AI関連の専門家や起業家が最先端のトピックについて講演を行う、AI Startups Career Night。2025年1月の第8回では、「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出された株式会社Closer CEO 樋口翔太氏、株式会社Yanekara COO 吉岡大地氏、株式会社ACES CEO 田村浩一郎氏が登壇。
本記事ではパネルディスカッションより、20代のうちに起業することのメリットや、創業期の採用戦略について語り合います。
若いうちに起業して良かったポイント
司会者: そうしたら、若干話は変わるんですけど、UNDER 30に関連してちょっと聞いてみたいところがあります。みなさん若くして(事業を)始められて、今、会社も伸びていっているところかなと思うので、起業を若いうちに始めて良かったことと、その時に採用みたいな文脈もあるのかなと思うんですけど。
「こういうタイミングで、こういう人と関わって助かった」とか、「今こういう人を求めています」みたいなところがあれば、悩んでつまずいてきて、乗り越えてきたところとかも含めてうかがえたらと思いますが、いかがでしょうか。
吉岡大地氏(以下、吉岡):若くして始めて良かったところ。結果的に言うと、これはもう、めちゃくちゃ良かったです。というのも、若いってだけでかわいがってもらえるので、取引先の方とかからいろいろ教えていただくことができます。新しいことにチャレンジすると積極的に応援してもらえる雰囲気もあるんですよね。
特に印象に残っているのは、お世話になっているリース会社さんの担当者の方との出来事です。とある自治体との連携協定を結ぶセレモニーに出席することになったのですが、私は普段から愛用しているパタゴニアの服を着て行こうと考えていました。パタゴニアは環境に配慮した製品作りをしているブランドで、私もその理念に共感しています。
しかし、担当者の方から「セレモニーにはスーツで出席した方が良い」とアドバイスをいただき、新たにスーツを仕立てることになりました。その節は、大変お世話になりました。若くして起業したからこそ、このような貴重な経験ができたのだと思います。
リスクヘッジや人脈面のメリットも
吉岡:もう1点良かったなと思うのは、大学時代に起業したことで、リスクを最小限に抑えながら挑戦できたことです。仮に失敗したとしても、学生という立場に戻れば、やり直すチャンスはいくらでもありました。

今だったら登記も1円でできるわけなので、私は1万円出しましたけど、金銭的に痛手があるわけでもなく。大学時代に若くして始めるとリスクを最小限に抑えながらもめちゃくちゃいい経験ができるという意味では、絶対にやったほうがいいよなと思います。
弊社で活躍いただいている人として、まずはインターン生です。我々は東大のネットワークで、創業当初からかなりたくさんインターン生を引き入れて、創業1〜2年目ぐらいで、30人ぐらいが関わってほとんど全員学生インターンみたいなチームでやっていました。
そこからコアなメンバーが今はフルタイムになってくれて、Yanekaraのミッションを体現するうえで、本当に重要な存在として活躍してくれているし、非常にスキルも高いというのがすごく助かっている点ですね。
さらに私たちのチームには50代の方も活躍されています。長年のキャリアで豊富な経験を積まれ、子育てが一段落された方も多く、残りのキャリアを本当にやりたいに捧げたいという強い意志をお持ちです。
そういう思いを持った人が入ってくれると、スタートアップのうまくいかないところも付き合ってくださるし、我々が持っているような経験を歓迎してくれるので、すごく心強い存在かなと思います。
学生起業ゆえの苦労も
司会者:ありがとうございます。「僕がたくさん聞いてしまったんだな」というのがよくわかるお答えで、すみません、ありがとうございます。次、もしよかったら。
樋口翔太氏(以下、樋口):おっしゃられたように、学生だからリスクを最小限に抑えられるというのはすごく大きいなと思いますけど。一方で、学生起業家としての難しさでいうと、自分が営業が下手なだけかもしれないんですけど、年齢が若いためか、なかなか真剣に話を聞いてもらえないことがありました。「学生で若くしてがんばっているね」と好意的に接してくださる方は多かったのですが、具体的なビジネスに繋がるケースは少なかったように思います。
