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AI活用の挑戦!試行錯誤から得た貴重な気づき - kintoneで考える、生成AIがビジネスでワークしない理由 -(全2記事)

「売上をスケールする」AIの使い道とは アルペンが挑む、kintone×生成AIの接客データ活用法

提供:サイボウズ株式会社

生成AIのビジネスシーンへの利活用があらゆる企業で模索されている現代。スポーツ用品販売大手の株式会社アルペンでも、生成AI導入をめぐって試行錯誤が重ねられています。2024年11月に開催された「Cybozu Days 2024」では、アルペンがkintoneを活用し、どう生成AIをビジネスに応用したのかがシェアされました。ベテラン販売員のノウハウと接客データをどう販売に結びつけたのか。その狙いや、それまでに経験した失敗例などを語りました。

生成AIを組み合わせたkintone活用事例

小島雄一朗氏(以下、小島):いよいよ2日間にわたるCybozu Daysが始まりましたが、プロダクトキーノートが終わりブースもオープンしております。みなさま楽しんでいただいておりますでしょうか。

こちらのセッションでは「AI活用の挑戦! 試行錯誤から得た貴重な気づき」というタイトルで、みなさまも気になっておられる、生成AIを組み合わせたkintoneの活用事例についてお話しをしてまいります。

今回のCybozu Daysでも、非常に多くのセッションやブースで生成AIの話題が取り上げられています。こちらのセッションでも、特に大量の企業のデータを抱えている中で、どういうふうにAIを組み合わせていくと効果的な使い方ができるのか。

そういったところにお悩みのみなさまや、もうすでに取り組みを始めていて課題に当たっているみなさまに、アルペンさまをお迎えしまして、現在進行中の挑戦を通じてポイントをお伝えしていきたいと思っています。

それではゲストをお迎えいたしましょう。株式会社アルペンより、蒲山さまです。お願いいたします。

栗山圭太氏(以下、栗山):よろしくお願いします。一応我々の関係はベンダーとお客さまですけど……どうぞお座りください。ちらっと見えましたけど、実は蒲山さんにも「きとみちゃん」靴下を履いて登場いただいています。

小島:すばらしいです、ありがとうございます。それではこちらのセッションは、今スライドに出ていますが、こちらの4名でお送りしていきます。まず最初に自己紹介から進めていきたいと思います。アルペン・蒲山さま、よろしくお願いいたします。

アルペンの情シスでDXや内製化を推進

蒲山雅文氏(以下、蒲山):ご紹介にあずかりました、アルペンで情報システム部の責任者をしています、蒲山と申します。私はシステムエンジニアとコンサルタントを経て、2019年にアルペンに入社しました。

そこから店舗出身者が95パーセントを占める情報システム部を率いながら、全社のDXや内製化を推進しています。本日はよろしくお願いいたします。

小島:よろしくお願いします。では続いて、サイボウズより2名登壇しています。栗山さん、お願いします。

栗山:あらためまして、栗山と申します。私はサイボウズの中で事業戦略室という部署とマーケティング本部、この2つを担当しています。このCybozu Daysを企画しているマーケティング本部の責任者になります。

グローバル事業も所管をしていまして、アメリカ・中国・アジアに我々のグループ会社がありますけれども、そこでもkintoneを発売していますので、日々そこで営業活動などを行っています。よろしくお願いします。

小島:よろしくお願いします。ではもう1人サイボウズより、AI好き社員・中澤さん、お願いします。

中澤洋之氏(以下、中澤):サイボウズの中澤と申します。よろしくお願いいたします。私は2001年にサイボウズに入社しまして、当初は飛び込み営業をやっていました。

その後、サイボウズを1回辞めまして、翌年すぐに「やっぱりサイボウズがいい」と2012年にサイボウズに復職しまして、今は営業としてkintoneのご提案を進める活動をしています。よろしくお願いいたします。

小島:よろしくお願いします。そして最後に私が全体の進行を務めさせていただきます、サイボウズのエンタープライズ営業部の小島と申します。よろしくお願いします。今日はアルペンさまの本社がある名古屋から来ています。

アルペン情シス部門は店舗出身者が大半

小島:では最初に、言わずと知れた企業でございますが、アルペンさまから企業紹介をお願いいたします。

蒲山:少しだけ宣伝をさせていただきます。もともと三角形の看板がシンボルだった、スポーツアルペンに端を発した企業でございます。

昨今ではスポーツデポ、ゴルフ5、アルペンアウトドアーズといった3つの業態を主軸に「スポーツをもっと身近に」をパーパスに掲げまして、日本全国にスポーツ用品店を展開しています。

昨今は新宿東口に作りましたAlpen TOKYOというお店を皮切りに、福岡のキャナルシティの中にAlpen FUKUOKAを作りました。最近ですと、名古屋のナディアパークというビルにAlpen NAGOYAという旗艦店をオープンしています。みなさまお近くにお立ち寄りの際には、ぜひ足を運んでいただければと思います。

小島:ありがとうございます。サイボウズの名古屋オフィスからもAlpen NAGOYAがばっちり見えています。では本題のAIの話に入っていく前に、アルペンさまとkintoneの軌跡を簡単に、3分ほどで振り返っていきたいと思います。栗山さん、よろしいですか?

