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今、ニッポンを変えるのは何か? 働き方改革から、"働きがい改革"へ(全2記事)

「働きやすさ」と「やりがい」で見た4つの職場のパターン 圧倒的に業績の伸び率が高い職場の特徴

労働者不足の日本において、従業員の「働きがい」が重視されています。本セッションでは、「今、ニッポンを変えるのは何か? 働き方改革から、"働きがい改革"へ」と題して、株式会社働きがいのある会社研究所代表の荒川陽子氏が登壇。「働きやすさ」と「やりがい」で見た4つの職場のパターンや、働きがいのある会社がやっている、従業員の「誇り」を高める施策について解説します。

働きがいのある会社研究所の荒川陽子氏が登壇

司会者:本日お迎えいたしましたのは、Great Place To Work® Institute Japan代表、株式会社働きがいのある会社研究所代表取締役社長、荒川陽子さまです。ここで荒川さまのプロフィールを簡単にご紹介させていただきたいと思います。

2003年にHRR株式会社、現、株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。営業職として中小から大手企業までを幅広く担当。顧客企業が抱える人・組織の課題に対するソリューション提案を担います。2012年から管理職として営業組織をマネジメントしつつ、2015年には同社の組織行動研究所を兼務し、女性活躍推進テーマの研究を行う。

2020年より現職に。コロナ禍をきっかけに働き方と生活のあり方を見直し、小田原に移住。自然豊かな環境の中での子育てを楽しみつつ、日本社会に働きがいのある会社を1社でも多く増やすための活動をされていらっしゃいます。

著書にかんき出版の『働きたくなる職場のつくり方』があり、多くのメディアにご出演、講演もなさっていらっしゃいます。それでは荒川さま、よろしくお願いいたします。

荒川陽子氏(以下、荒川):ご紹介ありがとうございます。荒川でございます。本日は「今、ニッポンを変えるのは何か?」ということでお話します。

「働き方改革から、"働きがい改革"へ」ということで、荒川のほうから30分ほどプレゼンテーションをさせていただき、最後の10分間はQ&Aというかたちで進めさせていただきたいと思います。ぜひお気軽に、いろいろなご質問をいただけるとうれしいなと思っております。

Great Place To Work®はGPTWと略しているんですが、GPTWのミッションはグローバル共通のミッションなんですね。お客さまの職場を働く人すべてにとって働きがいのある場にしていく、そしてより良い社会の実現に貢献する。こういったミッションを持って活動しております。

世界各国の働きがいのある会社を認定してランキング

荒川:GPTWとは何なのか。「初めて聞くよ」という方もいらっしゃるかもしれませんが、働きがいのある会社作りの世界的な専門機関と自負しております。もう30年以上グローバルで展開し活動しております。長年蓄積された研究データに基づいたエンゲージメントサーベイを活用し、世界各国の働きがいのある会社を認定してランキングで発表しているんですね。

冒頭で河北(隆子)さんから「100ヶ国」と言っていただいたんですが、実は年々増えておりまして、最新では150ヶ国を超える国々で展開をし、毎年1万社を超える企業さまにご参画をいただいています。

世界各国で同じフレームワークなんですが、まずは働きがいのある会社の認定制度にチャレンジしていただきます。その中から年に1回、ベスト・オブ・ベストを、ランキング形式で発表しています。ランキングの社数は国によって違うんですが、日本においては100社をベスト100ということで発表させていただいています。

この取り組みは毎年やっていますので、世界の、そして日本の働きがいのある会社がどんな取り組みをしているのか、どんな特徴があるのかという情報がたくさん集まってくるんですね。われわれGPTWはそんな組織でございます。

目指している社会としては、こんなイメージです。働きがい認定やランキングを通じて、組織が働きがいを高めることが当たり前の社会を作りたいなと。

今、日本には働きがいが高くない企業さんがまだ多いんですが、働きがいを高める活動が当たり前になる。これがひいては日本企業の競争力を高めることにつながっていくと考えており、そこに貢献をしたいと思っています。

日本は「働きがい」を高めることが急務

荒川:今、労働人口が減りつつあります。とにかく人手不足が大きなキーワードになっています。その人手不足の日本社会でさまざまな働き手に選ばれる。女性やシニアや外国人、いろいろな方がいらっしゃいますね。いろいろな属性の方に選ばれ、生産性高くイノベーティブである会社になるためには、働きがいを高めることは非常に急務だと思っています。

