは、複数年契約を毎年更新するかたちで安定性を確保することにいたしました。

このような契約にいたしますと、もしもある時「契約更新しませんよ」ということになっても、残りの契約期間がまだ続いている状態を作り出せますので、安定性確保につながるよと、こういうお話です。

これを図でご説明しますと、例えば初年度に2年間の業務委託契約を締結します。1年経ったところで契約内容の見直し・報酬額の見直しも含めて契約更新をいたします。このときの契約期間もまた2年間です。かぶっている1年は上書き更新いたします。古い1年間はなかったことになります。3年目も同じように、1年経ったところで上書き更新。これを繰り返していきます。

こういうふうにすることで、理由はともかく、ある時に結論として「契約更新しません」ということになったとしても、1年間はまだ既存の契約が残っている状態になります。

こうなりますと、個人事業主側からすれば、「いきなり仕事がなくなって収入が急に激減しちゃいました」という状態を回避することができますし、仕事を発注している会社側も、「その業務をあるとき突然放り出されてしまって、次の引き受け手がいない」といったリスクを回避できるという話になるわけです。

社員が個人事業主になったときの社会保障の組み立て方

次に、社会保障について少しご紹介いたします。「社員だった人が活性化プロジェクトメンバー、個人事業主に移行したときに、社員時代の社会保障が欠けたり足りなくなる」そういうことになるんだろうかという観点でご説明させていただきたいと思います。

まず健康保険と国民年金は、みなさまもよくご存じのように国民皆保険ですから、社員であろうと個人事業主であろうとこれは義務として加入するわけです。ですので、加入先は変わるにしても受け皿としては当然ございます。

大きく違うのは、1つは厚生年金かと思います。個人事業主になりますと、当然ですが、厚生年金にはもう加入できません。ですが、まったく丸腰になってしまうかというとそうでもなくて、国民年金の上乗せできる制度としては、例えば国民年金基金というものを活用することができます。

それから、今の企業様の多くは企業型の確定拠出年金制度を導入されている会社様が多いと思いますけれども、これは金融機関から、個人型の確定拠出年金「iDeCo」というものがたくさん商品化されて出ていますので、そういったものに移行することができますよと。

あとは、タニタも退職するときには退職一時金が支給されます。これに対しては、仕組みとしては退職金の制度ではないのですが、小規模企業共済というものが活用できます。

これは、個人事業主が毎月の掛け金を積み立てておいて、廃業するときに積み立てた掛け金ベースで返戻金が受けられるものなのですが、「仕事を辞めたら受け取れるお金という意味では代替性があるのではないか?」ということで並べて表現しております。

それから怪我や病気に備えるという意味では、社員の場合は、労災保険や傷病手当金といったものがございます。これは対応する民間保険が各種発売されておりますので、それらを利用することができるでしょう。

どちらが良い悪いか、一長一短いろいろございますので、損得の評価は正直できないと思っています。肝心なことは「受け皿がある」と紹介できることです。

タニタでは、この社員時代の社会保障費・福利厚生費として会社が負担していた金額をそのまま報酬のベースに組み入れるようにしております。したがって、報酬に組み入れられた金額をベースに、自分に合った社会保障・保険をチョイスして加入していく。自分と自分の家族用の社会保障の体制を自分で作っていくというお話になります。

仕事に関する支出を経費として計上できる

1点だけ、個人事業主となると弱いところがあると思うのが、出産育児に関する社会保障なのですね。ここはやはり会社員に比べるとまだまだ見劣りするかなと思います。ここはまだ行政も含めて、これからどんどん検討・改善されていく分野かなと思っております。

社会保障については、ちょうど私どもがこの「日本活性化プロジェクト」を始めた2017年に、我々の取り組みとは直接の関係はないところで、フリーランス協会さんという団体も立ち上がりました。

こちらは保険会社さんとタイアップして、フリーランス用の保険と福利厚生のパッケージのメニューもご用意されています。もしご興味があれば「フリーランス協会」で検索していただくといいかなと思います。