栗山:はい。アルペンさん、実はこのCybozu Daysでも私、蒲山さんと一度対談でいろいろなご紹介をさせていただきました。

一番すごいなと思ったのは、やはり情報システム部員の方がみなさん店舗出身の方で占められていることです。その中でDXを進めていく方法をすごいと思った記憶があるんですね。

これらのシステムが……例えばゴルフ5のプレステージの顧客管理システムや中古品の買取りシステムなどがすべて内製で、そういう(店舗出身の)方々が作られたそうです。このスピード感と人の活かし方がすごいなと思いました。

なぜkintoneを選んで、人材の育成も含めてどういうことを考えておられたのかを、もう一度だけお聞かせいただきたいなと思います。

アルペンはなぜkintoneを導入したのか?

蒲山:当時はおおよそ情報を活用する仕組みの内製化が終わったタイミングで、そろそろ店舗にも内製化を入れていこうと考えました。

世の中に数あるいくつかのローコードツールを見た結果、アルペンの情報システム部のITリテラシー・技術力的に、一番はまりそうなのはkintoneだろうという判断で、kintoneの導入に至りました。

当社の人材モデル的に、全新入社員は必ず店舗に配属されて、そこで2年から5年、長い人で10年ぐらい店舗で経験を積んだ方たちが本社に配転されてきて、情報システム部に入ります。

ですので、あまり小難しい仕組みを入れていくよりもなるべくシンプルな仕組みをもって、自分が培ってきた現場の経験を、自分が新たに学んだツールと一緒に抱き合わせることによって新しい価値を生めたらいいなと考えまして、kintoneを採用し、これまでどおりやってきています。

栗山:私、アルペン東京のプレオープンの時にご招待いただいて、一番地下から最上階まで案内してもらったんですよね。

その時に、各フロアで使っているシステムを全部プレゼンテーションしてもらったんですけど、作った人が自分の作ったkintoneのアプリをプレゼンテーションします。プレゼンしているみなさんが、とても楽しそうだったんです。

緊張されていたと思うんですよ。だって、メーカーの役員に対してプレゼンしないといけないので。でも「これは自分が作ったんです」「これぐらいの時間で作りました。こんな仕組みで作っています」と、すごく楽しそうにプレゼンテーションされていました。

僕は「これは蒲山さんの教育の一環でやっているんだろうな」と思いながら見ていましたけど、あれはそんな気持ちでやられたんですか?(笑)。

蒲山:もともとスポーツ用品、特にランニングシューズやサッカーのスパイクなど、安くないものをお客さまに売ることを生業にしている若者たちがたくさん来ていますので、自分が話したいことさえ作れれば、勝手にプレゼンテーションはできるんだろうなと思ったんですね。

そうした時に、やはり自分が所属していた店舗の仲間たちの業務効率を、自分が設計して自分が作った仕組みで変えていける喜びを1回味わってしまうと、なかなかやめられないものがあるそうですね。

栗山:あの笑顔はそれだったんですよね。

蒲山:そうですね。なのでふだんから私が営業マン的に、いろいろな部署を回って案件を掘り起こすんですが、その時に各スタッフの中で食べやすいサイズにまで案件を切り刻んで、噛み砕いてから渡すようにしています。あとは、なるべくスタッフで自走して作っていけるようにさばいています。

生成AIを活用した実証実験を進める

栗山:ここがやはり、本当にDXを進めていく上ですごいヒントがあるなと思っているんですが……本題ではないので次に行きましょうか。

小島:そうなんです、次に行きましょう(笑)。アルペンさまのここまでのお取り組みは事例ページ等で特集もされていますので、気になる方はぜひ見ていただければと思います。

それでは本題に進んでまいりたいと思います。アルペンさまでは生成AIを活用した実証実験を進めていますが、ビジネス上の課題は何が起きていたのかからいきたいと思います。蒲山さま、お願いいたします。