私はGPTW JAPANの社長として2020年に就任をし、もうかれこれ5年目に突入しているところですが、今日は今、考えていることを中心にお話をしていきたいなと思っています。では「ニッポンに求められる働きがい」というお話をしていきたいと思います。

最近、働きがいという言葉はいろいろなところで耳にしたり、目にされると思います。私たちGPTW JAPANが考える働きがいのある会社とは何か。すごくシンプルに言うと、この1枚(資料)です。

働きやすさとやりがいの両方が備わっている組織であること。働きやすさは非常に重要ですね。いかにヘルシーに働けるかということです。労働時間や休みの日数、職場環境とかですね。これは比較的見えやすい。

一方で、やりがいはやる気やモチベーションなんですが、目に見えにくい。私が社長に就任した時は、とにかく「GPTW JAPANを紺屋の白袴(他人のためばかりに働いて自分のことに手が回らないこと)にしてはいけない」と思いましたので、ヘルシーに働くという方針を入れました。ヘルシーに働くことは働きやすさに該当するわけですね。

そしてどんどんチャレンジして変化に対応していく。「こういうことにワクワクしようよ、ワクワクしたいよ」というやりがいを意識をしたメッセージを発信しています。この両立が非常に重要であると思っています。

働きがいのある会社は離職率が低い

荒川:そして私たちは働きがいのある会社のモデルを持っています。このモデルにのっとって認定やランキングを発表しているわけですが、中心には従業員がいます。つまり立場や仕事、働く場所に関係なく、すべての人が会社やリーダーを信頼できることがまず非常に重要です。

リーダーとは上司や経営層のことを指します。私も初めてチームリーダーをやった時、とても信頼できる上司の影響を受け、引き上げてもらった経験があります。今でも当時のメンバーで集まるぐらいなんですが……。一方でやはりその逆もあるんですね。「この上司の下だとなかなかしんどい」ということもありました。

みなさんもそういう経験があるんじゃないかなと思います。やはりまずはリーダーを心から信頼できるか。そういう職場が働きがいにおいては非常に重要です。

そして誇りです。従業員一人ひとりが自分の仕事や会社に対してプライドを持てるかどうか。そしてチームの連帯感ですね。特に日本企業は誇りが諸外国に比べて低い状況です。このあたりは後ほどデータもお見せをしながらご紹介していきたいと思っています。

それから働きがいを高めることの成果ですね。最近は人的資本経営と叫ばれているので、エンゲージメントや働きがいを高めることについて「やる必要があるんですか?」と問う経営者はほとんどいなくなったかなと思うんですけれども。

ただ本当の意味で「何のためにやるんだっけ?」とまだ腹落ちできていない。「低いより高いほうがいいよね」ぐらいのものとして捉えられている場合もあるかなと思っています。

例えば働きがいのある会社は離職率が低いことが証明されています。今の人手不足の日本では、いかに自社にとって必要な人、優秀な人に入社をしてもらい、定着して活躍してもらえるかというのは、各社の死活問題だと思うんですね。その点で働きがいが非常に有効であることは、離職率のデータからもわかります。

「働きやすさ」と「やりがい」で見た4つの職場のパターン

荒川:さらに先ほどご紹介した働きやすさとやりがいという2つのコンセプト。これを2軸に取り職場を4つの象限に分けて会社を分類し、データ分析をしたことがあります。

その結果それぞれの職場の対前年度の売上の伸び率がどうなったか。やはり「いきいき職場」が圧倒的に(伸び率が)高かったんですね。働きやすさもやりがいも両方高い「いきいき職場」は業績的なインパクトも出せる。

そしてその次が「ばりばり職場」。やりがいは高いんだけれども働きやすくないという。日本は昔そういう企業が多かったかなと思うんですが、そういう企業がその次に来ている。

「ぬるま湯職場」と「しょんぼり職場」は同じぐらいなんですね。「ぬるま湯」と「しょんぼり」は左側(資料)にある象限です。「働きやすいんだけどやりがいはない」または「両方ない」という2つのプロットされた職場は、売上高の伸び率があまり大きくなかったという結果が出ています。

