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チームビルディングの新常識:コーチングで生まれる一体感と成果(全3記事)

「だからダメなんだ」とすれ違う…成功した現リーダー vs 変革を求める新リーダー 対立を”補完関係”に変えるためにコーチが実践したこと

社会全体のウェルビーイング向上に貢献することを目指したサービスを提供する株式会社メタメンターのセミナーに、同社代表の小泉領雄南氏が登壇。「対立」を「補完関係」に変えたチームコーチングの実践例を解説しました。

「対立」を「補完関係」に変えたチームコーチングの実践例

小泉領雄南氏:ここからは、チームコーチングの実践例についてお話しします。私がお手伝いをさせていただいた神奈川の企業の事例です。

この企業は創業80年の老舗製菓会社で、従業員は約50名。経営は2代目のお母さまが担っており、娘さんが入社して8年が経っています。幹部には、製造部長として長年会社を支えている番頭さんと、現場管理を担当する工場長がいます。

チームコーチングは、1回あたり2~3時間のセッションを、4ヶ月間で計4回実施しました。その結果、最も大きな変化として、親子の価値観の違いが「対立」ではなく「補完関係」として認識されるようになりました。これにより、新市場へのチャレンジが具体化しました。

この企業では、もともと以下のような課題を抱えていました。お母さまは、これまでの高級路線を重視し、ブランドイメージを守ることを最優先していました。一方で、後継者である娘さんは、このままでは市場が縮小してしまうと考え、若い世代へのアプローチが必要だと考えていました。そのため、親子の考えが対立し、社員たちも「どちらの方針に従うべきなのか」と戸惑っていました。

しかし、チームコーチングを導入したことで、母と娘を中心にチーム全体で話し合い、「伝統を守りつつ、新しい市場を開拓する」という共通の方向性が生まれました。その結果、高級路線を維持しながら、若い世代向けの商品を年2回の限定販売として展開するという戦略が決まりました。

その中で、お母さまはブランドイメージの管理と既存顧客対応を、娘さんは新製品の企画とマーケティングを担当するという、明確な役割分担が成立しました。

経営者と後継者、それぞれが抱く「だからダメなんだ」の思い

では、この企業で実施したチームコーチングがどのようなものだったのかをご紹介します。最初の段階では、親子の対立がはっきりと表れていました。

お母さまは、「伝統が壊れてしまうのではないか」という不安から、なかなか娘さんの提案を受け入れられませんでした。一方で、娘さんは「このまま現状維持を続けていては会社の未来がない」という焦りから、お母さまの考えを一方的に否定しがちでした。表向きにはそうした強い言葉は使っていませんでしたが、内心では「だからダメなんだ」と思いながら仕事をしていたのです。

そこで、コーチングの場でこの対立をテーマに対話を進めました。コーチとしてまず投げかけたのは、「なぜ伝統を守ることが重要だと感じますか?」という問いでした。お母さまは、「ブランドや信頼を守ることが大切だから」と答えました。一方で、「なぜ変革が必要だと思いますか?」という問いに対して、娘さんは「会社の未来につなげるため」と答えました。

さらに対話を深める中で、娘さんの中には「母の期待に応えられていないのではないか」という隠れた不安があることが明らかになりました。つまり、「自分の価値を発揮したい」という思いが、新しいアイデアを生み出す原動力になっていたのです。この部分が、娘さんとお母さまの深層にあった本質的な課題でした。

こうした気づきを言語化することで、単なる対立ではなく、それぞれの責任感と未来への希望が背景にあったことが明確になりました。これが第1回目のセッションです。

なぜ相手のアイデアを受け入れられないのか?

第2回目のセッションでは、それぞれが「なぜ相手のアイデアを受け入れられないのか」という点を言語化しました。

例えば、お母さまは「娘の新しいアイデアは、大胆すぎて危険だと感じる」と考えていました。しかし、単に受け入れられない理由を述べるだけでは、お互いの溝が深まるばかりで、理解にはつながりません。そこで次のステップとして、「受け入れがたいアイデアの中にどんな強みがあるか」を考えてもらいました。

これは、日常的な対話ではなかなか行われないプロセスですが、コーチが介入することで、対立の中にも価値を見出す機会をつくることができます。実際に対話を進めていくと、「大胆だけど、新しい顧客を引きつける可能性がある」といった気づきが生まれました。

また、逆に「伝統を守る姿勢は、ブランドの信頼を支えている」という視点も浮かび上がり、お互いが否定的に捉えていた部分の中に、補完関係としての価値を見出すことができました。これが2回目です。

立場を入れ替えて気づきを得るロールプレイの効果

この段階で終わることもできますが、さらにもう一歩踏み込んだのが第3回目のセッションです。ここでは、お母さまと娘さんに「立場を入れ替えて演じる」というロールプレイを行いました。

事業承継の課題が複雑なのは、親子関係と経営者としての関係が一体化してしまうことにあります。娘さんからすると、「母親としての個人的な意見」と「経営者としての判断」が区別されず、「お母さんがそう思っているんだ」と受け取ってしまいがちです。しかし、実際にはこれは個人の感情ではなく、「経営者としての役割」から生じる判断であることが多いのです。

そこで、立場を入れ替えて演じることで、お互いの視点を体感できるようにしました。お母さまが娘さんの立場を演じることで、「新しい市場に挑戦することの難しさ」や「期待に応えたいというプレッシャー」を実感できるようになりました。

一方、娘さんがお母さまの立場を演じることで、既存顧客の期待に応え続けることの重要性や、売上維持、品質管理といった経営者としての責任を理解する機会になりました。

こうしたプロセスを通じて、お互いの役割の中にある本質的な課題をより深く理解できるようになり、補完関係としての意識がさらに強まる結果となりました。

チームコーチングを支える「プロセス指向心理学」の考え方

最後に、このプロセスを経ることで、完全に対立していた状態から協働関係へと変化し、共通の未来ビジョンの作成が容易になりました。これが、先ほどお伝えした結論につながるポイントです。

このアプローチは、プロセス指向心理学に基づいています。

プロセス指向心理学は、40年以上にわたって研究・実践されてきたエビデンスベースの理論であり、その創始者であるアーノルド・ミンデル氏は昨年亡くなられましたが、生涯にわたり対話の手法を発展させてきた人物です。

特に、深層心理に働きかける対話の領域では広く知られており、今回のチームコーチングも、このプロセス指向心理学をベースにしているからこそ、こうした変化を実現できたと考えています。

まとめとして、創業者の思いをチームとして受け継ぎ、事業を次の世代へとつないでいくためには、無形資産への理解を深めること、そして対立を単なる衝突ではなく推進力へと変えていく対話のアプローチが求められます。

私からのプレゼンテーションは以上となります。ありがとうございました。

主催:株式会社メタメンター

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