関わってくださるすべての方に感謝という感じなんですけど、創業初期にフルタイムで入ってくれたメンバーには本当に感謝しています。
その後の採用に関する質問はけっこう似ているんですけど、自分の会社も60歳の営業部長の方が早い段階で入ってくれて、お客さんの開拓に貢献いただきました。今はそういった自分よりちょっと社会経験を積んだ30代を積極的に採用しています。
あと、筑波大学の中にオフィスがあるんですけど、そこのロボットサークルの方や自分の研究室の後輩とかがアルバイトで入ってくださって、創業初期の事業を模索している時の、次の事業につながらなかったプロトタイプをがむしゃらに作ることを一緒にやってくれて、非常に感謝しています。以上です。
司会者:ありがとうございます。やはり年齢が倍以上の人と一緒にやるって、レアな経験をされたんだなと。
樋口:そうですね。でも、非常に話しやすい感じの方で。年齢が高い人となると、話しやすいかどうかはすごく重要かもしれないですね。
学生スタートアップこそ多様性が重要
司会者:ありがとうございます。そうしたら、じゃあ最後は。
田村浩一郎 氏(以下、田村):同じですけど、やはり年長の方にかわいがってもらいました。それこそ商談でスーツを着ていったら、「え? うちに合わせてくれたの!?」みたいな(笑)。チャレンジしている人を応援してくださる方って絶対いるし、今でも応援していただいていますけど、ありがたいなと思いますね。
リスクがないというのは間違いないなと思って。リスクがないことはないんですけど、コントロールできるリスクと取れるリターンって、圧倒的に学生のほうが高いはずなので。やはり僕はリスク・リターンという考え方がすごく重要だと思うんですけど、「なんでやらないのか?」ぐらいだと思っています。

ありがたかったメンバーとか、活躍してるメンバーの特徴で言うと、うちは創業メンバーが6人いて、7年経ってもまだ6人いるんですね。今どの役職かは人それぞれですが、ずっと一緒にやれている一番の理由は、みんな大人だったなということだと思ってますね。
創業メンバーで喧嘩別れするとかよくあるじゃないですか。でもACESはみなさんすっごく大人で、お互いをリスペクトして、ちゃんと思ったことを言えるチームを作れたところはあったかなという。
あとは年長者というかいろんな経験のある方で、変化に対する耐久がすごく強い人に入っていただくと、今まで気づいてなかった知見とか、やらなきゃいけなかったことが急に見えてくるのは大きいですね。
例えば開発プロセスとか。起業すると多くの場合は若いエンジニアの方が多いことが多いと思いますけど、いわゆるQA(システム開発における品質保証)って、ちゃんとした開発をやったことがないと「なんすかそれ?」みたいな人も多いと思うんですよね。
そういうのをやらないと大企業の銀行さんなんかのプロジェクトには絶対に入れないし。そういうのって「え、なんでこれやってないの?」みたいな知見が入ってくると、いろんな学びがあってすごく良かったなと思います。
司会者:多様性は大事ですよね。ありがとうございます。
ハードシングスをどう乗り越えたか
司会者:めちゃくちゃいろいろ聞きたいんですけど、けっこういろいろ時間経ってるな、みたいなところもあって(笑)。すいません、せっかくの機会だと思うので、会場の方からこういうこと聞いてみたいってことがあれば。
起業家の先輩としてでもいいですし、スタートアップとしてみたいなところとか、いろんな文脈があるかなと思います。どんな文脈でもかまわないので、もし聞いてみたい方がいたらぜひというところなんですけど。
(会場挙手)
(挙手が)同時だったので、(マイクを渡して)じゃあまず1、2という順番で。
質問者1:ありがとうございます。僕は今20歳で、1年間ぐらいコンシューマー向けサービスをやって、最終的にそれをピボットして運よく譲渡できそうなんですけど。
今後は自分が本当にやりたいディープテック、もうちょっと言うと防衛とかの領域をやりたいと思っている中で、今回のイベントを見つけました。
実際にみなさん、始まりからけっこうソフト・ハードをどっちもやったりとか、大きなお客さんを最初から取っていくムーブをしていたと思うんですけど。
