2024.10.01
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国内外のアスリートのカミングアウト事情 スポーツとセクシャルマイノリティ(全1記事)
提供:渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>
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司会者:本日はアイリス講座『渋谷からガラスの壁を壊そう! スポーツとジェンダーの平等』にご参加いただきありがとうございます。アイリス講座は男女平等および多様性社会推進のための課題をテーマとし、広くみなさまに知っていただき、共に学ぶ授業となっております。
あわせて区の取り組みや施策を区民の方に知ってもらう機会でもあります。今回の講座は2日間で午前・午後と4つのパートに分け、スポーツを中心にさまざまな切り口からジェンダーの平等を考える構成になっております。
これから午後の部はパート2として『国内外のアスリートのカミングアウト事情』と題して、最初にLGBTのオリンピアンなどを例に野口亜弥さんからご説明をいただき、そのあと下山田志帆さんにご登壇いただき、お2人でトークという流れになります。
それではさっそく野口さんにマイクをお渡ししてお話しいただきます。よろしくお願いいたします。
野口亜弥氏:こんにちは。野口亜弥と申します。今は順天堂大学のスポーツ健康科学部スポーツマネジメント学科というところで助手をしています。
順天堂大学は女性スポーツ研究センターという、日本では唯一、世界でも幣センターを合わせて2つしかない、女性やジェンダーとスポーツについて研究をしているセンターを持っています。私はそこで研究員もさせていただいております。
今日は女性がメインの話ではありませんが、LGBT等のセクシュアルマイノリティの当事者のみなさまの状況について(お話ししたいと思います)。LGBTと言いましても、スポーツの中でレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、それぞれ一括りではなく、いろいろな課題を持っています。それも含めて30分ちょっとお話させていただいて、下山田さんとのトークに移りたいと思います。
私と下山田さんは高校の先輩後輩で、だいぶ歳が離れているんですけど、中学校のチームも一緒でいろいろと接点があります。気さくな感じでいろいろおしゃべりできるかなと思っています。
簡単に私の紹介をさせていただきますと、大学を卒業してアメリカに4年間留学をしていました。ずっとサッカーをしていました。アメリカ留学の後、スウェーデンで少しだけプロサッカー選手をしました。これは自分でシュートを決めたときの写真で、唯一決めた写真がこれしかないので、よく使っています。自分はみんなに埋もれて見えないのですが(笑)。
スウェーデンでサッカー選手を引退した後はアフリカのザンビアに行き、開発途上国の女性や女の子が抱えている課題を、スポーツを手段として取り組んでいこうと活動しているNGOがあったので、そこで6ヶ月間インターンをしていました。そして、日本に帰ってきて、ちょうどスポーツ庁ができたタイミングの2015年10月から2年半国際課に勤めて、もう少しスポーツと国際開発の分野の研究と実践をやっていきたいなと思い、今順天堂大学に勤めています。
これはアフリカの子どもたちにサッカーを教えているときに撮ったんですけど、よくみんなに「どこにいるのかわからない」と言われるくらい私は色が黒かったです。そんな写真です。
今日はスポーツとセクシュアルマイノリティということで、なぜスポーツ界においてセクシュアルマイノリティの方々が自由にアクセスできる状況が限られているのかという背景を少しご説明したあとに、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー当事者がそれぞれがスポーツ界で抱える問題についてお話しします。
日本ではあまり多くの研究がなされていない状況ですが、海外では日本よりもスポーツとLGBTのテーマの研究が進んでいます。アスリートがカミングアウトする状況や、現在のスポーツ界の取り組みについても話していきたいと思います。
最初に日本のスポーツ界におけるLGBTの現状ですが、日本スポーツ協会という日本全国のスポーツ指導者の育成やスポーツ少年団を統括している団体があります。とても大きい団体です。そこの専門委員会が、スポーツ指導に必要なLGBTの人々への配慮に関する研究調査を1万492名の指導者に対して実施しました。