やはり業績的なメリットという意味でも、高い働きがいを目指していく、働きやすさとやりがいの両方を両立させていくのは非常に有効ではないかと考えています。

最新のデータでも、認定を取得された企業さまは認定を取れなかった企業さまよりも対前年の売上伸び率が高い。こんなデータも出ている次第です。

世界的に見ても日本の「働きがい」が低いわけ

荒川:続きまして、グローバル、世界から見た日本ということも少しお話しておきたいなと思います。グローバルベンチマークと日本のベストカンパニースコアの比較です。働きがいがある会社として日本でランクインされている企業ベスト100ですが、さっきお見せした(資料の)三角形の一番上澄みですね。

日本において「働きがいが高い」と言われている企業であっても、アジアやアメリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカのランキングに比べると全設問が平均という。これはわれわれが持っているサーベイの全設問の平均スコアですが、抽出したスコアがまったく違うんです。

見ていただけると、特に誇りに差があることがわかると思います。誇りはやりがいに分類されます。このやりがいに分類される誇りが低いことが日本のエンゲージメント、働きがいが低いと言われるゆえんだと私は捉えています。

さらにウェルビーイングに関する調査もあります。少し前の2021年の夏に実施をしております。この時も世界と比較して日本のウェルビーイングは低くて。特に全体とのギャップが大きかったのは、やりがいに関わる「自分の得意なことができる」とか「仕事に行くことが楽しみだ」という設問でした。

日本に求められているのは「やりがいの向上」

荒川:働きやすさとやりがいを合わせて働きがいなんですが、日本に求められているのは「やりがいの向上」だと思っています。目に見えにくいものなので、どうやって高めていけばいいのかと、みなさん、頭を悩まされるかもしれません。今日は少し事例を通じて誇りの高め方のヒントを、いくつかお伝えできればと思います。

毎年2月に働きがいのある会社のランキングを発表して表彰式をやっていて、この資料はその表彰式でのトークセッションからの情報をピックアップさせていただいております。

「働きがい、特に誇りを高めるにはどうしたらいいですか?」というトークテーマに対して、(トークセッションでは)「誇りを増幅させる装置、機会や環境をいかに意図的に設計できるかが重要なんだよ」とおっしゃっていて。この時BlackLine(ブラックライン)という会社とRe-grit Partners(前Regrit Partners)という会社の社長さんに出てきていただいたんですが、お二人とも口々にお話されていました。

ますブラックラインさんからは「顧客の感謝の声」。例えば「コアバリューやお互いへの感謝を共有する」とおっしゃっていました。社内SNSもいいですよね。これは社内SNSで感謝の言葉を閲覧できると、日頃お客さまと接点がないメンバーでも実際のお客さまの声に触れることができます。

それからコアバリューを掲げてワンチームで働くことを重視すること。これは社員の一つひとつの行動がコアバリューのどの内容と合致しているかを意識をしながら、みんなで同じ方向を向いて仕事をするんですね。

全社ミーティングでランダムに選ばれた人を90秒で褒める

荒川:あと私は3つ目がすごく好きなんですが、全社ミーティングでランダムに感謝する人を選び、90秒で褒めるという。全社員の前なので褒められる側はびっくりするんですが、「それによって誇りが高まるんだよ」ということを教えていただきました。

Re-grit Partnersはコンサルティングの会社さんですが、こちらの会社はほかのファームと差別化したコンサルティングスタイルをサービスポリシーとして設定しています。

具体的にはイシュードリブン、スコープレスやアンチ‐パラサイトです。アンチ‐パラサイトとはクライアントの自立を徹底的に支援することですが、こういった3つのポリシーを掲げて、この共感と体現を求めている。

そして人的資本への投資。月600名の中途入社の希望者がいる中で、選考通過率2パーセントという狭き門を勝ち抜いた精鋭が集まっています。まさにサービスポリシーに共感している人たちが入っていて、同じ方向を向いて仕事をしている。これが誇りを生むベースになっているんですね。

そして独自の取り組みである「コンサルティング+1」。これもなかなかおもしろいんですが、コンサルタントという仕事にプラスして、営業など自社の経営機能を担ってもらう制度だそうです。

