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ビットコインとか勉強会#18(全3記事)

ICOを技術から考える––実体験で語るICOのリアル

2018年5月21日、「ビットコインとか勉強会#18」が開催されました。年々注目度が高まっている暗号通貨の世界。そんな暗号通貨を技術面から紐解き、暗号通貨の普及を促進するために行われる本勉強会。第18回となる今回は、サービスで実際に使用しているエンジニアたちをゲストに、それぞれの知見や最新動向を語っていただききました。プレゼンテーション「ICOの技術的側面について」に登場したのは、ALIS Co-Founder/CTOの石井壮太氏。新たな資金調達の形として注目されるICOの技術的側面について解説します。この講演はcrash.academyでご視聴いただけます。

もしもエンジニアがICOで資金調達したら

石井壮太氏(以下、石井):はじめまして。ALISというプロジェクトでCTOをやらせていただいています、石井と申します。今日、Bitcoinの勉強会だと思って、おもしろい話が聞けるかなと思って気軽に来たんですけど、受付で「本来登壇するはずだった方が病欠だからおまえがしゃべれ」と言われまして。

(会場笑)

石井:無茶振りだなと思いつつも、お世話になってるので、ここはちょっとしゃべらせていただこうと思います。(スライドを指して)この資料は、以前ブロックチェーンを勉強するエンジニアさん向けに話したとき使ったものの改良版なので、この場にフィットするかどうかわかりませんが。コミュ障なんですけど、しっかりやらせていただきますので、聞いていただければと思います。

まずサラッと自己紹介しますと、私、この業界で10年以上エンジニアとしてやっております。2013年ぐらいから、Bitcoinとかブロックチェーンおもしろいな、とわりと興味を持ってやらせていただきました。

わりと全財産に近いお金をぶち込んでたんですが、マウントゴックス事件、みなさんご存知だと思いますけど、あれでみっちり全力で盗られまして、やっちまったなと。まあ、技術の失敗の話ではないので、大したことじゃないなと思って、引き続き技術に興味を持って追っていった感じです。

それで、ALISというプロジェクトをちょうど1年前に始めまして、今、ブロックチェーンのまわりでいろいろつくったりしている感じです。後で時間があったら詳しくご説明させていただきます。

今日は、ALISのプロジェクトでICOをやって資金を調達した案件について、話をさせていただきます。

ICOの3つのメリットとは?

この資料をつくったのがわりと前なので、ICOの話はちょっと旬を過ぎてる感がありますけど。日本では規制がすごく厳しくなってしまって「ICOかぁ」って感じですけど、技術的な側面に絞るといろいろ気付くところやおもしろいところがあるので、そのあたりを共有できればと思います。

ALISでは、1ヶ月のICO期間中にEthereumで4,300トランザクションがあって、当時の価格で4.3億円、1万3,000ETHぐらいを調達させていただきました。

そのときの知見を公表させていただきますと、まずすばらしいのが、当たり前ですが運用がない。通常、システムを稼働させるとしたら運用は絶対必要になってくるんですが、当然ブロックチェーン上にデプロイしたスマートコントラクトなので、運用は0ですみます。

当然お金を扱うシステムであれば、ものすごいガチガチに固めたシステムで、その運用をものすごい工数というかお金がかかるんですが、それが一切ないところがすごく大きなメリットですね。ICO始めてから、デプロイだけで、もう運用一切なし。

コストも2万円だけです。これは何の価格かというと、ICOのスマートコントラクト、Ethereumのメインネットにデプロイしたときのお金、以上、という感じです。

実際のお金を扱うシステムで、実際にずっと運用し続ける、使える可用性とか、堅牢性を担保しようと思うと、ものすごくコストが跳ね上がる。

資金の調達面で中間のエスクローサービスなんかをはさむと、さらにコストがかさんで余裕で数百倍以上いくと思います。けど、スマートコントラクトを使うと当たり前ですが2、3万円でできる。これはわかりやすいメリットの1つですね。

「管理者いらずで、シンプルで、安価で、セキュアで、迅速」なアプリケーション

次にいきましょう。特筆すべき点としては、これはもうご存知の、極めて高い堅牢性です。何をもって堅牢性というかという話ですけど、ブロックチェーンをインフラという観点で見ると、これ以上高い堅牢性はありません。

それこそ、スマートコントラクトにバグさえなければ、そのインフラが崩されることはほとんど考えられないくらいです。まあ、先日Monacoinの事件とかありましたけど、ハッシュパワーの論理でEthereumは遥かに堅牢です。自前でどんなインフラを立てようと思ってもこれより高いものができるはずがない、ぐらいの堅牢性を持っています。

今お伝えした3点が、ブロックチェーンのわかりやすいメリットですね。広い意味でお伝えすると、まだいくつもメリットがあるんですが、ここはすごくわかりやすい技術的な観点でのメリットかなと思います。

戻りましょう。ICOを実際にやってみて、技術的な側面から見ると「大きな価値を、管理者なしで、シンプルに、安価に、すごくセキュアに、迅速にできる」という点で、ブロックチェーンの利点をすごい詰め込んだ実装だなと、技術者としてすごく思いました。

今、ICOって、資金調達としての側面がすごい強調されるんですが、実際裏で動いてるのはDAppsなので、DAppsとして初めて人口に膾炙した、普及したアプリケーションなんじゃないかなと僕は思ってます。

まあ、日本では規制とかで萎縮してしまっているような状況ではありますが、世界ではもう去年の調達額を上回ったとかいう話もあります。ロシアの「Telegram」っていうどでかいやつもあって。まだ盛況ということです。