蒲山:はい。当社の主力の業態の中の1つに、ゴルフ5という業態があります。50代中盤以降のお客さまが主力になってきますので、接客するスタッフもおのずと年齢が比較的高くなります。このベテランスタッフによる専門的なフィッティング、ゴルフクラブの提案が売りで大きくなっている業態ではあります。

一方でどうしてもこの業態は、お客さまの特性的にもスタッフの特性的にも、データを重視するというよりは自分が培ってきた勘と経験と、お客さまとのコミュニケーションをベースに進めてきている。そういうことが強みであり、弱みであります。

そうした中で昨今、取り扱いするメーカーが増えアイテムが増え、または新品以外にも中古クラブを強化するようになりました。

中古クラブは1つの物ごとに状態が違いますので、今自分のお店にどれだけの新品クラブ、どれだけの中古クラブがあるのかをすべて把握した上で、本来は理想の接客がしたい。けれどもデータを扱うことに対して、あまり親和性の高くないスタッフたちが中心ですので、ここをどうしたものかなと。

接客に生成AIを活かそうと思った理由

蒲山:そうしている時に、当社の中でも「生成AIを何かビジネスに使えないか」という課題提起が上がります。

世の中の多くの生成AIの事例を見ても、どうしてもコールセンターやユーザーレビューの集計など、どちらかというと「人の手を効率化する」ばかりに重きを置いている感じがしていました。どうせスポーツ用品の小売業が入れるからには、なるべく売上をスケールするような生成AIの取り組みができないものか、と考えた次第です。

そのような背景がありまして、当社はもともと先ほどのご紹介のとおり、あらゆる基幹システムのデータがkintoneとつながっています。kintoneに溜め込まれたいろいろな接客のデータや、基幹システムで持っている売上・在庫のデータをちゃんとミックスさせて、現場のスタッフが欲しいように生成AIが抽出して集計して渡してくれる。

これは本来データリテラシーの高くないスタッフにとっても、データを武器にした接客ができる良いきっかけになるんじゃないかと思いました。膨大なバックデータとスタッフの経験をつなぐバイパスとして、生成AIが使えないものかなと考えた背景があります。

栗山:ありがとうございます。一番はじめに中澤さんが相談を受けたと思うんですけど、やはり今、生成AIで一番多い使い道は翻訳ですよね。

中澤:翻訳・要約ですね。

栗山:翻訳・要約が今のところ生成AIで利用用途ナンバー1、ナンバー2なんですよね。実際こうやって接客に活かそうと思っても、実は事例はない状態だったと思います。中澤さん、一番はじめに相談を受けた時はどう思ったんですか?

中澤:これは生成AIの出番だと、絶対できるぞと思いました。

栗山:事例がないのに何を根拠にそう思ったんですか。

中澤:いろいろなデータを持ってらっしゃるので、これはもう勝ち組だと。AIの使い方が変わると思い込んでやっていました。

栗山:(笑)。もともとデータが整備されていたからという根拠ですか。

中澤:そうですね、それはもちろん前提にあるんですけど。

栗山:なるほど。

小島:ありがとうございます。

生成AI活用、どんな試行錯誤を繰り返してきたのか

小島:まだ事例がない中、顧客の接客のデータを生成AIで使えないかということで、お取り組みが始まってまいります。

しかし、なかなか事例がないので前途多難でした。試行錯誤を繰り返しながら、現在進行形で進んでいるところです。具体的にどんな試行錯誤を繰り返してきたのか、どんな課題があったのかに進んでまいります。

具体的な課題をご説明する前に2つ、「RAG(Retrieval-Augmented Generation)」という話と「検索の方法」についてがキーワードになりますので、技術的な解説から進めていきたいと思います。まずRAGの概要について、中澤さんからお願いします。

中澤:ではこちらは私からご説明をいたします。スライド一番上にあります横の流れですけども、これがいわゆる生成AIで自社データを扱ったり、学習されていないデータを自社の生成AIで扱おうとする時に、その情報を使おうとするRAGという仕組みになります。

ユーザーからの質問がありまして、その質問に沿った意味合いの近い文章を青い部分の外部システムから取ってきて、それをオレンジの部分の生成AIに渡して、最終的な回答をユーザーに返すのがこのRAGという仕組みになります。

小島:ありがとうございます。AIは万能に聞こえますが、使い方によっては良い例、悪い例があるんですね。

中澤:そうですね。ちょうどその下になるんですが、例えば「最近のお客さまからの主要なフィードバックは何ですか」といった時に、良い例でいきますと、ベクトル検索を用いてカスタマーサポートからのデータを引っ張ってきます。

