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Eight Fireside Chat Vol.2(全6記事)

「#飲み会やめる」はなぜ生まれた? ハフィントンポスト編集長が語る、“会話するメディア”の作り方

これからのビジネスネットワークのあり方を探求するメディア「Business Network Lab」で取材した人物をゲストに招くトークイベント「Eight Fireside Chat」。第2回は、「ハフィントンポスト」日本版の編集長・竹下隆一郎氏をゲストに、「動く的」に素早く狙いを定めるビジネスネットワーク活用術をテーマにトークを行いました。ハフィントンポストが目指すメディアのあり方や、そのための組織のあり方について、竹下編集長が語りました(撮影:小野田陽一氏)。

ハフィントンポスト編集長竹下氏が登場

丸山裕貴氏(以下、丸山):みなさん、こんばんは。Eightの丸山です。今日は特別なゲストをお呼びしています。竹下隆一郎さんです。今年の5月、ハフィントンポスト日本版の編集長になられまして、先月、Eightのメディア(Business Network Lab)でも記事にさせていただきました。

そのときのお話がすごくおもしろかったので、今日はその続きとして、みなさんと一緒にもっとくわしくお話を聞きたいと思います。

早速ですがお呼びしましょう。竹下隆一郎さんです。

(会場拍手)

竹下隆一郎氏(以下、竹下):ハフィントンポストの竹下です。よろしくお願いいたします。

丸山:今日は第2回のイベント(Eight Fireside Chat)なんですけれど、実は第1回では、みなさんに「今日はどういう目的で来たのか」ということを(会場で)聞いたんです。今回はそれを省きまして、あらかじめPeatixで「今日はどういった目的で参加して、どんな質問をしたいのか」ということをおうかがいしています。

竹下:いきなりQ&Aコーナーにしたほうがいいのではというくらいすごく熱いコメントばかりいただいて、ありがとうございます。

丸山:まずみなさんに質問したいのですが、ハフィントンポストを毎日読んでいらっしゃる方は、どれくらいいますか?

(会場挙手)

丸山:おお、けっこういますね。

竹下:ありがとうございます。サービスでもっと挙げてほしいんですけど(笑)。

丸山:そうですね(笑)。週1くらいで読んでいるという方?

(会場挙手)

竹下:ありがとうございます。ちなみに、どうやって読んでいますか? Facebookで読んでいるという方は、どれくらいいますか?

(会場挙手)

ハフィントンポストのWebサイトに直接来ていただいている方は?

(会場挙手)

ハフィントンポストは数字をかなり大事にしている会社なんですけれど、さっき見てきた数字とパーセンテージがさっき見てきた数字と同じですね。Facebookから来るという方が多いんです。

竹下:今日のテーマじゃないんですけど、メディアってWebサイト自体に来る人は少なくなって、FacebookやSmartNewsなど、外から来る人が多くなっていますよね。本当に、ニュースの読み方も変わってきたなと、今も感じました。

「会話するメディア」を作りたい

丸山:ハフィントンポストをみなさん全員が読んでいるわけではないので、まずは、「ハフィントンポストとはなんぞや」というところからおさらいしたいと思います。どこからお話しましょうか。ハフィントンポストはアメリカのメディアだ、というところからいきましょうか。

竹下:そうですね。アメリカです。

丸山:アリアナ・ハフィントンさんが……。

竹下:はい。人の名前なんですね、ハフィントンって。

丸山:日本に来たのはいつですか?

竹下:2013年です。

丸山:そのときと今とで、なにか変わっていることはありますか?

竹下:そのときはすごくソーシャルメディアに強いメディアとして入ってきて、今もそうなんですけど、だんだん真似されるようになって、ライバルが増えたなという感じです。

丸山:それはBuzzFeedとか……。

竹下:BuzzFeedとか、あとはテレビ局のワイドショーとかでもソーシャルメディアの話題を取り上げるようになってきているので、ハフィントンポストの独壇場ではなくなってきているのだと感じています。

丸山:テレビと、新聞と、Webメディアの関係についても、後ほど詳しくお訊きしたいと思っていますが、まずはハフィントンポストの編集長に就任されてから、これまでどういったことをされてきたのかという話から入りたいと思います。