(スライドを差して)この27.7パーセント、76.8パーセントという数字は何の数字だかわかりますか? まず上の27.7%は「あなたの身の回りにLGBTの当事者はいますか?」と指導者に聞いたときに、「現在います」「以前いました」と回答した指導者のパーセンテージです。そうすると1万人以上の指導者のうち、27.7パーセントの指導者が、自分たちの周りにLGBTの当事者の子どもたち、選手がいます、と答えています。
76.8パーセントは「あなたは指導者として今後LGBTについて知る必要性はどれくらいあると感じていますか?」という質問に、「とても感じる」「多少感じる」と回答した指導者の比率です。76パーセント以上の指導者がLGBTについて知る必要があると回答しています。
現状日本のスポーツ界において、このようなLGBTに関する研修や、中でもスポーツの特徴を考慮した研修はあまり行われていません。当事者が存在しているのはわかっているし、知識も得る必要があると思っているが、学ぶ場がないのが日本の今の現状ではないでしょうか。
こちらは日本国内でカミングアウトしているアスリート、元アスリートの方々です。3人しかいないんです。全員女性……(右の写真のほうを指して)彼はFtM、Female to Maleなので男性ですけど、生まれたときの性別は女性ですね。
滝沢ななえさんは、元女子バレーボール選手です。滝沢ななえさんは、まったくカミングアウトする予定ではなかったテレビ番組の出演時に、女性とお付き合いしていることに触れたら、それがフォーカスされ、テレビを通じてオープンにカミングアウトするかたちになったそうです。
2人目は女子サッカーの下山田さん。あとでゆっくり話を聞きたいと思います。
3人目の真道ゴーさんは、女子のボクシングの世界チャンピオンやフライ級王者になられました。真道選手は、引退記者会見の際に、次は男子プロボクサーとして再びリングに立ちたいということをお話になられたそうで、話題となりました。
このように、まだまだ日本でオープンにカミングアウトしているアスリートは少ないですし、男性がカミングアウトすることのハードルの高さも感じています。
少し時代は遡りますが、サッカーやバレーボール、バスケットボールなどのオリンピックでみなさんが見るようなスポーツは、近代スポーツと呼ばれています。
では近代スポーツのような組織的なスポーツはどのようにして始まったのか話していきます。19世紀イギリスにおいて国家の次のリーダーを育てましょうとなりました。そのためには体をしっかり鍛えていて、自立していて、戦える。そういうリーダーを次のリーダーとして育てなきゃいけない。
サッカーやラグビーといったスポーツが、次のリーダーを育てるために向いているんじゃないかということで、イギリスのエリート層が通うようなパブリックスクールで、スポーツが導入されたのが最初だと言われています。
そのときのイギリスは男性社会だったため、リーダーになれるのは男性なんですね。そのため、男性の中でスポーツがどんどん導入されていきました。
スポーツで剛健さ、逞しさ、統率力を養い、いわゆる「男らしさ」を獲得していきます。そして異性愛は男性らしさを表現するうえで、とても重要なことです。このような要素を持ったスポーツが男性の中に広がっていきました。
オリンピックの父と呼ばれているクーベルタンは、女性のスポーツ参画には反対でした。そのため、第1回近代オリンピックでは女性の参加はありませんでした。イギリスでは50年間も女性はサッカーをすることを禁止されていたという歴史もあります。このようにそもそも女性がスポーツすることに対して、社会的に大きな障壁がある時代がありました。
そのため男性と女性に分けたうち、女性たちは「私たちもやりたい」「入れてくれ」と男性がもともと占拠している中に参画していくように歴史が動いていきます。男性がやっているところに女性が入っていくんだということで、女性のスポーツ参画のムーブメントともに、「男」か「女」のカテゴリーの強調も強くなっていきました。
またスポーツ競技大会では、男子100メートル、女子100メートルのように明確に男女で分けているので、見た目にも性別二元論が大変強調されてしまいます。そんな中で、セクシュアルマイノリティの存在や、性別二元論の中でははまらない、収まらない個性を持った人たちがどんどんとスポーツの中で隠されていってしまいました。
女性がスポーツに参画することも大変でしたが、それによって、セクシュアルマイノリティの当事者はもっともっと隠されてきてしまったということです。
日本も少しずつ、渋谷区さんがやってくれているようなこういう活動で変わってきていますが、スポーツ界において、LGBT当事者の方々はどのような課題を抱えているのでしょうか。日本のデータが少ないので、海外のデータをみなさんに紹介します。