最終的に「過去1ヶ月で最も多かったお客さまからのフィードバックは『商品配送の遅延』です」という回答が返ってきます。これが良い例になります。

悪い例ですね。よくハルシネーションと言われる部分にもつながるんですが、「今月の全社員の出張費の総額を教えてください」といった時です。

このベクトル検索を使ったRAGを適用してしまいますと、一番右側の下ですね。「多くの出張費に関する情報が見つかりました」ということで、まったくその質問に対して回答が出てこないのが悪い例になります。

小島:ありがとうございます。

「全文検索」「ベクトル検索」それぞれの特徴

小島:この中でもベクトル検索という話が出てきましたが、生成AIを使った検索の方式はさまざまあります。なにかを聞いたら答えを返してくれるわけですが、さまざまな検索を行って返ってきます。

細かく挙げるとさまざまな方式が日々開発されているわけですけども、今回の試行錯誤ではこの2種類を取り上げたいと思っています。まず「全文検索」という種類と、「ベクトル検索」という種類があります。

全文検索ですと、いわゆるキーワードをマッチングして探すものになりますので、与えた用語とマッチするデータを探してくる方式になります。

「事実を探す」と書いていますが、全文検索は、大規模なデータの中から正解が決まっているものを探すことに向いています。インデックスを作成すると実装できる方式になっています。

一方で、ベクトル検索が今回キーワードで出てきます。おそらくAIに検索をさせるというと、こちらのイメージを持たれている方が多いかと思います。

いわゆる日本語・英語の文脈・意味を理解した検索になりますので、必ずしもキーワードと一致しなくても、高速に文脈の類似性を考えてセットで探してきてくれたり、提案するのがベクトル検索になっています。

比較的実装は複雑になっていまして、いわゆる機械学習や埋め込みの技術を使って実装するものになっています。このあとの具体的な課題のお話でも、この全文検索とベクトル検索という2つが出てきますので、ご理解いただければと思います。

2つの検索手法が混在する失敗例を経験

小島:では、具体的にアルペンさまの試行錯誤に進んでいきたいと思いますが、蒲山さま・中澤さんで、どういった問題が起きたかをお話しいただけますでしょうか。

中澤:これは失敗例になるんですが、向かって左側のベクトル検索が適している場合に、例えば「キャロウェイのドライバーでヘッドスピードが40の方に合うモデルは何ですか?」と質問すると、ベクトル検索は文字の類似性を取ってきて情報生成するので、非常に良い回答をしてくれます。

向かって右側ですが、こちらがアルペンさんで最初に問題になったところですね。なんとも恥ずかしいんですが、「2024年8月にテーラーメイドというメーカーさんのドライバーがどれぐらい売り上げられましたか?」という質問をしたら、AIが「売上5本です」と回答がありました。

5本ということはまったくなくて、実際は数万点売れています。このベクトル検索を使ってデータを扱ってしまうと、こういった嘘のデータを返してしまう例になっています。

栗山:経営会議で社長や役員の方が急に「こんな数字が欲しい」と言い出す時が、やはりあると思うんですよね。それをアシスタントしてくれるAIが欲しいという要望がけっこうあるんですけど、たぶん後者になると思うんですね。

先ほど蒲山さんがおっしゃったような「接客を強化する」という意味で言うと、これぐらいの簡単な質問だったら、たぶん店舗の方はみんなできるんだと思うんです。それが複雑になっていった時に、ノウハウをベクトル検索で返してくれることになると思うんですけど。

このあたりは考えてみれば、数字の結果をベクトル検索を使って取り出すのは、「正確な答えが返ってくるわけないよね」という話だと思うんですね。

普通に全文検索を入れればいい話だと思うんですけど、これもやっている途中は「AIイコール、ベクトル検索だ」となってしまうんですよね。

中澤:なりました。これで絶対良い回答が返ってくると思い込んでたんですけど、大きく違ったのがこの失敗例です。

小島:蒲山さん、この時はいかがでしたか。

蒲山:最初は中澤さんから「生成AIがkintoneに入ります。なんでもできます。まず投げてみてください」と言われまして(笑)。

栗山:「なんでもできる」って言っちゃいました? 一番ダメな回答ですよ(笑)。

蒲山:当時、ゴルフクラブの中古がいろいろなデータはあったんですけど、なかなか扱いにくかったので、試しに「2020年8月にどれだけ売れたの?」と聞いてみたところ「5本」と返ってきたという衝撃的なことがありました。

栗山:そんなわけないだろう(笑)。

中澤:失礼しました、本当に。

蒲山:なのでこれを最終的にビジネスで使えるために、どうしたら「数万本」の正しい答えが返ってくるのかを、ここから試行錯誤しながら歩んできたという感じになりますね。

小島:ありがとうございます。

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