竹下:5月にハフィントンポストに来たんですね。それまで、4月末までは朝日新聞で記者などをしていていたんですが、そこを辞めて、5月に就任しました。

メディアを運営するにあたって、すごく大事にしていることがあるんです。メディアについて話すときって、よく「社会を変えたい」とか、「みんなにこの情報を伝えたい」とか、かっこつけて言うと“ジャーナリズム”とか、“反権力”と言う人もいますけど、まったくそうは思わないんですね。

なにをしたいかというと、ハフィントンポストの記事をもとに、会話が生まれてほしいんです。それ(メディア)で世の中が変わるとか、権力を監視とか、本当は大事だと思うんですけど、“会話するメディア”を作りたいと思っていました。

「#飲み会やめる」が生まれた経緯と反響

最初は、「#飲み会やめる」という企画をやってみたんですね。飲み会は好きなんですけど、飲み会に行くより……。みなさん、金曜日の夜なのに、私なんかの話を聞きに今日こうやって集まっていただいて本当に申し訳ないと思っているんですけど、飲みに行ったほうが絶対楽しいですよね(笑)。

丸山:そうですね(笑)。

竹下:たぶん、丸山さんも飲みに行きたいですよね。ぼくも飲みに行きたいんですけど(笑)。

でも、それをちょっとやめて、違うアフターファイブの過ごし方をしてみようか、という記事を書いたんです(#飲み会やめる そしたら、人生変わる気がする)。部員には最初ドン引きされたんですけど、それがかなりバズりまして、Twitterのハッシュタグのランキングに入ったりして。

「私、たしかに飲み会やめたい。私は子育て中のお母さんなので、どうしても飲み会に行けない。飲み会で物事が決まっちゃうので、それがフェアじゃない」という意見とか。

新入社員の人からは、「いや、飲み会がないと、なかなか話せない人、例えば上司とかに話せなくて自分の企画を訴えられないから、必要だ」という声が出てきたり。いろんな会話が生まれたんですね。

それを元に記事をたくさん書いて、Twitterで出てきた話題を元に取材に行って、さらに最後は飲み会についてどう思いますか、っていうイベントまでやりました。

そこで思ったのは、やはり会話を生み出すためには、日常会話で記事を書かなければいけないな、と。朝日新聞にいたときには、どうしても偉そうに。偉そうじゃないですか、新聞って上から目線で。そういうのだと、伝わらないんですよね。

「ワークライフバランスをどうしましょう」「働く女性の生き方について考えましょう」って、よく新聞がやっているんですが、なかなか拡散しない。せいぜい意識の高い人たち、NewsPicksみたいなものを読んでいる人たちが反応するくらいで。ごめんなさい。

もう少し日常会話で話したかったので、「#飲み会やめる」というタイトルにしました。そうすることでだんだんと会話が生まれて、みんなが話しやすくなった。こういった場所で説明しても、すごくすーっと入ってくれて、「飲み会やめよう」「どう思う?」とこの2つの言葉を言うだけで議論が生まれて、けっこう自分の友達や家族とも議論したりして活性化したので、どんどんそういうことをやってきました。

最近だと医療制度とか、ちょっとかたいんですけど、「リベラルとはなんだろう」(「ネット上の争いでは、リベラルは99%負ける」 津田大介さんが訴える政治運動の姿とは)とか。そういう議論を呼び起こしています。

丸山:その話を聞いて思い出したのは、最初の編集長の松浦茂樹さんが、ハフィントンポストとはどういうメディアかと聞かれたときに、「井戸端会議」だと言っていたんですよね。

なにかを主張をするメディア、右なのか左なのかみたいな立場があるメディアではなくて、いろんな主張や意見を集めて、そのなかで井戸端会議みたいに、読者のみなさんが意見を言い合うような場所にしていきたいとおっしゃっていたんですけど。それは、今も変わらないですか?