非常に技術的にはおもしろいなって感じで、Ethereumの通貨のヴィタリック・ブテリンが提唱するDAICOという、Decentralizedなガバナンスを重視したICOの話なんかも出てきて、よりこれからまたおもしろくなっていくだろうなと思います。ここしばらく、とくに日本ではシュリンクしてしまうかもしれないですけど、技術的には極めておもしろい領域だなと感じてます。

スマートコントラクトは弱者の強い味方

ちょっと話が変わるんですが、この前「ICOにスマートコントラクトは必要か?」と学生さんに聞かれまして。「ぶっちゃけどうですかね? いりますかね?」と言われたんで、「あなたはつくったほうがいいよ」とお伝えしたんです。皮肉でもなんでもなく「つくったほうがいい」と。

あなたにまだ信用がないなら、つくったほうがいいです。僕らがやった当時のALISみたいな、ポッと出のどこの馬の骨かわからないようなベンチャーであるとか、あるいはただの大学生であれば、スマートコントラクトをぜひ利用すべきですと。

「なぜなら、それは弱者の味方だから」と伝えたんですね。どういう意味かというと、やろうと思えば、コントラクトがなくてもICOなんて可能なんです。「このアドレスに送って」って言うだけだから。Ethereumとか、Bitcoinもそうですけど。ただ、それって、銀行口座を公開して「日本円振り込んで」って言うこととまったく同じなんです。

もうすでに信用がある大企業とか、他のところですでに信用を積み重ねていっている人たちであれば、もしかしたらこのやり方でもいいかもしれないんですけど、単純に、何というか、先ほどお伝えしたとおり、安全でしかもすごく安く済むという技術的な利点を活かさない手はない、という話がまずある。

あまり言いたくないですが、「それなのに利用しないのは技術的にセンスがないのでは?」という感じもあったりするので、使ったほうがいいんじゃない? と僕は思います。

ここ、さっきの流れで重要なんですけど、どうして無名のベンチャーとか大学生がやったほうがいいかというと、無名の人間がどうやって信用をつくるかという話なんです。

すごくわかりやすい例で、いろいろマーケティングとか、コミュニティに説明するとか、いろいろ戦略ロードマップを書くとかありますけど、技術で何ができるかというと、まさにブロックチェーンって信用の技術なので、これを使ってどうにかできることはないかという話です。

その資金に出資者への愛はあるか?

わかりやすい例として、ALISでICOをやったときのリファンドの話をします。我々は、3.5億円、当時の価格で1万1,666ETH以下だったら、全部お返ししますよとお伝えしてました。ただ、お返ししますよとは言っても「ポッと出のよくわからないベンチャーがそんなこと言って信用できるのか?」って話ですけど、僕らがどれだけ信用できない人間であったとしても、これは必ず返却されるんですよ。

もし期限内にリファンドの3.5億円以下しか集まらなかったら、僕らがどれだけ信用できなくても、それは返却される。これはDAppsとしてEthereumブロックチェーン上にデプロイされていて、そのコードは誰でも確認ができるので、どれだけ信用できない人間でもそこはロジカルに担保される。いわばそこで信用がつくれるんですね。

例えば3億円しか集まらなかったとしたら、そのスマートコントラクトをデプロイした我々であっても、そのお金を懐に入れることは、論理的に絶対できないということがブロックチェーン上での信頼として担保されてる。そこは非常に弱者の味方の技術だなとすごく感じました。

いろいろゴチャゴチャ言ったんですけど、一番言いたいのは「そこに愛はあるのか?」ということなんですよ。あんまり言わないようにしようとは思いますけど、とあるICO案件で「数百万円しか調達できなかったです」と言ってる方がいて、正直「何言ってんだ? こいつ」と思ったんです。

「『しか』ってどういうことなんだ?」と。「プロジェクトにお金を出した人もいるのに、『これしか調達できなかった』って何事だ?」と思いました。「この記事を見て、お金を出した人はどう感じるのかな?」「そもそもその資金で本当に事業をできるのか?」と。

技術に対する愛があればスマートコントラクトを書け

さっきの3.5億円も、それ以下だったらたぶんちゃんと事業をできない、全員不幸になるだろうなという意味で儲けた閾値なんです。だから「それで本当にできるのか?」とか、いろいろ思うところがあった。「それ、返したほうがいいんじゃない?」とすら思いました。

要は「出資してくれた人への愛がないんじゃないのか?」ということですね。ちなみに、そこのICO案件はやっぱりスマートコントラクトは使ってなかったです。

技術の話としては、先ほどのリファンドの話もそうなんですが、3.5億円以下だったら返却されるということが、ブロックチェーン上で担保されてる。そこはスマートコントラクトだからなし得た明確な原子性、atomicityです。2億円を懐に入れるとかはできない。3.5億円以上だったら事業をやるし、以下だったらお返しするっていう、0か1かのatomicityが存在します。

リファンドはその本当に一部のわかりやすい一例で、コントラクトの恩恵は、ICOの、スマートコントラクトの全体に及ぶものです。従来のやり方で、高額な費用を払ってエスクローサービスを利用したとしても、これほど堅牢な取引は絶対に不可能です。

スピードもコストも段違いで、それがコードとして実装されていて、誰でも見れて、ブロックチェーンの対改ざん性をもって信用が担保される、こんなに美しいことはないだろうと。技術者としては、すごく思います。

ICOを実施するということは、ブロックチェーンの利点を見事に使った、スマートコントラクトの実装を実運用できる貴重なチャンスを得ることなので、技術に対する愛があれば、スマートコントラクトを書いたほうがいいんじゃないのと思いました。以上です。ありがとうございました。

(会場拍手)

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