実際、事業がうまくいくまでどんな変遷があったのか、苦労話みたいなところを聞けたらいいなと思ってます。
司会者:ハードシングス的な営業関係がいいですかね。
田村:営業で言うと、確かに最初はちょっと大変だったかなと思いますね。やはり実績もモノもないので「できます!」みたいな感じでしたね(笑)。「で、いくらでやれるの?」「1億円です」「は?」みたいなことをやっていて。
でも最初はちっちゃい金額だったんですけど、実績を作っていくと、だんだん大きなお客さまとかチャンスをいただけるようになってきたかなと思いますね。
あと自分や共同創業者の與島仙太郎とか、端的に営業好きというか、得意だったんですね。それはめっちゃ良かったなと正直思います。
やはり営業が得意な方がいないと、最初の資金調達でキャッシュを作るか、事業でキャッシュを作っていくかが分かれ道になるかなというところで。
大変だったんですけどめっちゃ泥臭く、でも本当に顧客のことをしっかり考えて向き合っていくと、意外と事業が伸びていくのかなとは考えていました。
樋口:自分の場合、すごく役に立ったのは、助成金を活用していて。例えばNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJST(科学技術振興機構)のSCORE(社会還元加速プログラム)に採択いただきました。
最初に開発資金をエクイティ(自己資本)で調達する前からある程度持っていたので、そこでプロトタイプを作って、展示会に出す費用もそこから出せたのがすごく良かったなと思いますね。
一方でやはりロボットを作っている会社なので、工場で動くかたちに作っていくまでにはけっこう時間がかかって、そこはすごく大変でしたね。そういう経験があるメンバーも初期にはいなくて、なんとか最初の納品はがんばってやったんですけど。最初はもうがんばるしかないかなと思います(笑)。以上です。
ユーザー目線をつかむため、現場に通う日々
吉岡:ディープテックのものづくりで言うと、実際にまだ模索中というか、「答えがないな、本当にムズいな」と思ってるんですけど(笑)。私たちはけっこうがんばってハードウェアを作っているんですけど、どうしても時間がかかっちゃうんですよね。

やはりお客さんの現場に行かないとニーズがわからないので。YaneCubeという充電器はBtoBの製品なんですけど、最初はBtoBのところから始めていて。
あれは本当に、物流会社さんのほぼ社員みたいな感じで、毎週のように打ち合わせに出て(笑)。「なんでもやります!」って感じで、現場に入り続けて見つけたニーズだったというのはありますね。
ただどうしてもソフトウェアと比べると開発のサイクルを回す時間がすごく長くなっちゃうので。僕らはわりと複数の製品を同時並行的に作って検証して、当たらないもののほうがもちろん多いですけど、状況を見てすぐに方針転換するみたいなところはありますね。
ものづくり系とかディープテック系で陥りがちなのは「プロダクトアウトになっちゃう」というところですね。弊社もめちゃくちゃ陥っている自覚はあるんですけど。
技術が好きな人間が「よっしゃ、これめっちゃおもろい」と思いついちゃうわけですよね。作ってお客さんの所に持っていくとどうしても「あれ? ぜんぜんハマってない」ということが起こります。
今、私たちが一番大事にしているのは、自分自身がユーザーになるとか、とにかくユーザーの目線を得るための仕組みや環境を作るとか。お客さんの現場に1日でも早く足を運ぶとかというのは徹底しているけども、それでもやはり難しいですね。
司会者:ありがとうございます。Yanekaraさんはあまりプロダクトアウトのイメージがなかったのですが、そんなこともなさそうですね(笑)。
吉岡:いやいや(笑)。松藤(圭亮)が思いついちゃうんですよね。それを僕ががんばってプロダクトアウトじゃない風に。
司会者:マーケットイン風にチューニングを。2人があってみたいな感じですね(笑)。
吉岡:そういう意味では、本当は私が企画をできないといけないんですけど。とはいえ、ディープテックで技術となると、エンジニアが思いつかないといけないし。ここの矛盾というか難しさがすごくあるよなと。
司会者:なるほど。めちゃくちゃおもしろいですね、ありがとうございます。