コンサルタントに不足しているのは事業の解像度だと社長は捉えていらっしゃって。コンサルティングをしながら、変化の激しい会社の経営の一端を担うのは過酷だと思います。でも望んで入社する従業員が集まってくる。

そういった人たちの中で一体感や連帯感を作りながら、自分たちの仕事の価値や意義をしっかりと突き詰め、誇りを生み出しているということでした。

「誇りを増幅させるために何があったらいいのか」をすごく突き詰め、意図的な機会や環境整備をやっていくことでやりがいが生まれると。そして従業員の連帯感を高める。

働きやすさとやりがいという2側面を見た時、やりがいには誇りや上司への信頼・信用が分類されるんですが、連帯感もやりがいを高めるためには非常に重要であります。

オンボーディングを重視する電通総研

荒川:電通総研さんでは、テクノロジーや業界、企業、地域などの枠を超えたX Innovation(クロスイノベーション)を掲げ人材採用を強化されています。勤続3年未満の社員が全体の3割というのは、けっこう多いですよね。だからこの方たちになじんでもらえるようオンボーディング(新しい組織に早く慣れてもらうこと)に注力しているんですね。

この右下の図(資料)は、われわれが考える採用を起点とした働きがい向上のメカニズムです。構造をご紹介しておきます。まずはビジョンや価値観をはっきりさせることですね。

電通総研さんも自分たちが目指すところをはっきりさせていますし、先ほどのブラックラインさんやRe-grit Partnersさんも「自分たちが何を大事にしているか」を非常にはっきりと明言されているんですね。そこに共感できる人を集めている。これがめちゃくちゃ大事です。

そうすると何が起こるかというと、目的に向けて一人ひとりが協力し合うんですね。それを通じて一体感や仲間意識が生まれ、仕事を楽しむカルチャーが強化され、またビジョンや価値観が色濃くなっていく。これをグルグル回していく。これが採用を起点とした働きがい向上の重要な構造だろうなと考えています。

この働きがいを高めていくことは、今、人手不足の日本においてもう喫緊の課題であり、その第一歩は現状把握だと思っています。

今、世の中にはエンゲージメントサーベイはたくさんありますのでどれを使っていただいてもいいと思うんですが、例えばGPTWが提供しているものを使っていただくと、一定水準の働きがいレベルとの距離感がわかるんですね。

つまり「認定している企業やランクインしている企業は何がどれだけすごいの?」という。そことの距離感がわかります。優先的にどんな課題設定をして働きがいを高めればいいかがわかりますし、実際にすばらしい働きがいを実現することができれば、認定やランキングでお墨つきがもらえ、ブランディングにも活用できる。そこまでいけるといいなと思っております。

私たちは2つのサイクルが回っている企業を日本中に増やしたいんですね。働きがいがグルグルと向上する。それを可視化しPDCAを回して組織の活力を上げていく。この働きがい向上のサイクルが1つです。

そして認定されて社内外のブランディングにつながり、いい人が集まってくるというブランディングのサイクルが1つ。この両方が回っていくと、とてもいいかなと思っています。

働きがいのある職場を作るための3原則

荒川:最後に、働きがいのある職場を作るための3原則をご紹介をします。まず1つ目「働きがいのある職場を目指す」と宣言をすることが何より重要だと思います。宣言をするのは、やはりトップの仕事です。社長や役員、各事業の責任者、そして最終的には各職場の長ですね。

まずその人たちが「われわれの職場を働きがいにあふれるものにしたい、なぜならば……」と意図や背景も含めて宣言することが、なにより重要です。

その上で全員が職場に向き合い、役割を果たすことですね。働きがいは社長が高めてくれるものではないですし、人事部ががんばれば高まるものでもないんですね。一人ひとりが役割を果たすことが必要です。

そして役割を果たす時には、3つ目の「働きがいは権利だ」という考えを持って取り組んでいただきたい。自分たちの権利ですので、それを守るための活動ということで、きちんと自分自身の働きがいを高めるためのアクションを打っていく。これが非常に重要だと思います。

今、日本に求められる働きがいということで、誇りの高め方を中心にご紹介させていただきました。では私の話はここで終わらせていただきたいと思います。

関連サイト:
アイデンティティー・パートナーズ株式会社
オーセンティックリーダーズ・アカデミア

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