こういったように、我々だけではなく、そこかしこで、フリーランスや個人事業主といった、多様な働き方をサポートする体制ができつつあると感じております。

所得構造のお話をもう少しだけさせていただきます。社員のときには給料ということで、会社からは金銭で給与・賞与が支給されます。タニタの場合、他に通勤交通費も支給されて、直接本人に支給はされませんけれども、社会保障費・社会保険料は会社が負担分は出してくれて、確定拠出年金の掛け金も会社が出してくれる。更に退職するときは退職金も出しくれます。

個人事業主として社員が独立するにあたっては、こういった給与・賞与プラス諸費用といった人件費全部をベースにして、基本報酬を設計するようにしております。これにさらに成果報酬ということで、追加の仕事をすればそれに見合った収入が得られるかたちを取っております。

もう1つ、この所得構造の変更とともに重要な要素がございます。仕事に関する支出の取り扱いです。給料の中から、「ある程度仕事に関するような通信デバイスを買いました」と言っても、その費用をいちいち会社に請求するというのはなかなか社員にはできないと思うんです。個人事業主であれば、これを経費として計上することができます。

これはすべてができるという話でもないのですけれども、経費として計上できる支出もありますよね、ということです。あるところまでいきますと、課税所得が社員時代よりも減るケースも出てきます。絶対こうなるという話ではないですけれども、そこそこなるケースもあります。

課税所得が減るといわゆる節税効果が得られますので、家計への負担が減ったり手元現金が結果として増えたりといった効果も期待できるところです。

経費計上がやりたいことを実現するきっかけに

この経費のお話、少しお恥ずかしいのですが、私の場合ですと、経費計上できると思ってから、車を1台追加でリース購入しました。もともと私は社長の補佐業務を受けていますので、社長に同行することが多いのです。社長は基本的には徒歩でで外出するのですけれども、天気が悪いときなどはやはり車で移動させたいなと思っていました。これを提案しようかなと思ったのですけれども、基本徒歩で移動するものですから、タニタには社長車がないのですね。

自分の車で送り迎えしようかなと思ったのですけど、その時の私の車はこのようなポンコツの小型車で、さすがにちょっと社長を送り迎えするのははばかられるなと。経費になるならということで思い切って、ちょっと良さげな大きめな車を1台調達して、今は社長の送迎を含めて、私の移動にフルに使っております。社長からも好評をいただいております。

仕事用なんですけれども、もともと欲しかった車ですから、経費にできるならということで思い切って手に入れることができたということで、私の中では「こういうのってワークライフインテグレーションと言うのかな?」なんて勝手に思っている次第でございます。

申し上げたいのは、経費計上で節税しなさいということではなくて、「経費が使える、経費になるならこういうことをしてみようか。ああいうこともやってみようか」と活性化メンバーが思えるような環境を用意できるのが、この社員のフリーランス化という立てつけならではだと思っている、というお話でございました。

私を含めて2017年の1月から個人事業主に移行したメンバーは全部で8名いたのですが、そのうち7名は同じ税理士法人さんで最終的に確定申告等の面倒を見ていただきました。その税理士法人さんで、社員時代の所得と個人事業主になってからの所得から最終的に税金や社会保険料を差っ引いたあとの手元の現金とで増えたのか減ったのかを分析していただきました。

フリーランス化した社員は軒並み約3割弱の増収

細かい数値は割愛しますけれども、個人ごとに差はありますが、全員軒並み、経済的にはちょっとリッチになったかなというところです。平均で約3割弱の手元現金の増加という効果を得ることができました。

それに対して、会社の持ち出しはどうだったかということでございます。これは、2016年に先ほどのメンバーに対して、会社が支給した給与あるいは負担した費用を100パーセントとしたときに、2017年に同じメンバーに業務委託料で支払った金額がどうだったか。101.4パーセントで、会社の負担は1.4パーセントの増加に留まりました。

1.4パーセントの会社負担増で先ほどの30パーセント弱の各個人の経済効果が得られたということで、会社の負担をミニマムにしながら、活性化メンバーに対して報われた感を最大化するという、かなりいい結果につながったんのではないかと考えております。

時間がだいぶ押してきましたので、少し割愛しながらになるかもしれませんが、1期メンバーが悩んだことを紹介していきます。主に、確定申告や、「保険はどんなのがいいか?」「会社の設備や備品は外部事業者になったけれども使っていいの?」とそういう話でした。