とても簡単に表現してしまうと、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの方々は、ホモフォビアとの戦いをずっとしています。「ホモ」は同性愛という意味を含みます「フォビア」は嫌悪という意味です。同性愛嫌悪者、同性愛者をすごく嫌う人たちと戦わなければいけませんでした。
アメリカの大学生397人を対象にした調査において、3分の1の学生が同性愛アスリートを拒絶し、攻撃を与えるだろうという回答をしています。このデータからわかるように、スポーツ界で同性愛者であることや自分らしさを表現することは、すごく危険な状態でもあるということです。
トランスジェンダーの方々。トランスフォビアという言葉もあるので、トランスジェンダーを嫌う人たちもいますが、どちらと言えば制度の問題に苦しんできました。男性なのか女性なのか、そこで分かれてしまうスポーツだからこそ、どうやってスポーツに参加したらいいのか、どうやって男性と女性を区別したらいいのか。そういう制度的な問題に苦しんでいる状態があります。
まずはレズビアンとスポーツということで、FIFA女子ワールドカップで大活躍したメーガン・ラピーノ選手は、レズビアンアスリートの象徴のようなかたちで、今すごくメディアにも出ています。もう1人有名なのは、ブリトニー・グリナー選手と言って、WNBA(Women National Basketball Association:女子プロバスケットボールリーグ)のプロ選手ですね。彼女は同性のパートナーと結婚もしています。
一般的にスポーツの中で、メディアなどが取り出したい女性らしさというのは、美しくて、かわいくて、セクシー。ボーイッシュな女性よりも女性らしい女性。例えばフィギュアスケートでいうと、浅田選手のことを「真央ちゃん」とちゃんを付けて呼んだり。どうしても多くの人は女の子らしさに注目してしまいますし、メディアもそのような取り上げ方をします。
その中で、強くて筋肉質でアグレッシブでボーイッシュな女性は、レズビアンだと疑われる傾向にあります。別にボーイッシュな女性が異性愛者でもいいですし、もちろんそういう状況もあるんですけど。メーガン・ラピーノ選手みたいにボーイッシュな格好をすると「あ、あの人レズビアンだ」と自動的に思われてしまうことがリスクと感じる方もいるようです。
フェミニンなレズビアンは、ボーイッシュなレズビアンよりもパフォーマンスが劣っているとみられてしまうこともあります。そもそも男性と女性のスポーツを見たときに男性優位なスポーツ界において、女性のほうが能力が劣っていると見られがちなんですね。ステレオタイプです。女性の中でもボーイッシュな人とフェミニンな人だったらフェミニンな人のほうが能力が劣っていると見られてしまうのは、スポーツの男性優位主義からくるバイアスです。
また、特徴的に男らしさが強い競技スポーツのチームにレズビアンアスリートが多いと言われています。サッカーやラグビー、バスケットボール、どっちかというと男性が活躍しているイメージが浮かぶようなスポーツは、レズビアンアスリートが多いです。
日本ではオープンにしている方はほとんどいませんが、海外では女性の指導者が「自分はレズビアンです」「バイセクシュアルです」とオープンしていることもあります。
大学の指導者がレズビアンを公表していると、選手の保護者が「自分の子どもがコーチとなにかあったら嫌だ」と選手をチームに入れないこもあります。そのような困難があるので、アスリートであるときよりも指導者のほうがオープンにして働くことは難しい部分もあります。
次に、ゲイとスポーツということで、異性愛は男らしさを表現する要素。先ほどもイギリスの話でしましたけれども、異性愛は男らしさの1つの要素とみられてきました。
みなさんも学校などを思い出していただくとわかると思うのですが、体育の授業で活躍する男の子はみんなにモテるし、人気者だったりします。男性は、スポーツを通じて男らしさを獲得していく。学校内での序列は、男子の方が体育の授業の中で作られやすい状況になっています。
男性性の強いスポーツほどホモフォビアな会話となることもわかっています。例えばラグビーやサッカーは、ロッカールームで恋愛の話になるときに、少しでも同性愛的な発言や男らしくない行動をとると、「お前ホモかよ~」といった会話になってしまいます。
どちらかと言ったらマッチョな、男性性の強いスポーツであればあるほど、そのような会話になりやすくて。もちろんその中には同性愛の選手もいますので、選手や子供たちは大変傷つきます。
ただ一方で、ダイビングとかフィギュアスケートといった男性性がそれほど表現されないスポーツの中では、セクシュアリティをカミングアウトしているゲイ選手が多いんです。男らしさをあまり強調しない、どちらかといったら美しさなどを競うスポーツは、カミングアウトしたとしても、「男らしさ」があまり傷つかない環境であると捉えられています。
