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UNDER30 Award受賞の注目起業家と語らう夜〜次世代リーダーの描く未来像とは〜 AI Startups Career Night #8(全6記事)

売れる営業は「うなずく回数」が多い AI分析との協働で効率化を目指す東大発スタートアップ

AI関連の専門家や起業家が最先端のトピックについて講演を行う、AI Startups Career Night。2025年1月の第8回では、「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出された株式会社Closer CEO 樋口翔太氏、株式会社Yanekara COO 吉岡大地氏、株式会社ACES CEO 田村浩一郎氏が登壇。 本記事では、業界・業務に合わせた専門性のある「エキスパートAI」を開発・提供する、株式会社ACES 田村氏のプレゼンをお届けします。

東大の松尾・岩澤研発のAIスタートアップ

司会者:そうしたら最後、3人目。田村さん、お願いできたらと思います。この施設は2018年にできたんですけど、田村さんは最初から知っている数少ないメンバーの1人なので、最近また戻ってきてくれてうれしいなというところですね。最初にKERNELを始めた時は80名ぐらいだったんですけど、今はみるみる増えて、7〜8年の間に700名ぐらいにもなっているので。

田村浩一郎氏(以下、田村):すいません、はい。こんにちは。めったに風邪をひかないんですけど、ちょっと鼻風邪をひいてしまいまして、すごい鼻声で恐縮です。よろしくお願いします。

先に当社ACESのご紹介と私の個人のご紹介をさせていただいて、どんな会社なのかというのを簡単にお話しさせてください。

会社としてはエーシーズと呼びます。設立から7年ほど経っていて、正社員が80名ぐらいで、業務委託やインターンの方を含めると130名ぐらいの規模になっています。

自己紹介を簡単にさせていただくと、東京大学の松尾・岩澤研究室のスピンオフ・ベンチャーとして、AIの基礎研究を社会に応用・実装していくんだということで創業させていただいています。

2017年に創業しているんですけど、この時はまだ修士1年生かな? ちょうど2017年の6月に、『Attention Is All You Need』という、いわゆる「ChatGPT」の「T」の「Transformer」が出てきました。「これ、なんかすごいね」というので創業したと。今、振り返ればすごく目が利いて良かったのか、運が良かったのかというところだったんですけど、そういうきっかけで創業しています。

その後、会社の経営をしながら、そのまま修士課程、博士課程と進んで、私自身の専門は金融工学とAI、ディープラーニングなんですけれども、会社はちょっとぜんぜん違うところでやっていますが、そのまま博士も取って今に至ります。なので、実は金融とかそういう話はけっこう好きなんですけど、もちろんAIも大好きです。

アルゴリズムで効率的に「余白」をつくる

田村:当社のビジョンとして、「アルゴリズムで社会はもっとシンプルになる」というものを掲げています。どういうことかというと、私自身の思いとしても、非常に非効率なことや非合理なこと、ルールが0 or 1であることとか、端的に言うとめちゃめちゃ嫌いなんですね。

そんなことないだろうと。やはりAI、ディープラーニングというアルゴリズムが出てきている中で、もっと人にとって滑らかに、柔軟なインターフェースやルールを作っていけるはずだし。

あと、すごくきれいになっていないと嫌だなという個人的な思いもありました。よく業務をやっているといろんなファイルがぐちゃぐちゃだったり、いろんな業界構造も多重構造だったりして、すごくどうにかしたいなという思いがあります。ちゃんと構造的にすれば価値が積み上がっていくでしょうと。

我々は、社会はアルゴリズムでもっとシンプルになるよねというビジョンを掲げています。「シンプルにしてどうしたいの?」というところで、当社は「余白」という言葉を大事にしています。
 
日本で始めたスタートアップというところもあり、日本ならではの美学である余白を人の働き方に作っていくんだと掲げて、会社の経営をさせていただいている。そんな思いを持ったAIスタートアップです。

採用も絶賛募集中ですし、いわゆるエンジニアだけじゃなくてマーケティングやセールスだったり、CxOのレイヤーも絶賛募集中ですので、ぜひ応募いただけたらと思っています。

エキスパートAIで生産性向上を目指す

田村:ここから、ACESがAIの会社だというのはわかりましたというところなんですけど、「何をやっている会社で、どんなAIを開発している会社なんですか?」というところを少し補足させてください。

当社は、一言で言うとエキスパートAIの開発を掲げています。それぞれの業界や業務の専門性を持ったAIを組み合わせて開発して、お客さまに提供することをやっています。

私はありがたいことに、ChatGPTが出てきてからいろいろ講演とかもさせていただく機会も多いんですけど、「ChatGPTって何なんだろうな?」「生成AI、LLMって何なんだろうな?」と言った時に、一番しっくり来る説明が、「めちゃめちゃ頭のいい優秀な新卒」なんですね。