竹下:変わらないですね。あえて議論とか、対話という言葉は使わないんです。対話というとすごく仰々しいので、雑談とか会話なんですけど。さっきもFacebookを通して見ていただいている人が多かったんですけど、今、ニュースを読もうと思って読む人ってけっこう少なくて。

友達と会話をした後とか、ご飯の話をした後にニュースを見るといったときに、いきなり「対話」とか「議論」とかを持ってきても、それは空気が読めてないじゃないですか。

それより、井戸端会議の延長にニュースがあるとしたいので、記事の文体ひとつ、Twitterの文言ひとつにも、気をつけているところですね。松浦さんの「井戸端会議」という言葉はすごくしっくり来たんです。

丸山:テレビを見ながら、ハフィントンポストを読みながら、Facebookで友達とコミュニケーション取りながらと、そういう読まれ方を。

竹下:していますね。例えば、NHKさんで「健康格差」というドキュメンタリーをやっていたんです。Twitterではハッシュタグを付けられるんですけど、その番組に合わせて「#健康格差」というハッシュタグを付けてハフィントンポストの記事を投入すると、すごく読まれます。つまり、みんなテレビを見ながらハフィントンポストを読んでいたり、ほかのことをしながらハフィントンポストを読んでいるということは、データからも明らかなんですよね。

ハフィントンポストはフラットかつ多様な組織

丸山:そうなってくると、竹下さんは「動く“的”」とBusiness Network Labのインタビューではおっしゃっていましたけれど、どうやってハフィントンポストに投げかける話題を決めているんですか?

竹下:フラットな組織にしています。普通、メディアでは編集長がトップにいてヒエラルキーがあるんですけど、ここをフラットにしていて、記事を書いたときに、編集長に見せなくてもいいんです。

Slackというチャットツールがあるんですけれど、そこに「記事を書きました」って誰かが投げたら、そのときにオンラインだった部員がチェックしていい権限が発生するんです。それでその人が見てOKだったらパブリッシュ、表に出る。

つまり、私の知らない記事がどんどんアップされている。今、この時間帯にも、私は知らない記事がどんどん出ていく。ちょっと怖いんですけど(笑)、そういうことが起きています。

そうすることによって、記事を出すときの権力がなくなるんですよ。今まで私は新聞社にいたからわかるんですけど、デスクという人がいて、彼がチェックしないと記事を出してはいけませんとなっているんですが、そうすると彼に権限が集中するんですね。デスクの好みで左右される。どれだけ頭がよくて視野が広い人でも、その人の視点でしか記事が出てこない。

ハフィントンポストの場合は、部員全員がチェック機能を持っているので、どこのルートからでも記事が出てくる。つまり多様であるんです。その体質を作った上で、ハフィントンポストは半分が女性なんです。お腹に赤ちゃんがいる妊婦さんもいるので、彼女の視点も入ってくるし、あるいは独身男性で40代の人もいます。とにかく多様にしています。

丸山:部員自体を多様に集めている、と。

竹下:そうすると、視野が広がります。例えば、電車に乗っていても、40代独身男性は満員電車をなんとも思わないかもしれない。でも、お腹に赤ちゃんがいる女性は朝はちょっと怖いので、あえて早く来たり、遅く来たり。はしかが流行っているというニュースがあったら、本当に怖くて電車に乗れないと言うんです。そういう、ひと言があると、はしかのニュースもそういった切り口で書いたほうがよいんじゃないかという議論が編集部で生まれます。

まさに的をどんどん広げていって。やはり1人の人間の視野がどれだけ広くても、目線はここくらい(顔の前を示すジェスチャー)しかないじゃないですか。後ろに目がついているわけでもないし、どんなにぐるぐる見回してみても、わからないことがある。

私が今日ここから見ている風景とみなさんが見ている風景はもう違うと思うので。とにかく、人を多様化しないと目線が増えなくて、目線が増えないとオリジナルな記事が出てこないということだと思います。

丸山:個々人も広く見ていかないといけないと思うのですが、それはどのように部員のみなさんに伝えているんですか?

竹下:1つは、家族を大事にしてほしいと伝えています。ちょっと説教臭いんですけど(笑)。家族の意見はすごく大事です。ある部員が、小学生の子供を編集部に連れてきたんです。そうするとみんなおもしろがって、「この記事っておもしろい?」とか子供に聞くんですよね。子供は残酷なので、「おもしろくない」とか、「僕は巨人ファンだから巨人の記事が読みたい」とか言ってくる。そういうことをやっていくと、だんだん視点がリフレッシュされていく。

他者をどんどん受け入れていくこと。そして一番身近な他者は家族だと思っているので、家族を巻き込んでいくということは、大事にしています。

あとは、まさに今日みたいなイベントに、みんな出かけて行ってほしいな、と。例えば今日、私の話より、この後の懇親会でそれぞれがお話しされたほうがおもしろいと思うんです。そういった人脈の広げ方を、うちの部員にもしてもらいたいなと思います。

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