今は少し時代が変わってきていますが、「昔はゲイ=HIV/エイズの感染者」というようなイメージがありました。昔、アメリカの男子プロバスケットボールが、HIVウイルスの感染者だったと公表したら、「そうであるならば、その選手はゲイである」と噂が回ってしまいました。しかしながらその選手は異性愛者で女性のパートナーもいました。まったく「ゲイ=HIV/エイズ感染者」ではないんですけど、そういうかたちで間違った情報が拡散されてしまうこともあります。
さらに、女性に比べて男性のゲイのコーチは、オープンにしている指導者があまり多くいません。それだけスポーツ界のマネジメントやリーダーシップの部分ではアスリートであるときよりも、マッチョで男性性の強い社会だったりするので、なかなかオープンにすることが難しいところがあります。
(スライドを差して)これはジェイソン・コリンズ選手で、アメリカの男子プロバスケットボールの選手です。バスケ、ホッケー、アメフト、野球というのはアメリカの男の子に人気の4大スポーツなんですね。4大リーグとも言われています。
4大リーグで初めてゲイだとカミングアウトした方がジェイソン・コリンズ選手で、かなりインパクトがありました。ロビー・ロジャース選手はアメリカのMLSと言って、メジャーリーグサッカーのサッカー選手で、初めてアメリカでゲイであることをカミングアウトしたMLSのサッカー選手です。
次に、バイセクシュアルとスポーツについて話します。バイセクシュアルは両性恋愛対象になる人ですが、実はセクシュアルマイノリティの中で一番多いと言われています。ただメディアが取り上げるのは(女性が)女性と付き合っていたらレズビアンという表現の仕方をするし、男性が男性と付き合っていたらゲイという表現をするので、もしかしたらバイセクシュアルの方であっても、そのときたまたま女性/男性と付き合っているのかもしれませんが、レズビアン/ゲイと言われているかもしれません。そのためなかなか可視化されないのですが、実は一番多いと言われているのがバイセクシュアルです。
スライドにはっきりしないセクシュアルティは理解されづらいと書きました。例えば女性が「バイセクシュアルです」と言うと、「レズビアンになるかどうかを確認してるの?」という感じで誤解されてしまうことがあります。「中途半端だね」と思われてしまうこともあります。「You are not enough to compete in a gay league(あなたはゲイリーグで戦う上で十分にゲイじゃない)」みたいないわれ方をすることもあります。
日本は大きく取り上げられていませんが、例えばイギリスなどではゲイのラグビーチームがあったりします。バイセクシュアルの人がチームに入ろうとすると、「あなたは十分にゲイじゃないから入れない」と言われることがあるようです。
そもそもセクシュアルマイノリティであることで生きづらさを抱えている中で、セクシュアルマイノリティのコミュニティの中でも差別されてしまうのが、バイセクシュアルの特徴です。なので、ゲイやレズビアンの方々よりも150パーセントも自殺率が高いという研究結果も出ています。
彼はトム・デイリー選手と言って、イングランドの男子飛び込みの代表選手です。メディアのプロデューサーをしている同性のパートナーとお付き合いしているのですが、彼は「自分はバイセクシュアルで、男性と付き合っている」というカミングアウトをした方で有名です。
IOCなどが同性愛者に対してどういう対応をしているのかというと、ソチオリンピック開催の際に、ロシアが同性愛宣伝禁止法を発表し、同性愛者の選手は公の場で同性愛がわかるような行動をとってはいけませんという法律を定めました
ロシアがそのような法律を制定していまい、IOCとしては、差別はしないと謳っていながら、スポーツが政治に介入することはできませんので、なにもできませんでした。
それで、アメリカやフランス、オランダ、ドイツなど、セクシュアルマイノリティの方への配慮が進んでいる国々は開会式をボイコットしたりしました。そして、ソチオリンピックが終わった直後にオリンピック憲章の根本原則に性的指向という文字が入りました。オリンピック憲章は、それまでは「性別」の差別は記載されていましたが、「性的指向」によるという文言が加えられたのがソチオリンピックの関連で有名な話です。
続いてトランスジェンダーとスポーツです。先ほど制度に苦しめられているという話をしましたが、トランスジェンダーのアスリートは、スポーツの機会を奪われてしまうことが大きな問題です。
トランス女性、男性から女性になった方は、手術してしまうともう男性ホルモンがどんどんなくなってしまうわけですから、手術前のように、逞しくはいられないわけですね。なので、手術をした後に男子のカテゴリーでプレーすることは現実的には難しいです。