インターネットや教科書に書いてある情報とか知識って、正直、私よりもぜんぜん賢いし、何でも知っていると言っても過言ではないと。

けれども、「じゃあ、業務とかビジネスってインターネット上の知識とか教科書で成り立つんですか?」と言ったらぜんぜん成り立たなくて。お客さまのことをどれだけ知っているか、一緒に働くメンバーがどういう人なのか、実際に業務をどう進めているのかということを知らないと、少なくとも競争優位性は作れないし、付加価値を高く付けて売れないですよね。

たぶんどの会社も、「うちの競争優位性は、頭がいい新卒なんです」と言う会社はあんまりないと思うんですよね。

当社は、業界・業務の専門性を持つAIをきちんと組み合わせて作って、お客さまに競争優位性や生産性向上を提供していこうということで、OpenAIに対してエキスパートAIを開発していますと説明させていただいています。

人とAIが協働する未来

田村:もうちょっと「どういうことをやっているんですか?」というところをお話しさせていただくと、当社はお客さまに対して、人とAIが協働する、一緒に働く次世代のビジネスプロセスを作ることを価値提供の本質としてご説明しています。

ゆえにですね、ACESという会社は、AIのいわゆるディープテックというかR&Dを請ける会社でもないですし、データサイエンスをして、ビッグデータから何かしら経営の示唆を与えるような会社でもなくて、あくまでビジネスプロセスを大事にしています。

最近、AIエージェントという言葉が流行ってきて、いろいろ交わってきたなと思うんですけれども、いわゆる業務プロセスがある中で、複雑で非効率になっているプロセス。たとえば「前の人の仕事を受け取らないと次の仕事を始められないよ」とか「前の人の仕事、どこ行っちゃっているんだよ?」とか。

そういったところがたくさんある中で、我々はエキスパートAIという形で、各業務の前後の知識、ノウハウやデータベースにちゃんとアクセスしたAIを独自で開発したり、つなぎ合わせることによって、最近の流行りをさっそく取り入れて、「Agentic Workflow」というのを書いています。

人とAIが一緒に協働する、すごくシンプルで次世代的で早くて、効率的なプロセスの構築をやっている会社になっています。

事業モデルとしては大きく2つありまして、骨格としてはこの図で表しているとおりです。まず、当社の特徴としてエキスパートAIのモジュールという考え方があります。

これはどういうことかというと、最初の創業時点から、いわゆる知識、知能を再現するAIのソフトウェアというのはどうコンポーザブルに組み合わせ可能になるのかを設計してきておりまして。

それを組み合わせて、何かしらのソフトウェアとか業務プロセスに組み込むことを徹底してやっていることが、当社の強みになっています。

プロ野球球団にAIシステムを提供

田村:例えば、(スライドの)一番左に野球の写真が映っているんですけど、本当に創業したばかりの時は、電通さんとの共同事業化だというところで、ある球団さんに、投手のフォームを解析するAIをご提供して、「菅野智之選手のカーブを打てますよ」みたいなことを売り文句にして営業したという。それで、導入いただいたんですね。

この時に例えば、「じゃあ、必要なAIのモジュールって何?」と言った時に、人を認識する、いわゆる基礎認知に近いAIと、人を動画で撮りながら、カメラ間のトラッキングするAIとか、姿勢を推定するAIとか。

その中で、さらに速度とかスポーツ工学みたいなところの認識ができているAIと、実際に野球で巨人に特化したデータに基づいた示唆を出すAIみたいに、レイヤーを分けてモジュールを組み合わせて展開していく。

そうすると、たとえば、右側に映っている建設業界の危険行動認識とか安全衛生管理みたいなところで、今いろんな会社さんで導入いただいているんですけど。

これって実は野球の分解で使った、人をトラッキングしたり姿勢を推定したりするアルゴリズムを使っています。最後の「ヘルメット、何?」というところだけに特化したAIを作って提供する。こういうことをどんどん繰り返してきています。そのエキスパートAIを、先ほどお話ししたとおりビジネスプロセスに組み込んでご提供するよと。

今、説明したのがAIモジュールの組み合わせなんですけど、それを通して、(スライド)右上のDXパートナー事業とAIソフトウェア事業を展開しています。

上場されているAIの会社さんも、よくこの右の2つは掲げられているかなと思いますけど、当社の根幹、強みは、この左側のモジュールという考え方によって、これらを一番効率的に、最も価値の高いかたちでお客さまに届けるにはどうしたらいいかを取捨選択して、上に流すか下に流すかというのをやっています。

付加価値の高さと開発効率を両立

田村:DXパートナー事業は、いわゆる本当にコンサルみたいなところから、開発・インテグレーションしていますし、AIソフトウェア事業は、いわゆるSaaSの「The Model」みたいなビジネスモデルをとらせていただいています。