これらを解決するために、我々は「タニタ共栄会」という互助会みたいなものを作ることにしました。このタニタ共栄会は、共栄会自体が契約主体となって契約を結びます。例えば会社と契約をして、会社に対して設備利用料を払います。ですので、この共栄会のメンバーは会社に出入り自由だし、会社の設備を使っていいですよねという契約体制を取りました。

あるいは、税理士法人さんとも契約しまして、このメンバーの確定申告までフルサポートしていただく体制を作りました。共栄会の活動原資は自分たちの拠出する会費で賄うかたちです。ちょっと解決されていない課題などもあるのですが、もしお時間があればのちほどご紹介します。

人生100年時代と、定年のない個人事業主という働き方

もう1つ、移行したメンバーではなくて、会社の管理職側が悩んだことについて紹介します。これは冒頭の不安の声とかなりかぶるのですが、結局のところ、仕事、基本業務を決めたとしても、具体的な1個1個のタスクが、「それって本当に基本業務の中でいいの?」「これは追加の話なの?」というところでけっこう現場では悩むのですね。さらに「追加業務だとして、これっていくらで出せばいいの?」という話が悩ましい。

こちらも一義的な解決策はありませんので、少なくとも情報共有をしていこうよということで、悩みを抱えそうなポジションの人たちに2〜3ヶ月に一度は集まっていただいて、実績のすり合わせも含めてフィードバックをかけ合うような状況になっております。

残された課題については、申し訳ございませんがお時間がないのでいったん飛ばさせていただきます。

「更なる可能性」として、個人事業主になったことで社員と何が変わってくるかということについてお話します。今までご説明した以外にも、いわゆる兼業・副業、タニタ社以外のお仕事も当然可能になります。基本的にタニタ以外の業務をすることは制限できませんので、当然可能ですよと。それをもって収入増につなげていただけるという話です。

ただ、私どもタニタとしては、必ずしもこの日本活性化プロジェクト、フリーランス化というのは兼業・副業のためにやったという意識はございません。むしろ、まずはタニタが仕事をしっかり委託するからそれをきっちりこなしてくださいね、というのが基本のスタンスでございます。

もう1つは、個人事業主には定年がございませんので、長く働ける方は活躍できますよというお話です。人生100年時代ということですよね。

ただ、これも単純に希望すればという話ではなくて、会社に契約更新し続けたいなと思わせる成果を出し続ける、あるいはスキルを保ち続けることが大事です。人が成長し続けることで、本当の意味で充実した人生100年につながっていくんじゃないかなと思っておる次第です。チャンスでもあると。

会社と個人の新たな関係構築で「健康な人生」にアプローチ

活性化プロジェクトの現状を紹介します。2017年に私を含めて8名でスタートしました。翌年には11名が新たに加入しました。この中には社員からの移行ではなく、完全に外部から、最初からこの業務委託契約でタニタの仕事をしたいとおっしゃってくれた方も2人ほど入っています。

逆に1期8名の内1名は、「しばらく完全に独立してタニタ以外の仕事に邁進したい」ということで、一応形式的には契約を解消したという人もおります。連絡はかなり密にとっています。

3年目の今年はまた社員から8名ほどが加入しまして、現在は26名に至っております。今後、動きとしては増えることはあっても、当面は減ることはないかなと期待しておるところでございます。

フリーランス人口の推移をご参考までに紹介します。こちらのスライドもランサーズ様の調査からの引用となりますけれども、日本においてもフリーランスで働く方の人口は急増中ということでございます。

次に、日本人の人口構成について話をしますと、もう申し上げるまでもなく、人口減少、それから高齢化となります。

こういった環境の中で、雇用関係だけじゃない、新しい関係性で会社と個人が仕事をしていく。これを模索することは当然の成り行きかなと思っていますし、ますます活発に検討、議論できるといいかなと思っております。

「日本をもっと健康に!」と、タニタでは、狭義の「健康」にとらわれず、幅広い意味で日本を健康にすることを目指して取り組みを続けています。2019年には、今年はおかげさまで「健康経営優良法人」の認定をいただいております。この働き方改革「日本活性化プロジェクト」も、我々としても健康な人生へのアプローチの1つという位置づけで取り組んでおります。これからも取り組んでいこうと考えております。

ということで、非常に駆け足になってしまいましたけれども、私からのご説明とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)

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