では女子のカテゴリーでやれるか? というと、今までずっと自分の体で男性ホルモンを作っていたので、女性よりも体は逞しいんです。そういうときにクレームや批判とかの対象になってしまい、スポーツする場を奪われてしまいます。
逆のパターンのトランス男性、女性から男性になる場合。もし現役選手のうちに、男性になりたくて男性ホルモンを投与したら、その時点でドーピングになってしまうので、それはできません。
男性ホルモンを打ち、男性カテゴリーに出たとしても、生まれながらの男性ほど強くなれないし、ドーピングしてしまったらもう女子の中でもプレーができなくなってしまいます。
また、宗教上、男性と女性の接触が好まれない国もあるので、こういう文化のところはより難しいです。このハンナ・マウンシー選手はMtF、Male to Female、男性から女性に変わったハンドボールの選手です。オーストラリアの選手でアジア大会に出ていました。
イランチームと試合の際は、イランでは宗教上、女性は男性の前で肌を出しちゃいけなかったりします。マウンシー選手との試合は、男性と接触をしているという捉え方もされてしまいます。彼女自身のことを考えると、スポーツができることを保証する必要が間違いなくありますが、宗教上の問題でクレームが上がったり、平等性のところを疑問視する方々がいるのも事実なので、難しい問題です。
このノン・ローズ選手はタイのムエタイ選手です。これはおもしろい例だなと思うんですが、もともと男性から女性になった方で、そのまま男性リーグでプレーしています。男性と一緒にプレーをしているという状況で、非常に新しいなと思っています。彼女の日常の服装は、もっとフェミニンな格好をしています。
あとはロッカールームの課題もあります。トランス女性は、女性と同じ更衣室を使うのを嫌がられたりします。また、まだ手術していなかったり、男性ホルモン投与をしていないトランス男性は、体は女性なので男性更衣室では着替えがしにくいですし、かといって女性更衣室で着替えることも申し訳なく思い、自分から避けていくことがあります。
じゃあ個室の更衣室を設ければ解決なのか? というと、特にチームスポーツは更衣室でさまざまな話がなされてチームワークを高めていく場でもありますので、その場にいられないことは、孤独感やチームの一体感が得られないという別の課題が生じてきます。
一応、IOCでは2015年に規定を作りました。テストステロンという男性ホルモンの1つの値にフォーカスして、そのホルモン値が基準よりも下がっていたら(その他の条件もありますが)、トランス女性の方は女性のカテゴリーでプレーできます。トランス男性の方が、男性のカテゴリーでプレーすることに特に基準は設けられていません。
だた、これもいろいろあって、テストステロン値だけで男女を分けていいのか?ということです。なぜテストステロン値なのかというところは、基準としては明確にはエビデンスがない状態です。一応テストステロン値とはなっていますけど、課題はたくさんあります。
性別判定基準の歴史はこれまでいろいろな方法がとられてきました。「あなたは女性ですか?」「あなたは男性ですか?」というのを何で決めますかという歴史です。最初は女性の性器を目で見て「あなたは女性ですね」「あなたは男性ですね」と分けていました。
それはあまりにも非人道的だという話になり、染色体で判断することになり、遺伝子の採取の仕方も時代とともに変わっていきました。女性だけに性別検査することがそもそも差別ではないかとなり、2000年のシドニーオリンピックのときに、女子選手全員に性別検査をすることは廃止になりました。いろんな歴史があり、今は一応高アンドロゲン症検査ということで、テストステロン値を基準にしましょうということになっています。
今まで女性だと思ってプレーしてきた人が検査したら、「テストステロン値が高いからあなたは女性のカテゴリーにははいれません」「XY染色体を有していたから、あなたは男性です」とか言われるのです。これまで女性だと思って生きてきたアスリートが急に「あなたは男性です」と言われてしまうのです。アスリートの人生を壊してしまいます。そもそも男性と女性の線引きは非常に難しいし、そんなにきっちり分けることなんてできないことだし、男女に分けること自体がいいのかどうかも疑問視されているのが現実です。
今すごく問題になっているのが、キャスター・セメンヤ選手です。南アフリカの800メートルの選手です。彼女は男女を分ける基準となっているテストステロン値が一般の女性と比べると非常に高い高アンドロゲン症を持つアスリートです。
セメンヤ選手が女性カテゴリーで出ることに関して、国際陸上連盟と彼女自身がCAS(スポーツ仲裁裁判所)で争っています。彼女はこれまでも、今でも、ずっとこの争いの真ん中にいる選手です。ある大会では出場が認められたり、またある大会では出場権が与えられなかったり。彼女は常に女性なのか男性なのかという議論の先頭に立たされてしまっている選手です。