さっきのモジュールの組み合わせがあるので、DXパートナー事業って、0から開発せずにそれでも顧客のニーズに合わせて価値提供できるので、粗利率が非常に高いです。そういう付加価値が高く柔軟だけど、当社としては非常に効率の良い形で展開して、顧客維持率も実導入確率も高くてめっちゃ儲かると。

下のAIソフトウェアのほうは、特定のモジュールの組み合わせです。「みんなこの業務やってんじゃん」という組み合わせは、固定化してアプリケーションまで作り込んで、いわゆるThe Modelで、上で儲かった分を投資していけば展開されるよねということをゴリゴリやっています。

あんまり概念的な話をしてもつまらないと思うので、事例を話させていただくと、たとえば中古車のBtoBオークション事業では、「これってAIでもっと次世代的なビジネスプロセスになるんじゃないの?」ということで、いわゆる事故車、中古車の査定のエキスパートAIを作って、SOMPOホールディングスさんと資本業務提携して展開させていただきました。

車の傷や瑕疵、パーツとか、全部トラックしてAIで判定して、どこにどうやっていくらで売るかを決めていくAIを作りました。これをスマホベースで展開すると。まず査定ができる人のところに、車を1ヶ所に持って行って集めると、それだけでコストがけっこうかかりますよね。

それで、例えば「うわぁ、これは見つけられない」という傷を見つけられるベテランのすごい方って、市場や価格が今どう動いているかリアルタイムではわからないですよね。そういったところをAIが判定して売るといいよねというところで。

SOMPOさんは事故車をたくさん仕入れられるので、「じゃあ、一緒に組みましょう」と。これも新聞にも載ったので言っていいかなと思うんですけど、このSOMPOオークス事業(現:オークスモビリティ株式会社)は、新規事業として始めてから、ファンドに売却できたというところになっています。

AIが“売れる営業社員”の特徴を分析すると?

田村:ほかにも、営業のエキスパートAIというところで、保険の営業って、こういう言い方はあれですけど、売るものってけっこう同じだったりするので、何によって売れるのかと言えばやはり営業のスキルなんですよね。

我々が、営業の画像認識や音声認識をいろいろ組み合わせて、「営業のエキスパートって何?」というところをひもといていくと、例えばうなずく回数と種類が多い営業ってめっちゃ売れるんですよ。

そういったところを解析していって、いわゆる採用の時点のスキルチェックとオンボーディングのスピードを短くしていきます。

そういったところとデータ基盤を一緒に作らせていただいて、営業の効率化というか生産性向上をやらせていただいたりとか。

あとは、最近NewsPicksさんに出させていただいたんですけど。SMBCさんと「SMBC-GAI」という、ただGPTを組み込むだけじゃなくて、社内の稟議書や規程とか、いろんな過去のデータを構造化して、きちんとAIも人も読み込めるようなデータ基盤を作って展開させていただいたりしています。

AIのソフトウェアで言うと、今一番力を入れているのが、「ACES Meet」というプロダクトです。端的に言うと、お客さまとのやり取りをちゃんと構造化して、「売上につながるインサイトを残す議事録」というところで提供させていただいています。

Zoomとか左側に書いてあるものを、音声認識とか話者分離とかAIモジュールとか、さっきのうなずく回数とかを分析する、いろんなAIがありますので。それらを構造化してCRM、SFAに自動で連携したり、何かしらの営業のインサイトを出して、営業生産性を上げていくSaaSツールです。

AIの社会実装に取り組んでいきたい

そんなことをいろいろやっている会社なんですけど、みなさんへのメッセージとしては、まさに今からこの5年後、10年後、100年後に振り返った時に、「今、何の時代ですか?」と言ったら、絶対にAIの時代だと思います。

でも、これを社会実装するって、めちゃめちゃ泥臭いんですよね。正直、AIの技術がすごいからって前に進むものでもないよと。我々は、そこに泥臭くひたすらどういうふうに社会を効率的に変革するかというところでやっていますので、ぜひご一緒できるメンバーがいたらお話しさせていただけたらなと思っています。

ちょっと長くなりましたが、ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:ありがとうございます。うなずく回数と種類は増やそうと思いました。ちなみに今日はけっこう事業会社の方もいらっしゃったりするんですけど、どういう状態の時にご相談を持っていったりするといいんですか?

田村:ありがとうございます。大変緩い状態で持ってきていただいても、DXパートナー事業はコンサルティング機能を備えていますので。

たとえば、だいたいそこからやらせていただくことが多いんですけど、本当にビジネスや業務のプロセス、データフローを全部洗い出して「どこのプロセスをどこまでAIでやるといいんですか?」みたいなところから話させていただくことも多いかなと思います。

司会者:じゃあ本当、ばくっとしたところもコンサル的に入って、整理してくれるみたいな感じですか?

田村:そうですね。人が足りていればなんですけど(笑)。

司会者:わかりました、了解です。ありがとうございます。

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