また、両方の性の特徴を持っているアスリートもいます。そういう選手がスポーツの中ではどっちのカテゴリーで戦ったらいいのか決められない状況が続いています。セメンヤ選手は両性具有なのではないかと疑われて検査もしています。結果は公式に公表されていません。
本日はアスリートのカミングアウトということがテーマなので、アスリートのカミングアウトについて触れます。2016年リオ大会、2018年平昌大会では、冬季も夏季も過去最多にカミングアウトしているアスリートが出場したオリンピックでした。アスリートとして、自分らしくありたい、誠実でありたい、チームの仲間に自分という存在を認めてもらいたい。隠すことのストレスなどの理由からカミングアウトをしたいと思う選手が多いです。
先ほど出てきたトム・デイリー選手は、YouTubeのご自身のチャンネルの中で「僕は今男性を愛しています」ということを投稿してカミングアウトしました。その他のカミングアウトの方法としては、プレスカンファレンスでの発表やSNSでの発信、チームのポートフォリオにさりげなく記載。そういうかたちでオープンにしている選手が多いです。
ただ(カミングアウト)すればいいのかと言えばそういうわけではない。イアン・ソープ選手はオーストラリア代表の水泳選手でしたが、非常に苦しんでいました。彼はずっと北島康介選手と戦っていた選手なので、記憶に残っている方も多いと思います。
ずっと自分がゲイだということは彼自身は認識していましたが、国の代表として大きな期待をされている中で、自分がゲイだなんて言っていいのかと苦しんで、うつ病になってしまいました。2012年くらいにようやくカミングアウトできるようになって、今はオープンにして活動しています。
メディアにあることないこといろいろ書かれしまうのではないか、スポンサー契約が継続できなくなってしまうのではないか、チームメイトとの関係が崩れてしまうのではないか。いろんな理由でカミングアウトするのは、とてもリスクがあることです。当事者を受け入れる環境を、どうやって作ったらいいのかを考えなければいけません。
海外では、セクシュアルマイノリティ当事者への配慮に関するガイドラインを作ったり、パレードにスポーツチームが参加したり、プライドマッチとして特定の試合をプロモーションをしたりしています。これはボストンレッドソックスの試合です。レッドソックスのロゴをレインボーにしています。
これはスウェーデンのアイスホッケーリーグの審判がLGBT当事者に差別をしないという意思をワッペンをつける形で示している例です。
2019年FIFA女子ワールドカップでは、冒頭でお話したメーガン・ラピーノ選手がとても活躍しました。今回のワールドカップは少なくとも41人のオープンなレズビアンアスリートが参加したと言われている大会です。
アメリカ代表チームの共同キャプテンであるラピーノ選手は、LGBTに対して差別的な発言を続けているトランプ大統領に「優勝したらホワイトハウスになんて行かないよ」とメディア出演の際に発言をして、トランプ大統領がツイッター上で「そもそも優勝してからそんなこと言え」というやり取りをして、話題になりました。
アメリカのメディアや個人は、このやり取りの風刺画をたくさん作って盛り上がっていました。
これはデンマーク代表のパニラ・ハダー選手とマグダ・エリクソン選手カップルです。私がスウェーデンでプレーをしていたときに2人とは同じチームメイトだったのですが、2人はそのときから付き合っていて、お互い自分の国の代表としてプレーしていました。
スウェーデン代表のマグダ選手を応援に来たデンマーク代表のパニラ選手が試合後にキスをしている写真がSNSで大きく拡散しました。そのあと彼女たちは自分の給与の1パーセントを社会課題の解決のために充てる「コモンゴールズ」という団体に参画し、LGBTアスリートや若者へのロールモデルになれるよう、2人で活動していくことを発表しています。
この前のFIFA女子ワールドカップはそういった角度から見ると、すごくLGBTのことに対して話題があった大会でした。
スポーツに関わるすべての当事者が安心して安全に自分らしくいられるために、ラグビーワールドカップも9月末に始まりますし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてどんなアクションが必要なのか、考えていかなきゃいけないと思っています。
ここで一旦終わりにしたいと思います。ありがとうございます。
(会場拍手)
渋谷男女平等・ダイバーシティセンター<アイリス>
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